久住女中本舗

kuzumi.exblog.jp
ブログトップ

<   2017年 09月 ( 2 )   > この月の画像一覧


2017年 09月 18日

フリーサウンドノベルレビュー 『夏ゆめ彼方』

b0110969_16051876.jpg
今日の副題「少年の日の夢とその最果て」

※大吟醸
ジャンル:ひと夏の思い出と「今」を描く感動ノベル
プレイ時間:~3時間ほど
その他:選択肢アリ。メインストーリー1本、サイドストーリー1本に分岐
システム:吉里吉里/KAG
制作年:2017/9/7
容量(圧縮時):293MB



道玄斎です、こんにちは。
今日は前回に引き続き、大吟醸作品のご紹介。
今プレイすると季節感もばっちりだと思いますよ。というわけで、「ペットボトルココア」さんの『夏ゆめ彼方』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。
良かった点

・ある意味定番な設定ながら、テーマが重厚。

・「将棋」がいいスパイスになって、作品全体を引き締めている

・挫折を経験した人にはぜひプレイして欲しい内容


気になった点

・小学生の視点での一人称の難しさを感じる

前回に引き続き、連続での大吟醸です。
気になった点は、「一応書きました」というようなもので、本当によい作品だったと思います。
ストーリーは、ふりーむのほうから引用しておきましょう。
父親との死別で塞ぎ込んでいた『天才小学生』朝川桂一は、ある日『神様』を自称する巫女服姿の少女と出会う。
少女との交流の中で、桂一は将棋のプロ棋士になりたいという自らの夢を思い出していく。

夏×伝奇×将棋!
『夢』をテーマにしたノスタルジックな青春ノベルゲームです。

こんな感じ。

紹介文では端的に、「夏」「伝奇」「将棋」が作品の骨であること示されています。
「夏」の神社で、神様を自称する少女(幼女?)と出会って、「将棋」という一度捨てかけた自分の夢を追いかけることが出来るようになる……みたいなストーリーではあるんですが、このストーリーの流れだけみて「またこのタイプかよ?」と決めつけてしまうのはもったいない!

本作の本当に美味しいところは、やはり紹介文で示されている通り「夢」だからです。
夏、伝奇、将棋のようなものは、云わばフレーバーのようなもので、本作を素晴らしいものにしているのは、その「夢」の要素です。


誤解を恐れず云ってしまえば、「幼いころからの夢が叶う」なんて人は、ほとんどいないんですよね。
みんな大なり小なり挫折を繰り返し、その中で妥協しながら今を生きることになります。

だからこそ、それがノベルゲームの中であったとしても、夢はまぶしく見えますし、主人公に自らを仮託してついつい応援したくなるわけです。

本作で何より優れていたのは、その「夢」の行方を丁寧に追っていくところでした。
神様である少女――杏(あんず)――との出会いで、また自らの夢を恢復させ、夢に向かって踏み出していく。

ここで物語を終えることも十分可能だったはずです。
しかし、本作はもっともっと「夢」に踏み込んでいきます。

詳しくは是非プレイして確かめて頂きたいのですが、夢っていい事ばかりじゃありません。
先ほど書いたように、挫折はつきものです。むしろ挫折していく人のほうが多いくらい。しかも、それにすべてをかけていればいるほど、実生活での「潰し」が効かなくなってきます。

そういう部分での、主人公圭一の葛藤は、本当にリアリティがあります。
何かに一生懸命取り組む。しかしその努力がそのままリターンされてくるわけではない。大人はみんなそれを知っていますが、いざ自分がその立場になってみると、みっともなく暴れたり、ふさぎ込んだりしてしまうのも、また人間です。私自身、読んでいて身に覚えがありすぎて、かなりドキドキしてしまいました。

夢は破れはしたけれど、その中で小さな幸せを見つけていく……というのも一つの生き方です。
本作のサブルートでは、そういう「all or nothing」的な夢の在り方だけでなく、もっと実際的というか、現実的な夢の果て、のようなものも描かれています。

サブルートそのものは、メインのルートに比べるとボリュームや内容的な部分で、物足りなさは感じますが、「夢」のもう一個の可能性を見せてくれたところに、良さがありますよね。


