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2008年 06月 27日

フリーサウンドノベルレビュー 『あやかしよりまし―逢魔―』

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今日の副題 「進化して深化する“少年漫画”」

※吟醸
ジャンル:少年漫画風妖怪活劇(?)
プレイ時間:6時間くらい
その他:選択肢なし、一本道
システム:吉里吉里/KAG

制作年:2008/6/24
容量(圧縮時):229MB




道玄斎です、こんばんは。
今回は、2008年度上半期の最大の期待作の一つと言っても良い作品ですね。
多くの方がこの作品が出る事を待っていたわけで、それはサイトのサーバーがダウンしてしまったというリアルレジェンドを今回作ってしまった事からも伺えます。今はミラーサイトでファイルがミラーリングされているので、サイトの方はちゃんと表示出来るみたいです。
というわけで、「冒険野郎のトムソーヤ」さんの『あやかしよりまし―逢魔―』です。
良かった点

・前作を遙かに超えるスケールを持った作品に仕上がっている。

・滅茶苦茶細かいところにまでこだわり抜かれた作品。

・巧みなストーリーの運び。


気になった点

・文字の表示に関して、ちょっと問題が……。

・ラストでもう少し爆発感があっても良かったかも。

ストーリーは、サイトの方から引用しておきましょう。
座敷わらし・紅葉との一件より、数週間の時が流れた。
稲生修一郎は時折、過去の出来事を鮮明になぞらえた夢を見るようになる。
少年時代の友人であるイサミは、修一郎を天狗の弟子と思い込み、近付くが……。

こんなストーリーになっています。

ストーリーを見て頂ければ分かるように、『あやかしよりまし』、そして携帯用のアプリとして配信されている『あやかしよりまし祓』を予めプレイしておいた方が、より本作を楽しむことが出来ます。というか、やっぱり最低限『あやかしよりまし』をプレイしていないと、話が分からなくなっちゃいますね。本作は続編という位置づけですから。


前作『あやかしよりまし』をプレイした時、「凄い気持ちがいい作品だなぁ」と素直に感じました。
それは前作のreadme.txtに記載されているように“少年漫画”の良いところが、ギュッと詰まった作品だと感じたからです。
テンポの良い展開、熱いハートの主人公、そして恋愛の要素も勿論ある。良い意味で直球の“少年漫画”、その良さをノベルゲームにそのまま移植した手触りがあったんですよね。
意外とありそうで無かった、とっても良いところに落とし込んだなぁ、と思いました。自分が幼い頃に少年漫画雑誌でお気に入りの漫画を読む時のワクワク感、そういうものを喚起させる作品だったと思います。

で、本作は、その無印『あやかしよりまし』の続編という位置づけになります。
勿論、少年漫画の良さは保持しつつ、更に進化/深化した作品世界を見ることが出来、長い間待っていた甲斐のある作品になっていました。
前作が「直球の少年漫画」だとすると、本作は「大人向けの少年漫画」という捉え方が、私としては一番しっくりと来ます。単純に明朗快活なだけではなくて、もっと深いテーマ性みたいなものがあるんですよね。敢えて言えば、前作は「現在進行形の少年」が楽しめる作品、本作は「かつて少年だったオトナ」が楽しめる作品なのかもしれません。


特徴としては、前作にあった明るい雰囲気はちょっぴり影を潜め、若干暗く、重めのストーリー展開になっています。
無印『あやかしよりまし』から引き続いての主人公である修一郎、そしてヒロインの紗都梨の過去や彼らの持つ能力について、深く踏み込んだ作品ですね。

勿論、場面場面で見れば、明るいカラリとした場面もありますし、暗くなりがちな部分でも厭な「重さ」を感じないように、細心の注意が払ってあるように感じました。
そういう部分で、猫柳であったり、八橋であったりといったサブキャラクターの果たす役割の比重は前作よりも、遙かに上です。あと、化け傘とか凄く味のあるキャラですよね。

やっぱり、これもいっつも言っていて、いい加減聞き飽きていると思うのですが、或る意味で主役達以上にサブキャラクターの役割って重要なんですよね。作品世界に厚みと広がりを持たせるのは、やはり作品を支える一人一人のキャラクターなのです。

