2009年 03月 17日

フリーサウンドノベルレビュー 『だれかのかがみ』

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今日の副題 「閉ざされた少女性とその境界」

ジャンル:現代系秘所物語(サイトより)
プレイ時間:2時間くらい。
その他:選択肢なし、一本道。
システム:Live Maker

制作年:2009/3/07
容量(圧縮時):149MB



道玄斎です、こんばんは。
今日はご紹介頂いた作品をプレイしてみました。難解である、というような事を書き込んで頂きましたが、確かに難解。んで、お勧めして下さった方のプログを今さっき見てみたら、私がベタ褒めする予定になっているらしいw いや、確かに基本的に甘口なのは認めますけれども、猫も杓子もベタ褒めはしてないわ。結構ね、辛口になったりする事もあるのよ? けれども、本作をベタ褒めするって予言している時点で、かなり私の好み、詳しいですね?w
ともかく、今回は「ウミユリクラゲ」さんの『だれかのかがみ』です。確かに難解ですけれども、音楽とかね、かなり上質の素材を使っていて、雰囲気のある作品だったと思います。ノベルゲームというよりは、少しアートっぽいかも。
良かった点

・上質の音楽と、そのチョイス。センスを感じます。背景画像も同じ。

・全体に渉っての微妙な緊張感や、ちょっぴり隠微な雰囲気が素敵。


気になった点

・テキスト部分でいくつか気になったものが(後述)

ストーリーは、サイトの方から引用しておきましょう。
恵音えねは故あって、棗なつめという名の女性の元にあずけられ、彼女と一緒に暮らしていくこととなった。

しかし初日に恵音は、得体の知れない不気味な金切り声を、聞いてしまう。

その不穏なノイズは断続的に、時折どこからともなくじわりとひびいて途絶えない。
次のは数分のちか、それとも数日経ったそののちか。

やがて恵音は、それが家のどこかから発せられていることに気付きはじめ―――

そこは広くて古い家。
知らない町の、その外れ。

と、こんなストーリーになっています。

今回は、折角、名指しされているので、ご指名下さったブログを見つつ、彼の感じた違和感の正体なんかを、一緒に考えていきましょうかw 普段はね、レビューを書くときって他の方が書いたレビューなり感想は基本的に読まない事にしているんです。読んじゃうと、やっぱり影響されちゃったりするしね。

取り敢えずは、ストーリーを補足しつつ、全体像を見ていきましょう。
恵音という女の子が、棗さんという女性(恐らく妙齢)に引き取られ、彼女の住む家で暮らすことになる、という所から物語は始まります。

本作のすっきりしない感じ、の一端は、この恵音のバックグラウンドに関する説明が乏しい点にもあると思われます。というのは、「何かの事情」があり棗が彼女を引き取ることになった訳ですが、その事情が実はラストまでプレイしても未消化のままです。途中にちらりとその辺りの事情に踏み込みそうな描写は出る事は出るんですが、決定的には分からない。

そして、二人の生活が始まるわけですが、その棗の住居にはどうも「何か」があるらしく、うめき声のようなものが時折響いてきます。この設定はちょっとした「館系ホラー」のように、作品全体に渉って緊張感を与えていて、プラスの設定になってもいるのではないでしょうか? 問題は、このうめき声の正体が、ラストで明かされると思いきや、実ははっきりと示されない点なんですよね。そこがすっきり感をもたらさない最大の理由だと思しい。

ただ、この声の正体、何となくうっすら、分からなくもないんですよ。
「読んだ人の抱いた想像、その全てが声の正体なのです」なんて逃げを打つのもアレなんで、もうちょい突っ込みますけれども、この声の正体を読み解く鍵は、始発部、そしてラストに挟まれた言うなれば本作のストーリーに当たる部分、そしてタイトルにあるのではないかと私は思っています。ま、当然ですよね。

