2015年 07月 30日

フリーサウンドノベルレビュー 『ココロ、そらいろ。』

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今日の副題 「子どもを描くからこそ描ける物語」

※吟醸
ジャンル:少年少女のハートウォーミングストーリー。
プレイ時間:40~45分程度。
その他:選択肢なし、
システム:NScripter

制作年:2015/4/9
容量(圧縮時):32.9MB




道玄斎です、こんばんは。
今日は、久々のノベルゲームレビュー。
思春期の少年少女に焦点をあてた作品を多く作られている作者さんの作品のご紹介。
というわけで、今回は「mint wings」さんの『ココロ、そらいろ。』です。
良かった点

・短いエピソードを重ねていく形式で読みやすく、それ故の効果も出ている。

・小学校高学年という年齢設定が絶妙。


気になった点

・主人公いつきの問題に関しては、ちょいあっさりかも。

・物語の締め方が個人的にちょっと気になった。

ストーリーは、サイトの方から引用しておきましょう。
"君島 樹(きみじま いつき)" は不登校の男の子。
ある日、担任の勧めから "保健室登校" を始め、新たな世界へ踏み出すことに…。

1番最初に出会ったのは "前川 柚子(まえかわ ゆず)" という女の子。
人に合わせるのが苦手で、友達から仲間外れにされてしまったらしい。

しばらくしてやってきた "藤堂 元成(とうどう もとなり)" はクールな男の子。
クラスに上手く馴染めず、ずっと1人だった。いつも無表情で笑わない子。


そんな彼らと過ごす日々は、様々に色を変えて積み重ねられていく…。
――そう、まるであの空の色のように。

このようなストーリーになっています。



mint wingsさん12作目の作品です。
この作者さんは、「思春期」の少年少女を描くのが本当に上手いですね。

その時期特有の不安定さや、脆さ、残酷さ、そして素直さや優しさ……そういったものを上手く折り込みながら、物語が進む作品が多いのですが、本作も例外ではありません。

今回は「思春期前期」とでもいいましょうか、小学校の高学年という年齢設定にまず惹かれました。

ノベルゲームの場合、だいたいが「高校生」を主人公としているわけで、ちょっと年齢をズラしてやるだけでも、まだまだ色々な物語の可能性があるわけです。
さらに、思春期の入り口、といった年齢ですから、そこに他の作品にはない「面白さ」や「深み」を感じることが出来ます。


物語は、短いエピソードを選択し、それらを順に読んでいく、という形で進行します。
それによって、一話一話が読みやすくなっていると共に、それ故の効果が出ていました。

どういう事かと申しますと、エピソード間にはそれなりの「空白の時間」が存在しているのです。
だいたい、数週間~一月程度のブランクが、各エピソードの間にあるんですね。

で、あるエピソードを読んだ後、次のエピソードにいくと、ちょっと人間関係が変化しているんです。
最初は、少しおっかなびっくりコミュニケーションをとっていた、主人公いつきと、やはり保健室登校のゆずが、大分うちとけた感じで会話していたり。

それはいつきとゆずだけでなく、もとなりに関してもそうでした。
エピソードの空白時間に、ちゃんとお互いの距離が縮まったり、あるいは、もやもやとしたものを感じたり……。そういう部分がキチンと次のエピソードで描写され作品に溶け込んでいる、というのがとても良かったです。

そういう意味で、とても丁寧に紡がれた作品、だということが出来ましょう。


思春期前期の子ども達を通して描かれる物語は、読者である私達にも改めて考えないといけない問題を提示してくれていたりもします。

ゆずの抱えていた問題、「自分の気持ちはそのままで、それでいて他者とうまくやっていく」、なんかはその最たるものでしょう。

気に入らないからケンカをふっかける。
あるいは、好きだから全てを肯定してしまう。

そういうことって、大人でもありますよね。
そうじゃなくて、「気に入らなくても、ケンカしない」、「ケンカにならない云い方をする」、「好きであっても、ダメだったらばちゃんと云う」。そういうことって、やっぱりとっても大切だけど、いざ実践するとなると、結構難しいところがあったりして……。


ですので、子ども達を描きつつも、「子供向け」で終わらない深みが物語にはあるんですよね。
もしかすると、それは「子供と大人の淡い」にある、思春期の子ども達を描くからこそ、出せるテーマなのかもしれませんね。


気になった点としては、主人公いつきの問題とその解決のパートが、ゆずやもとなりと比して、ややあっさり風味だったのかな、と。

ゆずやもとなりは、ハッキリとした理由・原因があって「保健室登校」をしているわけで、いつきはそこが「何となく」なんですよね。

ラスト付近で、いつきが自分の問題を自覚し、それに立ち向かう描写こそありますが、それも比較的あっさりしていたかなぁ、と。
多分……ゆずやもとなりが物凄くキャラが立っているので、そういう風に見えてしまう、というのもあるんじゃないかと思いますね。


もう一点は、ラストです。
ここは、本当に「個人的に」気になった、という感じなのですが、たとえば、「3人のその後」の一枚絵が出て終わるとかね、そういうのでも良かったんじゃないかな、なんて。

現行の終わり方も決して悪い、というわけではなく、そこに込められた意図や、その終わり方の良さも勿論、感じることが出来ます。
ただ、個人的には、3人が積み上げてきた友情をしっかりと描写した上で終わって欲しかったな、ということなんです。

ここは、単純に好みの箇所ですから、あまり気にしないで下さい。



さて、mint wingsさんは本作を以て、サークル活動を一時中止されるようです。
エイプリルフールなどのイベント時にはゲームを作る、ということですが、とにかく一度、活動は休止ということのようです。

私も、mint wingsさんの作品、何本もプレイしてきましたし、レビューでも何度となく取り上げさせていただきました。
12本、という作品数は本当に凄いと思いますし、フリーのノベルゲームの世界に残した影響は決して少なくなかった、と思います。

今まで、本当にお疲れ様でした。
また、活動が復活し、新しい素敵な作品を読める日を楽しみにしております。



それでは、また。



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# by s-kuzumi | 2015-07-30 20:48 | サウンドノベル | Comments(2)
2015年 06月 07日

フリーサウンドノベルレビュー 『真帆とはじめてのTRPG』

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今日の副題 「ノベルゲームはリプレイ向きかも!」

ジャンル:クトゥルフTRPGリプレイノベル
プレイ時間:一時間半程度
その他:選択肢なし、一本道。
システム:NScripter

制作年:2015/5/20
容量(圧縮時)89.5MB



道玄斎です、こんばんは。
ちょいと、また間が空いてしまいましたが、意欲的な作品を見つけたのでレビューを更新致します。
いやぁ、本当にありそうでなかったタイプの作品ですよ。
というわけで、今回は「NoFace管理事務所」さんの『真帆とはじめてのTRPG』です。猶、本作は同サークルさんの『Mたちの調律』の番外編的な位置づけですが、単独で遊べる作品になっています。
良かった点

・ありそうで無かったTRPGとノベルゲームの融合。

・リプレイとして気軽に読め、クトゥルフ神話のちょっとした入門にもなっている。


気になった点

・単発のシナリオなので「ゲーム感」があっても良かったかも。

ストーリーは、サイトのほうから引用しておきましょう。
「透也くん、TRPGしようよ」
いつもの放課後、いつものように、真帆の突拍子がない提案が教室内に響き渡った。
TRPGってなんだよ? それって、どういう風に遊ぶんだよ?
初心者でも大丈夫か? ルールとかわからないし、なんだか難しそうだぞ?

そんな心配に対して、真帆はいつもの台詞を笑顔で言った。

「大丈夫だよ。透也くん」

本作を端的に述べるならば、「TRPGのリプレイノベル」ということになりましょう。
この説明で分かる方なら、きっとTRPGの歴戦のゲーマーのはずですから、本作を楽しめること請け合いです。

一方、この説明でピンと来ない方の為に、若干、TRPGについて説明しておきましょう。
私達は、「RPG」と聞くと、何の疑いもなしに、「Final Fantasy」とか「ドラゴンクエスト」なんかを思い浮かべたりするのですが、元々、RPGとはサイコロ片手に遊ぶ、アナログゲームだったのです。

TRPGの「T」とは、「table talk」の略でして、まぁ、「テーブルを囲んでわいわいやりながら遊ぶ」くらいの意味ですね。

FFやドラクエなどのコンピュータRPGとの違いは、ズバリそこにあります。
つまり、プログラムで制御されたシナリオ、ではなく、TRPGは、「テーブルを囲んだ仲間達の行動によって、いくらでもシナリオが変化していく」のです。

コンピュータRPGの場合、何かイベントやフラグの設定がプログラムに組み込まれていない場合、そこを調べても何も出てきません。無味乾燥な「なにもなかった」というようなメッセージが出ておしまいです。

TRPGの場合ですと、ゲームの進行役(GM=ゲームマスター)、そしてプレイしているメンバーの裁量やアドリブで、いくらでも内容が変化していくのです。
元々、シナリオ上では何も設定していない場所があったとしても、「そこを調べたい」と言えば、勿論プレイヤーはそこを調べることが出来ますし、「ここで事件を起こしたほうが面白いな」とゲームマスターが思えば、急遽アドリブで、そこからアイテムを入手させたり、イベントを起こしたり、ということが可能になるのです。

TRPGを巡る言説で良く言われるのが、「TRPGの魅力は、その自由度の高さにある」というものです。
「ゲーム」ということをあまり意識せず、会話の雰囲気を楽しんだり、逆にガチガチでシステマティックなゲームにして遊ぶことも自由なのです。

けど、「何でも出来る、超自由なRPGなんだよ!」っていうと、やっぱり語弊はあるんです。
結局のところ、TRPGはゲームマスターの用意したお話に乗っかっていかないと、先に進めません。
また、プレイヤーがそれぞれ、ゲーム内のキャラクターを演じるという関係上、「キャラクターとして相応しい行動」を求められる部分もあります。

まぁ、言ってしまえば、かなり「ツウ好み」の遊びです。
日本では、80年代中頃から90年代中頃にかけて、このTRPGの一大ブームがあったのですが、そこまで一般に浸透しませんでした。

一つ、当時は「オタク」に対する世間の目があまりにも厳しく、TRPGのようなディープな遊びは、オタクの気持ち悪さを表すものとして、揶揄される風潮がありました。

一つ、また、女性受けが大層悪く、TRPGなんてやっていようものなら、蛇蝎の如く嫌われたものです。アニメファンも同様でした。そして、世間はやはり「女性」を少しは取り込まないと、「まともな趣味」として見てくれないのです。


このような状況があり、専門誌こそ存在していたものの、TRPGの世界はかなりディープな方ディープな方に潜伏していったのですが、近年、また大きな盛り上がりを見せています。

アニメを始めとする「オタクのもの」として嫌われていた趣味が、急に「クールジャパン」などと名付けられ、日の目を見るようになってきました。
女性のアニメファン、ゲームファンも増え、ここにきてようやく、オタク趣味が「揶揄の対象」ではなく、一つの文化として認められるに至ったのです。


……と、ここまででかなり書いてしまったので、もうそろそろTRPGの概略はやめにしましょう。
ともあれ、近年、またTRPGのブームが起こっており、その中でも、昔は「上級者向け」のディープなTRPGであった『クトゥルフ神話TRPG』に人気が集まっています。

さて、「クトゥルフ神話」ですが、これは聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
アメリカのラヴクラフトさんが生み出した、宇宙的恐怖(コズミックホラー)が大きな特徴の恐怖小説です。
実は、最近、私は「無料ゲーム.com」さんにて、ゲームのコラムを書かせて頂いているのですが、その第十一回目に、クトゥルフ神話については書いているので、もしよろしければ、そちらの方をご覧下さい。


前置きがやたらと長くなってしまいましたが、本作は「ノベルゲームの中で、キャラクター達がクトゥルフ神話TRPGで遊ぶ様子」を描いた作品となっています。

TRPGを遊んだ様子をまとめたものを「リプレイ」と呼ぶのですが、本作はまさにそのリプレイと言っても差し支えないでしょう。
リプレイは基本「本」という媒体で出版されるものです。それを読むと、ゲームのルールや雰囲気、そして物語そのものが楽しめる、というとても優れたフォーマットなのですが、よくよく考えてみれば、ノベルゲームという媒体との相性は、物凄くいいんですよね。

リプレイは当然「サウンド」は付いてきません(ですので、擬音で表現したりするわけです)。
さらに、ビジュアル面も、表紙や挿絵くらいなものですから、十分とは言えません。

対して、ノベルゲームは、サウンドノベルとも呼ばれることがあるくらいですから、「サウンド」を付けることが出来る。また、立ち絵、一枚絵という形でビジュアル面を補うことが出来るのです。
そして、勿論、文章を読ませるという基本がありますから、リプレイの「内容」を記述することはお手の物なのです。

