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久住女中本舗

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2009年 09月 30日

フリーサウンドノベルレビュー 『キナナキノ森』

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今日の副題 「日常がキモなのです」

※大吟醸
ジャンル:乙女現実的絶望ノベル(?)
プレイ時間:5~6時間程度。
その他:選択肢なし、一本道。微妙に15禁くらい。
システム:NScripter

制作年:2009/2/14
容量(圧縮時):224MB




道玄斎です、こんばんは。
ここ数日、ちょっと時間を掛けてプレイしていました。既に一度レビューを書いた事のある作者様の作品です。最初、予備知識無しに2時間くらいで終わるかな? と勝手な予想でプレイをしていたのですが、これが存外長くって。けれども、その長さに見合うだけの面白さ、クオリティ、センスを備えた作品だったと思います。勿論大吟醸。
というわけで、今回は「禁飼育」さんの『キナナキノ森』です。
良かった点

・日常シーンが丁寧に描かれており、それによってプレイヤーが作品にどっぷり浸る事が出来る。

・キャラクターがどれも魅力的。


気になった点

・後半、ちょっと鬱展開があるので、辛い人は辛いかも。

ストーリーは、サイトの方から引用しておきましょう。
その森の奥には魔王の住む屋敷があるらしい……

主人公はそこで「お手伝い」として働く事になったが……

魔王の横暴な態度に苦労する毎日。それでも頑張る主人公。

だがしかし、一人の男にある言葉を告げられる。


「このキナナキノ森から出て行け」と

と、こんな感じのストーリーになってます。


いやぁ、良かったです。
プレイし終わった今、何だか凄く充実した感じがします。
実は、以前『Nという名の男 Bという名の女』という作品のレビューを書きましたが、同じ作者様の作品ですね。今、ちらりと読み返してみたら、そちらも大吟醸を付けていました。どうも、個人的にこの作者様の作られる作品が好みみたいです。

さてさて、ストーリーを補足しつつ、いつものように語っていきましょう。
主人公は、野山かぼ。何だか気がつけば「サラリーマンの年収の二倍を短期間でゲット出来る」という甘い言葉に誘われて、キナナキノ森のお屋敷に面接(?)を受けにくる訳ですけれども、雇用主は何と魔王。
横柄で、我が儘で怖い魔王。そんな彼の元で家政婦として働き始めます。

あんまりネタバレせずに(しちゃうと面白さが半減しちゃうからね)、語りたいと思うのですが、私がノベルゲーム/サウンドノベルを評価(っていうとちょっと偉そうだ……)する際、気にするポイントがいくつかあります。

・脇役が魅力的かどうか。

・盛り上がり以外のシーンがキチンと描かれているか。

・キャラクター同士の距離感の変化が自然であるか。

・テーマ(主題)へ向かっていく因果関係がキチンと描かれているか。

と、それぞれ重複する部分がありますが、大体こんな所です。
恋愛モノなんかでは特に、「盛り上がり以外」の何てこと無い日常のシーンが魅力的であると、作品そのものが凄く厚みを増すように思えますし、それによって「キャラクター同士の距離感」も自然に変化させる事が出来る気がします。

舞台は現代、されど魔王なるちょっと謎な存在がいるキナナキの森で、素直で、それでいてお調子者的な要素のあるかぼは働き始めます。この彼女の何てこと無い働いている様子だったり、住民(?)と交流したりする日常の描写が物凄く心地よかったのが、印象的でした。
ドバッと一気にストーリーが展開していくものの中に名作があるのは承知していますが、それでも、日常シーンを丁寧に描く事はやっぱりとても大事な事だと思うわけです。それによって、プレイヤーは主人公に魅力を感じ、作品の中にいつの間にかどっぷりと浸る事が出来たり、「盛り上がり」の部分での基礎体力的な、作品のバックグラウンドをキッチリと固める事が出来る。

本作は乙女ゲーム的な要素もある訳ですけれども、恋愛感情に至るまでの心の動きっていうのかな? それが物凄くナチュラルで、しかも好感が持てたんですよね。
ともすれば、割と良くある「無気力少年が主人公のハイスクール恋愛モノ」なんかだと、「何でこいつに惚れたんだ?」という決定的に大事な部分が、割とさらりと流されてしまう事があって、結構違和感を感じる事があったりします。で、そういう時にゃぁ「距離感の変化がもう少し描けていれば」的な事を書いちゃうわけですが……。

そういう意味で、本作の所謂前半部で、かぼと魔王、そしてキナナキノ森の住人との日々の生活の描写はとっても良かったです。
しかも、どのキャラクターもちゃんとバックグラウンドや個性があって、凄く魅力的。最初は高圧的で怖い感じがビシビシしていた魔王だって、自然にその魅力がドンドン明らかになっていきました。っていうか、普通に男としてカッコいいと思うよ、魔王。

