久住女中本舗

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2009年 04月 07日

フリーサウンドノベルレビュー 『傾城狐の嫁入りなこそ』

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今日の副題 「これも一つの日本文化の入り口に」

ジャンル:遊女の狐と神様の狐の会話型ノベル(?)
プレイ時間:30分程度。
その他:選択肢なし、一本道。
システム:NScripter

制作年:2009/4/?(フリー版)
容量(圧縮時):51.7MB




道玄斎です、こんばんは。
今日も少し帰宅が遅くなってしまった為、こんな時間に更新です。
先日もご紹介したエイプリルフールの企画の一環として、二作同時にフリーでリリースして下さったものですね。
というわけで、今回は「花を吐く抄女」さんの『傾城狐の嫁入りなこそ』です。
良かった点

・遊女の世界をちらりと描いており、ちょっと面白い(気になった点でもあるので詳しくは後述)


気になった点

・『箱入り娘のてるみどぉる』に準ずる。

どうやら、もう既にしてダウンロードが出来なくなっているようなので、ストーリーは今回は私が軽くまとめておきましょう。
朝から酷い目にあった狐で、(人に化けて?)遊女をやっている橘音(きつね)は、風呂に行く途中に雨に降られて露をしのぐ為、やはり狐で神様をやっている奈琉奈のお社に行く。
ついでとばかりに一銭ほど賽銭を入れ、一銭だけの賽銭にしてはやたらと強欲な願い事をするのだが……。

という感じ。


というわけで、エイプリルフールという事で、特別にリリースして下さった作品の内の一本。
もうダウンロードが出来ないみたいですねぇ。とはいえ、元々頒布されていたものと思しいので、何か又イベント等があれば入手する事も可能ではないかと。

『箱入り娘のてるみどぉる』よりも明快というか、分かりやすい印象の作品でした。
ラストも、中々良い雰囲気で終わっていて、完成度はこちらの方が高いかな、と素直に感じます。

さて、この作者様の作品を語るときにいつも使うのが「難解な台詞回し」というような言葉。
本作でもそれは踏襲されておりまして、一読してすんなりと意味が入ってくるような文章の方が、実は貴重w 少し腰を据えてじっくりと読みつつ、独特な台詞の間からこぼれ落ちる雰囲気を味わうのが良いと思います。

特に、タイトルに如実に表れているように、本作は遊女である狐が主要キャラ(の一人)となっております。
一銭という貨幣単位と雰囲気で考えるならば、どうも明治の最初期の辺りが舞台の様子(いや、ちょっと調べた見たら、戦後らしい……)。まだまだ普通に遊郭はありました。当然、そこに務めている遊女もいたわけです。例の売春防止法が出来てから、こういう公娼制度は無くなります。ですから、戦後すぐだったら、おかしい事はなさそう。
で、ちょっとした「遊女言葉」とかも混じっていますし、「郭語」とでもいいましょうか、例えば「身請け」とか、そういった言葉も散見されます。それが何の説明もなしにサラリと使われていて、却ってその世界に没入出来るというか、良い雰囲気を出しているというか、そういう部分は確かにあります。

けれども、全く予備知識がないとちょいとキツイかもな、と思わないでもない。その点で、良い点でもあり、且つ気になった点でもある、と云った所でしょうか。
「身請け」ってのはご存じでしょうか? 早い話が、お客が「遊女をお金を出して買い取る」行為です。
郭を別名「苦界」(くがい)と申しまして、それはそれは辛い所でございます。数ヶ月前に遊女関係の専門書を一冊読んだので、少し分かる部分もあるので、軽く解説しつつ語っていきましょう。

江戸の遊女ってのは、色々な段階を経て、例えば吉原のような「それ専用の土地」の中でのみ商売が赦された特殊な職業でありました(例外はあるんですけれども)。で、どういう娘が遊女になるのか、といいますと、それはやはり「お金に困った両親が女衒に売る」というケースが非常に多い。女衒は「ぜげん」と呼びます。字面からしていかがわしいですね……w
遊郭で働く人間には、遊女以外にも色々な人がいまして、女衒もそうですし、あとは遊女が歳を喰って、客は取れなくなったけれども、「遊女の監視役」として「遣り手婆」(やりてばばあ)として、遊郭で働いたりもしています。

そういえば、先日、日々之雑記にて見出しで「櫻も散るに嘆き」とか書きましたが、あれは『好色一代男』のイントロ部分でした。ああいうのを読むと江戸の性風俗とか、良く分かりますので、一読あれ。って注釈付きでないと相当厳しいので(言葉遊びのような要素が大量に入っていて、当時の読者と同じ知識がなければ、まともに読めない!)、是非注釈付きのものをチョイスしてみて下さい。

