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久住女中本舗

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2010年 11月 09日

フリーサウンドノベルレビュー 『夏仕舞冬支度』

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今日の副題 「君がいて 僕もいるから 冬支度」

ジャンル:生きにくい現代人の為の恋愛ノベルゲーム(?)
プレイ時間:一時間半くらい。
その他:選択肢なし、一本道。
システム:吉里吉里/KAGEX

制作年:2010/10/24(?)
容量(圧縮時)65.5MB




道玄斎です、こんばんは。
今日は久々にフルサイズの(?)ノベルゲームレビュー。季節的にも段々と冬になりつつある今プレイするといいかもしれませんねぇ。
というわけで、今日は「WOSAKANA SOFT」さんの『夏仕舞冬支度』です。
良かった点

・毎度お馴染みの、演出の妙。

・テーマや主人公のバックグラウンドなどに一ひねりアリ。


気になった点

・割とすぐにデレてしまうヒロインw

・実は、主人公のポテンシャルが凄すぎて、「成長」と云った部分は感じにくいかも。

ストーリーは、サイトの方から引用しておきましょう。
働き始めて一週間のバイトである俺、白洲権兵衛は、店舗業務にしくじった。


その顛末の結果、店長から資材部へ配置換えを言い渡されるハメに。
どうやらそこでの俺の仕事は、付近一帯の同一チェーン店に対する統一倉庫での作業を
一人でこなしている資材部長代理のサポート。


一週間の間、直属の上司であったフロアマネージャーに付き従って倉庫へ行ってみると
資材部長は黒川さやかという同い年の女性だった。


とくに華々しい出来事も、奇抜な設定もない、地味なお話。

こんな感じ。

確かに……華々しい出来事も奇抜な設定も無い……んですが、「おや?」と思わせる捻った設定があったりしてありふれた恋愛譚とは一線を画している事は先ず最初に伝えておくべきでしょう。

物語後半で明らかになる主人公のバックグラウンドなどは、(個人的なバイアスが掛かっているとは思うのですがw)ゆかしいものがありますし、『玉葉集』や『風雅集』なんて普通の人じゃ出てこないよなぁ……と感心する事頻り。
ご存じの通り、私も割とそういったものに興味関心がある方なので、思わずのめり込んでプレイしてしまいました。

さて、本作は、もう記憶の彼方に置き去りにされそうな、某企画の一篇として制作されたものですね。
多分、企画がポシャったのを契機に、増補されたものと思しいわけですが、相も変わらぬ演出の妙が冴えてますねぇ……。
『HTV』、『ブラックオクトウバー』という作品が既にしてリリースされており、本作は三作目、という位置づけですけれども、そうした演出の素晴らしさや、作品をテンポ良く進めるのに多大な貢献があると思われる、軽妙なBGM(自作、ですからねぇ)など、このサークルさんの良さはちゃんと継承されています。

OPがFLASHで制作されており、所謂ムービーという形になっているわけですが、このムービーが再生されるタイミングなんかは本当に絶妙の一言ですよね。
実は、こっそり、本作公開前にこのムービーを拝見したりしていたわけですが、単独で見るのと、作品の中で見るのとは大分印象が違いますね。勿論、後者の方が遙かに素晴らしい、という事が云いたいわけですw


肝心の中身……なんですが、先に引用したストーリーを見て頂ければ大凡の所は掴めるのではないかと思います。フリーターの主人公が左遷(?)され、誰も行きたがらない社内の墓場のような、倉庫に行かされる事となり、そこで一人黙々と働くヒロインと出会って……という感じ。

ここのサークルさんの作品は、割と多人数での掛け合い、みたいなものが特徴だと思っていたのですが、今回は、殆ど主人公とヒロインの二人しかキャラが出てきません。
これは、元々の企画のレギュレーションの名残でしょうかね? あれはシナリオの分量とか結構タイトな規定があったように記憶しています。