さて、先ほどは大ナタを振るって「フレーバー」といってしまった、神様との交流も実は無視できないものです。

こういう作品に出てくる神様って、みんな女の子ですよね?
間違っても、マッチョなアニキが神様をやってるなんてことはない。

しかも、見た目こそ幼女でありながら、その中身には酸いも甘いもかみ分けた……明も暗も見て来た老成した部分があるというのも定番です。

これは……やはり男性の願望の1つの形なんでしょうね……。
見た目こそ優しくありながら、悲しみすらその奥に秘めている深い海のような愛情を持った存在に、思い切り甘え切ってみたい。そういうのって案外多くの人が持っている願望な気がしますよ。

本作も……やはり後半で、圭一が杏の胸の中で号泣するシーンが出てきますが、前回のレビューでもお話しした通り、名シーンになっています。

圭一の「夢」は最後どうなるか、是非ご自身で確かめてみてください。
そうそう、本作は「将棋」が出てきますが、ルールが分からなくても読むのに支障はありません。もちろん分かる人にはまた別の愉しみが出てくるとは思います(私は駒の動かし方を知ってるくらいだ)。


さて、ここからは蛇足。
久々に「これは」と思えるノベルゲームを2本プレイしてみたわけですが、2本ともとてもいい作品でした。

舞台や設定のようなものは、オーソドックスではありますが、どちらもストーリーの芯が骨太で、人間の悩みや葛藤といった、「物語」が扱うにふさわしいテーマになっていました。

少しノベルゲームから離れている間に、こういう手ごたえを感じる作品が増えてきて、「またノベルゲームも盛り上がる兆しがあるのかな?」なんて思っていたり。

ゲームだけに限りませんが、大体、すっごい流行る良い作品があって、その後、その後追いのような作品がガンガン出てくる。一方で、その反発として目先を変えた作品が出てきて……と、ブームが形成されていきます。

しかし、作品数が増えていくとある種の飽和が生じたりして、ジャンルが衰退に向かっていったりするんですよね。その中で、オーソドックスな良さというのは、重要視されなくなり、刺激的なものがもてはやされる中で、ブームは爛熟期を迎え、徐々に作品数が減って……。

で、「〇〇は終わったぜ」と悲観的なことが言われたりするんですが、またオーソドックスながらも力のある作品が出てきて、ジャンルが再び盛り上がってくる……なんてことがあります。文学の歴史とかって割とそういうとこありません?

ですので私は、今回2作品プレイしたのですが、ちょっと、またノベルゲームのオイシイ季節がやってきたんじゃないかな? なんて思っているんですよ。

もしかしたら、そういう時期は来ないかもしれないし、来たとしても一瞬で終わってしまうかもしれない。
けれども、こんなに丁寧に、物語が扱うべき(って言っちゃってもいいかな?)テーマに取り組んでいる作品が少しづつ増えてきている、という現状、とっても嬉しいですねぇ……。

また、私もマイペースではあるんでしょうけれども、これは、と思う作品紹介していけたらと思っています。



それでは、また。

[PR]

by s-kuzumi | 2017-09-18 16:05 | サウンドノベル | Comments(0)
2017年 09月 10日

フリーサウンドノベルレビュー『私は今日ここで死にます。』

b0110969_20414944.jpg
今日の副題「死を美化しない骨太ノベルゲーム」

※大吟醸
ジャンル:自殺がフィーチャーされる雰囲気もの(?)のノベルゲーム
プレイ時間:1時間と少し
その他:選択肢なし、一本道
システム:Nscripter
制作年:2017/8/14(?)
容量(圧縮時):44.2MB



道玄斎です、こんばんは。
ずいぶん……そう年単位で更新が滞っていました。
皆様はいかがお過ごしでしたでしょうか? 私は何とか生きています。

そうそう、このブログを始めたのが2007年だったと記憶していますから、本年2017年は丁度10年目に当たります。つまり、私もこのブログを書き始めたころから10歳年をとってしまった、というわけです。

私自身……白髪が出てきた! とかいろんなことがありますが、まぁ、ぼちぼち成長して……いるといいなぁ、なんて思ってますねぇ。

さて、今日は本当に久々のノベルゲームレビュー。
mint wings」さんの『私は今日ここで死にます。』です。
良かった点

・本来の意味での「雰囲気」が出ている作品

・自死をテーマにした作品がこの作者さんには多いが、本作ではかなり骨太で、凄い進化がうかがえる

・なんとも言えない優しい雰囲気、暖かい空気感が素敵


気になった点

・若干駆け足気味だったところも

・フォルダを開くと、BGMなどが丸見え

こんなところでしょうか。
ストーリーですが、作者さんのサイトから引用させて頂きましょう。
人が自殺しようとしているのを目撃した場合、どうするか。

いくつかの答えがあるだろうが、俺には考える余裕も時間も無かった――。

ある日、主人公 "萩原 京介" は、入水自殺をはかろうとしていた女子高校生 "三島 由香" と出会う。

京介は、彼女が死ぬ前にとある提案をするのだった…。


不器用な登場人物達が織りなす、「生きる」という普遍的なテーマを主軸においた物語[全2章構成]。

こんな感じ。

いやぁ、いい作品でした。
引き締まった尺(ただし若干駆け足気味のところはあるかも)、骨太のテーマ、本来の意味での「雰囲気」を活かした作品で、これはお勧め出来る作品です。

