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2014年 04月 03日

フリーサウンドノベルレビュー 『喉の渇くその前に』

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今日の副題 「主軸に寄り添う、もう一本」

ジャンル:死後の世界での問答ノベル(?)
プレイ時間:1時間程度
その他:選択肢なし、一本道。
システム:吉里吉里/KAG

制作年:2013/10/12
容量(圧縮時):59.5MB




道玄斎です、こんばんは。
ついに新年度、突入ですね。進学や就職、色々あるかと思いますが、ゲームを楽しむくらいの余裕は欲しいものです。今日は、前回レビューした作品『よんひくいちは』の作者さんの処女作です。あれをプレイしちゃったら、前作がどんなのだったのか、気になりますからね。
というわけで、今回は「現屋」さんの『喉の渇くその前に」です。ダウンロードはこちらからどうぞ。
良かった点

・「思い込み」という、ちょっと変わったテーマの作品。

・予想以上に、密度が濃いストーリーと、何とも云えない不思議な読後感。


気になった点

・もうちょっと易しく表現出来る部分は、易しくした方が、全体が理解しやすいかも。

ストーリーは、ふりーむの方から引用しておきましょう。
――ここは死後の世界へ誘う空間。
真っ白な世界には、イスとティーカップと、番人。
どこまでも孤独な、一縷の幸福を祈る番人。

こんな感じ。

って、これだけじゃ、ちょっと物足りないので、私が補足しておきましょう。
主人公は、日々の生活に疲れ、自殺を決行……したものの、気がつけば、真っ白な世界で倒れていた。その世界には、扉のようなものがあり、倒れている主人公に声を掛ける人物もいる。
声を掛けてきたのは、イノという名前の性別不明の子供。イノは、どうやらこの空間の番人で、イノとの問答によって、「天国」か「地獄」に行くかが決まるらしいのだが……。


という所でしょうか?
「死んだらどうなるのか?」というのは、宗教の根本的なテーマです。
兎にも角にも、人間は「死」に対する興味関心が強いようで、ノベルゲームの場合なんかだと、本作でも描かれる「自殺」に焦点を当てたものも、結構良く目にします。

これは、やっぱり、『ナルキッソス』という作品が与えたインパクトが大きかったのかな、と思いますね。
『ナルキッソス』以降、似たような手触りを持つ作品が多数出てきたように思います。
単なる『ナルキッソス』の亜流、みたいな作品もあれば、そこから一歩進んでオリジナリティを出している作品もあって、ノベルゲームに於ける「死」、特に「自死」は、今なお、メジャーなテーマであり得ています。

本作も亦、「自殺」が描写されますが、所謂「死後の世界」と現世の中間地点みたいな所が舞台となっており、『ナルキッソス』の流れを汲むもの、とは一線を画しています。
何にせよ、『よんひくいちは』の作者さんの作品ですから、一ひねりあるんだろうなぁ、と思いながらプレイしていったら、案の定、「生死」、或いは「自殺」の問題ではなく、「思い込み」という、非常に変わったテーマを主軸にしていた、というわけです。

イノの力によって、主人公は、自らの過去と向き合う事になるわけですが、どうも彼は生前、思い込みによって、随分と損をしてしまったようです。
この主人公というのは、もしかすると「この物語の主人公」なのではなく、プレイする私達自身なのかもしれませんよ。

私達も、絶えず、思い込みをしながら生活をしています。
「思い込みなんてしないよ」と云う人ほど、「思い込みをしないという思い込み」があったりするわけです。
思い込みとは、一面的なモノの見方、と言い換える事も出来ます。例えば、ネット上ではHNだけで、性別が分からない、なんてケースがありますよね? その人の文体とか内容とか、或いは顔文字の頻度なんかを見て、勝手に「あいつは女」とか、逆に「あいつは男」なんて思ったり。

或いは、一旦嫌いになっちゃうと、その人がその後、どんなに良い事を云ったり、善行を積んでいても、その人の厭な部分、つまり「嫌い」の面しか見えなくなっちゃうとか。


作中でも描かれますが、自分の中で完結しているような、思い込みなら、まだいいんです。
問題は、対人関係に於ける思い込み、だったりします。
誰かの行動、言動に対して、自分の中で、最初っから枠組みを作ってしまって、その裏側にある真意や、事象に気付かず、後々悔いるような事をしてしまう。身に覚え、ありませんか? 私はいっぱいありますw