どうです?
これは相性が抜群ですよ。ですので、本作もクトゥルフ神話TRPGのルールを知らなくても、「読み物」として全然楽しめてしまいます。途中で「ダイスを振り判定をする」演出などもありますが、ルールに興味がなければ、「成功したか/失敗したか」だけ把握しておけばよく、それでも十分楽しめます。


本作の持つ、TRPGに由来する面白さはこんなところでしょうか。
一方で、中身(つまり、ここではTRPGのプレイ内容)も、シンプルな設定ながら、クトゥルフ感が出てて面白かったです。「あの」教団の名前が出てきた時には、思わず吹いてしましましたw

舞台こそ日本ですが、クトゥルフ初心者に、「クトゥルフの怖さってこういう感じなんだよ」と伝えることに成功していると言えるでしょう。プレイの雰囲気なんかも、かなりリアルですし、「わいわいやっている感じ」が良く出ていましたね。


さて、気になった点なのですが、これは難しい問題です。
本作のように「単発」の冒険の場合、「ゲームっぽさ」というのがあっても良かったのではないか、という点です。

つまり、ゲームの要所で、「選択肢」を出して、バッドエンドとグッドエンドに分岐するくらいはあっても良かったかもな、ということです。
TRPGは、プレイヤーの思わぬ不注意でキャラクターが死亡したり、ミッションが未達成になってしまうことがあります(特にクトゥルフの場合には!)。

そこも紛れもなくTRPGの要素なので、今度は「ノベルゲームの側の特徴」、つまり選択肢によるルート分岐で、そういうプレイの可能性を見せるって方法もゲームっぽくてアリなんじゃないかな、ということですね。

例えば、同一のキャラクターを使い、何度も冒険や物語を重ねていくパターンを「キャンペーン」とか「キャンペーンシナリオ」なんて呼びますが、この形式ですと選択肢分岐は制作側に大きな負担となります。
しかし、「単発」シナリオの場合ですと、比較的それがやりやすいのです。そして、そこでミッション未達成だと、どういうエンドになるか、逆に成功だと、それがどのように変わるのか、が見えると、既存のリプレイの枠を越えた表現が出来るかな、と愚案する次第です。


とはいえ、TRPGのリプレイとノベルゲームが、ここまで相性がいいとは思いませんでした。
これは、もしかしたら、新しいノベルゲームの一つの潮流になる可能性がありますねぇ。

TRPGファンは勿論、ノベルゲームファンも、ちょっと本作に注目してみて下さい。
ノベルゲームの新しい可能性が、本作に秘められていると思いますよ。



作品の本筋とはあまり関係がないTRPGについて大分書いてしまいましたが、今回はこの辺で。
それでは、また。



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# by s-kuzumi | 2015-06-07 18:59 | サウンドノベル | Comments(0)
2015年 04月 22日

フリーサウンドノベルレビュー 『かたわ少女』

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今日の副題 「本質はタイトルではなくシナリオにアリ」

ジャンル:障害を抱えた主人公及びヒロイン達の恋愛アドベンチャー。
プレイ時間:18~20時間程度。
その他:選択肢アリ、バッドエンドや各ルートにバッドエンドやグッドエンドが設定。18禁。
システム:Ren'Py

制作年:2015/4/1(日本語版リリース)
容量(圧縮時):432MB




道玄斎です、こんばんは。
もう何年も前に、本作の英語ベータ版をプレイして記事を書いた記憶があります。
ついに、その「日本語版」が出たと聞き、プレイしてみた次第です。実際、日本でもニュースサイトなどを中心に話題になった作品ですから、それ以上の説明は不要でしょう。
というわけで、今回は「Four Leaf Studios」さんの『かたわ少女』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。
良かった点

・実は凄く普通の恋愛ノベルゲームだった(後述)。

・アニメーションや演出がシームレスな感じで作品に上手く溶け込んでいた。

・非常に上質なルートがある。


気になった点

・文字表示領域限界まで、文字が表示されるので、割と窮屈。

・ルートによっては消化不良な部分もある。

ストーリーは、公式サイトのURLを張っておきましょう。こちらからどうぞ。



非常にショッキングなタイトルがついた作品です。
日本国内であれば、放送・出版コードにひっかかる「かたわ」という言葉が、この作品に注目を集めるのに一役買っているのは間違いないでしょう。
同時に、やはり差別的・侮蔑的なニュアンスがある事から、反感を持つ人もいると思われます。

これがもし、「disabled girls」であったり、「challenged girls」なんてタイトルであるのならば、(特に後者であるならば)恐らく、少なくともタイトルに関しては問題視されることはないはずです。

しかし……差別や侮蔑の本質っていうのは「言葉」ではない事が殆どです。
言葉は全く無関係ではない、とは勿論云えませんけれども、本質は「個々人の気持ち」というか精神の部分であって、それが言葉などの形で出た時、差別や侮蔑が表に分かりやすい形で出てくるんじゃないでしょうか。

とは云え、私もこの「かたわ」というタイトルは「ちょっとやべーよな……」とは思っています。
障害というものに対して、私達は時に必要以上にセンシティブでナーバスになってしまうようです。
上記の「差別の本質は、言葉じゃなくて、精神だろ」という私の考えも、例えば、障害を持つ人が発言するのならば許容され、そうでない人が云ったのならば、「何を知ったような口を!」と怒られてしまう可能性も多々あるわけです。
問題は結構複雑なのです。

……と、ちょいと堅苦しい感じで書き出してしまったのですけど、そうした「障害」というものに積極的に挑んでいく作品、それが『かたわ少女』である、という事は間違いなく云えるでしょう。

ヒロイン達は、目が見えない、足がない、ひどい火傷を負っている……など、見た目にも分かりやすい障害を抱えています。
しかし、本作のユニークな所は、主人公久夫も、心臓の病気を抱え、今後その病気と生涯を共にしなければならないという設定にあるように思えます。

主人公の持つ、分かりにくいけど確かに存在する病との付き合い、そして見た目に分かりやすい障害と、目に見えない葛藤を持つヒロイン達との交流、そこが本作のキモの部分ではないでしょうか。


今回、「良かった点」にて、「実は普通の恋愛ゲーム」と書きましたが、そこにこそ、本作の特徴があるように私には思えるのです。
私達が普段プレイする恋愛ノベルゲームも、「主人公も、そしてヒロインも問題を抱えており、何とかそれを乗り越えていく」というタイプのものが多いですよね。

本作も、実はそれと全く同じです。
例えば、芸術家肌のヒロイン、琳のルートでは、「琳が両手を失っている事」は殆ど問題にならないのです。寧ろ、話の焦点は「芸術家として生きること」、「芸術とは何か」というような問題に移行していきます。

火傷を負っている女の子、華子のルートもそうです。
確かに、火傷(やそれにまつわるエピソード)が華子の性格に与えた影響は大きいのです。しかし、それは「きっかけ」というようなものであって、シナリオの焦点は、「華子が精神的に強くなる」という部分にあるのでしょう。

本作に於いて、障害というのは「今のヒロイン達」を形作るきっかけの一つであって、その障害そのものが問題になるわけではなく、「私達が誰でも抱える可能性のある問題」にこそストーリーの焦点はあるのです。

ですので、「障害」という部分を除いてみれば、非常にオーソドックスな恋愛ノベルゲームになっている、と感じたのです。
そして、それは「障害を持っているから特別なエピソードが必要なんだ」というものではなく、「障害を持っていようといまいと、俺たちは同じような悩みを持つんだ」という、制作者側のメッセージなんじゃないかな、と私は感じました。
つまり、障害があるから、それを「特別扱い」にするのではなく、その障害を「ニュートラル」に捉えていく、とでも云いましょうか。


一方で、障害が「ただのフレーバー」になっている感じ、がしないのも、本作の良いところでしょう。
例えば、聴覚障害のある静音のルートでは、ミーシャが手話と発話によって、主人公と静音の会話を翻訳し、取り持つわけですが、「どこまでが静音の発言で、どこまでが“翻訳者としてのミーシャとしての発言”なのか、が分かりにくい」という描写によって、聴覚障害や、そこに生じるディスコミュニケーションの問題に踏み込んでいます。


さて、気になった点ですが、上に書いた通りです。
所謂メッセージウインドウの限界ギリギリまで文字を表示して、次の行に折り返して……という形で、文章が表示され窮屈さを感じますし、改行が積極的になされていないので、読みにくくなっている部分もあります。

あとは、ルートによって「ん? じゃあこの後はどうなるんだ?」という感じで終わってしまうものもありました。
そこは個々人の趣味の領域かもしれませんが、私はちょいと気になりました。


ルート、ということで云えば、私は断然、リリーのルートが好きですね。
体験版をプレイした時も「リリーが気になる……」と書いたような気もしますし、ね。

そうそう、本作は、個性豊かな脇役達も見所で、各ルートに入ってもしっかりとした存在感があります。
また、ルートに入っても「そのヒロインだけ」に焦点が当たっていくのではなく、ちゃんと他のヒロインなどのキャラクターとの関わりが描かれているところは、丁寧な作りである、と云っても良いでしょう。


一方、「普通の恋愛モノ」として見た場合、ちょっと物足りない……というか薄味な部分も感じます。
気がつけば久夫は、ヒロインに惚れてしまっていますし、恋愛が成就するまで、が淡泊なのです。これは、作品の作りとも関係がありますね。

この作品は、謂わば共通ルートとでも云うべきルートがあって、それは「学園祭」まで。
その後、各ヒロインのルートに入って、「恋愛が成就するまで」、「ヒロインとの間で問題が起きるまで」、「問題を解決しエンディングまで」と、大体4区分に分けられていました。

やはり焦点は「恋愛そのもの」ではなく、「ヒロインとの問題の解決」にあるわけですから、それで恋愛部分は薄めなんでしょうね。
とは云え、その問題の発生とその解決のパートも少し淡泊な印象はあります。



大体、こんなところでしょうか。
本作は、非常に難しい問題に、実は「真っ正面から」取り組んだ、そんな作品だったのではないかと思います。障害そのものを特別扱いせず、一人の人間の人生の過渡期を描いた作品、ということです。

タイトルがショッキングではあるのですが、無心に読んでみると、色々考えさせられる作品なんじゃないかと思います。

ボリュームが多くて大変ですが、是非、全ルート(リリーのルートも忘れずに!)読んでみて下さい。



それでは、また。



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# by s-kuzumi | 2015-04-22 16:59 | サウンドノベル | Comments(4)
2015年 04月 02日

フリーサウンドノベル関係の雑記 箸休めvol.70

道玄斎です、こんにちは。
今日は珍しく昼間からの更新で御座います。



■今このシーンで……

今日は、「箸休め」なんですけど、従来通りのノベルゲームに関係する小ネタというか、そういう話をしていこうかな、と思っています。

で、早速なんですが、今、ノベルゲームで元気の良いっていったらいいのか、まぁ、ちょっと面白いシーンがあって、その一つが「女性向けゲーム」だってところから。

私……に限らず、男性のノベルゲーマーって、割と女性向けゲームに偏見を持ってますよね。
「ありえねぇような完璧超人、しかも優男達がヒロイン(女性プレイヤー)をチヤホヤすんだろ!」とか、「まーた、吸血鬼みたいな男が、純真な女の子に感化されて、その娘と共に生きる道を見つけるんだろ」とかね。

いや、云いたいことは分かります。
それに、それもあながち間違いじゃないw まさに私も昔洋ゲー紹介でやった『Torrey & the Vampire』をマイルドにしたような作風の女性向けゲームを何本もプレイしていますから。

けど、そうはいっても、何て云えばいいのか……「私達男性」が普通に楽しめない、というか食指が動く作品が中々リリースされてこない時期ってありますよね。
そういう時期をして、私なんかはついつい「停滞期」なんて呼んじゃったりするんですけど、女性向けの作品っていうのは、そういう時期でも絶対にコンスタントに制作され、供給され続けてるんですよね。

落ち着いて考えれば、これは凄い事ですよ。
同じような作品がいつの時代でも出てくるんですから、或る意味で、何て云うか能のような伝統芸能の趣すら感じてしまいます。



■でも、それだけじゃないよね

しかし、一応女性向きっぽい作品であっても、何かの拍子にプレイしたりする事ってあります。
そういうのがきっかけで、女性向け作品の一端が分かるんですけど、意外や意外、中々面白いんです。

お話の展開、みたいな所では、やっぱり従来の形を踏襲しているんですけど、結構細かいところで、色々な試みをしてるなぁ、というのが正直な所です。

例えば、BGM。
基本、男性が作る「一般向け」のノベルゲームって、「BGMは場面や背景に合ったものを選びましょう」というのが不文律になっていますけど、女性向けゲーム制作者(もう、縮めて女性制作者と呼びましょう)の場合、そうしたちっぽけな常識を打ち破るようなBGMの使い方をする人が最近増えています。

一見すると「合わないだろ!」って組み合わせを積極的に試していく。
で、結果的にそれが絶妙なコントラストになっている。作品の持つ世界観から浮く事なく、うまく場面になじんで非常に効果的に使われている……。

