2012年 03月 29日

フリーサウンドノベルレビュー 『Being -君がいた日-』

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今日の副題 「いかまほしきはいのちなりけり」

※吟醸
ジャンル:ある1つのコンセプトを元にしたシナリオ集
プレイ時間:全部読んで、凡そ1時間ほど。
その他:どのシナリオも選択肢なし、一本道。
システム:NScripter

制作年:2012/2/8
容量(圧縮時):55.0MB



道玄斎です、こんにちは。
今日は、こんな時間に更新します。それも久しぶりのノベルゲームレビュー。
というわけで、今回は「Clover」さんの『Being -君がいた日-』です。
良かった点

・プレイしやすい短編集。テーマに沿った感動系のシナリオが三本入っています。

・演出とテキストとが絶妙にマッチしている。

・地味ながらも良作が、定番だけれども感動出来る、そんな作品が入っている。


気になった点

・かなり『Kanon』っぽいシナリオがあったw

・もうちょい、シメ感のあるエンドが欲しいものも。

大体、こんな所でしょうか?
ストーリーはちょっと長いですが、ふりーむの紹介文から引用しておきましょう。
■バースデイ -to you-
――誕生日、おめでとう。
今日は娘の誕生日。主人公、千歳(ちとせ)は最愛の夫と共に、それを祝う。
素敵なプレゼントに、少し奮発したレストランでのおいしい料理――。
幸せだった。あたたかな家庭がそこにはあった。
それは、何でもない日常の1コマのお話……。

■この世界で笑いたくて
少年はビルの屋上にいた。
屋上から見下ろす夜景を、別の世界から眺めているような気がした。
少年はこの場所に、自らの生涯を終わらせに、自殺しに来た。
――やめた方がいいわよ。
ふいに聞こえた少年を止める声。この瞬間から、絶対に出会うことのない、少年と少女の物語が始まった。

■桜とさくら
――桜の下には、なにがいるの?
専門学校に通うため、明日香(あすか)は”この街”へ引っ越してきた。
街を見渡せる小高い丘、そのてっぺんに聳える桜の木。
そこで私は『さくら』と出会った。大切な、大切な、友達と……。

久々に或る程度尺を持った作品をプレイした気がします。
短編集、というのも、取っつきやすい感じで良かったですよね。実はノベルゲームで短編集というものは、少し厄介なものを秘めていて、それはズバリ「纏まりがないものが出来てしまう」という危険性です。
が、本作の場合は、あるテーマを軸としたシナリオ集、ということだったので、こうした危険性が未然に回避されています。
やっぱり、一本軸があると、纏まりが出て、個々のシナリオでありながらも、一つの作品として成立している。そういう感触がありますね。


さて、中身に入っていきましょう。
まず「バースデイ -to you-」ですが、短いながらも味のあるシナリオで、これをプレイしながら「これは絶対に良い作品だ」と思いました。
娘、千歳の14年分の成長を、手紙を通しながら、次々と語っていくのですが、このテンポが絶妙でしたね。ともすれば駆け足になってしまう。或いはダレてしまう。
そんな後半のシーンが、過不足無く語られ、ジワッと来る作品になっていました。

強烈な派手さ、或いはキャッチーさは無く、云ってしまえば地味な作品である事は確かです。しかし、地味=ダメという事は絶対になくて、地味だけれども良い作品は、世の中に沢山あります。
もしかしたら、このシナリオが、一番本作の中でふわりとした優しさを持つ作品だったのかな? なんて思いました。


次の「この世界で笑いたくて」ですが、自殺志願者の少年と幽霊らしき少女の交流を描きながらストーリーが展開されていきます。
何か悩みを抱えた人間と、人間以外の幽霊とか(って云っていいのかな?)の何かが交流していく、というテーマはノベルゲームでは、割と定番のものです。実際に、次の「桜とさくら」も、そうした趣のある作品でしたし。

さて、この作品は、絶妙な伏線の張り方がしてあります。
どこか、は敢えて云いませんが、九州檀氏さんの『君と再会した日』をプレイしていたりすると、割とすぐに分かってしまいますw 『君と再会した日』は二重に捻ってあるわけですが、同系統の伏線の張り方、と云っても良いのではないかと思います。
多分、『君と再会した日』をプレイしていない人は、この伏線の張り方に、してやられた感を感じるのでは? 

