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久住女中本舗

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2011年 12月 31日

フリーサウンドノベルレビュー 『こいいろ』

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今日の副題 「どこにでもあって、どこにでもない恋」

※吟醸
ジャンル:恋愛ノベル
プレイ時間:40分程度
その他:選択肢なし、一本道
システム:吉里吉里/KAG

制作年:2008/09/05
容量(圧縮時):76.9MB




道玄斎です、こんばんは。
これが2011年最後のレビューになりますね。リリースされたのは少し前、なのですが、すっかり見逃していました。
というわけで、今回は「ProjectTNK」さんの『こいいろ』です。
良かった点

・何と云っても、構成が素晴らしい。こういうタイプ、かなり稀少なのでは?

・ライトな読み物とは一味違った、“読ませる”作品。

・(男性なら)誰しも経験している事を軸にしながら、誰もが経験していないドラマティックな恋愛を描いている。


気になった点

・場面場面で、誰が誰だか一瞬分からなくなる事がある。

・前半パートは若干駆け足気味だったか?

・もう少し、文章表示にこだわれば、もっと読みやすくなったはず。

ストーリーは、ベクターの紹介文から引用しておきましょう。
別れの先の新しい出会い......。
悲しさを抱いたまま見つける新しい道筋は、やがて一つの花を咲かせる。
優しいだけの世界じゃない。
不条理ややり場のない切なさに突き当たるんだ。
けれど、その先の幸せを目指してゆっくりと僕らは歩いていく。

Project TNKが贈る恋愛ショートノベル『こいいろ』

――ありふれた恋。
けれど、どこにもない恋。

体験してみませんか?

こんな感じ。



2011年を締めくくるに相応しい、かなりの良作に出会いました。
実は、本作は2008年にリリースされていたのですが、ずっと見逃していました。昨日、NaGISA netのNaGISAさんが「今年一番印象に残った短編作品」と仰っていたので、プレイしてみたら、なるほど、素晴らしい短編作品でした。

今年、私が印象に残った短編作品は、『君と再会した日』でしょうか。
これも選択肢なしの一本道。同窓会への出席を通して、思い出の女の子との再会を願う……という謂わば直球の作品でした。勿論、ただ直球なだけではなく、上手な伏線が張ってあり、かなり感動出来る良作でしたね。

一方、本作は変化球、です。
選択肢なしの一本道、というかなり大きな意味での枠組みは変わらないものの、内容の構成は『君と再会した日』と大きく異なっています。

というのも、短いストーリーが次々に提示されて、一本のストーリーを為しているからです。
この一つ一つの短いストーリーの中には、本筋のストーリーとは一見無関係のものも入っていたりします。それが、実は物語内物語、のように機能していたり、何気なく挿入されるショートストーリーが、「現在」から見て、「過去」の出来事であったりと、時間軸の移動も伴いながらストーリーが進んでいく事になります。

この構成の妙は、本当に凄いものがあります。
立ち絵、一枚絵は存在しませんが、そんなものが気にならないくらい鮮やかな構成になっていました。
そういえば、本作も亦、『君と再会した日』同様に、星や自然などの「大きなもの」を使い、感動を演出していましたね。

更に、本筋のストーリーが男性なら誰しも経験あるであろう、「ありふれた」恋愛を描いており、物凄いリアリティを見せてくれます。
どういう思考なのか私には全く理解出来ませんが、「嫌いになった訳じゃないけれども、お別れしましょう」みたいな台詞、一度くらい云われた事、ないですか? これは男性にとって永遠の謎ですよね。
そういう意味では、リアリティがあり、ありふれたストーリーなんです。が、合間に挟まれるストーリーが本筋のストーリーを補完しながら、ドラマティックな構成を取り、「ありふれていない」見事なラストに結びつく。これは、中々出来る事じゃないですね。

又、800×600の画面構成が、「読ませる文章」に貢献していた、という点も見逃せません。
一字は割と小さめですが、その画面の大きさを利用して、一画面に多くの文章を表示する事で、「小説」のような雰囲気が良く出ていました。
640×480だと、文字を小さくすれば読みにくいですし、大きなままだと一つの長目の文章が、一行毎に、ブツブツと分断されるような感触もありますから。


さて、一方で気になった点、ですが、本作は登場人物の名前を全く表記しません。
多くのノベルゲームは、割と奇を衒った……云ってしまえば若干読みにくい名前のキャラが多いような気がしています。
本作の場合、登場人物の名前が明記されない所が、又何とも云えない文学的な香りを感じさせてくれます。そして、名前がなくとも違和感が殆ど無い、というのも凄い所です。

ですが、違和感は殆ど無い、と書きましたが、短いストーリーが重層的に絡み合いながら一本のストーリーを作っているわけで、場面が変わった際に、「この“俺”というのは誰なんだ?」という疑問を感じさせる部分があります。

最初に提示されるストーリーを見たあと、次のストーリーを見ると、あたかもそれが連続しているかのように思えるのですが、実はさにあらず。
そういう部分で、若干戸惑う所もあります。とはいえ、プレイを進めていくと、何となく全体像も把握出来るんですけれどね。

次に、若干、前半(という分け方でいいのかな……?)は急ぎ足だった、ような気もします。
特に、最初に提示されるストーリーは、何となく性急な印象があり、次に示されるストーリーとの繋がりが悪かったような印象がありました。

これは蛇足なのかもしれませんが、折角の800×600の画面を使い、それが効果的に文章表示に繋がっている反面、もう少し、見やすさを考えても良かったのかもしれません。

具体的には、地の文と会話文が連続して表示されていたりするのです。
私の感覚だと、地の文と会話文はやはり一行、ブランク行を作り、明確に地の文との差別化を図ると見やすいかな? という気がします。


色々書きましたが、2011年を締めくくるに当たって、本当に良い作品に巡り会えたと思います。
吟醸……ではあるのですが、実は少し悩んでいて、もしかすると大吟醸にしちゃうかもしれません。
長さは凡そ40分。短編という事ですが、構成の妙が光る良い作品です、是非お正月にでもプレイしてみて下さい。



それでは、また。

by s-kuzumi | 2011-12-31 18:56 | サウンドノベル | Comments(0)
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