2013年 12月 05日

フリーサウンドノベルレビュー 『箱庭のうた』

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今日の副題 「二人の歌は世界を越えて」

※大吟醸
ジャンル:青春SFノベル
プレイ時間:10~12時間(読むのが早い人だと8時間くらい?)
その他:選択肢アリ、されどストーリーには影響しない。
システム:Yu-ris

制作年:2013/11/28
容量(圧縮時):219MB




道玄斎です、こんばんは。
今日は、今年最大の期待作をプレイしたので、そのレビューを。いつもは、ちゃっちゃかちゃっちゃかプレイしちゃうんですが、今回はじっくりとプレイしていきました。
というわけで、今回は「タクティカルシンパシー」さんの『箱庭のうた』です。ダウンロードはこちらから。
良かった点

・商業作品と比較しても遜色ない仕上がり。

・ストーリー作り、話の組み立てが、非常に巧み。

・ラストの演出も巧みで、感動出来ます。


気になった点

・ちょっと消化不良だった人物、エピソードはある。

・主人公涼介の活躍の場が、もうちょいあっても良かったか。

ストーリーは、ふりーむの方から引用しておきましょう。
夜の学校に現れるという『おばけ』のうわさ…
逢坂涼介は、忘れ物を取りに行った帰り、一人の少女に出会う。

少女の名は『佐藤ことり』。

無口で無感情な、変わった女の子…。
ことりは一ヵ月前の事故によって、記憶を失っているらしかった。

そんなことりはどういうわけか、毎夜学校に忍び込んでは、何かをしている様子。

彼女と仲良くなっていく中で、涼介は誰も知らなかった『真実』を知ることになる。

久々にじっくりと読んだ大作でした。
本当に良い作品なので、レビューを読んでいる時間があったら、ダウンロードしてプレイしてみて下さい。


……と、それだけで終わらせてしまうのも、アレなので、例によって例の如く、あれこれ語っていくことに致しましょう。


どこから話しましょうかね。あっ、そうだ。作者さんの情報からいきましょう。
大抵の場合、フリーのノベルゲームは、個人や、小規模のサークルがリリースしています。しかし、本作、株式会社による制作です。恐らく、これから、会社としての活動が本格化してくる……という感じだと思うのですが、兎にも角にもフリーで作品をリリースして下さっています。

でも。
よくよくシナリオやグラフィック、音楽を担当している方を見てみると、『私とあなたといた世界』『彼女の嘘の止まった世界』の作者さんではありませんか。
恐らく、ここを見て下さっているような方ならば、その二作をプレイしている……か、或いは名前くらいは見た事があるハズです。
そうした、作品制作の中で培ってきた技術を元に、会社を作ったと思しいのですが、嘘でも会社ですから、今後は、商業ブランドになったり、そっちの方で活躍していく方なのかなぁ、という気がします。となると、「もう、フリーのものはリリースしてくれないのかな?」と、ちょっぴり寂しい気も。


ともあれ、『私とあなたといた世界』、そして『彼女の嘘の止まった世界』の名前を出しましたが、どちらもSF的な色合いが強い作品で、そうした傾向は、本作『箱庭のうた』にも踏襲されています。

ストーリーは先ほど引用した通りなのですが、謎の転校生ことりと、主人公涼介の関わりだけが焦点化されていくのではなく、涼介とその仲間達との、何気ない時間だったり、ことりが、少しづつ皆と仲良くなり、いつしか、ことり自身も「仲間」となっていく。その過程が丁寧に描かれており、好印象です。

ノベルゲームに於いて、作品の「ウリ」みたいな部分とはならなくても、「ここがシッカリしていると、クオリティが格段にアップする」というようなポイントは存在していて、その一つが、脇役の描き方、描かれ方です。
脇役が、終始賑やかに、主人公やヒロインの周りを盛り立てる。それ自体は悪い事ではないのですが、結局、その脇役達は「賑やかし要員」の域を出なかった、という事になれば、それはちょっと問題かもしれません。

脇役にも脇役の人生(?)があり、それぞれ日々生活しているわけです。
当然、生きている以上、悩んだり、苦しんだり、或いは、喜んだりする時があるはずです。そんな彼らの「人間としての姿」を、シナリオに盛り込めたら、グッと作品に奥行きが出てきます。そして、作品が単なる「お話」ではなく、もっと活き活きとした「物語」に変わるのです。