或いは、選択肢。
詳しく書くと作品を特定しちゃうから書きませんけど、非常に面白い選択肢の使い方をする作者さんも、ちらほら目に付くんです。
単純に「Aを選ぶと好感度+1で、Bを選ぶと-1ね」的なものじゃなくて、作品内容と選択肢(それは、もう、選択肢って云っていいのか分かりませんけど)が密接に絡み合っているもの、そこにゲーム性を強く感じさせるもの……。


とにかく、こういう部分で、非常に新しいというか、先鋭的な試みをしている人達が女性制作者さんなんですよね。
ほら、ノベルゲームでもサウンドノベルでもいいんだけど、基本「文章を読む」って事だから、あまり、手の加えようが無いような気がするんだよ。せいぜい、文句が出ない程度にシステムを整えるとか、その程度でさ。

けど、そういう枠組みの中で、何か面白いこと、思いついたことをやってみよう、とする姿勢があるっていうのはいいですよね(当然、失敗だってありますけど。そうそう、蒸し返して悪いんだけど、ワイド画面はまだそれを活かしたものが出てないような気がするんだよなぁ……。ワイド画面そのものを批判してるんじゃないってとこはご理解頂きたいのです)。



■女性向けも大変なのです

けど、女性向けにも問題がないわけじゃないんですよ。
先ほども少し触れましたが、大きな目で見れば、ストーリーの展開やら運びは、割と単調だし(逆に、そこが好まれる部分でもある)、ちょっぴり排他的な雰囲気もあるし。

先に挙げたような、先鋭的なことをやってる女性制作者さん達ってのは、やっぱり実力や冒険心があるから、シェアの方に移っていっちゃう、っていうのも、フリーゲーム好きとしては寂しいところだったりもします。
当然、シェアっていうのは、ちょっと「男性向け」の路線になる事が多くて、そういう事を考えても、「女性向け」ならではの市場でやっていく、っていうのは、厳しいんでしょうね。



■ここらで定義

今まで、無節操に「女性向け」って言葉を使っていましたけど、大凡の定義は「(主に女性が制作者で)女性キャラクターが主人公となり、男性キャラクターと結ばれる(もしくは親密になる)事を目的とするゲーム」くらいのゆるーい定義です。

あっ、忘れる所だった。
実は、最近凄い面白そうな女性向け(?)ゲームを見つけたんです。

その名も『ラッパーと恋をする』というもの。
ご存じない方も多いと思います。なにしろ、この作品、スマホアプリの形式でのノベルゲームだからです。

普通だったら、歯の浮くようなセリフを連呼するであろう男共が全員ラッパーw
なんか、すんごい尖ってますよねw 作者名を拝見すると、制作者は男性かなって気はするんですが……。

本当ならば、この『ラッパーと恋をする』を大々的に取り上げてみたかったんですけど、私のスマホではプレイ出来ませんでした!
いや、インストールは出来たんです。で、タイトルも表示されたんです。そしてタイトルに表示された「はじめる」もタップ出来たんです。けど、そのあと、話が進むでもなく、タップ出来るようなものもなく……泣く泣くプレイを断念しています……。

プレイ出来なかったわけですから、推測でしかないんですけど、この作品はBGMでもなければ選択肢でもなく、攻略対象となる男性のキャラクターに強烈な個性を加えたものなのでしょう。
ともあれ、こういう方向での強烈な制作もある、というわけです。


で、話を戻して……。
先ほど、「(主に女性が制作者で)女性キャラクターが主人公となり、男性キャラクターと結ばれる(もしくは親密になる)事を目的とするゲーム」というのを女性向けゲームとして、定義したわけですけども、そうした恋愛や、それに準ずるような、まぁ、つまり男性を愛でる行為に主眼がない女性作の作品というのも、当然あるんですよね。

そうした「女性作」の全部が全部当てはまるってわけじゃないですけど、大凡の傾向っていうのもあって、そこらへんについても、少し言及してみましょう。



■女性作ゲームの何となくの傾向

まず、「ファンタジック」な作風が多い、というのは云えるんじゃないかな、と思います。
これは、ここで云う「女性作」のものだけじゃなくて、先ほどから話題にしている「女性向け」でも云える事なんですけれどもね。

これも、ちょっと分類可能で、一つは「おとぎばなし」、つまりメルヘンな世界、という意味でのファンタジック。
そのものズバリ、既存のメルヘンを換骨奪胎してしまう、なんて事も良く行われます。

もう一つは、所謂中世風ファンタジーの世界観。
耳の長い種族がいて、機能性に乏しい鎧を着けた人達がいる、お馴染みの世界です。けど、私はそういうの凄い好きなんですよ!

さらにもう一つは、産業革命前後の近世的な西洋世界。
単純に産業革命前後の文明だったらファンタジックじゃなさそうなんですが、大抵の場合は、「階級社会がまだ残り、魔法などの超自然的な力も微かに生き延びている世界」だったり、そういうファンタジックな味付けがしてあるのが特徴。
これも、中々魅力的ですよね。ちょっと脱線しますけど、なんていうのかなぁ、あのガス灯とかのデザインとかって、なんか凄い素敵じゃありません?w


ま、大体、こんな分類が出来るんですね。
ここ数年の傾向として、「とにかく多産なタイプ」っていう、第三の区分もあるわけですが、それはまたの機会にお話致しましょう。



■こんな違いもあるんです

色々書いてきましたけれども、最初に定義した「(主に女性が制作者で)女性キャラクターが主人公となり、男性キャラクターと結ばれる(もしくは親密になる)事を目的とするゲーム」に、また話は戻ります。

結局、男主人公が、ヒロインとピュアな恋愛をするタイプ(これを、女性向け作者さんは「一般」と呼ぶ事が多いようです)の、性別を逆にしたものが、女性向けゲームの一つの正体という事になります。

けど、本当に違いはそれだけなのでしょうか?
いやいや、実は、凄く大きな違いが、ゲームそのもの、ではなく、プレイヤーの方にあるのです。

というのも、私達が、男主人公がヒロインとピュアな恋愛をするゲームをしても、本気で自分を投影しませんよね? いや、寧ろ、ゲームの作り上、現実の自分ではとても出来ないような凄い事を達成出来る人物、として主人公が設定されていませんか? 「こうありたかった」という願望を体現しているような……。
そもそも、学校という枠の中で、あの飄々としたポジションを保っていられる、というのも云ってしまえば「ゲーム的」なのです。

しかし、女性向けゲームの場合、「主人公の女の子に対して、プレイヤーが自己を投影している」ケースが多いのです。
以前、知り合いが「読者とプレイヤーってのは違うよなぁ」と悩んでいましたけど、もしかすると「自己を投影出来るか否か」がノベルゲームでは、その分かれ目なのかもしれません(その要素の為に「選択肢」の使い方とか、また色々な問題が絡んでくるのでしょう)。「読者」っていうのは、ちょっと物語から引いた立場ですしね。

閑話休題。
ともあれ、女性向けゲームの女主人公は「無個性」であるというのが、一つの様式として成り立っており、サーチエンジンでも「個性なし」という項目があるくらいなのですw

何本か典型的な女性向けのゲームをプレイしてみれば、良く分かるのですが、主人公は「美人でもないけど、ブスでもない」という描かれ方が物凄く多いのです。一枚絵や立ち絵では非常に可愛いのですけれどもw
「こんな、何の取り柄もないわたしに……」的な、一昔前の少女漫画的……と云ってもいいのかもしれません。

更に、ゲームを起動して「はじめる」を押すと真っ先に出てくるのが「主人公の名前入力」です。
これも、以前書きましたが、「名前入力させず、デフォルトの名前の作品を作ったら、苦情がきた」という話も結構聞きます。
つまり、名前を入力したいわけですよね? 自分の名前か……或いは本名よりも自分を投影出来る名前かを。


そうなんです、つまり、プレイヤーの自己投影度、が、女性向けとその他のそれでは大きく異なっているのです。
こういう、ゲームを遊ぶ側の意識の違い、というのもあるんですよね。



■まとめ

まぁ、「女性向けゲームが面白いぞ!」という所から始まって、多少、大なたを振るった感はありますが、その分類や特徴を書いてみました。

いや、けど、ほんと、今一番元気がいいのって、女性向けゲームの最前線で頑張っている人達なんじゃないかな? って本気で思ってます。

女性向けのゲームの世界には、ある種の閉鎖性があったり、不文律のようなものが存在していたり、実は、あんまりオープンな場ではなかったりするんですけど、そういうのを、これから、第一線の女性制作者さん達が、切り拓いてくれたら、もっと面白いもの、女性向けと限定しなくても十分に楽しめるもの、が生み出せるんじゃないかな? そして、その時にはもはや「一般」とか「女性向け」とか、そうしたこぢんまりとしたジャンル分けも無くなっているんじゃないかな? なんて思いつつ、筆を擱かせて頂きます。



それでは、また。
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# by s-kuzumi | 2015-04-02 12:35 | サウンドノベル | Comments(2)
2015年 03月 22日

フリーサウンドノベルレビュー 『爆音の世代、沈黙の世界』

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今日の副題 「考える作品」

ジャンル:強気っ子大集合・バイオレンス・アドベンチャー
プレイ時間:合計で9時間半程度。
その他:選択肢アリ。全四章(オマケルートあり)の作りになっている。18禁。
システム:らのべえ

制作年:2013/4/15(フリー公開)
容量(圧縮時):978MB




道玄斎です、こんにちは。
ここんとこずっとプレイしていた作品のご紹介。ジャンルには「強気っ子大集合・バイオレンス・アドベンチャー」なんてありますが、物語のテーマ(の一つ)として、民族問題があったりと実はかなりの社会派作品でした。
というわけで、今回は「Cosmillica」さんの『爆音の世代、沈黙の世界』です。ダウンロードはこのページからどうぞ。
良かった点

・同人ならではの、強烈なテーマ設定。

・物語が進むにつれ、色々と考えさせられる部分あり。


気になった点

・後半に行けばいくほどテーマがブレてくるような。

・主人公がほぼ無力(但し、考えを改めた部分もある。後述)。

ストーリーは、サイトのURLを張っておきましょう。こちらからどうぞ。

少しだけ味気ないので、補足しておきましょう。
民族問題で紛糾する社会、主人公とその仲間達の生活は危ういバランスによって、その平和が保たれていた。しかし、ある事件をきっかけにその平和は失われ、誰しもがこの国の抱える問題について無縁ではいられなくなる。その状況で果たして主人公、そしてヒロイン達はどのような選択をしていくのか……。

というような感じでしょうか。
一応、架空の国名や固有名詞を使って「現実社会とは関係がない」と主張しているのですが、明らかに本作の舞台設定は「日本」です。
そして、在日外国人の問題というのが大きくフィーチャーされてきます。何しろ、ヒロインの一人が在日外国人(というか、在日韓国人を模した在日外国人)なのですから、社会派というか、もの凄い攻めの姿勢を感じます。


まずは、概略的なところですが、本作は全部で四章の構成です。
選択肢もあるのですが、章とヒロインの女の子というのがセットになっています。
例えば、第一章ではジェシカのルート、第二章ではサクラのルート、というような感じです。恐らく、「一章から順番に見ていく」ような作りになっている為、バッドエンドは存在しても、選択肢の捌き方によって、いきなりサクラルート(第二章)から攻略していく、というのは出来ない……んじゃないかと思います。

当然、第一章でのエンドより、第二章、第二章より第三章のエンドの方が、物語全体のテーマ(これも、ちょっと作中でブレてるような気がするのですが)に近づいていく。そうした感触があります。


最初、私はプレイしながら、「ちょっと馴染めないな……」と思っていました。
というのは、前半部は割と古風なギャグテイストのテキストで、妙にテンポが悪くなってしまっている部分がある、ということ。そして、なにより、主人公の「みんな同じ人間なのに何故憎みあうんだ」的な、云ってしまえばお花畑思考に対して、軽くイライラしてしまったのです。

どちらの側にもそれなりの「正義」とか「大義」があるからこそ、対立が起こるし、それぞれがそれぞれに対して不平や不満を覚えるというのも、極々自然なことだと思うのです。
兎に角、対立というのは、それぞれの背景があって起こるわけですが、その背景にある問題というのが作品のテーマでありながら、割と軽く扱われており、しかも主人公は、ほぼ自動的に「在日外国人」の立場に拠って立っている、という状況なので「これはこれで一面的なものの見方なんじゃない?」と思ってしまった、ということです。


と、まぁ、そんな具合で、正直、あまり良い印象ではなかった作品だったのですが、読み進めていくうちに、少しづつ考えが変わってきました。
というのも、第一章や第二章をエンドというのは、「まだまだ問題が残っている」というのが前提となるエンドで、それに対しても自覚的だったからです。

