2011年 09月 07日

フリーサウンドノベルレビュー 『朝焼けの謳』

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今日の副題 「昨日は今日に、今日は明日に」

※吟醸
ジャンル:感動系ノベル(?)
プレイ時間:2時間半程度。
その他:選択肢なし、一本道。
システム:吉里吉里/KAG

制作年:2011/?/?
容量(圧縮時):130MB




道玄斎です、こんばんは。
今日は、久しぶりに長尺の作品を、先日のNaGISA netのラジオでも取り上げられていた作品ですね。今回は読了後、NaGISA netのレビューなんかも予めチラリと見ておいてレビューを書いてみようかと。
というわけで、今回は「クラフトエイジ」さんの『朝焼けの謳』です。作者さんのサイトが分からなかった為、ふりーむの該当ページへリンクを張っておきます。
良かった点

・過不足無い描写で、テンポ良くストーリーが進行していく。

・後半部の盛り上がりに一見の価値アリ。


気になった点

・作品舞台とも関わりのある重要な問題が、どこか置き去りにされてしまっているような部分もある。

ストーリーは、ふりーむから引用しておきましょう。
全てを失い、全てに絶望した者たちが辿り着く場所。
それがここ、鉛街(なまりまち)。
十九歳の六月、僕もそこにやって来た。

鉛街には夢も希望もない。
あるのは……ただ、無表情で歩く人々と、無数に聳え立つ高層ビル、そして……無限に続く鉛色の空。

その街の廃ビルで、僕は一人の少女と出会った。
猫のような、鴉のようなその少女。
身寄りも戸籍もない、その少女。

彼女は夜に怯え、運命に嘆き、自分以外の全てを嫌いながらも、気高く、強く生き続けていた。
まだ見ぬ明日に、多くの不安と、ほんの少しの期待を抱きながら。

「私だって生きているんだ!!」

───これは『弱者を捨てて、前進し続ける』時代に向けて謳った、彼女の物語。

ちょっと長目ですけれども、こんなストーリーになっています。


どことなく東京は新宿を模したような街……高層ビルが建ち並び、「持つもの」が居る一方で、日本最後のスラム街が存在し、そこでは日常的に犯罪が行われ、戸籍も無い「生きた死人」とも云うべき人たちが暮らしている……。

と書くと、何だかやたらめったら暗そうなイメージですけれども、実際結構暗めのイントロです。
割と、私は「自分用語」を勝手に作っては使っているんですが、フリーの(商業も?)ノベルゲームで非常に多いパターンが、両親が海外赴任をしており、主人公が一人暮らし(ヴァリアントとして妹が居たりすることも)、ご近所には幼なじみの女の子(同い年で同じクラスなのが多いが、ヴァリアントとして年下の場合も)が住んでいて、あれこれ世話を焼いてくれる……的なイントロの作品があります。

これを、「不機嫌高校生、聖母のようなヒロインによって改心する型」と名付けていますw
いや、そこに善し悪しの基準は入っていませんよ、勿論。肝心なのは、その「型」ではなくて飽くまで、中身ですから。
或いは、こうした或る意味でいつも通りのイントロでありながら、それを逆手に取るような、作品もあったりしますから、ガワだけ見てちゃやっぱり損をします。

で、個人的に「スパイシー型」と名付けたいのが、クスリ(いけないドラッグです)とか、無法地帯とか、本作のように、鉛街でのスラム街とか、「非日常」を持ち込む事で、プレイヤーの興味をグッと惹きつける……そうしたイントロを持った作品です。

こうしたスパイシー型は、それが非日常であればある程、登場人物達は一般の人から見ればなんてこと無い「日常」を求めて四苦八苦します。
そして、それ故に足掻き、苦しみ、その果てに何かを乗り越える事で得られる感動がある……というのは余りにも図式的に過ぎるでしょうか。


今回、本作をプレイして感じた事は、「何だかんだで、プレイ時間を忘れてしまう程の作品は良作である」という当たり前の事だったりします。
一応、プレイ時間の目安を載せるために、プレイしながら時間を計測していくわけですが、「え? もう一時間経ってるの?」と思いましたからw
一応、一話一話毎のストーリー仕立てになっている事と不可分ではないハズですが、過不足無くストーリーが語られていく為、冗長さを感じる事は恐らく殆どないハズです。
ただ、その一方で、結構大事な所……が何となく置き去りにされてしまっているような部分もあるので、そこは後述しましょう。

冗長さ……という事で云えば、所謂ギャグが入り込まなかった、というのもテンポの良さに繋がっていたのかな? まぁ作品の舞台や話自体が結構シリアスですから中々入れ込みにくかったのかも。
これは割とVIP系の作品にありがちだったんですが、元ネタを全て理解する事が出来ないような、ストーリーの本筋とは殆ど関係の無いギャグが連発される……という事があって、適度なギャグが適切なタイミングで出てくるのならば、非常に良いのですが、そうでないシーンでもギャグになってしまうと、やはりテンポが悪くなっちゃうような気がします。