あっ、そういえば、主人公及びヒロインの名前も拘りがあるのかな? なんて穿った見方を……。
主人公の名字が「白州」でヒロインが「黒川」ですから、「白と黒」で対になっていて、「州と川」で川の字がどちらも入っている、とか、勝手に想像していますw
それにしても主人公の名前が強烈ですねぇ。「白州権兵衛」ですからw ごんべえですよw けど、プレイしていると何度となく目にするであろう、主人公の「心の短歌」(画面に表示されます)では、「ごんのひょうえ」と記載され、一種の雅号というかペンネームになってます。そこはかとなく平安・鎌倉時代を想起させてくれますねぇw

で、まぁ、過度に無理をして頑張るヒロインと、プータロー男が出会って恋して……みたいな、云ってしまえば内容としては、そんな感じなんです。何故、身も心もボロボロになってまで、ヒロインは働いているのか? そんなヒロインに主人公はどう接して、二人はどうなるのか? ってな感じですね。

ただ、本作が一番推していると思われるのが「生きる事……働く事の意義や意味」みたいな、そういう所なのかもしれません。誰だって、好きな事(とまでいかなくても興味のある事くらいでも)をやって暮らしたいと思うけれども、実際蓋を開けてみれば、自分の興味関心とは全く無関係の所で生活する為に何となく働き、何となく日々を過ごしている……そういう方も多いんじゃないでしょうか? 
個人的に読んで/プレイしていてグサッと来る部分もあったりして、ねw


そういう意味で、生活と好きなことに折り合いを付けられないでいる人には、凄く刺激的な作品です。大学生とかね、その辺りの年齢層の方にもお勧め出来ますねぇ。
でも、反面、微妙に説教臭いというか、テーマがこういう感じですから、どうしても、そういう部分が出ているのも事実。説教されている訳じゃないんですが、何となく、ねぇw こういうのは本当に難しい部分だと思います。テーマ性を強く出していけば、それが響く時の衝撃は大きくなる反面、どうしても説教臭さが出てくるわけで、この辺りのさじ加減はかなり難しいんじゃないかなぁ、と愚案致します。

ただ、繰り返しますが、本作が描こうとしているテーマを必要としている人、には凄まじく響く作品なんじゃないかな? と同時に思うわけです。
毎度お馴染みの、「無気力高校生が、聖母のようなヒロインに出会って生まれ変わる」系の作品とはやっぱり、一味違うわけです。逆に、もう少しこうしたテーマ性を打ち出した作品が出てきてもいいのにな、と思ったりする事も屡々。。


ここで気になった点に話を移しましょう。
これも……元々のレギュレーションの影響だと思うんですが、ヒロインがすぐにデレちゃいますw
最初はかなり「ツン」なキャラだったので「こりゃツンデレが来るぞ……」と、プレイする側として予測出来るんですが、「ツン」と「デレ」の淡いっていうんですか? その過渡期みたいな、所謂「甘酸っぱい」期間が個人的に大好物でしてw

私が好きな恋愛系の作品は、その二人の距離の推移に、筆を割いているものが多いと思うんですが、そこが若干乏しかったですね。
作品をプレイしていると、赤羽や王子の東京のまだまだ下町情緒が残っている地域が舞台になっていて、その舞台としての美味しさを活かしながら、二人の距離の推移ややりとりを描く事も出来たんじゃないかと。


で、最大の気になった点は「主人公のポテンシャルが高すぎる」という点ですw
どうしてコイツがフリーターやってるんだよ!? って云いたくなるくらいの、イケメン振りでしてw 気遣いバッチリ行動力バッチリ。思考力にも優れ、オマケに顔もカッコいい(それはイラストの問題)と非の打ち所が無いヤツですw

で、本作に限らず、後半ら辺、ヒロインと主人公が二人三脚で、前進していかないといけない場面ってありますよね。前進は成長と言い換えてもいいわけですが、作品の「盛り上がり所」っていうんでしょうか? 
お互い辛さの中で、その辛さを糧にして人間的な成長を遂げる……そんな場面です。