ストーリーの方にちょいと戻りますけれども、恵音と棗の共同生活を描く一方で、この二人の「少女性」みたいなものをあぶり出していくような、そんなストーリーが進展することに。
内気というか、ちょいと暗めで垢抜けない恵音ちゃんの為に、棗は「イメチェン」を提案し、自ら以て恵音のイメチェンを実行するのですが、恵音にとっては最初は非常に不本意な変化になってしまうんですよね。
ここで重要なのは、タイトルにある「かがみ」という言葉です。少なくとも「今」の恵音と棗は全然タイプが違う少女と女なんですけれども、この二人には鏡写しのように重なり合う部分が実は多いのでした。

明言されないものの、どうも棗は恵音に対して「昔の自分」を見ているようなフシがあります。
ひらひらの洋服について「棗さんこそ似合うんじゃ?」なんて云われたときに、動揺していたり、ロリータファッションの専門誌を何だかんだで見入っている姿も描写されます。
こうした二人の重なり、それ故に、棗の恵音に対してのイメチェンがあったりするのではないかと。私が読んだ限りで、非常に俗っぽい喩えを出すと、「息子(娘)に自分の出来なかった事をさせる」みたいな。そういう感触がありますよねぇ。

で、更に咲かせる事なく終わった「少女性」を棗が再発見するような、出来事、エピソードもちゃんと語られますし、実はそういうものに憧れていた、というような微かな示唆もあるんです。
なんだけれども、恵音は恵音で、少女性を一時的に喪失するわけですよ。リアル少女世代と思しいのだけれども、それを消失してしまう。
恵音と棗の二人は、それぞれ似通う所が実はあったのですが、ここに於いて差異が生じるんですな。

ここまで書いて、なんとなーく思った事があるので、一応書いておきましょう。
というのは、最初の方に出てくる「謎の声」と、ラストで恵音が向き合う事になる「謎の声」は本質は同一かもしれないけれども、実は違うモノなんじゃないか、という事。
何でそう思うのさ? とか色々あると思いますけれども、そこらへんは考えてみて下さい。まぁ、飽くまで「私の想像では」という但し書きが付くんですけれどもね。


さて、ここいらで本作のオイシイ所もご紹介しておきましょう。
先ず、雰囲気が凄くいいんですよ。それは「良い雰囲気ね」って文脈(?)で使われるような素敵でお洒落な雰囲気というわけでもなくて、作品の内容と音楽や背景といった要素が綺麗にハマっている所から来る「雰囲気の良さ」です。
音楽は高品質の少し物憂いピアノ曲がメインで、クオリティが高いと思いますし(意外な程容量が大きいのは、きっとこの音楽に拠るものでしょう)、使い所もバッチリだったんじゃないでしょうか? 背景画像も清潔でこれは普通におしゃれ感も感じさせるようなもので、やはり作品やその雰囲気に良くあったものだったと思います。

更に挙げると、少なくとも表面を見る限り、ちょっぴり百合っぽいような、そういう雰囲気もあったりして、それが作品を貫く、少し暗くて隠微なムードと馬鹿みたいにハマってるんですよね。
敢えて言ってしまえば、「雰囲気で出来た作品」という言い方も出来るかもしれません。こういう雰囲気を楽しむ為にプレイする、というのも多いにアリだと思いますし、そうしたプレイに十分耐えうるクオリティも持っていると思います。


さて、またちょっと小難しい話に戻りましょうか。
もう一個、本作を読み解く鍵を挙げると、サイトのaboutから見ることが出来る、作品の傾向があります。
どういう作品を作ろうとしているのか、というような事をご説明下さっているわけです。そこに見えるキーワードを本作の場面に当てはめていけば、おぼろげながら、作品の謎が見えてくるのではないでしょうか?
確かに難解で、「完!」というような、強いエンディング感というか、シメ感こそないのですが、少しフワフワとしていて、これはこれで作品として成立しているわけですから、私はそこまで「何か良くわかんねぇなぁ?」というような印象はないんですよね。じゃあ、どこまで分かってるのよ? って聞かれたら沈黙するしかないんですけれどw