ただのウケ狙い的なギャグや不必要な描写を省く事。
ストーリーを丁寧に描いていく事。
やっぱり、この辺りにノベルゲームの王道があるような気がしていますよ。


で、どの作品でもそうなんですが、「最後まで読める」というのも当たり前っちゃ当たり前ですけど、ある種、作品の良さを証明していますよね。途中までプレイしてどうしても、最後まで読めない作品、私にもありますから。
そういう意味では、時間を忘れて没頭出来る作品だったわけで、本作はやっぱり良い作品だと思いますよ。
ヒロインはちょっと性格に難がありますが、主人公式守とヒロイン篠芽を繋ぐ、かすがいとしての灯の存在が良かったですね。
灯自体も、ただの主人公とヒロインを繋ぐ為だけの存在ではなく、ストーリーの重要な所を随所随所で担い、独立したキャラクターとしても魅力を感じさせるものになっていました。


あー、めずらしく、脱線していいでしょうか?
「灯」(ゲームの方は“とも”と読みます)という名前でふと思い出した事がありまして。それは私の学生時代の永遠の謎にまつわる話です。
東京は駒場という土地がありまして、そこに駒場エミナースという施設があったんですね。で、私は、毎日学校に通う為に渋谷駅からバスに乗ってそこを通過していたのですが、その駒場エミナースの横に、ちょっと寂れた感じの「ともしび」なる旗が立っていて、察するにラーメン屋なんですよw

だけどもお店自体が「風前のともしび」みたいな感じで、半分あばら屋なんですw
けど、営業してるんですよw 一年もその光景を見続けていれば、嫌が応にも「どういう店なんだよ……」と気になりますよね? どうも私の友人達も同じだったようで、ある日勇気ある者達数名が、連れだってその「ともしび」なる店に入ったんです。
まぁ、ラーメン屋である事は変わりないので、ラーメンが出てきます。味は可もなく不可もなく。だけれども、妙に冷めていたのが印象的だったそうな。

いや、そこまでは、まだ普通のラーメン屋なんだ。
問題はここから。店のオヤジがラーメンを持ってきて、客がそれを食べる。まぁ、普通です。
けど、「ともしび」は、店の奥の柱の陰からオヤジが、食べている姿をジッと見つめてくるんだそーですw この被害者(?)は一人じゃなくて、「ともしび」に入ってしまった人全員が体験するらしいですよw 興味があれば、そしてお店がまだ健在ならば、是非是非行ってみて下さいw


っと、ここらで話を戻して……。

作品の舞台は殆ど通称「お化けビル」なる、パラボラアンテナが目印のビルの中でしたが、こうした個性的なキャラクターのお陰もあって、そこに閉塞感を感じる事はありません。
ただ、ビルといっても、その中の一室……というわけでもなく、ちゃんと部屋がしつらえてあって、その中を自由に行き来して、使い生活をしている……という設定の妙が冴えていたのかもしれませんね。

良かった点としては、安直に篠芽の夢が叶わなかった、という所も挙げていいかもしれません。
あそこでサクセスストーリーになっちゃったら、それまでの設定の積み上げが台無しですから。そして一つの夢が潰えた事で生まれた新しい夢。それに向かって進んでいく主人公とヒロイン、そして灯。

中盤くらいから、「絶対にこれは伏線だぞ……」と薄々気づいていた、アレが後半の盛り上がりを演出してくれます。「世界と繋がりたい」と願っていた少女の夢が叶う瞬間です。
このシーンは必見ですね。ちょっと大袈裟なくらいの演出が大いに作品を盛り上げてくれました。

ノベルゲームって、やっぱり後半にズッシリとインパクトと手応えのある盛り上がりがあると、印象が全然違うんですよね。
サラリと流れていく中に名作がある事、重々承知していますが、個人的に好きなのは、本作のように、後半(ラスト付近?)に破壊力を秘めた盛り上がりを持った作品です。


さて、ここらへんで気になった点、ですが、意外と「スパイシー型」にも関わらず、その非日常感、非合法感の街の演出が少なかったな、と。
お化けビルの中がメインの舞台なんですけれども、もうちょっとエピソードの中に鉛街のスラム街がどんなものなのか? を示唆するシーンがあっても良かったかもしれません。

あとは、篠芽が窃盗をやって食料をゲットしてきて、それに対して主人公が激昂する場面があります。
主人公は、いくら自分がスラム街に墜ちても、通すべき筋がある、というタイプで、悪く言えば融通が効かない、良く云えば非常に生真面目なタイプ。
だけれども、その街の倫理、で生活している篠芽には、それが分からない。挙げ句、主人公は偽善だと罵られるわけですよね。

そうした、主人公の論理と篠芽の論理を隔てる壁、みたいなものが、いつの間にかサッパリと忘れ去られてしまっていたような……そこは、やっぱりスラムの世界――非合法がまかり通る世界――を描く部分とも繋がってくるので、何かしら決着を付けて欲しかったな、と。


大体、こんな所でしょうか。
久々に時間を忘れて没頭して読む事が出来た、良作です。
女性のみフルボイスなので、そういう作品がお好きな方にもお勧めです。



それでは、また。
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by s-kuzumi | 2011-09-07 19:42 | サウンドノベル | Comments(0)


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