ともあれ、こうした「思い込み」に関するテーマを掘り下げていったのが、本作『喉の渇くその前に』という事になりましょうか。
自殺をして、一度死んでから、自分のそれまでの人生を振り返ってみると、何と、不必要な思い込みが強かった事か。主人公を通じて、私達は、それに気付く事になるわけです。


かくして、「一面的なモノの見方は良くないよな」と改めて気付かせられるんですが、この作品の魅力は、その「思い込み」を推進力とするストーリーで50%です。
もう半分は、白い空間の番人ことイノと、主人公の不思議なやり取り、そして彼らの間に芽生える、友情……というのはちょっと違うのですが、不思議な関係です。

友情でも愛情でもピンと来ない、何とも云えない不思議な、魅力ある関係が、ストーリーの進捗と共に描かれていきます。そして、ちょっとフワフワっとした、捉え所が難しいけれども、優しい手触りのエンディングへと繋がっていきます。


この作者さんは、ちょっと、プレイヤーに考えさせるような、そういう懐の深いテーマの作品を作っていますよね。
この作者さんが作った二作品に共通しているのは、表面上の事象というか、テーマみたいなものは、比較的くみ取りやすい。けれども、もう一本、フワフワっとしたもう一つのテーマが寄り添うような形で、一つの作品として纏まっている。そんな印象があります。

前回取り上げた、『よんひくいちは』でも書きましたが、ちょっと文章表現が難しくて、その「もう一本の軸」が見えにくい部分はあるのかな、という気はします。
例えば「穎悟」なんて言葉、私は生まれてこの方、使った事がありませんw 主人公の心中と同化した地の文でも、かなり凝った文章ですので、サラッと読めるわけではないんですよね。

勿論、凝った文章が悪いとか、そういう事が云いたいんじゃありません。
こうした、「小説寄り」の文章のノベルゲームがある事、それ自体は、寧ろいい事だと思います。サウンドノベルにせよノベルゲームにせよ、「ノベル」という文字が入るわけで、文章に凝る、というのは非常に大事な事だと思うのです。
その方向が、「より読みやすい」方に向くのか、「じっくり読む」方に向くか、とザックリ二つに分けられそうですけれども、後者の「読ませるタイプ」の文章を持った作品があってもいいんじゃないか、と思いますよ。ライトなものもいいけれど、それだけだと物足りなくなっちゃいますからね。

ただ、それでも、「易しく表現/表記出来る所は易しくする」というのも、亦大事な事だと思うのです(「亦」なんて漢字を使ってる私が云うなって話ですけどw)。
作品の雰囲気や、世界を壊さない範囲で、もう少しだけ平易な言葉に置き換えてみる。それだけで、グッと読みやすくなりますし、この作者さんの場合で云うと、「もう一本の軸」がより明瞭になるような気がします。


最後に、一個、脱線を。
作品中に「信号の『進め』を、青という人もいるし緑だという人もいる」みたいな文章が出てくるんですけれども、これ、実は日本語の問題なんです。日本は古来から、「緑のものを青と呼ぶ」ケースが結構あって、野菜を「青物」とか云ったりしますよね? あれなんかは、その典型的です。色と言語って結構密接に繋がってるんですよ。良く聞くのが「虹の色」。私達は疑いなく、虹を七色って云いますけれど、世界には、三色だとか二色だとか、云う所もありますよね。あれも、或る色に相当する言葉が存在するか否か、って問題と繋がってきます。


というわけで、いつものクセで長々と書いてしまいましたが、この作者さんの独特な作品の雰囲気は、やっぱりプレイしてみないと分かりづらいと思います。
少し、読みにくい所はありますけれども、フリーのノベルゲームを探してて良かった、と思えるような、そんな作品である事、間違いないと思いますよ。一時間くらいのものですから、気になったら是非、気軽にプレイしてみて下さい。



それでは、また。



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by s-kuzumi | 2014-04-03 17:34 | サウンドノベル | Comments(0)


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