2009年 03月 21日

フリーサウンドノベルレビュー 『春よこい』

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今日の副題 「同人らしい、作品」

※吟醸
ジャンル:前世を辿るノベル(?)
プレイ時間:30~40分くらい
その他:選択肢なし、一本道。立ち絵は影絵となっている。
システム:NScripter

制作年:2009/3/5(公開)
容量(圧縮時):9.39MB




道玄斎です、こんばんは。
今日はお彼岸なので、お墓参りに行ったりしてきました。東京では、ボチボチ櫻が咲き始めています。今日は湯島というか上野というか、そういう所に行ったわけですが、上野の山の入り口は櫻がかなり咲いていましたよ。暖かい日が続けば、来週か再来週には満開になるかもしれませんね。
今日は、そんな日本人の心に訴えかける、櫻、或いは春をイメージさせる作品のご紹介。
というわけで「どこだい」さんの『春よこい』です。
良かった点

・低容量で尺も短めだが、しっかり作り込まれており、同人作品らしい良さが出ていた。

・ちょっとミステリー的な要素も。


気になった点

・敢えて言えば、飯屋のシーンが長すぎる、かも? (後述)

ストーリーは、今回は私が軽くまとめておきましょう。
高校生の主人公は、春になると原因不明の体調不良、そして記憶の混乱が起きる。
記憶は、昔の女の子のもので、主人公はそれは「前世」の記憶ではないかと推測する。そして女の子の記憶が現れる時期に、夢の中でその女の子が住んでいる地名が明らかになり、調べてみると、現在も名前を変えているが、その土地が実在している事を知る。
自分の前世を取り戻すため、主人公は夢に見た土地へと日帰りの旅行に出かける……。

と、こんな感じですね。

最初、「前世を探るお話」というものを見たときに、何となくスピリチュアルな感じなのかな? と思っていたら全然違いました。もっと、良い意味で、人間臭さが出ていますし、スピリチュアルというよりはヒューマニズムというか、そっちの系統ですよね。

さて、日本人ってのは不思議なもので、櫻なる植物にちょっと異常なまでに何かしらの感情を持っているようです。大凡、万葉時代で「花」と云えば「梅」の事を、それ以降の平安時代からは「花」と云えば「櫻」を指すようになります。「花は桜木、人は武士」なんて言葉もありますしね。

何の予備知識も文脈もなくて、「花が舞っている」なんて文が出てくる時、私達は高確率で「櫻の花」をイメージするのではないでしょうか? これも千年以上に渉る民族的な感覚というかね、そういうものなのでしょう。
ただ単に、櫻が「美しい」ものなのか、って云ったらそれは又違って、そこにはどこかしら「寂しさ」或いは「儚さ」を感じる気がします。
本作はタイトルが示すように「春」を、そして櫻の持つどこか寂しく、儚いイメージを持っているように感じました。そういえば、毎年毎年、櫻をタイトルに冠した歌がヒットしているのも、日本人的ですよね。

作品自体は、短いもので、30分~40分程度で読めてしまいます。
だけれども、作品としてしっかりと纏まっていますし、普通に面白いんですよ。ここで云う面白さは「funny」ではありません。「interesting」の方です。興味深い、或いはより日本っぽい云い方をすれば「ゆかしい」という感じ。少しづつ明らかになる主人公の前世である「ちえ」、そして彼女の母親の記憶は、読者を作品の中に引っ張り込みます。同時に「ちえ」の周りのちょっと隠微な人間関係は、前世の記憶に陰を落とし、「何があったんだろう?」と微かな不安と共に、頭の中に疑問として蓄積されていく事に。

あまり、旅行とかそういう部分に筆は割かれず、自身の持つ前世の記憶、或いは飯屋で聞く、昔話といった「過去の描写」が作品の大部分を占めるわけですが、そうした部分で、生じた「ゆかしさ」や疑問をきっちりと解消してくれるわけで、作品が淀みなく流れていく感じがして、総じてテンポも良くなっていたのではないかな、と。

ラストもとっても良かったですね。
商業のもののように、ビジュアル面が馬鹿みたいに凄いとか、ドハデなエフェクトとかは無いのですが、素朴でありながらも、作品、或いは作風に非常にマッチした演出がなされており好印象。
プレイが終わっても、余韻が残るような、そんな印象的なラストシーンでした。

で、本作は「どこだい」さんという事にしましたが、河童ボーナスさんがお作りになられた作品です。
「どこだい」さんは、この河童ボーナスさん、そして大山椒魚さんお二人のプロジェクトという事でいいのかな? お二人とも作風がどことなく似ていて、何となくうっすらと繋がりを感じていたのですが、まさか本当にプロジェクトを組んでいたとは……。
お二人とも、所謂「明朗ハイスクールラブコメディ」といったものとは、距離を置いた、少し不思議で良い意味での「同人らしい」良作をお作りになられていると思います。美麗な一枚絵とかパンチラとかのサービスシーンは無いんですけれども、そうした素朴な良さみたいなものが全面に出ていて、例えば、現行ではMIDIを使う作品が段々減ってきているという流れがあるような気がしますが、本作に顕著のように、MIDIの素朴さ(というか、MIDIは所謂楽譜ですからね)が作品全体の中で上手く解け合っている、そんな感触があるわけです。
素朴、なんて言葉を使いましたが、「凝っていない」というわけじゃないんですよ。文章の意味的な区切りで出てくるクリック待ちは「○」みたいなヤツですが、画面が変わる時は櫻の花びらになっていたり、或いはプラグインで花を散らすエフェクトを使用していたりと、拘って制作されています。かなり拘って拘って作られている事、想像に難くないのですが、割とね、現在的な絵をふんだんに使って、音楽もハイクオリティの音源のゲームなんかをプレイすると、ついつい相対的に「素朴」に見えてしまう部分もある、という事ですね。


正直、気になった点というのはあまり無いんですよね。
こういう作品に「立ち絵を付けろ」なんて言えませんし、或る意味でスキが無く作品として、完成されてしまっているわけです。
んー、敢えて言えば、飯屋のシーンでかなりの真実が明らかになって、というかなりすぎちゃっているような気がしないでもないかな? といった辺り。結局、前世の記憶にある土地(狭義の土地ですね)に主人公が滞在している期間がラストのシーンだけなわけで、例えば、ちらりと屋敷を出して、それを見て記憶が蘇るとか、そういう演出の仕方もあったのかな、とか。まぁ、敢えて言えばのレベルなんですけれども。


一見すると素朴な印象を受ける作品なんですが、商業でもない、或いは商業を意識してハイクオリティを目指した作品でもない、それらとは全くベクトルが違う、同人作品らしい作品です。
明朗ハイスクールラブコメに、少々食傷気味の方は是非プレイしてみて下さい。ノベルゲームの良さを再発見出来るかもしれませんよ。

それでは、また。
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by s-kuzumi | 2009-03-21 20:49 | サウンドノベル | Comments(0)


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