で、随所随所に、謎や疑問に思う所、或いは伏線と気がつかないようなちょっとした描写が出てくる訳ですが、絶妙なタイミングでその伏線を回収する手腕は見事。
ですので、微妙に謎を抱えたままストーリーが進行していきます。そもそも、かぼについての情報も極端に少ないわけで、この辺り、多少じれったさを感じる人もいるかもしれませんね。ただ、かなり鮮やかに伏線を回収してくれるので、読んでいてホント楽しかったです。

それは兎も角、中盤以降、ちょっと鬱展開を見せるんですが、読んでいて辛い部分があったのは確かです。贔屓の引き倒しみたいになってますけど、逆に言えばそうした鬱な展開があるからこそ、その後のストーリーが生きるってのはあるんですよね。
ただ、これでもかってくらいに、読んでるこっちも鬱になっちゃうので……。

又、「気になった点」では特に書きませんでしたが、シリアス一直線の文章ではありません。
かなり、ギャグ要素が入り込んでいたり「サーセンw」みたいな文章がそのまま表示されたりするわけで、こうした部分気になる人もいると思います。
とはいえ、ギャグ的な部分とシリアスな部分のメリハリはしっかりしていますし(日常シーンのかぼは殆どデフォルメされた顔だw)、そうしたギャグ要素のある文章も本作の味ですからねぇ。
あっ、ちなみに、或る程度歳を食った人じゃないと「はらたいら」さんが分からないかもしれませんw まぁ、昔やってた「クイズダービー」って番組での顔みたいな人ですよね(実はマンガ家なんですけれど)。また、この人が博覧強記なんだ。一定以上の年齢の人は「はらたいらさんに3000点」なんて言葉は涙が出ちゃいますねw

鬱展開についての話に戻りますけれども、少し、ストーリーの本筋から浮いている感じが無きにしもあらずかな? という気もします。
分量的にもそうなんですが、物語内物語みたいな所があって、それ単体で一作品みたいになっている感触、と云った所でしょうか。


結構ボカしつつ書いているんですけれども、そろそろ辛くなってきましたw
最後に、ラストの処理について述べておきましょう。
正直、プレイしている最中「どういう所に落ちていくのか?」が全く分かりませんでした。安直な形でのハッピーエンドは絶対にあり得ないと分かっていましたし、かと云って鬱エンドのルートみたいなものとも方向性が違っていたからです。
これは是非プレイして確かめて欲しいのですが、凄く良い所に落とし込んだな、と。ノベルゲームらしい盛り上がりだったり、落とし方を持ちつつ、だけれども安直なハッピーエンドでもなく、それぞれの生き方っていうか、そういうものを描く終わり方。ハッピーな人もいるだろうし、あまりハッピーじゃない(であろう)人もいる。
そうした終わり方は、作品の中身(主題?)と呼応していて、納得感があり、それでいて、ほんの少し勇気を貰える……そんなエンドだったんじゃないかと思います。


あー、最後にって云っておきながら、もうちっとだけ。
音素材の選び方とかも凄く拘っていて、ハイクオリティのものが多かったですよ?
音楽で、一番好きなのは「おかっぱ、ゴムとび、吊りスカート」という曲。どこか懐かしくて優しい曲ですね。懐かしさだけじゃなくて、ちょっと物憂い優雅な昼下がりみたいな雰囲気もあって。


大体、こんな所でしょうか?
ちょっと精神的に辛い鬱展開があったり、合う/合わないが結構別れる作品なんじゃないかと思うのですが、個人的にお勧めの作品です。
前回も同じ事書いてますけど、あまりの長さに(長いよ、ね?)尻込みしている『さくっとパンダ』も、本当にやらないと駄目ですねぇ……。


それでは、また。

by s-kuzumi | 2009-09-30 23:21 | サウンドノベル | Comments(2)
Commented by Low at 2014-09-12 22:57 x
読了いたしました。

大吟醸   うん 分かります。

けっして 好きなタイプではないのですが。 忘れられない作品になるでしょう。

てか かぼちゃん かわいいぞ! 

え~ かぼちゃんも あらさーだったのか・・・  ちぎみちゃん といい    あたしの このみって・・・・・・・・  まぐちが ひろいだけです^^;
Commented by s-kuzumi at 2014-09-15 19:09
>>Lowさん

この作者さんの作品は、独特の持ち味を活かしつつも、それがマンネリにならない、という凄さがありますよねぇ……。

この作者さんの特徴って、比較的「社会的に立場が弱い」人物が、主人公になるような……そういう傾向があるようですw ちぎみしかり、かぼ然りw

また、そういう所が、共感を呼んだりもするんでしょうね。
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