2008年 06月 03日
今日の副題 「物語のあり方」 ジャンル:主と執事と物語と(?) プレイ時間:大体一時間くらい? その他:一般的な選択肢はないが、主の服の組み合わせを選択する事で、物語が進行。 システム:吉里吉里/KAG 制作年:2008/5/31 容量(圧縮時):2.72MB 道玄斎です、こんにちは。 急遽暇になったので、こうしてゲームをやっております。暇といっても、何時間もゲームをしている、というわけにはいきませんから、割と短めのものを探してきたつもり。 いやぁ、なんだか物凄く変わった感触の、それでいて滅茶苦茶私好みの作品でした。この容量の少なさに比して、内容は結構充実しているのではないでしょうか? というわけで、今回は「nightmare syndrome」さんの『しらゆきひめからしんでれらまで。』です。 良かった点 ストーリーは、readme.txtから引用しておきましょう。 ただ単にプレイヤーさまには主様になっていただき、 こんな作品です。 正直、ジャンル分けが不可能ですねw 「よく分からない」といった印象を持たれる方も多いんじゃないでしょうか?けれども、よく分からないものをよく分からないままに楽しむ、というのが本作のあり方なんじゃないかなぁ、と思います。 実は「着せ替えごっこ」なるキーワードでが、今回本作をプレイする原動力になっていたわけですが、そういうつもりでプレイしてみたら、モノの見事に裏切られました。結果的に良い意味で裏切られたわけで、こういう裏切りは大賛成です。 ストーリーの補足、みたいな事を書いてみましょう。 謎の「主」と、謎の「執事長」が二人で住んでいる屋敷で、二人の生活を描く、という事になるんでしょうけれども、「主」は着せ替えごっこをやっています。 服に合わせて、どの装飾品を付けるか、という組み合わせをプレイヤーは選択する事に。この選択を行うと、二人の会話が始まる。という趣です。 二人の会話は、謎の屋敷でのなんてこと無い日々の会話だったり、はたまた「昔話」「童話」といった物語内物語が語られたり、と意外にヴァリエーションに富んでいます。実在する物語、はたまた(恐らく)オリジナルの物語が語られるわけですが、こういう趣向は私の大好物です。 そもそも、本作で、何でこんな「昔話」とかの物語が語られるかっていうと、それは極論してしまえば暇つぶしなんですよね。 「暇つぶし」の為の物語ってのは、私のイメージの中では割と高級です。 ぶっちゃけ夏目漱石だろうと、ギュンター・グラスだろうと「暇つぶし」の為の作品ですよねぇ?そりゃ、勿論「文学性」なる目に見えない何か、があるというのは分かるし、人生に対する深い洞察とか、ちょっと高級な香りがするのも確か。なんだけども、夏目漱石なんて良い例で、彼は新聞の小説コーナーに小説を連載していたわけで、新聞の小説コーナーの小説って、「文学とは何か?」とか「文学」を真剣に考える人の為、ってわけじゃなくて、やっぱり極論すれば暇つぶしなんですよね。 大体、物語の本当に原初的なあり方って所謂「神話」ですよね。世界の成り立ちだったり、王権の正当性を説明するような、そういうものが物語の源流としてひとまず想定出来そうです。 そのフェーズが終了して初めて「娯楽」としての物語、なるものが登場するわけです。これが「作品」へと続く道筋でしょうか。 つまり、私の中のイメージだと「暇つぶしの為の物語」=「作品」(頭に「文学」なる文字を付けてもいーけどさ)なんですよ。 そういえば『源氏物語』の成立に関する問題で、「暇つぶしの為の物語を作れよ」と言われて作った、という伝説(?)がありますよね。 実際の所、平安貴族のお姫様なんかは、完全に「暇つぶし」の為に物語を消化しています。大体、古典文学作品を見ると、お姫様(本物の深窓の令嬢、だ)は暇な時には、寝っ転がって、物語を読んだりしてるんですよ。正確な事は分かりませんが、それは現代のラノベみたいに、文章の合間合間にイラストが入っている、というものとはちょい違って、「別冊」のイラスト集と一緒に読むとか、そういう形態だったみたいですが。 ま、それはさておき、本作の中で、二人の会話(=物語)は二人の暇つぶしとして機能している側面がなんだか非常に強そうです。しかも、歴とした物語(それが何なのか自明ではないけど)、というよりもとりとめのない物語が語られたりするわけで、そういう所に、「神話」から「物語」への移行のフェーズを見て取ってしまう私は、物語を純粋に楽しめていないのか、単に衒学的な事をのたまう頭がオカシイちょっとアレな人なのかもしれないし、単に深読みが好きってだけのひねくれ者なのかもしれませんw けれども、そういう感触を持った作品が物凄く好きなんですよ。 だから、敢えて私は自分の流儀でこの作品を一言で語るとすれば、「物語一歩手前の不思議な物語」という事になります。実際の所、ストーリー的な展開みたいなものは、殆どないですしね。 けれども、こういう作品はあってもいいと思うし、アイデアとしてとても優れているんじゃないかな、とも思うんです。 一瞬、「着せ替え人形」的なものを期待するも、変わっていくのは服じゃなくて「物語」という。そういうあり方、とてもいいですよねぇ。 さてさて、恒例の気になった点です。 少し音が少なすぎるかな、というのが一点ですが、音が少ないが為にこの低容量が実現されている、というのも又事実。更に雪に振り籠められた屋敷という設定の為、そこまで違和感はないんですが、ちょい寂しいかな、というのが正直な感想。 もう一点は、明確な結末がない、という辺りかな。 作品紹介のページを見ると「物語の終わりを意味する着合わせを選択するとこの物語は一応の終わりを迎えます」と書いてあるので、ごにょごにょっとやってみたのですよ。「やっぱりアレなんだろうなぁ?」と想いながら。 けれども、それでタイトル画面に戻るとか、そういうんじゃないみたいです。だから画面右上の「×」を押して終了させて、再度起動してみると「終了」という項目が。 この「終了」はシステムを終了させる、ものではなくて「物語」を終了させるもの、という感じですね。だから、「終了」をクリックしても、物語が語られるだけです。勿論「終了っぽい物語」ですよ? 作品世界はずっと続いている、という感じではあるんだけども、プレイヤーとしては、明確な区切りがあった方が良かったな、と思っています。「end」とか「fin」とか、終了記号が出てきてくれると分かりやすいw 最後に蛇足を。 本作の二人の登場人物「主」と「執事長」なんですが、この「執事長」という言葉に違和感を覚えた方、大正解です。 私も、最初「おっ、コレは私のメイドとか執事に関する蘊蓄を語る事が出来るぞ……」と密かに期待していたのですが、ちゃあんと作品の中でフォローされていました。ちょっぴり残念w ともあれ、不思議な作品でしたね。 こういう作品がたまに出てくるからフリーのサウンドノベル/ノベルゲーム漁りは止められない。 小さな物語内物語がいっぱい寄せ集まって出来ている作品ですが、全部読んでも1時間くらいです。興味を持った方は是非。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2008-06-03 10:22
| サウンドノベル
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Comments(2)
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