特に学園モノなんかだと(本作も学園モノの要素もあります)、完全な「俺とあの子の二人の世界」になってしまうと(それはそれでいいし、そうしたものに名作があるのも事実なのですが)、何となく閉塞感や言ってしまえば「嘘っぽさ」を感じない事も無い。
けれども、その「俺とあの子の物語」にリアリティや、説得力、更に言えば読者を引き込むための力は、サブキャラクターの使い方にあるように思えるのでした。
その意味で、八橋さんや猫柳なんてのは、とってもオイシイですよね。まぁ、本作は学園モノではないのだけども、そういうサブキャラがいる事で、軽やかさが実現出来るし、同時に作品世界の広がりが確保されているように思えます。
そうそう、これは余談なのだけれども、私がヴィジュアル(や属性)で一番好きなのは、四ノ原さんだったりします……w 脇役だけど、ああいう娘、凄くいいよね。あんな娘さんが居たら惚れちゃうね。

兎にも角にも、そういう根っこの部分がしっかりとしていて、その上に前作より更に深まったストーリーが載っかっているので、楽しめる事請け合いです。
作品の中身に突っ込んでおくと、本当に色んなテーマが入っているんですよね。
例えば、少年の成長という王道のテーマだったり、親子二代の物語的な部分もあるし。
けれども、そうしたテーマを統合するような、本編を貫く重要なキーワードは「鏡」なんです。単純にマテリアルとしての鏡という部分も勿論あるんだけども、例えば、父と息子という鏡像関係だったり、主人公修一郎と、ヒロイン紗都梨の関係とか、抽象的な物言いになって申し訳ないのだけども、もう一人の自分としての他者とか、ね。
鏡写しのように重なり合う部分、そして逆に重ならない部分。そんなところに着目していくと、作品全体を貫く一本の柱が見えてくるように思えます。


随所随所にかなり色々こだわって作られていたなぁ、と思う部分があります。
例えば「杖術」の描写。
立ち絵で、杖を実際に構えている絵が出てくるわけですが、その構え方を見れば、それが実際の杖術をちゃんと調べている事が分かります。
他にも、物語後半で、ナイフが出てくるんですが、あのナイフも実在のナイフです。あれは銃器で有名なスミスアンドウェッソン社のナイフですね。そういえば、『ガンスリンガーガール』という漫画で、ピノッキオというキャラがメインで使っていたナイフと同じ型でした。
そういえば、そもそもタイトルにもなっている「あやかし」達もしっかりとした妖怪関係の知識がないと描けないわけで、本作完成までの膨大な資料が存在した事を伺わせます。


ストーリーの展開も良かったですね。
大体、普通にプレイしてトータルで6時間くらい。容量はフリーのサウンドノベルの中でも最大級の約230Mですから恐れ入ります。
けれども、その長さが苦にならないくらい、テンポ良く読み進める事が可能でした。
読者に「もやもや」としたものを感じさせる伏線を出し、それを丁度良いタイミングで回収。そしてまたそれが次の伏線へ繋がって……とこんな具合で、ストーリーが展開されていくので飽きる事なくプレイが可能。伏線の使い方やその回収方法も流石の一言です。
又、色んな仕掛けも随所にあって、思わず騙されてしまう事請け合いです(やっぱり普通に私も騙されてました……w)。ここらへんはとってもオイシイ所なので、あんまり詳細は語りませんよ?


さて、気になった点ですが、一つは文字の表示の問題。
これは実は本作の「こだわり」の部分と不可分だったりします。
というのは、立ち絵の顔ハメのヴァリエーションが、んもう、バカみたいに多いんですよ。表情がくるくると変わって、一種アニメーションっぽくなっている部分でもあります。
それはそれで凄い良いのですが、文字の表示って、立ち絵が切り替わったり、或いはエフェクトが掛かったりする際に、文字が一旦フェードアウトしたりしますよね? そしてまた立ち絵なりエフェクトなりが掛かるとフェードインしてくるみたいな。
本作では、顔のパーツが変わるたびに、この文字のフェードアウト/フェードインが行われてしまうので、結構チカチカしちゃうというか。もっと言えば、気持ちの良いテンポでストーリーが展開されているので、文字もその気持ちと同じ速度で読んでいきたいのです。けれど、そこで文字のフェードイン/フェードアウトが頻発してしまうと、ちょっとね。