テーマは若干重めで、「自死」「自殺」です。
何度も書いている気がしますが、この手の「自殺」をテーマにした作品って、かなり増えたんですよね。本作もちょっと「ドキッ」とするタイトルですよね。

そうした作品を私も何度も取り上げてきましたし、取り上げていないものも含めればかなりの数を読んできました。
また、本作の作者さんも、同様のテーマを作品の中で積み重ねてきているわけですが、行きつくところまで来てしまったな、という感じ。ええ、もちろんいい意味で、です。

本当に自殺を描いた作品には、「なんとなく死んでしまう」、「自死が理想的で、また美しく描かれる」なんてものもあったりして、それはそれで面白いものもあるんですが、「死」あるいはその裏返しの「生」というテーマにそれが真向かいしているのか? と問われれば、また答えにくいものがあるはず。

一方、本作は「雰囲気ゲー」と作者さんご自身がおっしゃってますが、全然そんなことはありません。
いや、正統な「雰囲気ゲー」だと言えると思うのです。

というのも、雰囲気というのは相当描くのは難しいんです。
なんとなくうすぼんやりとした理由で誰かが死んで、音楽もそれっぽい感じにしても、それはどこかうわっ滑りなものになってしまうわけです。

本当の意味で「雰囲気」を出して、それを作品に活かすためには、シッカリとした設定や描写が絶対に必要になってきます。

丁寧でしっかりとした物語があって、はじめて「雰囲気」が出てくる、と私は思っています。
その意味で、本作は比較的オーソドックスな設定(自殺を使用としていた女の子を、どこか無気力な青年が助けて~)を持ってはいますが、丁寧なキャラクター描写、舞台やエピソードの積み上げによって、結果暖かく、優しい雰囲気が十分に出ていました。

個人的にとっても惹かれたのが、主人公京介のモノローグやそれと同化する形での地の文。
いわゆる「少し冷めた感じの青年」ではあるんですが、そのモノローグ(何か大事なことを言いかけるような、そういうモノローグ)によって、彼の心にも何かわだかまりや、葛藤があること、上手に表現されていました。

物語前半部分では、「死」にある種のあこがれを持つヒロイン由香が描かれるのですが、そのリアリティを垣間見て、彼女の想いもまた変わります。
「死を単純に美化」するのではなく、深く死を見つめていった時に感じる怖さ、その怖さによって逆に触発される「生」への想い。この辺りの描写は物凄くよかったです。

また、本作屈指の名シーンは、今挙げたシーンもそうなんですが、年上であるはずの京介が年下のヒロイン由香に泣きつく……っていうと語弊があるか……。つまり、誰にも言えずに抱え込んでいた想いを吐露していくシーン。
これはもう、本当にいいシーンなんですよ。

そういえば、本作はサンドウィッチ的な構造もとっています。
エピローグで分かるんですが、こういうサンドウィッチ構造って私好きなんですよね。物語に厚みが出ますからね。

手前みそで恐縮なんですが、私もちょいと関わった『Ghost Write』という作品にも、年下の女の子の胸で泣いたり、実はサンドウィッチ構造だった、なんて仕掛けも出てきます(ただし、クオリティは本作のほうが全然上だわ……)。


閑話休題。
死をただただ美化するのではなく、それをしっかりと見つめること。そして生へ転換していくこと。
それが無理なく、無駄なく描かれていたというのが本作の最大のグッドポイントでしょうね。ね? 私も10年経って、ちょっと成長したでしょう?

尺はおおよそ1時間くらい。
スッキリと読めるのに、深みがある。とっても素晴らしい作品です。ぜひぜひ、このページをさっさと閉じて作品をDLしてプレイすることをお勧めします!


それでは、また。

[PR]

by s-kuzumi | 2017-09-10 20:42 | サウンドノベル | Comments(4)