2008年 06月 24日
今日の副題 「素朴でやさしい恋模様」 ジャンル:昭和初期の恋愛モノ(?) プレイ時間:30分~40分程度 その他:選択肢はあれど、一本道(?) システム:吉里吉里/KAG 制作年:2008/6/12 容量(圧縮時):2.96MB 道玄斎です、こんばんは。 今まさに「こういうゲームをやりたかった!」というような作品に出会えて、少し良い心持ちです。 ホラーや伝奇っぽさがあるもの、勿論大好きなんですが、ここ一月くらいですか? 少し連続してプレイしすぎた感がありました。なんか、こう素朴だけれども妙にほっと出来て、良い感じの恋愛モノなんかプレイしたい気分だったんですよね。 というわけで、今回は「カンランセキ」さんの『笑顔の君で』です。 良かった点 ストーリーは、サイトの方から引用しておきましょう。 幼なじみの少年と少女。二人のひとときをつづった短編作品です。 こんなストーリーになっています。 んー、久々にこういう作品をプレイすると、何かとってもいいですね。 全体を包む淡くて、優しくて少し懐かしい空気感。堪りません。なんか、凄い「日本的」ですよね。こういう「日本的な空気感」って私は大好きなんだけども、たまに誤解なさっている方もいて「お前の日本って、平安時代とかなんだろ?」とかねw けれども、そうじゃないんですよ。 勿論、平安時代も鎌倉時代も、江戸時代だって日本的だと思いますし、そういう時代は私もそれなりに詳しいものですから、やっぱり好きなんです。 でも、現代の町並みにも日本っぽさを有しているものって多いと思うのですよ。夕方のもの悲しさとか、子供が烏が啼くまで外で遊んで、一人で帰るその帰り道にふわっとあかね色の光が差して、同時にどこかの家から夕飯の香りが漂ってきたりとか。 東京在住(厳密にはちょい違うか。今は徒歩5分で東京に行ける場所)な私ですが、ふと入り込んだ町の片隅に、「日本っぽい」風景は結構残っています。東京のど真ん中だってそれは同じで、本当に喧噪からちょっと一本道を外れただけで、何ともノスタルジックな風景を見ることが出来たりするわけです。だから所謂「~時代」みたいなもの限定じゃなくて、寧ろ「空気感」みたいなもので日本的か否かを分けている、という感じですかね。 けどまぁ、それって私(達)が日本に長いこと住んでいるからそう思えるのであって、ワールドワイドに普遍性を持つかって言ったらやっぱり、ちょっとね。 きっと、例えばドイツならドイツの、フランスならフランスの「その国らしい空気感」ってきっとあると思いますし、それはそこに子供の頃から住んでいる人じゃないと分からない何かなんだろうなぁ、と思います。特にアーティスティックな分野で、日本の空気感を示しつつ世界的な成功を収めている人が少ないのは、そういう「日本人の感覚」と向こうの人の感覚がずれているからなんでしょう。下手をするとネオジャパニーズみたいな、「外国人ウケする日本らしさ」みたいなものに堕してしまう危険性もあるわけで。 またしても冒頭から脱線しているんだけども、これはやっていい脱線だよね?w 話を戻して、作品について語っていきましょう。 或る意味で、とっても予定調和な作品です。 ギミック的なものも殆どありません。まぁ、あるっちゃあるんだけども、誰にでも分かるレベルでそれが示されるのでプレイヤーも「それを分かった上」で読んでいく、という感じになるんじゃないかな。 舞台設定についても少し。 何となくの感触ですが、昭和の最初期、大体昭和10年よりちょい前くらいでしょうかね。舞台については一切語られないのですが、九州じゃないかな、と私はにらんでいます。なんでかって? 作中に微妙に舞台や時代背景を推測する事が出来そうなモノが出てくるんですよ。それを元に推理してみたのですが、当たってますでしょうか? 主人公の男の子は中学生(といっても旧制中学だ)、女の子は女学校に通っています。 この二人、さりげなくエリートですよね。戦中とかまで女学校に行ってる女の子は凄いエリートですし、そういうプライドもあったようです。 大体、私の祖父(もう他界していますが、明治生まれです)と同じ世代の人間が主人公なので、そういう面でも面白いなぁ、と思いました。 敢えて、今日の副題のところで「素朴」という言葉を使ってみました。 素朴っていうと、なんかこう、パッとしないモノに対して一応褒める、みたいなニュアンスがありそうですが(ないですか?w)、本作は本当に良い意味での素朴さがあってそこが大きな魅力でした。