作品タイトルの一部でもあり、作中で繰り返される「沈黙」という言葉ですが、「どうしようもない現実に対しての諦念」というような意味合いがあったはずです。
取り敢えずの表面的な問題は解決したように思えるけれども、実は根本的には解決されていない、あるいは解決が先送りになってしまっている……そうした状況が作中で幾度も描かれますが、そういう時に「沈黙」という言葉が出てくるのです。

だから、対になる「爆音」がまだ残っているんだな、と期待が持て、その「爆音」こそが最終章だったのです。
そうした意味では、実は結構凝った作りになっている、と云ってもいいと思いますし、章が進むにつれテーマが深くなっていく、というのは王道的でもあり、安心感が持てるものでした。


作品の中には、色々なテーマが入り込んでいるのですが、主人公を軸にして考えて、オーソドックスに「主人公の成長物語」と捉えていくことも勿論可能です。
最終章以前の主人公は、ラストに至っても「社会というシステムの中に呑み込まれていく個人」という枠の中に収まっているんですよね。

「大人になる」って色んな考え方、捉え方があるわけですけど、皮肉な見方をすれば「物わかりが良くなる」というか、「割り切りが出来るようになる」とか、そういう部分ってありますよね。
先に述べた「諦念」とも一脈通じてるわけで、そこで、「俺は俺のやりたいようにやる」とか、「自分が今感じている気持ちに素直でいたい」とか、少年漫画の主人公宜しく頑張っちゃうと、「青臭い」とか「子供っぽい」とか、はたまた「現実が見えてない」とか云われちゃう。

で、そういう「気持ち」だけでは何も解決しない、というのもまた事実なんです。自分の出来る事/出来ない事に境界線を設けないと、自分がボロボロになっちゃいます。
けど、ゲームの中でも「物わかりの良い大人」になってしまうっていうのも、またつまらない部分ってきっとあります(逆の方向性で、そういうのに主人公が呑み込まれていく作品っていうのも、また面白そうな気もするんですが)。

最終章の最後の最後では、主人公も頑張ってくれるんです。
物語の主人公らしくなる、と言い換えてもいいのですが、それ以前は、「ヒロイン」こそが主役に相応しい描かれ方をしているんですよね。
結局主人公には、何の力もなく、女の子達の闘いにただ巻き込まれていく感じ。結局、この物語世界を動かしているのは、メインとなる女の子達だけなのだ、と思わず云いたくなってしまうような……。

そんな主人公ですが、最後の最後で主人公らしくなる。
それを「成長」と捉えていいのかどうか、という問題もありますが、少なくとも「ノベルゲームの主人公らしく」なる、というのは間違いないでしょう。


それはさておき、この無力な主人公に対しても、私は「なんか主人公っぽくないなぁ」なんて思っていました。
実際に行動を起こし、世界を変えていこうとするのはヒロインであり、謂わば、主人公は「優しさはあれど、無力な市井の一人」だったわけで、だったからです。

よくあるタイプのノベルゲームでは、主人公はバカだけども、気持ちだけは熱い。
で、ヒロインの女の子は、何かをその心の中に抱え込んでいるけど、行動を起こすのを躊躇っている。そこに主人公が持ち前の熱さで彼女を感化させ、二人は幸せに……みたいなのってありますよね。

この男女を逆にしたパターンが、本作の主人公とヒロインに近いのかな、と考えたら、それはそれで「アリ」なんじゃないかな、逆にその主人公の「普通さ」が、ヒロインの癒しになって、間接的に手助けしているんじゃないかな、なんて考えるようになりました。

ですので、「主人公があまりにヘタレ」という批判は、本作に対してあると思うのですが、私は段々その部分は気にならなくなっていったのでした。


ただし、物語が進むにつれて、テーマがブレて分かりにくくなっていったというのは恐らく多くの方が感じると思います。
物語の冒頭部、前半部ではやはり「民族問題」が押し出されていき、「共存」の方法を探るというか、そういうテーマを持って進んでいたはずが、途中で『ガンスリンガーガール』的な話と混ざっていき……焦点がボケてしまったような部分があります。

特に、ストーリーのターニングポイントとなる事件の真相で、「え?」と思わず口にしてしまいましたw
これは、好意的に考えるならば、「現実の複雑さを描こうとした」のかもしれません。現実はストーリーの思惑を越えて、意外な所から意外なことが起こるんだ、というメッセージを感じ取ることも出来るわけですよね。

ただ、段々と複雑になっていくストーリーで、拠って立つ足場のようなものが、現実と同じような不安定感を持っていると、読みづらさを感じてしまうし、逆にストーリーの焦点が分かりにくくなってしまうこともあります。
そうしたものを、分かりやすく納得のいく形で描ける人がいたら、その人は物凄い上手な描き手なんだろうな、とも。


長々と私自身も纏まりのないまま書いてきましたが、向き合い甲斐のある作品だと思います。
今も私は「こっちとこっちが和解して共存の道を歩むのはいいのだけど、その為に共通の敵、別のターゲットを策定しなきゃいけないっていうのは、なんかなぁ」なんて、グジュグジュ考えていますw

本作の主張に賛同する人もいるだろうし、逆に「ただの理想論じゃねーか!」と寧ろ、怒ってしまう人だって多いと思うのです。
それでも、この作品が、現代社会を考えるにあたって、一つの機会を提供してくれる、というのも亦間違いない事実であって、本作が同人ゲームたる所以なのでしょう。

社会派で、重めのテーマを持った作品です。
合う/合わないは物凄く別れるとおもいますが、無心に向き合ってみる価値はある、そんな作品だと思いますよ。



それでは、また。


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# by s-kuzumi | 2015-03-22 16:05 | サウンドノベル | Comments(0)
2015年 03月 09日

フリーサウンドノベルレビュー 『一生に一度の、』

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今日の副題 「神様らしさが決め手です」

※吟醸
ジャンル:神様と生活するノベル(?)
プレイ時間:1時間ちょいといった所。
その他:選択肢なし、一本道。
システム:NScripter

制作年:2015/2/23(ふりーむ登録)
容量(圧縮時):98.0MB




道玄斎です、こんばんは。
今日はタイトルがとても素敵だったので、ダウンロードしておいた作品をプレイ。
勿論、タイトルだけでなく、作品内容もとっても良いものでした。というわけで、今回は「都築製作所」さんの『一生に一度の、』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。
良かった点

・神様のキャラクターが非常に良かった(後述)。

・伏線などはあるが、基本、素直な作りでそれ故の良さが十全に発揮されていた。


気になった点

・げんこつシーンが多少くどいかも。

・ワイド画面でなくても良かったような……。


ストーリーは今回は私が簡単にまとめておきましょう。
会社をクビになり、ニート生活を送るも、藤吉郎は、今、運気の絶好調にあった。
賭け事では大勝ちし、高級な弁当をタダでもらう……。
人里離れた場所で、その弁当をビールと共に楽しもうとした瞬間、藤吉郎は、そこにあった祠を壊してしまう。そして、その「祠の神様」を自称する女の子が現れ、「祠を建て直せ!」と要求してくるのだが……。

大体、このようなストーリーになっています。


久々に、物凄くグッとくる作品をプレイしたように思います。
冒頭でも書きましたが、何と云ってもタイトルが既に素敵なんですよね。『一生に一度の、』なんて、中々出てくるタイトルじゃありません。
或る意味では、シンプルなタイトルワークでもあると思うのですが、「、」と、少し含みを持たせている所とか、「一生に一度」という言葉の持つ力強さが、プレイする前から期待感を煽ってくれます。

作品内容の方も、とっても素敵で、私好みのものでした。
序盤は比較的賑やかというか、ギャグっぽいテイストですが、徐々にシリアスになっていく、というような流れもしっかりしていますし、強烈で刺激的などんでん返しこそないものの、伏線が張られ、それがラストにちゃんと結びつく作りは、本作が丁寧に作られた事を感じさせます。

又、一時間ちょい(私がプレイした所、一時間15分でした)という尺も良かったですね。
変な引き延ばしや、よどみがなく、すんなりと読了出来てしまいます。
これは、「祠を建て直す」という目的が明確に示されているからでしょう。この目的の遂行に沿う形で、藤吉郎、そして「神様」との同居生活があり、その果てに「一生に一度の願いを叶える」という神様の約束が示されるわけです。


こうした物語の仕掛けも良かったのですが、何より、私が気に入ってしまったのは、神様のキャラクターそのものです。
外見が可愛い、とかそういうのも勿論ありますが、印象的なセリフ(これが後々効いてくるんです)もありますし、藤吉郎とバカをやったりしつつも、そこに「神様らしさ」を凄く感じさせてくれる、そこが何より良かったと思います。

作品のキモとも云える一生に一度の願いに関しても、それがどんな利己的なものであれ受け入れる。
神様という、人間よりも(まぁ、表現するのが難しいのですが)「上」の存在であるにも関わらず、上から目線ではなく、「神様としての目線」に立ち続けるというか。
そういう、一本筋が通った、人間っぽくても、やはり人間とは違う神様のスタンスがこそが、彼女の本当の魅力だったのではないか、と愚案する次第です。


後半からラストに掛けて、それまでに張られていた伏線が回収されていったりと、物語的に展開があるわけですが、それは、奇を衒ったようなものではなく、寧ろ或る意味では予定調和的とも云えるものになっています。
そして、私は個人的に、その予定調和が非常に好ましく感じたのです。

ノベルゲームも段々と進化してくると、所謂(定義は非常に難しいですが)オーソドックスなシナリオに対する抵抗感というのも生まれてきます。
プレイする側からすれば「またこのパターンかよ」という反応だったり、作る側に立てば「このシナリオで受け入れてもらえるだろうか?」という不安が生まれる、とでも云いましょうか。
故にそこに、ヒネリを加えるという事が行われるわけですけど、それもまたいつしか飽和していき、限りなくtoo muchになっていく……。

けど、オーソドックスなものも、ヒネリを加えたものも実は表裏一体なのです。
オーソドックスな作品という基盤があるからこそ、ヒネリを効かせたものが存在感を持つし、逆も又然り、というわけです。

それに、ノベルゲームに限りませんが、ヒネリの効いたものばかり読んだり見ていたりすると、それはそれで飽きてしまうのです。
そうした時、オーソドックスの良さが再認識されたりする事が多いですね。オーソドックスというか、そのオーソドックスさを作った元祖的なものというか。そうしたオーソドックスではあれど「力のある」物語を皆が求める時期っていうのもあるんじゃないでしょうか。

……と、随分脱線してしまいましたが、本作の場合、私は変にひねったものよりも、断然、現在の結末の方がいいと思ってます。例えそれが予定調和的なものであっても、丁寧に積み重ねられた物語は、ちゃんと感動を与えてくれるのです。


気になった点に関しては、先に挙げた通りなのですが、割と、神様と藤吉郎がじゃれ合うというか、そういうシーンが多くて、しょっちゅう藤吉郎は余計な一言を口に出して、神様に殴られてますw
中盤くらいまで、二人が会話すれば殴られる、という状況が続くわけで、ちょっとくどいかも、と思ったのが一点。

もう一点は、ワイド画面の問題です。
ワイド画面を採用しているのですが、スクリーンショットをご覧頂ければ分かる通り、メッセージウインドウはその「枠」と比してかなり小さいですし、そのワイドさが物語に寄与している部分は、あまり無かったんじゃないかな、と。それならば普通に800×600でも良かったような……といういつもの私の主張ですw


つらつらと書いてきましたが、こういう作品に対しては、自分の考えたことや、その良さを言葉を尽くして書こうとすればするほど、その本質から離れていってしまうような、そんなもどかしさを感じる事があります。
ひとへに、私の文章能力の稚拙さに拠るものですが、「考えるんじゃない、感じるんだ」というようなタイプの作品もやはり、あると思いますし、本作はまさにそれだとも思っています。

とってもお勧めの作品です。
一応、吟醸ではあるのですが、もう少し考えて、大吟醸にするかもしれません。



それでは、また。


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# by s-kuzumi | 2015-03-09 19:56 | サウンドノベル | Comments(2)
2015年 03月 06日

フリーサウンドノベルレビュー 番外編 『昼の国、夜の国』

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道玄斎です、こんばんは。
今日はリハビリがてらに、気になっていた作品をプレイしてみました。
尺こそ15分程度ですが、15分という尺の中に考える材料というか、言い換えるならば、テーマがギュッとつまっていた、そんな印象があります。
というわけで、今回は「晴れ時々グラタン」さんの『昼の国、夜の国』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。


一言で云ってしまえば「荘子的」というか、或いはSFに詳しい方なら『高い城の男』的な世界です。
それ故、舞台は西洋なのですが、どこか微かに東洋的なミステリアスさのある作品になっていたんじゃないかと思います。

冒頭部で語られる主人公の状況は、「妻の忘れ形見の娘が死んでしまった」、というもの。
主人公はこれから一人で生きていかなければいけないわけです。

更に、主人公を気遣ってくれる友人とのやり取りを通して、主人公が「不思議な夢を見ている」という事が明かされます。

タイトルに顕著なように、ここに「二つの世界」が現出する事になるわけです。
つまり、「娘が死んでしまった世界」、そして「娘が生きている世界」です。それをそれぞれ「昼の国」「夜の国」としている、という構造です。