合っているかどうかは分からなくても、プレイヤーに「考えさせる」タイプの作品、私は結構好き。
時にはなーんも考えずともプレイ出来る作品も無性にプレイしたくなるんだけれども、たまにはこういうちょっと難解なものもないとね。


ですので、作品の内容そのものに関しては、難解ですっきりしない感触がある、という点は否定しませんが、私はこれはこれでアリだろう、と思いますぜ。
寧ろ、私が気になった点は、文章にあったりします。

というのも、どちらかと言えば本作は「小説調」。ですので、ちょいと凝った表現が多いんですが、そこで違和感を感じる事が屡々あったんです。
具体的に云えば「斟酌」という言葉が都合三回かな? 出てくるんですが、何となく斟酌って言葉はそぐわない感じがするんですよ、それが使われている文章には。しかも、斟酌が出てくる時は否定語を伴って出てくるわけで、「斟酌せずに」とかそういう形を取ります。

「ステムを抓んだ二つの指を、斟酌しないで傾けた」

という文章がありました。これは未成年たる恵音ちゃんに棗さんがワインを呑ませる場面。
あっ、脱線させて貰うよ? 本作読んでたらワインが呑みたくなって(普段、ワインは殆ど呑まない。あまり好きじゃないんだわ)、今ちょっとワインを呑みつつこれを書いてます。イタリア産のワインで、多分値段もそんなに高いものじゃないと思うのですが、ちょっと美味しいですね。ワインを呑んで美味しいと思ったのは凄く久しぶり。いつもみたいにマグカップじゃなくて、ちゃんとワイングラスを使用。

話を戻しましょう。
ここの「斟酌しないで」ってのは、多分「躊躇せずに」と置換可能なんですよね。
他にも出てくる「斟酌」の文も全部「躊躇せずに」とか「迷いなく」とかと置換出来ます。他の例としては「斟酌なく咲くティアードスカート」とかね。何となく、本作に於ける「斟酌」という語の使い方に違和感があったような気がします。
その他にも少し凝った文章にしてしまった為、何となく違和感を覚える文章があるような。ただ、ここらへんは文章の好みの問題なのかもしれませんが、もう少しすんなりと読める方が良かったかな、と。読点を付けた方がベターだろうと思われる所なんかもありましたしね。

あっ、そうそう。
本作に於いて、一つだけ、滅茶苦茶気になった所がありました。
それは背景画像とテキストの齟齬です。棗の部屋にはノートパソコンが設置されている事が示されているのですが、画像ではデスクトップが……。なんか重箱の隅をつつくみたいで恐縮ですが、背景とかかなり拘って上質のものを使っていたので、少し惜しいな、と。



大体、こんな所でしょうか?
繰り返しますが、私はこの作品、アリだと思いますよ? 素材の利用を含めた雰囲気は抜群だし、少女性みたいな私の好みのテーマもばっちり入っていると思しいわけで。
実を云うとね、本作にそこまで違和感を感じなかった理由の一つは、「こういう作品に慣れているから」なんですよ。尤も、私が慣れているものはノベルゲームではなくて、CGアニメなんですけれども。本作をプレイして実は相当ビビりました。というのは、私が慣れているCGアニメを作った人が本作の制作チームにいるんじゃないか? と思ってしまったからなんですね。符号するキーワードや作品の持つ雰囲気が、ちょっと冗談じゃないくらい似ていたり、ね。
や、勿論、そんな事はなくて、紹介文を読ませて頂いたら、明らかに違う事が分かりましたけれどw


「ちょいと雰囲気のある作品はないものか?」と悩んでいる方がいらしたら是非、プレイしてみて下さい。
上質の雰囲気が存在していますし、色々と頭を悩ませて考えるに足る作品だと思いますよ。

それでは、また。
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by s-kuzumi | 2009-03-17 23:12 | サウンドノベル | Comments(6)
Commented by 夜明け at 2009-03-18 11:59 x
管理人様、こんにちは。