本作の場合、それが殆ど、完璧超人(に思えるw)の主人公による思惟によって解決されちゃって、あまりヒロインが頑張らなかったというか、主人公が最初っから持っていた思想というか、考え方にいとも容易く感化されてしまった感が……。
勿論、主人公のバックグラウンド(例の短歌とかだ)がそこには入り込んだり、多層的な構造を為してはいるんですが、やっぱりそこが一番気になりましたねぇ。



かなり……今も……悩んでいるのですが……今回は無印(=純米)で。
無印にしておいてなんですけれども、まさにこういう「働く事と生きる事」みたいなテーマで悩んでいる人や、大学生なんかには是非プレイして貰いたい、そんな作品になっていると思います。

というわけで、今日はこのへんで。



それでは、また。

by s-kuzumi | 2010-11-09 21:46 | サウンドノベル | Comments(4)
Commented by Aura911@ヲサカナソフト at 2010-11-10 21:34 x
こんばんは!
お世話になっております、Aura911@ヲサカナソフトです。

このたびはBreezeway、ヲサカナソフト共同開発『夏仕舞冬支度』を
取り上げていただき、本当にありがとうございます!

またまたいろいろとお褒めいただきまして、
恥ずかしいような嬉しいような気持ちです。

ただ、お褒め頂いた点ももちろん嬉しいのですが、
やはりご指摘いただいた点が特に参考になります!

投稿文字数制限につき、つづきます。
Commented by Aura911@ヲサカナソフト at 2010-11-10 21:35 x
『さすがレビュワー!』だなんて言うと失礼な話なのですが、
作品そのものを評価するポイントなどもすごく説得力があって、
客観的に『作品を評価する、紹介する』という姿勢もあいまって
『そうだよなあ』、なんて公開してから初めて客観的に捉えられた感じです。

(いつもなんですが)なかなか自分の作品は客観的に見れないものらしく、
自分でも気づかなかった作品バランスや構成や不自然な点など、
Auraの近視眼的なところがいろいろと洗い出され、大変勉強になりました!
ぜひ、次作に活かしていこうと思います!
もしよろしければこれからも色々とお教えください!

ただ。。。Auraの適正というのでしょうか。。。
実は他の方からも(テストプレイにて)後指摘を受けていたのですが、
どうも色恋沙汰はAuraの力量不足で、分かっててもうまく書けませんでした。。。
これはAura能力不足を痛感いたしました。

さらにつづきます。
Commented by Aura911@ヲサカナソフト at 2010-11-10 21:36 x
こう、『好き!』とか『嫌い!』とか、単純なものなら描写できるのですが、
『その中間です』なんてことになると。。。
それって一体どんな状態なのですか!そんな動機認められません!
と机を両手で叩いて被疑者を問い詰める気分に。。。

めぞん一刻とかきまオレとかってすごいですよね。。。
読んでてむかむかしてくるところもありますが(笑

と、変な話になりましたが、
このたびは本当にありがとうございました!
重ね重ね御礼申し上げます!

次作はSFか放浪演奏者ノベルかどちらかになると思います!
(ここで宣伝か)これからもどうぞよろしくお願いいたします!
Commented by s-kuzumi at 2010-11-12 00:38
>>Aura911さん

こんばんは。
こちらこそ、毎度毎度お世話になっていながら、何だか辛口になってしまって……。

結構、本当に自分の好みで……書いている……部分も多いんですけれども、少しでも客観的に書こうとしている……と思えたのならば、凄く嬉しく思います。

「ツンとデレの淡い」なんですが、比率で考えると、いいですよw 最初は「8:2」くらいなのが、最終的には「2:8」くらいになるわけですが、途中で「4:6」になったりするじゃないですか?w そこらへんの「完全じゃないけれども、大分うち解けてきている」みたいな、時間経過が私が個人的に好きな所なんですよね。

こちらこそ、わざわざコメント本当に有り難うございました! 次回作、どっちに転んでも非常に楽しみなので、ワクワクしながら待ってます! それでは!!
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