この作品の面白さの一つは、その「昼の世界」「夜の世界」に主従関係が見られないところにあるんじゃないかな? と思いました。
普通、こうした云ってしまえば「パラレルワールド」があるような作品って、割とそれと分かるような感じで「基本の世界」というか、「主」の世界があって、それとは別の「もう一つの世界」(=従の世界)がある、という語られ方をするモノが多いのですが、本作の場合、読み進めていく内に、どっちがどっちなのか、分からなくなってしまうようなところがあるのです。

勿論、冒頭で示された、娘が死んでしまって呆然としている、という状況あってこその物語の展開ですから、その意味で、「昼の世界」が「主」の世界なんだ、と云う事も出来るわけです。
しかし、読み進める内に、そうした最初の状況設定そのものも、何だかあやふやで捉え所がないように思えてくるから不思議です。


また、ラストが他のパラレルワールドモノ(と云ってもいいのかどうか、少し躊躇いはありますが……)とは、一味違っていたという点も大事でしょう。
それぞれの世界の不確かさというか不安定さを以て、「どっちが本当の世界なんだろうね?」と、問い掛けを残しつつ、その余韻を楽しませる、という作品が多いような気がしているのですが、本作はそのタイプではありません。

また、「従の世界」だと思っていた世界こそが実は「主の世界」だったのだ! みたいな『マトリックス』タイプとも違います。

もしかしたら、この物語には或る種の寓意があって、「選択する」ことの意味のようなものに焦点があるのかもしれませんね。流石にちょっと深読みかもですがw


というわけで、小粒ながらもちょっと考えさせられる良い作品でした。
余談ながら、私はこの作者さんの描く「女性キャラのクールな目元」が大好きですw 冷めた目をしつつも、そこに何かしらの情念のようなものが見え隠れするというか、そういう魅力がありますよね。

荘子やらパラレルワールドやらを知っていれば、より一層楽しめる、というか考える事が出来そうな作品です。尺は小粒ですから、気になった方は是非プレイしてみて下さい。



それでは、また。



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# by s-kuzumi | 2015-03-06 19:31 | 日々之雑記 | Comments(0)
2015年 03月 05日

フリーサウンドノベル関係の雑記 箸休めvol.69

道玄斎です、こんにちは。
年度末ということで、色々と処理しなければいけない事も多いんだけど、それも大分片付いてきたよ。
もう少しで、じっくりゲームに向き合えそうなそんな気がするね。

ゲーム界隈では、やっぱり新作は毎日のようにリリースされていて、中にはタイトルだけ見て「お!」と思うようなものがあったりするから、一応ダウンロードだけはしているんだ。
そうそう、ゲーム界隈というと大袈裟かもしれないけど、フリーのノベルゲーム仲間の嬉しい話なんかも、ちらっと風の噂で聞いたりしているから(おめでとうを伝えたいんだけど、なんか急にメールするのもなぁ、なんて思って尻込みしちゃってるんだ。心当たりのある方は是非連絡下さいw)、春に向けていい事も増えてきたね。


さてさて、前回の箸休めでお話した「ファンタジー系の作品を作ろうとしているヤツ」が、ちょこちょことシナリオを書いているようなんだけど、またしても疑問や問題点が出てきたらしいんだよ。
俺も、そうしたニーズ(?)に応えるべく、ファンタジーの古典たる『指輪物語』を読み直したりもしたんだ。ただ、今回の疑問は、『指輪物語』からじゃ回答出来ないようなものでねぇ……。



■その名はギルド

「やっと、第三話の執筆にとりかかれますよ!」

「それはおめでとう。全何話か分からないんだけど、三話となると今までと少し話のパターンを変えた方がいいかもな」

「そう! そこなんですよ! 今までのシナリオは洞窟に入って、化け物を倒してお宝を頂く、という鉄板ネタだったんですけど、ここらへんで、舞台を街に移そうと思うんです」

「つまりシティーアドベンチャーってヤツだよな。シティーアドベンチャーは化け物退治と違って、人間の思惑とかそういうのが絡んでくる事が多いから、より『ドラマ性のある』シナリオになるのが一般的だよ」

「わたしもファンタジーのラノベとか、ファンタジーのガイドブックとかを見て勉強したんですよ! 戦闘というより情報収集だったり、上手い立ち回りが大事なんですよね」

「一般的にはそうだよ。だからこそ、単純な殴り合いじゃ出せない深みがあるんだよ」

「ですから、戦士じゃなくむしろシーフ(盗賊)をフィーチャーしていこうかと思ってるんです」

「シティーアドベンチャーは或る意味、シーフの独壇場みたいなとこはあるよな。それにシーフって裏の世界に通じてるっていうか、ダーティなイメージもあるじゃない? だからそういう属性を絡めた渋めのシナリオが出来るな」

「渋めのシナリオいいですねぇ……。第三話は『渋さ』がコンセプトですし!」


ファンタジーと言っても、毎度毎度ダンジョンに潜る必要はないんだ。
ダンジョンだけじゃなく、街での冒険(シティアドベンチャー)や、ジャングル・森林・砂漠など野外での冒険(ウィルダネスアドベンチャー)を組み合わせていった方が、バリエーションがあって面白いよ。
シティーアドベンチャーなら、「渋さ」も出せるし、ウィルダネスアドベンチャーなら「自然の驚異」だったりの演出が出来る。

それに、冒険での報酬も、ダンジョンなら「怪物が隠し持っていたお宝」というケースが多いけど、例えばシティーアドベンチャーを上手く解決すれば、街の住人や有力者との「コネ」が手に入ったり、ウィルダネスアドベンチャーなら「自然の中で生き抜く知恵」とでも言えばいいかな? そういうものも手に入る。
目にはさやかに見えねども、こういう報酬もとっても大事なものなんだ。こうした報酬が、次のシナリオに繋がっていく事も多いしね。
それに、キャラクター達の意外な一面を描写する絶好の機会でもあるんだ。

ファンタジーと言えばダンジョン、というのも、まぁ間違いじゃないんだけど、冒険の舞台となる場所を上手く切り替えると、作品そのものにも深みが増すよ。


「ん? そこまで方向性が決まってるなら、何も迷う事ないじゃない。何が問題なのよ?」

「ああ、そうだった! 渋めのシナリオでシーフを活かすって方向性はあるんです。けど、そこでどうしても分からない事が出てきたんです」

「というと?」

「ええ、それは『ギルド』なんです」



■ギルドって何だ?

「ギルドねぇ……。シーフとなると『盗賊ギルド』のことだよな」

「ええ、まさにそれです。っていうか、そもそもギルドってのもなんかイメージしづらいんですよね」


ギルドっていうのは、ご存じの通り、「職能集団」というか「職能集団の互助組織」というか、そういうヤツだよ。社会科の教科書にも書いてあるよね。
けど、確かにイメージしづらいよねぇ。ファンタジーならではの「ギルド」なんてものもあるし、意外と一筋縄じゃいかない問題かもね。


「ファンタジーならではのギルド? それはどんなヤツです?」

「ああ、だから『盗賊ギルド』なんかもその一つだよ。あとは『冒険者ギルド』なんてのが設定されてる世界もあるよ」

「じゃあ、一般的なギルドは?」

「それこそ無限にあるよ。『靴ギルド』とか『家具ギルド』とか『鍛冶ギルド』とか。そういえば『石工ギルド』が秘密結社として有名な『フリーメーソン』の母体になったなんて話、聞いたことあるだろ?」

「ああ、そうですね。って、問題は盗賊ギルドですよ!」

「そうだった……。で、盗賊ギルドの何が分からないのよ?」

「なんていうか……何をやってる組織なのか、なんでそこにシーフがいくと情報が手に入るのか、犯罪組織なのに何で存在出来てるのか、とかいっぱいありますよ」


確かに、そこはファンタジーの大きな謎の一つだよね。
「ファンタジー世界にはとにもかくにも『盗賊ギルド』があるんだ!」という、お約束として処理してしまってもいいんだけど、少し突っ込んで考えていくことにしよう。


「よし、じゃあ、まずは、普通のギルドから考えていこうよ」

「お願いします」

「俺の持ってるファンタジーの解説本には、ギルドは『職能集団』だけじゃなくて『専門学校』的な側面もあるんだ、って書いてあるね」

「というと?」

「だって、例えばどのギルドでもそうなんだけど、親方がいて、弟子を育ててるわけでしょ? で、弟子が一人前になったら『卒業制作』をさせるんだよ。で、親方達がそれを審査して基準に達していたら、晴れて合格、君も独り立ちだ! って事になる」

「あっ、なるほど。確かに専門学校的ですね」


普段は親方の下っ端として、雑用をしたり、或る作業工程だけを延々とやらされてる弟子なんだけど、独り立ちの機会が与えられてて、それにパスして自分の店を持てるようになったりするんだ。
そして、そいつも年季が入ってくると親方として弟子をとっていく、というわけだよ。


「職人の世界ですねぇ」

「ああ、まさにそういう認識でいいんじゃないの? 職人の徒弟制度がギルドの一つの教育機関としての側面だよね」

「じゃあ、職能集団ってのは?」

「簡単に言うと、『値段の取り決め』をしたり、『よそ者の排除』を行ったりするんだ」

「んー、値段の取り決めは分かりますよ。組合が決めた値段でそれぞれのモノを販売するって事でしょ? けど、よそ者の排除っていうのは良く分からないなぁ」

「つまりさ、みんなで決めた値段があるわけだよね? けど、ある日違う町から、激安でしかもデザインも悪くない商品を作るヤツがやってきて、店を開いたら……?」

「あっ、それはマズイ」

「うん。だから、そういうよそ者に対して『俺たちのシマで仕事すんじゃねぇ!』ってな具合に、そいつを追っ払って、ギルドのメンバーの利益を守るんだ」

「なるほど。けど、なんか閉鎖的ですねぇ」

「それが中世的ファンタジーの基本的な商売の形態なんだよ」


値段の一定化、よそ者の排除によって、「自由競争」を妨げている、というのがギルドの一面でもあるんだ。
近代になるにつれ、ギルドは解体されていき、自由競争が始まり、それが現代まで続いているんだよ。



■盗賊ギルドに関する一考察

「一般的なギルドについて分かりました。じゃあ、盗賊ギルドは?」

「基本的な概念は同じだと思うな。つまり、幹部は他のギルドで言う所の『親方』なんだよ。それで、まだ未熟な『弟子』を育成するんだ。で、独り立ちした盗賊に関しては、仕事で得た金銭から一定額を徴収してギルド全体にそれを還元する。ギルドの貢献した盗賊は幹部となり、新たな弟子を育成する……そんなイメージじゃないかな」

「ああ、分かりやすいですね。あっ、じゃあ冒険者としてのシーフってのは、まだ弟子の段階なんですかね?」

「いや、『一応独り立ちした』盗賊なんじゃないかな。基礎的な技術は教えてもらって、あとは実践で腕を磨いていく、という段階じゃないかね。でなきゃ仕事も出来ないだろうし」

「社会人一年目みたいなイメージですかね」

「冒険したての頃はね。けど、数々の冒険を通して腕前もあがっていくと、ギルドの中堅どころになったり、あるいは幹部になったりもするんだろうね。そういうシチュエーションでもシナリオが出来るな」

「それも渋いシナリオだなぁ!」


蛇足かもしれないけど、シーフは盗賊ギルドに所属しているというのが一般的でしょ。俺は、シーフは冒険から帰ってきたらそこでの報酬を納めるのと同時に、自分が経験したトラップとか、鍵穴とか、或いは自分が行った街の情報なんかもギルドに提供してるんじゃないかな、って想像してるんだ。

そうした個々のシーフの貢献があって、ギルドの基部を支えているってイメージかな。そんな事を書いてあるファンタジーのラノベや、ガイドブックはないんだけど、ファンタジーだもの、そういう想像力を使ってもいいんじゃないかな。


「ギルドに貢献するわけですね」

「場合によっては新人教育を任される事もあるだろうし、自分自身も最新の技術をそこで学んだりもするんじゃないかねぇ」

「互助組織だっていうのがしっくりきますね。けど、まだ最大の疑問が……」

「ん?」

「盗みって非合法行為ですよね。普通のギルドは合法活動だから存在出来るのは分かりますよ。けど、盗賊ギルドみたいな非合法組織は、なんで取り締まられないんだろう……」

「ああ、それに関しては、俺は暴力団をイメージしてるんだ」

「え!? 暴力団?」

「だって、暴力団って○○組とか○○会とかって形で、みんな知ってるでしょ? 住所や電話番号まで分かる。で、よからぬ活動をしている事は間違いないわけなんだけど、警察は暴力団を解体しないじゃないか」

