2009年 03月 16日
今日の副題 「元祖! ループ作品」 ※大吟醸 ジャンル:現代伝奇(?) プレイ時間:~10時間 その他:選択肢はあるが、作品の流れそのものには影響しない。 システム:NScripter 制作年:2001/10/10(最初期)、今回プレイしたものは2007/1/13に改訂されたもの。 容量(圧縮時):57.4MB 道玄斎です、こんにちは。 今日は、こんな時間にゲームで遊んでプレイしたりしています。とっても暖かくて良い日ですね。 布団を干したり、色々やっています。で、今更紹介するのも何だか気が引けるんですけれども、ノベルゲーム/サウンドノベルファンだったら、きっとプレイしているハズの作品をご紹介。文句なしの大吟醸です。 というわけで、今回は「ゲルひみつ結社」さんの『ひとかた』です。 良かった点 ストーリーはサイトの方から引用しておきましょう。 静かな田舎町、打追。南護は、その地中に眠る牛鬼を退治すべく依頼を受けて打追町にやってきた。牛鬼は十二年に一度、力を増す。そして今年はその十二年目にあたるのだ。 というもの。 前回プレイしたのが、相当前だったのですが、今回readmeを見てびっくりしました。何と2007年まであれこれと改訂がなされていたんですね。恐らく、最も大きな変更は、2006年の6/18日付のものなのではないでしょうか? というのは、ベクター向けに修正、と書かれているんですよ。以前、私がプレイした時には、18禁でした。といっても、そういうのがメインではなくて、飽くまでお話の中の本当に一部に組み込まれている、というものでしたけれども。 今回プレイしたヴァージョンでは、そうした性的なシーンがカットされ、且つ、下ネタなんかもカットされたのではないかと思います。昔は主人公護は、もっとはっちゃけたヤツというか、結構下ネタとか、しょーもねーギャグ全開で、所謂エロゲの主人公を地でいくようなタイプだったんですけれども、今回はそうした部分が非常に少なくなっているように感じました。実際の所、どうなんでしょ? 本当に下ネタ的な部分、カットされたのかなぁ? 今、Wikipediaの項目を見てみると、やっぱり「寒いおやじギャグを連発するが、改変版ではある程度修正されている」なんて書いてあります。やっぱりカットされたみたいですね。 多分、当時プレイした人が、改めて現行のヴァージョンをプレイすると、そのプレイのしやすさ、或いはテンポの良さにちょっと吃驚するんじゃないでしょうか? や、元々(ループの連続を抜かせば)テンポは良い作品だったのですが、例の「寒いおやじギャグ」や下ネタで、局所的にテンポが悪くなってた部分があったハズ。 さて、多くのノベルゲーム/サウンドノベルファンがプレイして、そして多くのレビュワーが本作のレビューをお書きになっています。一体、そこで私が何を書くんだ? って話なんですけれども……。 そうねぇ、正直、「未プレイの人が居たら、兎に角プレイしてくれ!」としか言えないのだけれども、折角、2回、それもヴァージョン違いのものをプレイしているので、今回新たに気がついた、本作の良いところ、なんかに焦点を当てつつ、いつものように語っていく事にしましょう。 今回、改めてプレイしてみて、気がついた点は、「実は描写がかなり丁寧」だという事。 一例を挙げると、さりげなく食事に「虫除けの網」が掛かっている事が語られたり、或いは、「蝶番みたいに、ぺったんぺったんと頭を下げた」とか、ちょっと気の利いた表現が多いんですよ。 ラスト付近だって、白装束にカナブンがぶつかる、なんてシーンがちらりと出てきますけれども、そんな描写は無くても全然問題ないんですよね。けれども、何気ないリアリティを丁寧に描く事で、「伝奇」という言わば大きな嘘(現実では無いという意味で、ね)を根本的な部分で補強しているというか、支えているというか。 登場人物の描き方も、いいですよね。 やはり、名作と呼ばれる作品は、「脇役」が魅力的なんですよ。主人公とヒロインだけキャラが立っていて、あとはお決まりの「悪友役」みたいのが出てくるのとは一味違う。 作品世界は、主人公とヒロインだけで成り立っているのではなく、「その世界」に生きている人々、全てが支え合って存在している気がします。ですから、脇役を丁寧に描くこと、脇役にも魅力を感じさせるようにすること、それが大切になってくるのではないでしょうか? 勿論、ジャンルによっては、「僕と君」しかいないなんてものもあるでしょうし、そうした作品の中に名作がある事、否定しません。 しかし、王道は「脇役を含め、魅力的な世界を構築していくこと」、それが大事な事だと思うのです。それは、言い換えると「丁寧な描写」という事でもあるわけです。 本作では、ヒロインとヒロイン的とでもいいましょうか、そういう女性キャラが何人か出てくるのですが、立ち絵や一枚絵がなくとも、ばっちりそれぞれのキャラの特徴や性格が分かります。当然、どの娘もみんな魅力的です。個人的には、智恵さんが好きですね。正ヒロイン(?)の美咲も悪くないですけれども、どうしても智恵さん的な造型に惹かれてしまいます。 依絵さんに関しても(彼女をヒロインやヒロイン的な女性にカウントするのは些か抵抗があるのだけれども)、最後までプレイすると、憎めないというか、思わずある種の愛しさを抱いてしまうような……。それも、やはり依絵という人物が「作品世界の中で生きて」いる事に起因するのでしょう。彼女は彼女なりの『ひとかた』という物語を紡いでいるわけです。 そう、脇役達は脇役達で、それぞれがそれぞれの『ひとかた』という物語を、精一杯生きている。そのリアリティこそが、作品を支えていると言っても過言ではないだろう、と。 本作を語る上で、避けて通れない問題は、「ループ」です。 