絵が信じられない程美麗とか、背景も滅茶苦茶綺麗とか、音楽も最高にグーなものをチョイスとかそういうのではないけれども、いや、だからこそ実現出来る素朴さがあったように思えるのです。侘び寂びみたいなね。或る意味で、余計なものをそぎ落として洗練させていった一つの結実が本作という事になりましょうか。 実は、本作、以前制作されたもののリメイクなんだそうです。 で、ヴァージョンは4.0。4.0ですよ? 普通一本のゲームでこんなにメジャーナンバーでの更新って行いませんよねぇ。大体、1.23とか、まぁそんな感じですよw このヴァージョンの数値を見ただけでも、「凄い改善に改善を重ねてこの形にたどり着いたんだなぁ」というのが分かって興味深いです。 先にもちらっと書きましたが、予定調和的で、大体どういう事が起こるのかはプレイヤーは分かっています。読んでいく内にすぐに全貌が掴めてしまうのです。 けれども、ノスタルジックな空気感や、その優しい雰囲気がそれを一個の作品として成立させてしまっているんですよね。こういう作品、本当に稀少だと思います。 男の子も旧制中学生ですから、しっかりしていて、けれどもやっぱり微妙に子供っぽいところもあって、みたいな良いバランスでキャラクターメイキングがなされていたと思います。 本当なら、この時代「男女7歳になったら、一緒に居るなんてもってのほか」という時代なんですが、そこらへんは、ゲーム作品ですからね。 実は、本作は、現代に舞台を移してもそのまま普通に恋愛モノになってしまうんですが、それをやっちゃうと途端に面白みがなくなっちゃうんですよ。舞台設定を含めた作品を包む空気感って大切だなぁ、と思いましたね。 さて、一方で気になった点がいくつかありました。 先ず一点は、表紙の有無です。 ゲームを起動すると、普通に文章が始まってそのままストーリーが流れていってしまいます。ラストまで到達しても表紙がないですから、手動で終了してやらないといけなかったり。 やっぱり、どんな形であれ、「はじめる」「つづきから」「しゅうりょう」みたいな最低限の選択が出来る表紙(=タイトル画面)があった方が良かったかな、と思いました。 もう一点は文章に関して。 例えば、昔の電話を使う描写が出てくるんですが、昔の電話って交換手がいて、「~丁目の~さんにお願いします」とかそういうやりとりがあるわけです。黒電話は良くしっているけれども、私はさすがにこの時代の電話についてはよく知らないのです。で、この当時の電話ってどうやらハンドルを回して、ギーコギーコ音をたてて電話を掛けているようなのですよ。 で、この擬音というかオノマトペに対して、「(ハンドルをまわす音)」とか()で説明が入ってしまっています。けれども、これは地の文で十分説明可能ですよね。例えば、 ギーコギーコ…… 僕はハンドルを回して電話を掛けた。 とか、或いは 僕はギーコギーコとハンドルを回して電話を掛けた。 とかやっても十分成立すると思うのです。 作品世界の中に入り込んでいるプレイヤーは、こういう注釈めいたものを見たときに、ふと作品と自分との距離を意識してしまうように思えるので、私は地の文に埋め込んじゃった方がいいかな、と考えました。気になった点は、そこですね。 これは気になった点とはちょっと違うかもしれないのですが、面白い特徴だったのでご紹介。 本作は句読点がちょっと面白い事になってるんですよ。普通、読点って「、」を使いますよね。ですが、本作の場合は「,」を使用しています。 こういう使用方法をする場合(理系の人が多いんですけれども)、読点は「,」、句点は「.」を使う事が多いように思えます。ですが、読点は「,」で句点は「。」と。ちょっと変わってますね。けれども、別にこのスタイルだからって読みにくいとかそういう事はないのでご安心召されよ。 ちょっと優しくて、懐かしい手触りがとても良い作品でした。 新味みたいな部分から見れば、あまり吃驚するような仕掛けがある、とかじゃないのですが、こういう作品って絶対に需要があると思いますよ。一枚絵が二三枚であっても付いていたり、すればもっともっと雰囲気を盛り上げる事が出来たようにも。 今では殆ど見られないような(?)本当に素朴でだけれども、それ故に素敵な恋愛が描かれます。是非、プレイしてみて下さい。
by s-kuzumi
| 2008-06-24 22:08
| サウンドノベル
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