この作品、雰囲気いいですよね。気持ちよーく物語に浸っていたんですけど、ラストであれれれ?ってなりました。自分の頭の悪さが呪わしい。あと、どうでもいいですが、棗さんのmy脳内イメージがなぜか劇場版空の境界の橙子さんに。

最近読んだ作品
『春よこい』
『桜の森の満開の下』(著作権切れ小説のサウンドノベル化、原作坂口安吾氏)
桜に関するお話。

『Q.S.S ~Quadriennale Short Stories~』
ほのぼのしたものから激鬱な話までいろいろ詰め合わせ。

『ちいさな記事の裏側(ママ大好き)』
離婚した若いママさんの話。
養われる側だったんですけど、私がいなければ苦労しなくてすんだのかなーとか昔のことを思い出してグロッキー。

失礼しました。
Commented by s-kuzumi at 2009-03-18 19:15
>>夜明けさん

こんばんは。
そうなんですよねぇ、雰囲気が凄い出ている作品で、私も「こりゃ、面白いじゃん」と思ってたんですが、やっぱりラストが一つのネックになっているようです。
頭の善し悪しというよりも、寧ろ「どこまで想像出来るか?」って所だとは思うのですが、結局「ゲーム」なんですから、あんまり難しい事を考えずに、一つでも「楽しい」と思えるポイントを見つけ出して、楽しんだ者勝ち、というようなところもね、必要なんじゃないかな、と。

劇場版は見たことないんですけれども、確かに『空の境界』の橙子さんにイメージは近いですね。や、あれも実は結構難解で、小説版を読んだんですけれども、完全に理解出来た、とは言い難い……w

ご紹介下さった作品、いくつかチェックしています。
今のところ、『春よこい』か、『Q.S.S』でも近い内にプレイしたいな、と思っています。

『ちいさな記事の裏側』はちょっとダーク風味で面白そうですし、『櫻の森の~』はうんと昔読んだっきりなので、久々にゲームで読み直してみようかな、なんて。

いつもありがとうございます。
Commented by akino at 2009-03-23 02:18 x
道玄斎さん、こんばんは~

まったく、ひとの評価を先に決めてしまうなんて、おせっかいなことをするヤツもいるもんですね。どこのどいつでしょうか?
というか、こんなに早くレビューが載るとは思っていなかったからこその“予定”だったような……

この作品が優れていることは万人が認めることでしょう。多くの皆さんが遊んでくれると良いですけどね。
Commented by s-kuzumi at 2009-03-23 21:04
>>akinoさん

作品が優れているのか、楽しいのか、はたまた難解なのか、ってのはやっぱり最後はどうしようもなく、主観の問題になっちゃいますからね。

それだったら、最初っから「個人的になじめないものはレビューしない」という、そういうスタンスなんですよ。だからベタ褒めっぽく見えるけれども、意外と重箱の隅をつつくような事を書いていたり、辛口だったりすることもあるというわけで……。
Commented by akino at 2009-03-23 22:50 x
道玄斎さん、またまたこんばんは。

なんか、ベタ褒めって書いたのが思ったよりも嫌だったみたいで。
どうもすみません。

でも、「重箱の隅をつつくような事を書いて」も、「辛口だったり」してもきちんとフォローはいれていますよね。
そういう道玄斎さんの人間の出来ているところというか、優しげなまなざし(フリーゲーム愛?)に才能を感じてるんですよ。個人的には。

だからまあ、気にしないでくださいね。
Commented by s-kuzumi at 2009-03-24 20:07
>>akinoさん

や、別に厭って程じゃないのよ?
ただ、そこらへんで齟齬が生じるのはあまり好ましくないというか、そういう感じかな。

確かに、辛口でも出来るだけフォローは入れてます。一応「甘口~中辛」なんですけれども、少し甘口寄りかも? 

や、私は全然気にしてないので、そちらも気にしないでいただければ助かりますw


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