2009年 11月 18日
今日の副題 「水の雫と書いて澪」 ※吟醸 ジャンル:幽霊少女との同居ノベル(?) プレイ時間:2時間程度。 その他:選択肢はあれど、分岐せず基本一本道。 システム:CatSystem2 制作年:2009/10/31 容量(圧縮時):84.0MB 道玄斎です、こんばんは。 東京は、雨が降ったと思ったら次の日はカラリと晴れたり、そして更に次の日は雨が降ったりと、天候不順で何かと気が滅入る訳ですが、今日は、そんな天気に相応しい作品のご紹介。 というわけで、今回は「優凪」さんの『あまやどり』です。 良かった点 ストーリーは、サイトの方にリンクを張っておきましょう。こちらからどうぞ。 ここんところ、ちょっと体調を崩していて中々ゲームに没入出来なかったりしたのですが、丁度、今の天気に相応しい作品で、且つ凄く丁寧に作られている作品でしたので、久々の吟醸に。 実は、私は、雨の日ってのは好きなんですよね。雨の日にぼんやりと外をながめているのは心の安まる瞬間なんですが、こうして天気がコロコロ変わると少し気が滅入ってきます。 さて、ストーリーを補足しつつ、又いつものように脱線を入れながら感想めいたものを書いてみましょう。 本作、タイトルが『あまやどり』なんですが、似たようなタイトルの作品、割と目にしますよね。そのものズバリ『雨やどり』とか、『八月七日の雨宿り』なんて作品もちょっと前にありました。 やはり、雨というのは、日本人の琴線に触れる何か、であるみたいです。昔の歌を繙いてみても「我が身よにふるながめせしまに」なんてありますから、少し感傷的な部分と関わりが強いんじゃないかな、と。 で、タイトルもそうですが、ストーリーの流れも、特別オリジナリティに溢れている、という感じではありません。ただ、誤解して欲しくないのですが、だからこそ劣っているとか、良くないとか、そういう事では勿論ありません。寧ろ、本作の場合はそうしたオーソドックス感がありつつも、それを非常に丁寧に描いており、そうした部分でプレイしていて凄く心地よさがありました。 大体、「オリジナル」とか「オリジナリティ」みたいなものを価値観の第一に置く事ってありますけれども、「完全なオリジナル」なんてどこにも存在しない、という事は恐らく指摘しても良いんだろうと思います。 よしんば、そうしたものがあったとしても、それは多分「他者に伝達不能な何だか良く分からないもの」なんじゃないかな、と。 私達は生きている以上、必ず、外部から何らかの刺激を受けています。無から何かを作り出す、という事は出来ません。外部からの刺激を自分の中で咀嚼して、肥やしにして、自分の「オリジナル」のものを作るわけです。それは一般的な「オリジナル」ですけれども、目に見えない形であったり、それと分からないように無意識的に織り込まれた「影響物」があるわけです。法的な定義とは異なりますが、それを文学理論的な用語で云えば「引用」と呼びます。 まぁ、ちょっとめんどくさい話に突入しそうなんで、この辺で止めておきますけれどもw ともあれ、何かの影響が出てこない創作物ってのは、恐らく存在し得ない、という事です。寧ろ、何かの影響を受けていても、どうしても重なりきらない「はみ出てしまう部分」、そこにこそ「オリジナリティ」というものの正体があるような気がしています。 それに、例えそれがオーソドックスな要素があったとしても、それをキッチリと纏めて作品にする、というのは、実は凄く難しい事です。 本作に於いても、何やら主人公だけに知覚出来る幽霊っぽい少女との出会いがあり、彼女との同居生活があり、そしてその子との恋愛的な要素がありと、今までノベルゲームの中だけでも、それなりに目にした事のある設定を持っています。 で、本作に於ける凄くイカす部分ってのは、厭味のない主人公のキャラメイクなのかな? と考えます。 主人公の名前は大地君。『姫ちゃんのリボン』を最近読み直した私にしてみれば、結構タイムリーな名前だったりしたわけですが、何と文学部国文科の大学生という、何だか個人的に親近感の湧く設定でした。 彼は、ちょっと内省的な部分があって、そこが又リアリティがあるわけですよw すごーく大雑把に云えば文学部、そして国文科の男の子なんて、みんなこんな感じですw ただ、所謂「エロゲ」全開の、お馬鹿的一人称の地の文みたいなものは殆どなくて(所々、ちょっぴりお色気的なシーンはあって、そういう所では若干崩れるんですがw)、真面目で凄く好感の持てる主人公でした。 その分、ヒロインの「みお」は結構キャラが立ってるというか、そういう部分はあるものの、主人公の対比という意味でバランスは取れていたんじゃないかと。 何しろ、みおは発話が一切ありません。