で、もう一点は、ラストでしょうか。
今までじっくりと積み上げてきたストーリーを一気に爆発させて、感動まで持っていく部分で、若干その爆発力が弱い気がしました。
というのは、ヒロインの影が実は微妙に薄いんですよね。重要なパートを担っている事は間違いないのだけれどもね。個人的な好みの問題なのかもしれないけれども、そういう事情も相俟って、ラストが少し弱いかな、と。
また変な造語をしちゃうと「余韻タイプ」のラスト(折角だから対語として「結論タイプ」という語も作っておきましょうw)なんですよ。最後の最後に表示されるモノを見ると、鳥肌が立つくらいのものがあるわけですが、一方で「もう少し直接的な表現があっても良かったのかな?」とも思ってしまう。ほら、ベースは何度も言ってるけれども少年漫画でしょう? だから、まぁそういうノリのラストがあっても良かったのかなぁ、なんて。具体的に言えば、もうちっと主人公とヒロインが「結ばれました」みたいな、或る意味で直接的なものがあっても良かったのかな、と感じました。
まぁ、そこらへんは実際にプレイしてみて実際に確かめてみて下さい。

そういえば、ラストはスタッフロールと共に後日談的なものが描かれるのですが、そこでついうっかり左クリックをしてしまったら、一気に「おしまい画面」に飛ばされてしまいました……。

あと、これは気になった点とは違うのだけれども、ちょこっと。
それは、画面サイズの問題です。何となくなんだけども、もう一回り大きい方が映えるんじゃないかなぁ? と愚案する次第。これも単純に私の感覚的な問題ですけれどもね。


例によって色々書いたわけですが、『あやかしよりまし』をプレイした人は是非、本作もプレイして欲しいですね。
前作をプレイしていないとちょっとキツイ部分があるという事、そしてラストの爆発力の問題で、吟醸という評価に致しました。とはいへ、『あやかしよりまし―逢魔』をプレイする為に無印の『あやかしよりまし』からプレイする価値は大ですよ? 無印も凄い良い作品ですしね。
是非是非、併せてプレイしてみて下さい。あっ、あるいは前作と抱き合わせにして、「第一部、第二部」みたいにプレイ出来る一本のソフトにしちゃっても面白いのかも? そうやってプレイ出来ると、きっともっと楽しめたり、気付けたりする部分も出てくるように思えますね。

それでは、今日はこのへんで。
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by s-kuzumi | 2008-06-27 04:01 | サウンドノベル | Comments(4)
Commented by ゆつき at 2008-06-28 00:53 x
昨日(もう一昨日ですね)はありがとうございました!
うちも……観念して逢魔レビューUPしました。
道玄斎さんとは着眼点が違うところがやっぱりおもしろいです。
待った甲斐ありましたね~うん、やっぱり良い!(笑)
Commented by s-kuzumi at 2008-06-28 14:55
>>ゆつきさん

いえいえ、こちらこそ素晴らしい機会を有り難う御座いました。
レビューの方、拝見させて頂きました。やはりこう着眼点が違ったものがあった方が、楽しいですね。私自身も隙を見て(w もう少し加筆修正しないとなぁ、なんて思っています。

そういえば、ついさっき書いた記事で「ももかん」へのリンクを張っちゃったのだけれども、大丈夫ですか? もし問題等が御座いましたら忌憚なく仰って下さい。
Commented by ゆつき at 2008-06-28 23:51 x
全然構いませんよ~ファイルが軽いせいか、DLが少ないのか(笑)サーバーダウンせずに来れているのでOK!と思います。
出会った頃のことは……懐かしいですね~あれからもう1年くらいですかね?こんな仲良しになるとは、まさかご近所さんになるとは微塵も思っていませんでした(爆笑)
あと、ハックのサインが超羨ましいです。
Commented by s-kuzumi at 2008-06-29 04:02
>>ゆつきさん

をを、良かったです。
一度、そちらのサイトも落ちたので、ちょっとおっかなびっくりだったのでw

もう、そういえば一年近く前になりますかねぇ。
大体、もうすぐこのブログが一周年を迎えるわけですから、より正確に言えば11ヶ月くらい前でしょうか? しかし、マジでご近所になるとはほんと当時は想像もしていませんでしたね。

今後も色々とあるかと思いますが、どうぞこれからも宜しくお願いします。

ハックさんのサイン。日がな一日ながめつつ、ニヤニヤしてますよ?w


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