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久住女中本舗

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2009年 04月 07日

『江戸怪談集』 高田衛編・校注 岩波文庫

道玄斎です、こんばんは。
今日は久々に読書記録。や、まぁ、ここに書かないだけで日々本は読んでいるのですが、ちょっと面白くて且つ役に立ちそうな本でしたので、ご紹介致しましょう。


実は、隣に並んでいた『耳囊』とどちらにしようかと迷ったんですよね。
五分くらい書店の本棚の前で悩んだ結果、もうちょっと直接的なタイトルの『江戸怪談集』の上巻を買う事にしたというわけです。

タイトルが示すように、「怪談集」です。
怖い話が一杯詰まっているのですが、一つ注意が必要になります。それは本書が「代表的な怪談本から、作品を精選した」一種のアンソロジーになっている、という点です。有名な江戸期の怪談本、11種類から面白そうな部分をそれぞれ抜き出して、「怪談集」としてまとめた本、という事になります。

移動時間に読んでいる為、哀しい哉、まだ全て読んでいないのですが、やっぱりとっても面白いですよ。
江戸時代独自の言葉(或いは、それが元々収録されている本に顕著に表れる言葉、というべきでしょうか?)なんかもあって、一例を挙げると、「人」という言葉を使う代わりに「袖」と呼ぶとかですね。
袖ってのは、着物の袖の事でしょう。小袖とかいいますよね。敢えて直接人を人と記さず、袖と表記する辺りに、江戸時代の文化の片鱗が見えてくるような気がします。

で、一応、現代語訳の本ではなく、そのまんま古文の本です。
古文とはいへ、江戸時代ですし、『好色一代男』みたいな読みにくいものではなく、割とすんなり読めるかと思います。難しい単語なんかは(先ほど上げた「袖」とか)は、ちゃんと脚注が付いている親切設計。

「怪談集」と銘打たれていますが、そこまで怖くはないかな? という。
寧ろ「面白いなぁ」と思えるような、そういうお話が一杯載っています。狐の話だ、蜘蛛の話だってなポピュラーなものから始まって、善悪の報いみたいな、そういうお話も収録されています。
個人的に、これまで読んでみて面白かったお話は、「天狗の石降り」に関するお話です。

一応、軽く説明しておくと、天狗ってのが日本にはおりまして(?)、例えば山に入ると、何故だか分からないけれども、石が降ってくるとか、そういう現象があったわけです。本当に天狗がいるのかいないのか、とかそういうのとは別に、それを昔の人は「天狗の仕業」と考えたのは確かなよう。
天狗って云っても、例の鼻が長くて、みたいな造型だけとは限らず、実は僧形だったり色々ヴァリエーションがあります。中には、石の代わりに剣を降らす天狗もいるようです(名前は、確か太郎坊だったかなぁ?)。

この石降りなんですが、別に山の中に限らず、市中でもそういう現象があったらしい。
ある商家に石が降るようになって、町中大騒ぎになった、なんて記録も残っているくらいです。本書の中に載っているお話も、それに近く、家にですね、石が降るようになってしまった、と。で、「天狗の仕業に違いない」という事で、近隣住民がみんなビビるんですよ。「天狗の石降りに遭うと、死んじまうって聞くぞ。お祓いとかしてもらった方がいいんでないかい?」みたいなアドバイスを、石降りの被害に遭っている家の住民にする。

しかし、その住民はどこ吹く風で(というのは彼の信仰している宗派の問題とかもあるんですけれども)、全然気にしなかった所、結局、何も起こらなかった、という話。
で、結びの言葉みたいな所に、「気にするから良くないんだ。気にしなきゃ結構大丈夫だぜ」みたいな言葉が書いてあって、「病は気から」的な発想なんですけれども、何だか妙に可笑しくて、思わず笑ってしまいました。


気軽に読める本ですし(どこからでも読める)、ちょっと妖怪的な要素のある伝奇作品とか、江戸時代的な背景の作品作りのリアリティを増すのに使えそうな一冊です。お値段は文庫で一冊860円と、ちょっぴり高めですが、その分、割と厚いので。
私も上巻を読み次第、下巻の方も読破していきたいな、と思っております。


それでは、今日はこのへんで。

by s-kuzumi | 2009-04-07 23:36 | 読書 一般図書 | Comments(0)
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