「確かに……」

「そりゃ、よっぽどハッキリとした悪事の証拠があったり、事件が起きたりしたら逮捕者が出たりするけど、基本的に暗にその存在を警察も認めてるんだよ」

「ふーむ……つまり、みんなその存在を知っていて、お上だって当然知っている。けど、共存しているというわけですね。確かに盗賊ギルド的だ……」

「勿論、細部は違うんだろうけど、その存在の全体的イメージとしては、かなり近いんじゃないかな」

「やっぱり、盗賊ギルドはダーティーな雰囲気がありますねぇ。こりゃ渋いシナリオになるぞ……!」

「ところで、君のシーフのキャラクターってどんなヤツなの?」

「よくぞ聞いてくれました! ハーフエルフの女の子で年齢は200歳。だけど見た目は15歳くらいにしか見えないんです。で、ちょっぴり露出度の高い革鎧を着てて、スカートは膝上20センチくらいですよ! 小首をかしげるのがクセで、無邪気な可愛さがあるんです!」

「…………それ、渋くなるかなぁ……」

「…………」

「…………」



というわけで、今回のお話はこれでおしまいだよ。
ファンタジーに突っ込んでいくのも面白いんだけど、そろそろノベルゲームの方もやらなくちゃ!
けど、たまにメールをもらうから、これからも不定期でこの手のシリーズもやっていくつもりだよ。


それじゃ、またね。
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# by s-kuzumi | 2015-03-05 16:08 | 日々之雑記 | Comments(0)
2015年 02月 11日

なんてことない日々之雑記vol.392

道玄斎です、こんにちは。

またしても間が随分と空いてしまいました。
今日は、例によってお気楽雑記でお茶濁しです。



■年度末のラストスパート

というわけで、年末・年始が凄い忙しかったわけですけれども、その忙しさはもうちょっと続きそうです。
三月になれば、かなり楽になるので、そこまで頑張りたいですねぇ。

やっぱり、年度末というのは忙しくて、色んな行事とか、処理しなければいけない事が山積みです。私はヘタレなので、キャパオーバーになると「やってられるかーっ!」と、暴れる傾向があるんですけど、今年はそれも少なめw

上手くペースを配分したり、厭な気持ちを上手く誤魔化したり……歳を取るってそういうことなのかもしれませんw



■休日探検隊

以前、書いたような気もしますが、私はお休みの日になると「自然」が恋しくなってしまって、日帰りで行けるようなアウトドアに繰り出します。

休日アドベンチャーと称して、山に登ったり、遺跡を見に行ったり、森に分け入ったりするわけですけど、中々いいもんですよ。

特に、夕方の森、竹林なんかは、独特の雰囲気があって凄い好きです。
森や竹林ですから、基本的に薄暗いんです。けど、夕方になると柔らかい光がスッと入ってきて、いつまでも佇んでいたくなるような、なんかセンチメンタルな気持ちになってきます。

そこで、ボーッと佇んだり、座れるようなスペースがあれば、しばし腰を下ろして、その雰囲気をひたすら楽しむ。そんな事をしていると、心が穏やかになってきますねぇ……。

そして、名残を惜しみつつ森から出ると、やっぱり凄くリフレッシュされた感があって、単純に趣味として以上の効果というか、そういうのがある事をヒシヒシと感じます。

事前の調査で、割と人の手が入っているような所だと分かっているのならば、ナイフの類は持っていかない事が多いですね。
逆に、本当に「人が来ない森です」「誰も来ないけど竹林です」と言った所だと、ナイフは必須です。

要するに道があるようで無いわけですから、歩こうとすると前後左右から、尖った草なんかが身体に突き刺さってきますし、一番厄介なのは、顔にそれらがぶつかる、という事です。目に尖った草が入ったら一大事でしょ?

なので、そういう雑草を切り払うのに、小振りのナイフを一本持っていくようにしています。
あんまり大仰なナイフを持っていっても仕方ないですから、アウトドアに調和するような、そういうものを選択しています。

本当にアウトドアでは、刃物が一本あると便利ですよ。
くだものの皮を剥いたり、邪魔な木や草を払ったり、魚をさばいたり、焚き火をする時(近年、地面に直に焚き火をするのは禁止な所が増えてきましたが)にも役立ちます。


あー、そうそう。
世に流布しているナイフについて、一つ不満があったんだった。

刃とかね、そういうのはあまり気にならないんですけど、「鞘」が気になるケースが多いです。
何が良くないのかっていうと、例えば、左腰にナイフをぶらさげるとしますよね。するとストラップの位置によって「太刀を佩く」スタイルになっちゃうんです。

つまり、刃が下を向く形で収納されちゃうんですよね。
それ、凄い使いにくくないですか?

私の理想は、「左腰にナイフをぶら下げると、刃が上向き、つまり『打ち刀』スタイルになる」そういう鞘です。
そっちの方がナイフを取り出しやすいし、日本人には合ってるんじゃないかなって思います。

国内のナイフメーカーも、そこらへんで日本人にとっての使いやすさを追求して欲しいなぁ、なんて。
まぁ、レザークラフトなんかが出来れば、自分の理想の鞘も作れるんでしょうけど、私、不器用なのでw



……と、軽い近況報告とどうでもいい雑記でしたw
けど、ホント、近所の裏山みたいな所でもいいですから、精神的に疲れた時にでも、是非行ってみて下さい。癒されること請け合いですよ!!



それでは、また。
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# by s-kuzumi | 2015-02-11 14:25 | 日々之雑記 | Comments(2)
2015年 01月 10日

フリーサウンドノベルレビュー 『チャイルドポルノ・パンデミック』

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今日の副題 「よく、ふりーむの審査を通ったなぁ……」

ジャンル:チャイルドポルノノベル(?)
プレイ時間:40分程度。
その他:選択肢なし、一本道。15禁。
システム:NScripter

制作年:2014/12/27
容量(圧縮時):95.2MB




道玄斎です、こんにちは。
年末年始の忙しさが、何とか一段落した今日この頃ですが、年末にまんざら知らない仲でもないガムベースさんが、新作をお出しになった、という話を聞きまして、恐る恐るプレイしてみた、というわけです。
というわけで、今回は「チクル妄想工房」さんの『チャイルドポルノ・パンデミック』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。
良かった点

・「熱量」をヒシヒシと感じる。

・絵が上手くなくてもモザイクを掛ける事で、立派な「イラスト」にしてしまうなど、工夫アリ。


気になった点

・読了しても、オチの部分が分かりにくく、伝わってくるものが少ない。

ストーリーは、ふりーむの方から引用しておきましょう。
妹と暮らす男が児童ポルノの世界に生きようとする物語です。
選択肢はありません。
プレイ時間は30分~1時間です。
1作目『よみがえる思い出』から続く話です。
なので『よみがえる思い出』を先にプレイされていると、細かい所がわかりやすいかもしれません。
性描写があるので年齢制限は15歳以上。

こんな感じ。
一応、処女作『よみがえる思い出』との連続性があることが書かれているのですが、前作のプレイが「必須」かと云われれば、そんな事はないだろうな、と思います(エピソードが再生産されたり、とか見所はあるんですが)。処女作で敢えて語られなかった「結末」部分が、本作の発端部になっている、という構造ですね。
尤も、『よみがえる思い出』だけではなく、『やがて僕の訪れる公園』との微かな関連性も、亦感じる事が出来るのではないかと思います。


にしても……よくまぁ、ふりーむの審査を通ったなぁ……という気がしますw
直接的な性行描写みたいなものはないのですが、かなり際どいところまで描かれており、人を選ぶ作品である、という事はほぼ間違いなく云えると思います。

それはさておき、昨年末くらいから、創作物に対して「熱量」という言葉を以て、評価する流れがあるな、と何となく感じています。
つまり、その作品なりの巧拙ではなく、そこに込めた作者の「情熱」というか、力の入り具合を一つの評価軸にする、という潮流です。

ちょっと堅めの文学理論なんかでは、「作者」というものを考慮しない、というのが一般的だと思うのですが、「熱量」という概念は、どうしたって作者と結びついてしまいます。
作者というものの存在抜きには、「そこに込めた情熱」=「熱量」は語れないからです。

文学の研究では、作者は死んでいるか、或いは、自分達とは距離のある所にいるわけですから、作者を考慮しない、という策が採れる一方で、フリーのノベルゲームの場合、作者とプレイヤーの垣根が非常に低いんですよね。
作者自らが、サイトやブログ、或いは近年ではツイッターなどで作品について、自身の口からそのテーマを述べたり、という事は良くあります。
私なんかも経験があるのですが、或る作品についてレビューを書いた後で、「あの作者さんは、ブログで○○って云ってたから、あれは違うんじゃない?」と教えて貰ったり、或いは、作者さんその人から、「実はあそこの部分は○○で」とメールを頂く事も屡々あるわけです。

この、作り手と受け手の距離が極端に近い、というのが、フリーのノベルゲームの大きな特徴の一つだと思います。受け手としてゲームを楽しんでいた人が、ある日発奮して作り手に回る、という事もよくありますしね。
ともあれ、本作『チャイルドポルノ・パンデミック』では、作者ガムベースさんの熱量が、厭という程伝わってきます。

この作品が、何をテーマにしているのか? 何を訴えたいのか? そういう事は良く分からないにしても、です。
「良く分からないけど、なんか凄い力が入ってる……」
それが、私の、本作をプレイしての感想でした。文章は読みやすく、ストーリーの流れも一応追っていける。しかし、ラストシーンが何だか腑に落ちない、というか、良く分からない。けど、強烈なインパクトがそこにはあり、独特の引力も存在している、と思うのです。


ちなみに、作中で主人公が展開する思考は、所謂「抑止論」です。
つまり、「チャイルドポルノを供給し、欲望の捌け口を作ってやる事で、『実際の犯罪』を抑止しているんだ」という考えです。

冷静に考えれば、これには問題があります。
「確かに、チャイルドポルノの供給により、実際の犯罪は抑止出来るかもしれない。しかし、そのチャイルドポルノの被写体の女の子は、みんなの犠牲になるって事なんじゃないの?」というような、問題点です。

救われる人数が多ければ、多少の犠牲は無視しても構わない、という事なのか、それとも、主人公自身が、こうした議論の可能性を考慮出来ない程、何か追い詰められているという状況なのか……決定的な答えは出せないのですが、読んだ人間に対して、何かモヤモヤっとさせる、そういう作りになっている事は確かでしょう。


掲示板なのかツイッターなのか定かではないのですが、主人公が自身の行動や考えを表明する場があり、それに対して、レスをつける人がいる、という場面が何度か出てきます。
そのレスというのが、また困った事に、「妹を無理やり犯して屈服させちまえ!」というようなものでしてw
で、現実の掲示板とかでも、そういう事を書く人っていますよね。けど、それって「ギャグ」で書いてるんじゃないでしょうか? それに対して、「妹にんな事できねーよwww」みたいな、そういうレスが来る事を折り込み済みで、謂わば「遊び」としてのやり取り、だと思うんです。

しかし、本作の主人公は、そこで、そういうレスに対して、一々真面目に受け取り、考え込んじゃうんですよ。
ギャグとしての発話に対し、シリアスに受け止めていく……こういう認識のズレが、作品の(ギャグ的な)面白さであると同時に、主人公の性格的というか内的な問題をあぶり出しているような、そんな気がしました。


色々気に掛かる部分はあるんです。
例えば、主人公の妹「ありさ」は、小学五年生、六年生でありながら、その発話はかなり大人びたものですし、小学生じゃ使わない(使えない)ような言葉もポンポン使って、兄貴を罵倒します。
こういう部分から、妹ありさの存在に、何かを見いだそうとするのも一つの作品の楽しみ方だとは思うのですが、私の手には余るので、深入りは避けましょうw


もしかすると、「チャイルドポルノ」は表象というか、いくらでも付け替え可能な「服」みたいなもので、根本に、チャイルドポルノも包含する、何か「本当に描きたいもの」「本当に主張したい何か」があるのかな? なんて事は考えましたね。


云ってしまえば、良く分からない作品です。
そして、強烈に人を選ぶ作品でもあります。
けれども、他にあまり類を見ない、熱量と、インパクトを持った作品でもあります。

本当に、「一般的な評価」を下しにくい作品で、読者がそれぞれ、感じたものが、それぞれの評価になる、という、ちょっと逃げを打って、本稿を〆たいと思いますw



それでは、また。



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私達が運営している、ノベルゲーム制作支援サイト(素材ポータルサイト)、Novelers' Materialなんてものがあるので、良かったら、利用してやって下さいませ~ 素材作者さんも大募集です!

http://novelersmaterial.slyip.com/index.php

リニューアルも完了し、より使いやすい素材ポータルサイトになっております。

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# by s-kuzumi | 2015-01-10 15:46 | サウンドノベル | Comments(4)
2015年 01月 01日