単純に、主人公とバカをやって、掛け合いをするだけの悪友、なんてのがノベルゲームに良く出てきます。フリーのゲームだけではなく、商業のものですら(今年はちょっと商業のものも、例年より多くプレイしました)、そうした「賑やかしの為だけの要員」がいたりするのが現実です。
けれども、やはり、業界を牽引するようなメーカーの作品や、定評のあるシナリオライターの作る作品には、脇役が活きるエピソードが、本筋のストーリーを補強するように、上手く配置されています。そうした、脇役が輝くエピソードがあるからこそ、普段のバカも活きてくるのです。


話を、本作に戻しましょう。
本作の場合、涼介の友人として、伊月、歩、夏之、こなみが最初から、仲の良いグループである事が示されています。それぞれ個性的なキャラクターで、変にごっちゃごちゃする事もありません。まぁ、夏之の性別が分からなくて、最初「???」となりましたがw

彼らは、作品の前半からラストに至るまで、涼介、そして、ことりと行動を共にします。
前半部は、夏之のギャグで押していくような所はあるんですが、それが結構笑えるんですよねw 

個人的に、本作で一番好きなキャラだったのは、こなみですね。夏之の妹で中学一年生。「じゃよ」とか、そういうヘンテコな言葉を使う子ですが、大人びた一面も持ちつつ、年相応の顔を見せる時もある……。そんなみんなの妹分で、ほんっと可愛いです。ちょっと崩れた顔の差分があるんですが、それもギャグシーンとマッチしていてグーでした。

で、本作で特筆すべきは、「メインのストーリー」と、仲間の物語が、上手く溶け合って存在している、という点でしょう。
云うまでもなく、メインのストーリーとは、ことりの謎に関するものです。そのメインのストーリーを展開する一方で、例えば、こなみであったり、或いは、歩や伊月に関する物語が、本当に巧みに織り込まれ、それが又、メインのストーリーに還元されていきます。そして、物語全体が、ことりを含めた「仲間の物語」として成長していくような、そんな作りになっています。

脇役のエピソードを織り込む、というだけではなくて、それを通して、物語そのものが、一つの方向性を持って成長する。本当に脱帽致しました。
脇役、と云えば、ことりと対立関係にある組織の構成員も途中から出てきます。
日寄子や、クリスといったキャラですけれども、彼らも亦、その「仲間の物語」に於いて、重要な役割を果たします。なので、どのキャラクターや、どのエピソードも、「何となく浮いている」という事がないんですよね。シッカリと物語に組み込まれている。これは本当に凄いことです。

この辺りで、ことりの事情についても、少し触れておきましょう。
ことりは、記憶を無くしています。そして、「ことりは、或る組織に属していて、ことりだけが倒す事が出来る『敵』を狩っている」という設定が明らかになっていきます。
スクリーンショットは、そのことりと、彼女が使う武器……みたいなものです。

そして、対立する組織がある事も判明して、ストーリーも緊張感を孕んだものになるのですが、意外や意外、伝奇モノにあるような、チャンチャンバラバラ、みたいな事は殆ど起きません。寧ろ、日寄子なんかは、涼介達と仲良くなってしまいます。

単純な善と悪の対立ではなく、それぞれ信ずる所が違うだけ、という状態ですから、そんなに険悪な雰囲気にもならないんですよね。で、日寄子も、やっぱり「仲間」になっていく。
そして、彼らの本拠地で、心地良い日常、心地良い時間が流れていきます。涼介の「こんな日が、ずっと続いたらいいのに…」という呟きは、実はプレイヤーの気持ちでもあります。

或る程度の尺を持った作品で、私が評価するポイントの一つがまさに、この涼介の呟きと重なるんです。
「いつまでも、この心地よさを感じていたい」と思わせるような、そんな魅力のある日常シーンがあると、本当に読了してしまうのが、ちょっと怖くなるような、そんな気持ちになったりします。


プレイしていくと、途中途中で、全く別のストーリーが挿入されていきます。
中盤くらいまでは、「何だか良く分からない……」という感じですけれども、徐々に、そのストーリーがなんであるか、が分かってきます。
SF好きならお馴染みの、「並行世界」(パラレルワールド)というヤツなんですけれども、後半まで読み進めた時、その並行世界の物語が、本作のメインの世界の物語と鏡像関係にある、まさにパラレルの関係にあるという事を読み取らないといけません。

