2011年 10月 05日

フリーサウンドノベルレビュー 『ビューティフルパフォーマー』

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今日の副題 「舞台の上で、かくも貴女は美しい」

※大吟醸
ジャンル:かつての自分を取り戻すラブコメディー
プレイ時間:~5時間
その他:選択肢は若干あれど、基本一本道。常識的な選択肢をとればw
システム:吉里吉里/KAG

制作年:11/09/12(ダウンロード開始)
容量(圧縮時):93.9MB




道玄斎です、こんばんは。
今日は久々大吟醸! プレイするのに夢中だった為、こんな時間に更新しています。この季節になると金木犀の良い香りが……と、この時期毎年云っている前口上は、もういいでしょうw
というわけで、「ENTRANCE SOFT」さんの『ビューティフルパフォーマー』です。
良かった点

・あまり目にしない「お笑い」「コント」に焦点を当てた作品。

・日常のギャグが作品世界と相俟って五月蠅く感じない。

・五月蠅くなく、存在感のある脇役達。


気になった点

・最初の十分、かなりギャグテイストな文章なので、それを乗り越えるまでが辛いかも。

・元ネタを知らないと笑えない箇所がある。

ストーリーは、作者さんのサイトから引用してきましょう。
あの頃、僕らは色んなものに憧れていた。大人になるにつれて色んなものが視えにくくなっていく。そんな主人公が巴との出会いによってかつての自分を取り戻していく。

こんな感じ。


ってこれだけじゃ伝わらないので、補足しましょう。
主人公雪人は、従妹のかなみのバンドパフォーマンスを見て、衝撃を受け、自分の目指していたはずのお笑いへの道を見失ってしまう。
そして、高校生活の中で、無口な美人が実は無類のお笑い好きだと分かり、コンビを持ちかけるのだが……。

と、大分補足してみました。
だったら、最初から自分で書けよ! って突っ込みはなしでw

一言、良かったです。で終わらせる事も可能なんですが、それだとレビューにならないので、こちらも真剣にレビューしてみましょう。


かつて諦めたものに、再度立ち向かう、というのはノベルゲームでは結構あります。
それは過去そのものだったり、自分の夢だったりと色々あるわけですが、本作の場合、それは「お笑い」の道です。
そもそも「お笑い」的なものがノベルゲームで取り上げられる事自体少ない訳なんですが、私の知っている限りだと『檻演人 ~オリエント~』が近いかな? あっちは落語ですけれどもね。ちょっと本作と似た雰囲気もある作品です。

確かに、「笑い」を主軸に据えた作品こそ少ないものの、挫折からの恢復、復帰、という事を考えれば、意外とその手の作品は見つかります。
但し、それが「良い」のか「悪い」のか、或いは目線を変えて「感動出来るのか」「出来ないのか」で云えば、少なくとも私にとっては絶対に良いですし、丁寧に作られていれば感動出来ます。

何故ならば、生きている以上、私達は常に挫折しているから、です。
恐らく、全く挫折が存在しない、という人はいないでしょう。それは本当に小さな夢なのかもしれません。けれども、誰にでも挫折は存在します。

因みに、私のちっぽけな挫折は、「いつか小室哲哉みたいになって音楽プロデューサーになる」というものでしたが、幸か不幸か、だからと云って、楽器を練習したりシンセを弄ったりする事も無くフェードアウトしていく、なんてことない挫折でしたw
けど……ノベルゲームをきっかけにして、ちょっぴり音楽を作ったりするようになって代替的に、そうした昔の夢を少し、趣味という形で実現出来ているのは幸せな事なのかもしれません。

……と、若干脱線しましたが、常に私達の人生は挫折と隣り合わせです。
そこに、かつての情熱を取り戻すドラマがあって、そこに素直に感動出来る、というのは恐らく普遍的な感覚でしょう。云うなれば、作品を通して、私達は挫折からの恢復を図る事が出来る、と云うと言い過ぎでしょうか?

勿論、挫折を繰り返し繰り返ししていって、その果てに何があるのか? を描くような作品の方向性も考えられる訳ですけれども(それを上手に作れたら凄い!)、かつて持っていたであろう情熱にチリチリと火を付けるような、作品にはやはり心を打たれますし、素直な感動がそこに存在していると思うのです。


今日は周辺的な事ばかり喋っていますけれども、もうちょいお付き合いを。
良くできたノベルゲームで尚かつそれなりの尺のあるものは、共通した要素があるような気がしています。それは「部分部分の纏まりがしっかりとしている」という点です。