一方、気になった点は、何というか『Kanon』に似てたんです。
凡そ、恋愛ノベルゲームで『Kanon』の影響を直接間接(二次的な摂取も含む)を問わず、受けていない作品は少ないでしょう。勿論、意識してやった、というのではないと思います。
が、ラストでどうしても『Kanon』と重なってきてしまいますねぇw ですが、実は、そこがフリーのノベルゲームの面白さの一つ、でもあります。

ある作品とある作品がオーバーラップしたり、更にその中に当然あるであろう差異が面白かったり、似た場面や設定を持ってくる(意識/無意識を問わず)ことで、別の作品が重なり、瞬間的に作品が二重に再生され、厚みを増したり……。
なので、一概に、似てるから悪い、とは云えない面があるんです。

寧ろ、私が気になったのは、このシナリオのラストです。
ストーリーを積み上げていって、『Kanon』っぽさが出て、「さて、どんな結末になるんだ?」と思っていたら、意外や意外、ストンと落ちてしまったという。
枯淡、ではないですけれども、ストンと落ちると良い作品も確かにあります。が、このシナリオだったら、もう少しラストのオチの所で、もう少しシメ感というか、そうしたものが欲しかったですね。


さて、最後の本作唯一の長編シナリオ(と云っても35分くらい)の「桜とさくら」です。
桜の木と幽霊。定番の取り合わせです。が、気合いの入った良いシナリオだったと思いますよ。

主人公明日香は割とボケボケで、「幽霊が出る」と但し書きがしてある土地に勝手に入るわけですが、そこに現れた着物姿の女性を幽霊だと認知出来ない、というw
幽霊ことさくらと、明日香のやり取りは、温かみのあるものでこのシナリオの一つの特徴になっていますね。プレイして35分くらいでしたから、シナリオの容量は凡そ50~60キロといったところでしょう(100kbで一時間と云われています)。

そのテキスト量に反して、中身はギュッと詰まっている。そんな感触がありました。
テーマの一つであろう、「櫻=さくら」の持つ、淡い少しファンタジックな雰囲気もシナリオと良く合っていました。

このシナリオで一番光っていた所は、やっぱりラストですね。
プレイしていくと「こういうところに落ちるのかな?」と微かな予想は立てられます。けれども、そこで奇を衒わずに素直にドッと印象的な場面を出してくる。これは予想していても、やっぱりグッとくるものです。
ヒネリすぎて訳が分からなくなってしまうより、期待を裏切らない形でのラストも良いものですよ。

敢えて……気になった点を挙げるならば、高校卒業しているのに、あんな幼稚な形での虐めが行われるのかなぁ? という辺りで、シナリオの中身とはあまり直接的に関わってこない部分ですね。


大体、全体を俯瞰してみると、こんな感じになりますでしょうか。
ところで、本作は『ジサツ志願者同盟』と『自殺請負人』の作者さんとの合同サークル名義での作品になっています。
共に、「自殺」という、『ナルキッソス』以降、急激に増えて、そして、それが故に扱いにくくなってしまったテーマに、果敢に向かっていった作品です。
双方のレビューでも書いたと思うのですが、「死ぬこと」だけに焦点を絞らず、その先にある「生きること」を見据えた作品になっていたはずです。

それを更に推し進めて、本作のような作品が生まれたのだと、勝手に思っています。
作品紹介にある、「ある1つのコンセプト」とは何か? それは、個々人が考えて出した答えが、最良なのでしょうけれども、私は、「“残り続ける”命」とか、その辺りがコンセプトだったのではないか、なんて思っています。

サブタイトルの「君がいた日」という言葉がある事から、単純に「生そのもの」ではなく、生き続け、生まれる人がいる一方で、「いなくなってしまった人」がいるハズです。
その辺りを、上手く説明出来る程、ボキャブラリーが豊富ではないですから、苦し紛れに「“残り続ける”命」とか云ってみました。


『自殺請負人』『ジサツ志願者同盟』と比べてみると、パッと見、真逆なコンセプトのようでいて、その奥に底流しているものは、かなり近いものを持っているような気がします。

短編と云って、侮る勿れ。
久々に読み応えのある、ノベルゲームでした。少し切なく、そして温かいドラマを是非、楽しんでみてください。



それでは、また。
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by s-kuzumi | 2012-03-29 15:43 | サウンドノベル | Comments(0)


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