並行世界では、人々は「リセットシステム」の制御に失敗し、眠り病とでも云うべき状態に罹っています。
そして、並行世界での主人公、テトラの周辺事情が、断片的にメインの物語に挿入されていくわけですが、テトラは何人かの仲間達と暮らしていて、その仲間も一人、また一人と眠っていきます。
その仲間の描写で、或る人物は「○○は、△△の妹だった」とか表現されたり、或いは、「料理を作るのが好きな子」が居たり、「テトラの為に絵を描いてくれる子」がいたり、「最後の最後までテトラを支え続けてくれた子」がいたり……。

並行世界の物語は、並行世界の物語、と別個に捉えるのではなく、メインの世界の物語とのパラレルな関係を読み取る事で、作品の持つ、厚みに気付く事が出来ます。
並行世界を描いた作品は、結構ありますけれども、ここまで、厚みを持った構造になっている作品は実は珍しいのでは?

メインの世界はメインの世界で、奥行きのあるストーリーになっている事、前述の通りです。
それに加えて、並行世界と、メインの世界が重なる事で生まれる厚みもそこに加わる事で、物凄く重層的世界が構築されています。この懐の深さも本作の大きな魅力の一つでしょう。


さて、気になった点ですが、実は、主人公である所の涼介は、そこまで主体的に何かをする、って感じではないんですよね。
確かに、ことりの一番身近な存在として、彼女を支える重要なポジションに居るのですが、彼が主体的に行動を起こしたり、主人公らしいガッツを見せたり、という事はあまりありません。
やっぱり、物語の後半くらいでは、主人公は主人公らしい、がむしゃらな勢いだったり、ガッツだったりを見せてくれると、熱くなれますよね。その点、ちょっと涼介は淡泊だったかな、と。

もう一点は、途中、涼介の護衛に付く大野というキャラがいるのですが(こいつも、夏之と同じくウザキャラw)、この大野に関しては、何となく、モヤモヤが残ったままなんですよね。
ことりの属する組織と、対立する組織があって、大野はその二つの組織の間を行ったり来たり出来るような立ち位置にいて、しかも、結構な権力を持っているらしい事が示されるのですが、その二つの組織の上位組織の存在だったり、大野の立ち位置だったりの部分では、何となく消化不良感がありました。


最後に、本作のラストについても少しだけ触れておきましょう。

ラストはちょっと、『あの花』っぽい感じのラストで、エンドロールに入っていきます。エンドロールの入り方も巧みでした。
で、勿論、エンドロールが終わったら、そこで物語が終了、ではなく、エピローグが入って本当のエンド、です。

本作は、割と分かりやすい伏線を張って、それを素直に回収していくタイプの作品、ではあるのですが(エンドロールの入りなんかは、まさにです)、最後の最後で、「こうきたか!」というような、絶妙な終わり方をしました。

この一連のラストの演出は、本当に素晴らしいですね。
長い時間を掛けてプレイしていたのが報われるというか、「プレイして良かった!」と思わせてくれる、そんな素敵なラストです。


さて、いつにも増して余計な事を書きまくってしまった感はありますが、超お勧めの作品です。
文句なしの、そして久々の大吟醸!
長時間プレイする価値は絶対にありますよ!



それでは、また。



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by s-kuzumi | 2013-12-05 21:05 | サウンドノベル | Comments(2)
Commented by Low at 2014-01-03 22:30 x
読了。
そのあとレビュー読みました。
Dさん 大吟醸 Nさん 推薦
なっとくです。

あけまして おめでとうございます。

ことしも レビューよろしくお願いします。
Commented by s-kuzumi at 2014-01-04 18:26
>>Lowさん

こちらこそ、今年も宜しくお願い申し上げます。

『箱庭のうた』は、フリーならでは、というよりは、やっぱり商業的なベクトルを向いている気はしますね。
それでも、フリーで公開して下さっているので、ここではフリーのノベルゲームという扱いですw

ちょっと長いですけれども、いい作品ですよね。
メインのストーリーよりも、私は、主人公周辺のキャラクターの事情を丁寧に書いてくれている辺り、とても好感が持てたというか、そこがシッカリしていたからこそ、メインが活きた、というような、そういう捉え方ですねー。

こなみが滅茶苦茶可愛いですw


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