やはり、伝奇調の作品では多い気がしますが(『時流』とかね)、私の勝手なイメージでは、本作『ひとかた』こそが、そのループの先駆けというか、元祖的な存在なのです。勿論、ノベルゲームだけでなく、他のジャンル(小説とか)まで目配りをすれば、きっとループという装置は本作以前にも色々見つかると思います。 それでも、本作の「ループ」が後続のノベルゲームに与えた影響はやはり無視できないものがあるのではないか、とも思うのです。 このループのせいで、本作のプレイ時間は平均10時間くらいになっているそうです。 ただ、実はNScripterですから、ループ部分で既読スキップを使うと、かなり時間を短縮出来ちゃいます。あっ、初めてプレイするって方は、ループ部分もしっかり見て下さいw ループについてあれこれと考えてみると、近年のループものって主人公が最初の方は「ループしている事に気がつかない」というようなものが割と増えてきている気がするのですが、本作は、ばっちり主人公がループであることを認知します。「夢」という捉え方をしているものの、ちゃんとそこに「ループ性」を感じ取っているんですよね。 で、今述べたように主人公がループを認知しているか/していないかってのは、結構な問題であるようにも思えます。ループするって事は基本的に主人公が「マズイ選択」をして、死亡した際に発動します。主人公はループに気がつかない。けれども、読者であるプレイヤーは「何がまずかったのか?」を画面越しで見ている。 となると、次、「同じ場面」が出たときにプレイヤーは「正しい選択」をする事が可能です。当たり前ですけれども。 しかし、ループの存在を主人公が認知していると、ループした際に自分を危険に陥れる人物が登場した際、ちゃんと地の文で「あのやろう……」みたいな、感情が表現され、プレイヤーも同じような感情を持つ。で、主人公とプレイヤーが「協力」するようなイメージで、「正しい選択」をしていく。 つまり「認知型」のループは、主人公とプレイヤーを一体化させ、より深くプレイヤーを作品にのめり込ませる、そういう装置になっているのではないかと愚案致します。 勿論、本作は「認知型」のループです。 そうそう、ループと選択肢に関連して、なんですけれども、今回一度、「明らかに駄目な選択肢」をループ時に選択してみました。そう、ループ前の世界ではそれで死亡してしまう、という選択肢です。 だけれども、再度ループが行われるだけで、それでバッドエンドにはなりませんでした。つまり、正しい選択をしないと延々にループから抜け出せないというw あと敢えて述べておくとすれば、音楽が良い、という辺りかな? かなり雰囲気の良い曲が流れます。作品時間に相応しい「夏らしさ」を感じさせてくれる楽曲が多いかも。 夏っていっても、太陽真っ盛り、飛び出せ青春! って感じでもなくて、どことなく穏やかで気怠くて、やはり舞台である「海の町」を感じさせてくれる、夕凪のような曲があって、個人的にかなりヒットしました。「依絵のテーマ」なんですけれども。 ちなみに、舞台はどうも、真鶴のようですよ? 本作でのボスというか悪の親玉たる存在が牛鬼なんて名前ですから、私は最初てっきり四国だと思っていました。私の記憶が確かならば「牛鬼祭り」ってのが四国のどこかにあったはずです。牛鬼ってのは、濡れ女なる妖怪とタッグを組んで人間を殺す悪いヤツ、なんですが、作品の中では、或る意味でイカニモな悪役です。 ですので、本作の目的は、「牛鬼とその協力者を捜し出し、牛鬼を討伐する事」なんですね。 で、ループする事で、多色刷りのシルクスクリーンのように、少しづつ手がかりや、真実、事件の背後にあるものが見えてくるという構造。そうして、少しづつ主人公とプレイヤーが一体になり、事件の真相に近づいていくわけで、長時間プレイでも苦にならない面白さがあります。 最後のループは流石に「ここでまたループかよ!」と、少しだけイラっとしましたがw ともあれ、ラストは意外な程あっさりしていて、それでいて思わず涙が出てしまうような、印象的なラスト。単純な「感動」とかとも違う手触りがあります。 気になった点は、敢えて挙げるならば、背景画像の加工かなぁ? 少し前のゲームでは多いタイプなんですが、大体、キャンバス地のように加工するタイプ。写真をそのまま使っちゃうと「あそこだ!」って分かってしまったり、フィクションであるはずの作品が妙に悪い意味で現実感を帯びてしまったりする為、そういう加工にしているのかしら? ただ、私は、なんですけれども、何となく全部が全部キャンバス地加工だと目が疲れてしまいます。 最大の「気になる点」だった、下ネタやアレな風味のギャグが結構カットされていたので、こんな所でしょうw 「NaGISA net」さんの『カレイドスコープ』同様に、立ち絵、一枚絵がなくても、丁寧に描写された良質のシナリオ、そして脇役を含めたキャラクターの魅力が発揮されていれば、自ずとレベルの高い作品が出来上がる、というお手本のような作品です(勿論、高い構成力ってのも必要ですが)。フリーのノベルゲーム/サウンドノベルの最高峰の一つでしょう。 プレイ時間がかなり長目ですが、もし、まだ未プレイという方がいらしたら、是非プレイしてみて下さい。 そして、昔プレイした事がある、という方も改めて是非。現行のヴァージョンでは更に磨きが掛かって(例の下ネタも抜けて)、プレイのしやすさ、感情移入度の高さが向上していることが分かるはずです。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2009-03-16 16:35
| サウンドノベル
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