作品は一本道。ノンストップで進んでいるように見えても、場面場面でちゃんと綺麗に纏まり、それを承けて次の展開へと進んでいく……。こういうタイプ。
これ、意外とありそうでないんですよ。
それと分からないように、上手くストーリーが部分部分で纏まりながらも、連続して一個の作品を成している、という事で代表的なものを挙げるとすれば『送電塔のミメイ』でしょうね。

あれは、「もう一歩欲しい」という所で、惜しげ無くストーリーが展開され、且つそれが邪魔ではなく、寧ろラストに向けてスムーズな伏線やエピソードになっていたような気がします。

もうちょっとハッキリ分かるタイプで云えば、「章立て」がしてある作品です。
一章、二章と章ごとでキッチリ分けられている分、各章は或る程度の独立性を持ち、尚かつ次の章への上手な運びになっていたり、或いは挿話的なエピソードを途中に折り込む事で、作品に奥行きを持たせるタイプです。これは代表的なものを挙げれば、『ゆめいろの空へ』かな?
或いは、最近レビューしたものの中では、『黄昏を見つめて』なんかも、章立てによってテンポの良さも確立していましたね。

本作も又、ほぼ一本道ですけれども、各パート(って云い方でいいかな?)がしっかりと作り込まれて、それが次の展開へ淀みなく結びついていくものになっていた点、大いに評価すべきでしょう。
最初の10分プレイした段階では「結構ギャグが多くてプレイしずらいな……」と感じましたがw

ギャグで押していくタイプの作品は、その各パートの流れ……みたいなものが割と希薄で、ギャグによって押し切ってしまう、という力強い(悪く言えば力業)印象があったんですよね。

で、ギャグというか、ボケとツッコミで展開される本作の会話は、最初こそ「ついていけねーかも?」と思いましたが、30分くらいプレイした段階で、「これは!」と思わされましたね。
そう、最初に述べたように、本作は、かつて挫折した「お笑い」の道を、主人公雪人がパートナー巴を得て、取り戻す作品だから、です。だからこそ、彼らの会話はボケとツッコミで構成される会話になっているんです。

もっと云ってしまえば、本作自体が「お笑い」なんですよね。
勿論、シリアスな場面も一杯あります。だけれども、本作に底流しているのは「お笑い」という要素なので、日常の何気ない会話、キャラのやりとりもどこかおかしみを感じるもの、掛け合い、或いは直球で笑えるもの、になっているんです。

私も何度も笑わされましたw
個人的に好きなのが、所謂、主人公の悪友的ポジションの亮弥の愕然とした表情と、彼の弄られっぷりですね。大体、この手のサブキャラは、弄られ役になるってノベルゲームの文法があるんですが(だから、たまにカッコいいサブキャラが出てくると一味違った作品になったりする)、そういう所では期待を裏切らない、「笑える」作品になっているのでした。


今、チラリとサブキャラの話を出しましたが、サブキャラの使い方も上手いですね。
主人公とヒロイン巴以外に、かなみ、かなみのバンドメンバーで主人公の悪友でもある仁、亮弥、悪巧みをするクラスメイトや、主人公達を応援してくれるクラスメイト、更には主人公の憧れの漫才師。

かなりのキャラクターが出てきているのですが、不思議と五月蠅くなく、且つ存在感もあり、時に伏線を担ったりするわけで、こうした脇役キャラを固める、というのがノベルゲームで有効な手段である事、改めて確認しました。


かなみ率いるスノーマンというバンドと、主人公と巴のびーなすというお笑いコンビ。
この二者が全く違う土俵にも関わらず、イベントで勝負していく……という展開はやっぱり燃えますね。逆に同じジャンルでの勝負になってしまっては、面白さが半減してしまいます。
音楽に対して、お笑いで勝負をしていく、そこが本作の熱くて面白い部分の結晶ですよね。

ラストに関しては、あそこで止まっても良かったかな? という気がしない訳でも無いですけど、綺麗にキチンと纏まっており、やっぱりそこには感動があります。
感動って別に「泣きゲー」みたいな感動だけじゃなくて、感情が動くって事ですから、「いやな気分になる」だって感動だし、「ハッピーな気分になれる」のだって感動です。

けど……。
本作は、作中の人物を我が身に擬えて、過去の挫折を恢復させてくれ、尚かつ、又、過去に挫折したものだったり、今存在する夢なりをもう一度見つめ直して追いかけていきたくなる、とそんな感動なのでした。
そういえば、話の主軸が、実はタイトル画面で既に明かされている、というのも珍しいですよね。


最初の10分や、元ネタが分からないギャグ、ちょっと辛いかもしれませんが、お勧めです。
今回は、文句なしの大吟醸、という事で。



それでは、また。
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by s-kuzumi | 2011-10-05 01:30 | サウンドノベル


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