謹賀新年

道玄斎です、こんばんは。
お正月とはいえ、ちょっと忙しくて更新がこんな時間になってしまいました。



■謹賀新年

改めまして……。

明けましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりました。本年も何卒宜しくお願い申し上げます。


旧年中は、色々公私に渉り忙しく、中々自分のやりたい事に時間を割けない状態が長く続いていました。
ノベルゲームのプレイもその一つです。

しかし、コメントを下さる方、メールを送って下さる方に励まされ、まぁ、物凄く低調ではありますが、少しづつでもゲームを遊ぶ事が出来たのは、嬉しい事でした。

ゲームのプレイこそ、あまりはかばかしく無かったのですが、旧年は、私が手すさびで作ったBGMを使って下さっている作品(或いは私にオーダーして下さった作者さんにも!)にちょこちょこ出会えたのも、嬉しい出来事です。
メロディアスで、一曲の中にキチンとアップダウンがあり、完成度の高いもの……を作りたい、という欲望はあるのですが、腕前(知識?)が今ひとつだということ、自分の好みが、あまり主張せず、縁の下の力持ち的に作品を支える、まさに「BGM」にあるということにより、そんな感じのものを旧年中は作っていました。

大晦日にも、一曲アップしたのですが、「いつもと同じじゃねーか!」という声が聞こえてくる中で、自分なりの拘りというか、そういうものも込めたものを作ったつもりですw


BGM制作のお話のついでに、私達の運営している、参加型素材ポータルサイト、Novelers' Materialについても、ちょこちょこっと。

先年のリニューアルが好評で、ホッと胸をなで下ろしているのですが、今年は、更に便利に、面白く且つ役に立つ機能も盛り込む計画が水面下で進んでいます。
どうぞ、本年もちょこっとNovelers' Materialにもご注目下されば、と思います。


さてさて、大分色々書いてしまったのですが……簡単に云うと、「本年もどうぞ宜しくお願いします!」ということですw

今年は、少しのんびりとゲームを楽しむ余裕くらいはあればいいなぁ、と願いつつ、筆を擱かせて頂きます。



それでは、また。


皇紀二六七五年 正月 
         道玄斎敬白
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# by s-kuzumi | 2015-01-01 20:07 | 日々之雑記 | Comments(2)
2014年 12月 19日

フリーサウンドノベルレビュー 『ウェザーウィッチ 気象魔女の夏』

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今日の副題 「魔女は飛ぶものです!」

ジャンル:ファンタジックADV
プレイ時間:初回は20分程度。トータルで1時間くらい。
その他:選択肢アリ(但し、実質一本道みたいなもの)
システム:吉里吉里/KAG

制作年:2011/5/14(Ver.1.00、本レビューはVer.2.02にて)
容量(圧縮時):59.0MB




道玄斎です、こんばんは。
忙しさがピークに達している今日この頃ですが、ノベルゲームに飢えて飢えて仕方ないので、ついに遊んじゃいました。たまたま、物凄くテンポの良い作品に出会えて、しかも、ちょっと優しい気持ちになれるような、そういう作品だったので、ご紹介致します。
というわけで、今日は「藍恋工廠」さんの『ウェザーウィッチ 気象魔女の夏』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。
良かった点

・気持ちよくプレイ出来る抜群のテンポ感。

・しかし、意外にも重層的な物語の構造。


気になった点

・Extraのストーリーは、上手く本編に織り込んでも良かったのかも。

・テンポの良さと裏返しに、やや情緒的な面が足りない部分も。

ストーリーは、ふりーむから引用しておきましょう。
気象を司る魔女が、気象制御中、事故で落下し、地上人に姿をさらしてしまう。
そのことが原因で左遷されるのだが、その先でまた、同じような事故が起こり……

クリア後に有効になる選択肢により、物語は二つに分岐します。
プレイ時間は全部で1時間半程度です。

こんな感じ。



さて、以前ご紹介した事がある『娘子隊皓旗』の作者さんの作品です。
ちょっとファンタジックで、心温まるような、そういう作品でした。

あとがきを読むと分かるのですが、「気象+魔女」という組み合わせの面白さを発見し、それを物語として作っていった、という事のようです。

確かに、巷に溢れる「魔女」というのは、かなりステレオタイプでして、攻撃的な超自然的な力を行使でき、退廃的だったり、妙にミステリアスな造型だったり……という事が多いのですが、本作に出てくる「気象魔女」、フィレルは明るい「女の子」というような感じですし、一般にイメージされる「魔女もの」とは一味違う作品になっている、と云えるでしょう。

この「気象魔女」が、本作のオリジナリティの柱だと思うのですが、実は「天候魔女」と呼ばれる存在は「実在」していました。
……と、この事を突き詰めていく為に、少しだけ久しぶりに脱線させて頂きますw


そもそも、魔女ってなんでしょう?
史実との接点、という所では、やはり「魔女狩り」で摘発された人々、というのが第一にイメージされてきますが、ご存じの通り、「魔女狩り」で摘発され、結果処刑されてしまった人々の中には、男もいますし、実際には冤罪だらけだったわけです(当たり前ですね)。

ただ、その初期の段階では、「こいつは、どうも魔女じゃないか?」と思われるような、疑わしい女性が摘発され、それが「魔女狩り」という大きなムーブメントになっていったわけです。
つまり、「魔“女”」ですから、最初は「女性」が魔女と目され、その後、概念が拡大していったのです。

問題は、どんな女性が魔女とされたのか、という所なんですが、これには二つの系統があります。
一つは、「薬草などの知識が豊富で、占いなども行う女性」の系統です。独自に伝承された医学的・薬学的な知識を持ち、占いなどの神秘的な分野に通じていた人々ですね。

例えば、『魔女の宅急便』の映画を見ると、キキのお母さん(彼女も亦魔女なのです)が、薬を調合しているシーンが描かれています。これは、まさに第一のタイプの魔女の姿です。

もう一方のタイプの魔女は、、「共同体の中での嫌われ者や、社会的な弱者」の系統です。
前者と比較して、「神秘=魔的」な力こそ、あまり感じさせないものの、或るコンテクストに於いて、「有害」と見なされていた人々、と云えましょう。

この二者を比較すると、私達が一般に思い浮かべる魔女は、やはり前者の魔女の系統、という事になりましょうか。


さて、肝心の天候魔女、なんですが、どうも、やはりそれも前者の系統なんじゃないかな、と思います。
本作に於ける気象魔女というのは、「自然現象」として私達が受け止めている、降雨や嵐、或いは快晴、虹などを管理する存在です。そこに「善悪」の概念は存在せず、基本としては、予定表に従い、粛々と気象を管理していく、というのがその姿のようです。
しかしながら、自分達の気象管理によって困る人々がいる、という部分で、主人公フィレル等が悩むシーンもあり、気象魔女のあり方そのものに一歩踏み込む描写もある、とお伝えしておきましょう。

それはさておき、「実在」の天候魔女とは、ズバリ、「悪天候を呼び寄せ、作物の実りを悪くしたりする存在」です。つまり、「天候魔女」という事で告発され、処刑された人もいた、という事です。
この天候魔女は、やはり天候を操る、という神秘的な力を持っている為、私は一番目のパターンの魔女のヴァリアントだと思いますよ。

長々と説明してきましたが、実は天候・気象を操るとされる「魔女」がいた、というのは事実なんですね。
ただ、まぁ、説明した通り、本作の「気象魔女」というのは、そこに「善悪」の基準や指針があって、天候を操っているわけではなく、「仕事」として天候の管理をしている、という造型で、それ故、自らの引き起こした天候によって苦しむ人々を見て、心を痛める事もあるわけです。


物語は、前述の通り、淀みなく、流れるように進んでいきます。
本当にテンポ良く、気持ちよくプレイ出来る、というのは物凄い高ポイントなんですが、一方で、「ここはもうちょいじっくりと描写しても良かったかな」と思える所もあるのです。

その一つが、今お話した、「気象を操る事によって、人々を苦しめる事がある」という問題です。
気象魔女の存在そのものに関わる重大な問題だと思うのですが、その悩みは、フィレル達の感情を揺さぶり、行動の発端にはなるんです。
けど、その問題に対して、フィレル達は何か自分なりの結論を出す、という事はないんですよね。云うなれば、その問題は、サラリと流れて行ってしまうわけです。

気象魔女というオリジナリティと、そのオリジナリティ故に生じる悩みなので、もうちょっと掘り下げて描写されても良かったかな、と。
また、悲しさなら悲しさ、嬉しさなら嬉しさを、もっとジックリと表現する部分、つまり情緒的な表現が少し物足りなかったかな。


一方で、作品は相当重層的に出来ています。
そこの厚みに関しては大いに評価したい所。
ネタバレになりそうなので、少し自粛しながら話すと、気象魔女達が積み上げてきた「物語」が、物語前史としてあって、その上に、本作の一番の主人公という立ち位置のフィレルの物語が載っかっている、という作りです。

勿論、その物語前史は、ちょくちょくと顔を出し、或いは仄めかされたりして、フィレルの物語を楽しみながら、自然と、その深さを感じられるようになっています。
で、取り敢えず本編を読了すると、Extraの一つとして、物語前史そのものを読む事が出来るようになっていました。

まさにExtraに入るに相応しいお話なんですが、私は、何となくのレベルで、「これ、本編に上手いこと溶け込ませちゃった方がグッときたかも」と思ってしまったんですよね。

本編があって、そこでの物語に決着が着く。
その本編を補完するようなExtraがある。
Extraを見ると、本編の内容が良く分かる。

って事なんですが、それだったら、最初っから本編に、Extraの内容を織り込んでしまえば、本編のラストでもっとガツンとインパクトがあったんじゃないかな、と。


私はこうやってお気楽に書き飛ばしてますけど、実際にやろうと思ったら結構大変だというのも分かりますw
だって、時間軸が違うわけですから、場面を上手く変えてやる必要があり、また主人公も違うわけで、視点の管理も必要になってきます。

上手く出来れば、効果的かもしれませんが、実際に上手く出来るかどうか、は分からない。
まぁ、何となく私が感じたこと、って事でご容赦下さいませ。


イラストはついていませんが、そこが却ってプレイヤーのイマジネーションを掻き立てますねぇ。
最近は、スマホ向けのノベルゲームなんてのも良く目にするのですが、「イラストがない」とか「イラストが綺麗じゃない」とか、そこのビジュアル部分が評価軸になっている、そうしたレビューを良く見かけます。
そうした意見だって当然あるとは思いますが、そこがそのレビューの主軸になっちゃうってのはなぁ……と、常々思っています。

優しい気持ちになれるような、そして同時にスピード感のある作品を探している方は、是非プレイしてみて下さい。


今日は脱線多めでしたけど、こんなところで。
それでは、また。



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# by s-kuzumi | 2014-12-19 20:19 | サウンドノベル | Comments(2)
2014年 12月 05日

なんてことない日々之雑記vol.391

諸般の事情により、この記事は削除いたしました。
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# by s-kuzumi | 2014-12-05 17:58 | 日々之雑記 | Comments(0)
2014年 11月 06日

フリーサウンドノベル関係の雑記 箸休めvol.68

道玄斎です、こんばんは。
結局、風邪が全然治らなくて、昨日も病院に行ってきたんだよ。私は肺炎とか罹りやすいから、レントゲンとか撮って貰ったりしてね。結果、ただ風邪が長引いているだけ、って事だったんだけど、早く元気にならないかなぁ。

で、今日も例によって箸休め。
先日、ファンタジーノベルゲームを作ろうとしている人から相談を受けたんだ。
話を聞いてみると、「世界を救うんだ!」みたいな大きなファンタジーじゃなくて、云ってしまえばチマチマした事件を解決していく、人情派トラブルシューターものだったんだよ。

相談の要点は、つまり「主人公達のベースキャンプとなる、所謂冒険者の宿について、何かネタが欲しい」という事だったんで、渋谷の、とあるパプで話をする事にしたんだ。うってつけの場所でしょう?



■パブってなあに?

