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2009年 12月 31日

フリーサウンドノベルレビュー 『檻演人 ~オリエント~』

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今日の副題 「落語少年の成長」

※吟醸
ジャンル:後ろ向き青春ビルドゥングスロマン(readmeより)
プレイ時間:2時間半~3時間くらい
その他:選択肢なし、一本道。
システム:NScripter

制作年:2009/6/?
容量(圧縮時):149MB



道玄斎です、こんにちは。
2009年のラストレビューになりそうですね。以前から作品名は知っていて、「いつかプレイしようかな」と思ってはいたものの、延び延びになってしまっていました。久々に容量多めのボリューム感のある作品で、内容も中々良かったのではないかと。
というわけで、今回は「Star Chasers」さんの『檻演人 ~オリエント~』です。
良かった点

・頭と尻尾の設定がちゃんと繋がっており、一貫したテーマを感じさせる。

・ヒロインが、段々といい娘になってきて……。こういう女の子いいですね。


気になった点

・文飾多めで、やや読みづらい部分がある。

・もう少し細かい描写があったら、と思う所も。

ストーリーは、少し長目ですが、サイトの方から引用しておきましょう。
本作の主人公、林谷 裕馬(はやしたに・ゆうま)は非凡な才能を持っていた。
落語。人を笑わせること。
落語部の林谷といえば、私立 会隅高校では知らぬものはいない道化師であった。


秋も深まり、イチョウの葉が黄色く色づき始めた頃、裕馬は蔵日 蘭(くらくさ・らん)
という女の子に出逢う
なぜかちょこまか付きまとう蘭と、それを迷惑に思いながらも突き放せない裕馬


そんな奇妙な関係がもたらした、ある小さな変化とは――

という感じ。
所謂、ちょっと内向的で心を閉ざした高校生が主人公、なんですが、彼には「落語」という特技があって、それが作品に一貫して流れてくるテーマというか主題と密接に関わっていたんじゃないかな、と。
何となく、上のストーリーを見ると、「道化師であった」とかね、太宰治の『人間失格』っぽい雰囲気があったり、はたまた「ちょこまか付きまとう」なんて属性を持ったヒロインが示唆されていたり、「こりゃ、一体どういうテイストの作品なんだ……」と戸惑ってしまう部分があるかと思うのですが、そんなに奇を衒ったタイプの作品ではなかったと思いますよ。『人間失格』っぽい、ってのは多少あるんだけれどもね。

で、落語ですよ。
古典文学にはそれなりに親しんでいる私ですが、落語は実は聞いたこと全然ありません。能とかもそうですねぇ。DVDとかで見たりという事はあるのですが、実際に能楽堂とかに行くという事は無くて、それは歌舞伎だったりも又然り。
落語なら、ハードルはそこまで高くないんですが、能とかって初見で内容が分かる人って居ないですよねぇ? 舞台で使われる言葉は「古語」ですし、或る程度能が発達した時代の「共通認識」みたいなものがないとどうしても辛い。能を楽しむってのは、ストーリーを予め予習しておいて、役者による表現の違いなどを見ていくって事なのかな? と私は勝手に思っています。

能とかよりも、もうちょっとハードルが低く楽しめるのが落語です。
これは古めかしい言い回し、みたいなものはありましょうが、取り敢えず現代語ですし、内容も分かります。本作の副作用っていうか、ちょっと寄席でも見に行ってみたいなぁ、なんて思いました。

それはともかく、高校生にして落語研究会を一人で作り、一人でやっている、実は心に問題を抱えた男の子が主人公。そんな彼に、何故かちょこまかと付きまとってくる女の子が現れて……と割と一般的なボーイミーツガール的な、そういう感じ。
また、その子(ヒロインですけれども)がヘンテコなヤツでねぇw 学校でも普通に浮いていて、教室で一人紙芝居とかやってて、最初「電波とまで云わないけれども、そうとうアレなキャラだなぁ……」なんて思っていました。一番、作品の前半と後半で印象が変わるのは、主人公ではなくてこのヒロインかもしれません。
ストーリーが進行するにつれ、ドンドン彼女の良い面が見えてきて、しかも包み込んでくれるような優しさがある子ですので、「この子いいじゃん……」と、手のひら返したように思ってしまうw

ボリュームが割とありますから、ストーリー的にも色々詰まっていました。
主人公そのものが抱える問題がやはりメインですけれど、商店街での演し物や、それに付随する「人情」なんて言葉が似合いそうな商店街の人々との交流……。
盛り上がりを担当するようなイベントもありましたし、満足感は高かったです。


一方で気になった点は、テキストが読みづらい、というのが一点。
というのは、難しめの語彙が多くて、日常生活を送る上で先ず使わないだろう、と思われるようなそういう言葉が頻出します。「韜晦」とかね。
でもって、文章の装飾……つまり文飾が過剰だったんじゃないかな、と。何かの事象を説明する為に、何かを引き合いに出さずには居られない、みたいな。
ラノベの主人公一人称の地の文みたいな感じで、所々にだったら良いんですが、殆ど全編に渉ってその手の文章になっていたので、結構疲れる所がありました。。
語彙の難しさってのは、主人公が落語をやっているから、という所でまぁ納得は出来るとして、面白い比喩を用いた表現ってのは、それがピンポイントで繰り出されるから面白さが倍増するんじゃなかな、と思います。文章にも多分、抑えるべき所は抑えて、盛り上げたり笑わせたりしようとする所では一気に、みたいな波があるはずですから。

もう一点は、大事な所の描写が抜けてしまっているのではないか、というもの。
というのは、後半、ヒロインの蘭が交通事故に遭うんだけれども、生きているのか死んでいるのか、生きているとしたら怪我の程度がどうだったのか、がその事故からかなり経たないと分からないんですよね。
で、「え? 死んじゃったの……?」と読んでいて本気で焦ってしまいましたw 
結果、生きてはいたわけですけれども、主人公とも面識があり且つ病院に入院している蘭のお母さんは何やってんだ? とか、ちょっと考えてしまう部分はありますねぇ。


大体こんな所かな?
ジャンルというか、それが「後ろ向き」なわけですから、結構主人公がウジウジとしていて、後半ジレてきちゃうんですが、落語というかもっと云ってしまえば「コトバ」のパワーというか、そういうものが一つのテーマで、ストーリーとの絡み方は中々良かったです。

うんと強引に書いてしまえば、主人公が大人へ一歩近づく、そういう成長譚なんですよね。そうした成長を後押ししてくれる存在として「商店街」のオッサン達、つまりリアルな大人もキャラクターとして素敵でした。

落語という馴染みのないものが取り上げられていたので、正直、知らない事も多くて、勉強になりました。多分……このシナリオを書かれた方、古典文学に造詣があるのではないかと思いますねぇ。普通『こぶとり爺さん』で即『宇治拾遺物語』が出てくる人っていませんし、落語の絡みでチラッと出てくる国語学的な部分の知識も光ってましたしね。

落語という少し変わったものがフィーチャーされ、キチンとそれが軸となり、ラストに結びついていたという事、ラストも気持ち良く終わった事(ちょっと引っ張り過ぎな部分もあるけどw)、そしてヒロインが中々魅力的だったという事で、ちょっぴり辛口に書いてしまっていましたが、今回は吟醸で。


またあとで、今年一年を振り返っての日々之雑記を書こうと思っています。
今年も最後までお付き合い下されば幸いです。


それでは、また。
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by s-kuzumi | 2009-12-31 16:38 | サウンドノベル | Comments(0)


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