そう、「身請け」でしたね。
ストーリーでは、遊女である所の橘音が、神様の名琉奈に賽銭として、財布全てを放り込み「身請け出来るようにしてくれ」と無理難題をふっかけます。
先に軽く説明しましたが、身請けとは、お客が遊女を買い取る行為です。買い取るとは乃ち、一夜を共にするのではなく、「郭=苦界」から出してやる、という事でありんす。殆どの場合、自分の妻にするか、或いはお妾さんにするわけです。
私も祖母から聞いた事があるのですが、まだまだお妾さんがそれほど珍しくなかった時代もあったそうな。まぁ、現代的な云い方だと不倫って事かなぁ? あっ、違うな……。ま、まぁ、自宅とは別にお妾さんを囲う家を持って、言わば第二の妻にする、という感じでしょうか。祖母が私に話してくれたケースでは「本妻とお妾さんが異常に仲良しだった」という非常に珍しい話でした。

で、遊女ってのは、一種の契約で遊郭で働いています。
元々、お金が足りない家からお金の代わりに娘を遊郭に入れるわけですから、借金のカタなんですよね。で、その借金分は遊女となった娘が働いて返さなければならない。でも、遊女に入るお金というのは非常に微々たるものでして、且つ、遊女としての体面を整える為に、雑費も異常に掛かってしまい、結局郭を正規の手段で出る為には途方もない時間が掛かってしまい、15,6くらいで入って、出てくる時には30過ぎという。

但し、これには例外があって、その一つが「身請け」です。
お客さんに、「この遊女と所帯を持ちたい!」とか、強烈なモチベーションが存在した場合、遊女が負っている借金を肩代わりしてやる行為です。ただ、それも不足分の金額を祓えばいいか、といったらそうでもなくて、郭の関係者にご祝儀などで相当な金額を渡さなければ成立しないんですよね。ですので、必然的に身請けが可能になるのは、とんでもなく儲かっている商人とか、そういう人間になってしまいます。
勿論、遊女のランクってのもありまして、天神とか、太夫とか、花魁とか色々ありますし、西国と東国では名称が違うケースも。そのランクによっても身請けの金額が異なってきます。

ですから、遊女にとって「身請けされたい」と願う事は、非常に自然だったりします。
しかし、それも夢もまぼろし、中々叶う事の無い事でした……。
当然、そうなると郭から「脱走」を試みる者も出てきます。その脱走行為を郭語で「足抜け」と云います。ただ、これも郭は24時間体制で見回りがありますし、中々出来るものじゃないし、見つかって連れ戻されたらクチにするのも憚れるような罰があったりして。。

っと、江戸時代の遊郭に話が完全に脱線してしまいました。
江戸時代が終わっても、吉原のような独特な世界は、江戸時代の名残を濃厚に残していたようです。ですので、最初は明治最初期くらいかな? と思っていましたが、戦後だったわけで、それでもそこまでおかしくはないかな、という感じでしょうか。

兎も角、橘音が「身請けされたい」と神様である奈琉奈のパワーに頼るんですよね。でも、「どういう人から身請けされたいのか?」という問いに「お日様」とか「雲」とか「風」とか、何だか現実味の無い、回答ばかりして、それによって振り回される奈琉奈。
そんな二人のやりとり、そしてこの無理難題の果てにある二人の距離の推移、そんな所が本作の面白い部分です。先にも述べましたが、ラストがちょっと良い雰囲気で良かったと思いますよ。最後の最後に跋文みたいにして、ちょこっと文字が出てくるんですが、それを含めて、雰囲気のあるラストでした。

気になった点に関しては、『箱入り娘のてるみどぉる』とほぼ一緒ですから、今回は割愛しますが、一点だけ。
それは声優さんの誤読です。「御利益」を「ごりやく」ではなく「ごりえき」と読んでいました。ちょっとセリフ部分の文章が難解ですから、ついうっかり間違えてしまったのだと推測されます。
そうそう、タイトルにも入っている「なこそ」は「勿来」です。「な~そ」で「~しないでちょーだい」ってな古典文法ですね。「な泣きそ」だったら「泣かないで下さい」、かぐや姫も使っている「なのたまひそ」だったら「仰らないで下さい」とかね。


大体、こんな感じでしょうか。
今回は、何だか遊郭のお話で脱線しまくってしまったのですが、遊郭入門、遊女入門とかね、そういう軽い気持ちでさらりと読んでみると面白いんじゃないでしょうか? 二人の狐のやりとりは魅力的ですし、声優さんも頑張っていました。イラストも綺麗ですしね。
遊郭や遊女は、そこまで昔じゃないけれども、確かに日本にあった文化です。それに狐が神様って訳ですから、それはお稲荷様です。稲荷信仰も江戸期に爆発的に流行った信仰ですからね。
遊郭や遊女に対しての善悪的な判断とか、そういう判断はさておき、江戸的な文化、ちょっとその一端を覗いてみると面白いかもしれませんよ?


それでは、また。
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by s-kuzumi | 2009-04-07 02:08 | サウンドノベル


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