常に「……(こくん)」『……(じー)」とか、そういう動作で以て、意思伝達をするキャラですからw 兎に角、正体不明の幽霊っぽい女の子みおと、主人公大地の、少し心温まる同居生活が作品の中心になります。立ち絵、或いは一枚絵だけで判断は難しいんですが、みおの年齢は、テキストで示された特徴(?)みたいなものを考えていくと、12歳くらいでしょうか? 一方で、大地は大学二年生くらいと思しいですから、20歳くらい。年の差八歳のカップル。。22歳の女の子と30歳の男っていうんだったら、別にオカシイ事はどこにもありませんが、12と20だとしたら、ちょっぴりロリかもw 最初は、庇護欲とか、半分父性愛みたいな感じで、みおを保護していく大地ですが、段々と彼女の純粋さとか、優しさとか、そういう所に惹かれていきます。まぁ、リアルで惹かれちゃったら犯罪のにおいがしてきますが、みおは幽霊っぽい謎の少女ですから。。 周りの奇異の目にさらされつつも、みおを慈しむ真面目な大地の姿が中々良いんですよね。 こうした幽霊同居ものの常である「リミット」みたいなものが迫っていると、或る意味で分かっているからこそ、その場その場で全力投球していく大地に好感が持てたりします。 プレイしていても「もうちょっと、このままこの日常が続けば……」と思わず願ってしまうくらいの、良い雰囲気の日常描写でした。 ちなみに、システムはちょっと耳慣れぬCatSystem2というものです。 どうやら、商業のメーカーで開発されたシステムで、それを一般の人が利用出来るようにしたものらしい。そういう意味では、System3.9みたいな感じですね。 ただ、使い勝手はお馴染みのNScripterや吉里吉里/KAGに劣る事はありません。どこまで本作がこれをカスタマイズしているのか分からないのですが、パキッとした感じのスタイリッシュな画面で素敵でした。 歴戦のノベルゲーマーならば、先にもちらりと書きましたが、幽霊の同居モノという事で「いつか来る終わり」を意識してしまう訳ですけれども、みおは何者だったのか? みたいな所は、今回は伏せつつ話を進めます。 敢えて云えば、少し最後の「終わりの日」が唐突かもな、という気がしないでもない。だけれども、プレイすれば分かる通り、ちゃんと「みおを知覚出来るっぽい人物」を出す事で、伏線は張ってあります。 個人的には、もうちょっと手前からチラチラっとあの人(や、その存在)が出ていても良かった気もしますねぇ。街中で大地がじっとこちらを見ている視線を感じるとか、ね。 或いは、雨が降り続いている事を、もう少し印象付ける、という事もあっても良かったかも。 それは兎も角、ラストも綺麗に纏まっていたと思いますし、所謂ハッピーエンドで良かったです。 ただ、気になった点も若干あったりします。 繰り返しになりますが、本作、凄くしっかりと作ってあるんですよね。 だからこそ、になっちゃうんですが、ちょっとした誤字とか、「表記すべきでない表記」が出てきたりして、そういう所を改善すると、より作品が締まるんじゃないかな、と。 具体的に云えば、みおというのは、「発音」がみおであって、彼女の本当の名前、つまり漢字表記は分からないんですよ。まぁ、雨の中に居た少女で「みお」って名前ですから、誰でも「澪」って漢字に到達しちゃえると思うんですが、そこはさておき。 まぁ、主人公はみおを「みおちゃん」とずっと呼んでいました。ですが、後半に差し掛かるあたりで、「み、澪ちゃん!」みたいな表記が出てきてしまいます。この時点で、みおの本当の名前が「澪」である、とは分からないんですが、表記として出てしまっていた、という訳です。ここは、少し気になりましたね。すっごく小さな所なんですけれども。実際に「みお=澪」だと分かるのは、その場面より後ですから。 その他にもちらほらと誤字があったりするので、そういう所を修正すると、一段とクオリティがアップするんじゃないかな、と愚案する次第。 ちなみに、みおって名前は「澪」ですし、ラストの方で明らかになる設定を考えてみると、「みをつくしても」のみをと掛けているような感触があったりして。どうなんでしょ。 大体、こんな感じでしょうか? 丁度、雨→晴れ→雨みたいなループの中で塞いでいた私の気分にぴったりの作品でした。 優しくて、少し切ないストーリーを楽しんでみて下さい。少しだけ、次の雨の日が楽しみになるかも。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2009-11-18 02:36
| サウンドノベル
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