「ということで、冒険者の宿の何が知りたいのよ?」

「そうですね……まず、ああいった冒険者の宿屋っていうのは実在したんですか?」

「おいおい、魔法をぶっ放したり、剣をぶら下げて怪物を倒す連中が実在しないんだから、冒険者の宿なんてのはフィクションだよ」

「あぁ、そういえばそうですよねぇ」

「けど、そのモデルは勿論あるんだ」

「え? どこです?」

「ここだよ。パブ。ファンタジー作品に出てくる宿屋、あるいは冒険者の宿は、明らかにパブを一つのモデルにしているんだよ」

「だから、今日はここで飲み食いすることにしたんですね」

「ファンタジーって、雰囲気っていうか『ファンタジー感』が大事だ思うんだよね。これが『和民』だったら、ちょっとファンタジーの話をする雰囲気じゃないだろ?」

「まぁ、確かに……あれっ? けどおかしいですよ」

「ん? なに?」

「冒険者の宿を調べてたら、『イン』とか『エールハウス』とか『タヴァン』というのが、冒険者の宿屋に近い、なんて書いてありましたよ。パブなんて一言もなかったですよ」

「うん、そいつらを纏めて『パブリックハウス』、略して『パブ』っていうんだ」

「えー! なんだか良くわからないなぁ」

「つまり、『パブ』って大きな括りがあるんだよ。その中には歴史的に『イン』や『エールハウス』、そして『タヴァン』というものがあった。で、現代では、その3つが融合したり変化したりして、所謂洋風居酒屋みたいのになって、それを『パブ』って呼んでいるんだ」


ここが、パブのややこしい所だね。
つまり、現在俺たちが利用出来るパブが出来るまでに、実はそれなりの紆余曲折があって、段々と現在のスタイルに固定されてきた、ってことなんだ。
ただ、その機能っていうのかな、そういうものは、昔も今もそう変わらないんだよ。


「ふむふむ。じゃあ、『イン』や『エールハウス』、『タヴァン』っていうのは、全部同じって考えてもいいんですか?」

「そう解説してある本なんかも多いよね。『基本的に大差はない』みたいなね。けど、実は微妙に違うんだよ」

「と、いいますと?」

「そのお店の業務形態が、どこに軸足を置いているか、で一応分けられるんだ。『イン』っていうのは、今でも『東急イン』なんてホテルがあるから分かるだろうけど、あれは『宿泊を提供すること』に業務の主軸があるんだ。勿論素泊まりだけじゃ味気ないから、食事だって提供するし、お酒だって出てくるんだよ」

「じゃあ、『エールハウス』と『タヴァン』は?」

「『エールハウス』の方は、これは『お酒を提供すること』に軸足があるから、現代風に云うと居酒屋だね。『タヴァン』は、『美味しい料理を提供すること』が目的だから、実はレストランに近いんだ」

「ははぁ……実は違いがあるんですね」

「まぁ、一応はね。けど、『イン』でも飲食は出来るし、客を泊める部屋を備えた『エールハウス』だってある。現代だと四谷にある『オテル・ドゥ・ミクニ』って有名なフランス料理のお店があるだろ? 実際そこは宿泊出来るのか分からないんだけど、嘘でも『Hotel』って文字が入ってるんだ。こういうのが『タヴァン』のイメージに割と近いんじゃないかな? 勿論、もっと『タヴァン』は大衆的なお店なんだろうけどもね」

「だから、それぞれの境界が曖昧なんですね」

「そういうこと」


「イン」と「エールハウス」、そして「タヴァン」には、一応こんな区分けがあるんだ。
けど、「大差はない」で片付けてしまってもいいと思うな。大事なことは、冒険者と云われる輩は、「宿泊・飲食が出来る場所にいる」ってところなんだよ。
イメージとしては、やっぱり「タヴァン」寄りではなく、「イン」や「エールハウス」のように、誰でも気軽にフラッと入ってくれるような、そういう感じはするんだけどもね。



■パブの様々な役割

「まさに冒険者の宿ですねぇ。二階が部屋になってて、一階が酒場になってるってのが一般的な冒険者の宿ですからね」

「そうそう。それで普段はお酒を呑んでくだを巻いてるんだけど、依頼がくれば冒険に行き、そしてまたそこに戻ってくるのさ」

「あっ、そうだ! 思い出した。その依頼ですよ、聞きたかったのは!」

「依頼?」

「その依頼って、ファンタジー系の小説だと、冒険者の宿の壁とかに張り出されるんですよね」

「うん、そういうのが多いよね。あるいはお店の人が、依頼内容を見て、店にいる冒険者のパーティに声を掛けるとかね」

「ああ、そのパターンも定番ですよね。でも、ファンタジー世界が現実の世界じゃないから、そういう依頼のシステムも、フィクションなんですよね? 実は、依頼人からどういうルートで、主人公達に依頼が来るのか、ちょっと悩んでるんですよ」


ああ、そうだった。
元々は、自作ファンタジーノベルゲーム制作の為の集まりだったんだ、これは。
ついつい、脱線してパブそのものについて話し込んじゃったよ……。けど、こういう、時に脱線しながら、色んな話を楽しむ、っていうのが、パブの醍醐味だよね。


「うーん、この依頼システムも完全にフィクションってわけじゃないと俺は思ってるんだ」

「やっぱり何かモデルがあるんですか?」

「どうもね、パブっていうのは、時代が経つにつれ、社会的な機能を持つようになってくるんだよね。娯楽遊興の場であるのは勿論、給料を渡す場所になったり、商談をする場所になったり、とかね。裁判の場所にもなったらしんだよ。で、パブはその内『職業斡旋所』の役割も果たすようになってくるんだ」

「へぇ~けど、それはそれ専門の業者とかがいそうですけどもね」

「勿論、都会に行けば口入れ屋の一つや二つあったと思うよ。けど、パブなら、もっとその地域に密着した仕事の斡旋をしたりってことも出来ただろうし、急に人を集める臨時の募集みたいのもスムーズにいけそうじゃない?」

「基本、人がいつも集まってくる場所ですもんね」

「でさ、そういう、地域に密着した仕事、臨時の仕事っていうと……まさに、冒険者の仕事そのものじゃないか! 『最近、北の山に悪い魔法使いが住み着いて……』とか、『坑道が落盤で崩れてしまって、急遽埋まった人を掘り出す人手が欲しい』とかさ」

「ああ、確かに! 冒険の第一話は、近所に住み着いたゴブリンを急な依頼で退治するもんですしね!」

「だから、パブには職業斡旋としての役割が史実としてあった。そこに冒険者斡旋という要素を足したのが、ファンタジーの冒険者の宿、って気が俺はしてるんだ。冒険者だって職業には変わりないもの」


勿論、『冒険者の宿 ~その歴史的背景と役割~』なんて本や論文があるわけじゃないから、俺の推測なんだけどもね。けど、案外いい線いってるんじゃないかな?


「ということは、従来型の依頼でも全然おかしくはないんですね」

「勿論。逆に何で悩んでいたのか聞きたいくらいだよ」

「いや、実は最近プレイしたゲームなんですけど……あっ、RPGなんですけどもね。そこの宿というか酒場は、オヤジが硬派でして、酒は出すけど、食事は出さない、騒ぐことも許さない、冒険の依頼なんてもってのほかってヤツだったんですよ」

「なんか、頑固オヤジのラーメン屋みたいだなぁ!」

「でも、その店の雰囲気も中々良かったんですよ。確かに頑固オヤジなんですけど、そういう空間があってもいいな、って思っちゃったんですよねぇ。そしたら、一般的なファンタジーの依頼も、一工夫した方がいいのかな? とか考えちゃって」


うん、これは難しい問題かもしれないね。
つまり、ファンタジーにせよ冒険者の宿にせよ、見てきた通り、大体、物事には原型、つまりモデルがあるんだ。そうしたモデルから逸脱したお店の存在をどうするのか? ということなんだよね。

結論から云ってしまえば、魅力的で、その作品の中で違和感がなければ、自由にしたらいいんじゃないかな?
そもそもファンタジーだって、中世「風」のごった煮的な世界なんだしね。ただ、お店の名前に、『華屋与平衛』とか付けるのは勘弁してね。最低限の雰囲気ってのは、やっぱり保持しておかないとね。


「あたりまえですよ! 流石にそんな名前にはしませんって!」

「まぁまぁ……。で、どうするの? 従来型の冒険者の宿から依頼を受けるパターンにするの? それともなんか別の魅力的なお店を考えてみる?」

「……道玄斎さんはどっちがいいと思います?」



■お店の名前

うーん、こういう大事なジャッジメントを人に投げないで欲しいなぁ。
大事な部分を人に投げると、結局どう転ぼうとも、なんか不満が残ったりするもんだよ。


「けど、そうは云っても悩んでるんですよ~」

「俺だったら……一から雰囲気のある酒場を生み出すのは難しそうだから、従来型、かな」

「もちろん、それだけが理由じゃないんでしょ?」

「うん。あくまでそいつらの拠点は、従来型の冒険者の宿でもいいと思うんだよ。けどさ、シナリオを少しひねれば、依頼を受ける場は広がるよな」

「というと?」

「だからさ、毎度律儀に、冒険者の宿が斡旋してくれる仕事だけをうける、っていうのもなんかおかしいだろ? むしろ、街に出て買い物か何かしてたら、トラブルに巻き込まれて、そこから済し崩し的に依頼が発生して……みたいなパターンがあってもいいってことだよ」

「ああ、なるほど。確かにそうですね」

「で、その依頼人から詳しい事情を聞くために、馴染みの宿に連れて行く、とかね。そういう利用法だって全然アリだろ? だから、ハコとしての従来型の冒険者の宿を使いながら、依頼にはバリエーションを持たせていくんだよ」

「逆にそうでないと、単調になっちゃうなぁ」

「そうだよ。しかし君も大分酔ってるなぁ。それ何杯目だ?」

「この黒ビールおいしいんですよ! んー、4杯……5杯目だったかな……」

「よくそんなに呑めるなぁ! まぁ、吐いたり寝たりしなきゃいいよ。で、その冒険者の宿だけどさ、ちょっと名前くらい凝ってみたら?」

「それもよくありますよね。『踊る●●亭』とか」

「そうそう。実際、ロンドンのパブにもかなり変わった名前のパブがあるんだよ」

「動物をかけあわせた名前だったり、それこそモンスターの名前がついてる呑み屋があるって聞いたことありますよ」

「俺が大好きなSF小説の『白鹿亭奇譚』っていうのがあるんだけど、これもロンドンの架空のパブの名前だよ。あまり奇抜な名前にせず、『白鹿亭』くらいのネーミングを狙ってみるのがいいんじゃないかな?」

「了解です~」


こいつ、もう大分酔ってるよ……。
多分、酔いが覚めたら、今日の話なんて全部吹っ飛んでるパターンだと思うぜ……。


■宴の終わり

「話は戻るんだけどさ、君の呑んでる黒ビール、一杯1000円超えるだろ」

「けど、一杯入ってきますよ~」

「1パイントだから、500mlの缶よりちょい多いくらいか……って、それを5杯も6杯も呑んでるのかよ……」

「そういう道玄斎さんは、さっきから全然お酒呑んでないじゃないですか」

「俺は酒弱いの! あと、あまり云いたくなかったが、懐が痛むから、ほどほどにしてるんだよ!」

「ここは、その都度お勘定ですから、割り勘にならないんですよね」

「そこがパブのいいところだよ。自分が自分の責任において、呑みたいだけ呑む。実にいいじゃないか」

「道玄斎さんはケチくさいなぁ! あっ、お勘定がその都度で別々だからこのお店選んだんでしょ!?」


もー、冒険者の宿の話をするっていうから、パブにしたんじゃないか。
けど、もう酔って気持ちよくなっている人の前では、何を云っても無駄なんだ。まぁ、勘定が都度で、別々だからっていうのも決め手の一つだったんだけどもね……。


「そうだよ、俺はケチなんだよ。けど、無い袖は振れないからな、借金してまで呑むよりマシだい!」

「あー、もー、すぐに開き直るんだから」

「けどさ、一応この店もさ、3/4パイントか、1パイントかで量を選べるんだけど、ロンドンのパブのようにハーフパイントは選べないんだよなぁ……」

「あっ、ハーフの方が料金が安いから、そういう事いうんでしょ? ほんとしみったれてるなぁ!」

「何とでも云ってくれ……。けど、俺が呑むんだったら、正直、ハーフパイントくらいが丁度いいんだよ。それ以上呑むと、俺は寝ちゃうし、下手をすると吐いちゃうんだ」

「うげっ、それは勘弁してくださいよ……」

「今日は、ほら、3/4パイント注文して、その半分くらいしか呑んでないだろ? このくらいならまだ大丈夫だよ」

「にしても、道玄斎さん、意外とパブに詳しかったですねぇ。パイントなんて、馴染みのない単位なのに、知ってる風だし」

「まぁね。俺は結構イギリス好きだし、イギリスの文化にも興味があるんだよ。特にパブなんて、いわば人生の交差点みたいな場所だろ? そういうの俺は大好きなんだよ。ここはハーフパイントが頼めないのが欠点だけどもな……」

「じゃあ、実際ロンドンに行かれたら、いきつけのパブではいつもハーフパイントなんですか?」

「あぁ……それね……」

「ん? なんか急に歯切れが悪いですね……」

「いや……実は、俺……イギリス行ったこと、ないんだ……」

「…………!」



というわけで、今日のお話はここでおしまい。
そんなに直接的にノベルゲームに関わるって話じゃないけど、たまには、お酒の話もいいもんでしょ。



それでは、また。
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# by s-kuzumi | 2014-11-06 20:19 | サウンドノベル | Comments(3)
2014年 10月 25日

なんてことない日々之雑記vol.390

諸般の事情により、この記事は削除いたしました。
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# by s-kuzumi | 2014-10-25 22:09 | 日々之雑記 | Comments(0)