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久住女中本舗

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2009年 10月 28日

フリーサウンドノベルレビュー 『弥生桜の空に笑え!』

フリーサウンドノベルレビュー 『弥生桜の空に笑え!』_b0110969_3452891.jpg

今日の副題 「五年間……待ちました」

※吟醸
ジャンル:ちょっと素敵な三月の物語(?)
プレイ時間:20分程度。
その他:選択肢無し、一本道。
システム:NScripter

制作年:2009/10/27
容量(圧縮時):21.0MB




道玄斎です、こんばんは。
お酒を呑みつつ、「そういえば……」とページを見たら何と、作品がついに公開されているではありませんか。
というわけで、今回は「NaGISA net」さんの『弥生桜の空に笑え!』です
良かった点
・丁寧な作りで、且つ随所にヒネリが加えてあり、ありきたりでは終わらない。

・喫茶店のマスターのシブさが最高。


気になった点

・地の文が高校生の心中思惟としては堅いかな? と思う部分が。

ストーリーは、サイトの方から抜粋・引用しておきましょう。
季節は3月。入試の会場で受験生の少年と少女が出会う。そんな物語です。プレイ時間は30分程度と思われますので、お気軽に。メインのストーリーを読み終えたら、おまけシナリオが読めます。

こんなストーリーです。


さて、作者様である所のNaGISAさんが後書きで語っておられるように、この作品は12ヶ月連作ノベル企画として誕生した、という経緯があります。12人の作者様がそれぞれの月を担当し、12本の短編を製作する。そしてそれを連作というかシリーズとして配布する、そういう企画でした。

この企画に賛同し、執筆なさっていた作者様の面々は本当に凄い事になっていました。
所謂、斯界の著名人、実力派……そんな凄いメンバーでの大所帯でのプロジェクトだったのですが、色々あって、プロジェクトが頓挫してしまいました。
結局三月を担当なさったNaGISAさんが、ご自身担当の分を完成させ、それを配布して下さった、というのが本作『弥生桜の空に笑え!』なのです。

実は……企画の後半辺りで、一月分の担当者に私こと道玄斎が抜擢される、という珍妙な事態もあったのですが、打診を受けた時期、丁度私は物凄く忙しくて、どうしてもお引き受け出来ませんでした。
それにしても私までおはちが回ってきた時には、正直震えが……w 本作の作者様である所のNaGISAさんは勿論の事、自分が感動し、何度も読み直したあの作品を書いた作者様と一つの企画に参加するなんて、畏れ多いなんてもんじゃありません。
自分が参加出来ない代わりに「この方なら執筆出来るのでは?」というような事を代替案として、お示しさせて頂いて。私とこの企画との関わりはそこまででした。


それからも、折りに付けてはこの企画、気になっていたのは事実です。
1プレイヤーとしてプレイ出来る日を心待ちにしていたのですが……。
そして、ついにNaGISAさんのご担当なさった分、それを今日プレイ出来るという事になって、眠気が吹っ飛びました。そう、それは『カレイドスコープ』を「ちょっとだけプレイしておこう」と思って、結局明け方まで徹夜でプレイした時のあの興奮が蘇ってきたのです。

恐る恐る、実行ファイルを叩く。
注意深くストーリーを読み進める。

先ず、思ったのは「一月分、引き受けなくて本当に良かった!」という事。
というのは、最初に私に一月分の企画の打診があった時、「私は、1月後半くらいから始まる大学入試をテーマに出来るかな?」と一瞬考えてしまったんです。
ご存じの通り、私が何か創ろうとすると、男が存在しない空間で女の子だけの砂糖菓子になって、挙げ句全滅する、というわけですからw 1月と3月でネタが被っちゃうというのも良くないけれども、それ以上に『弥生桜の空に笑え!』を越えるようなものは私には書けません。
もし、都合がついて何か私が書いていたとしたら、それは絶対的に全体のクオリティを落とす事になってしまいます。


そう、本作『弥生桜の空に笑え!』の作品の背景的なものは受験、です。
確かに、受験そのものは1月後半~2月後半くらいまであって、肝心の合格発表は3月になります。ですから正に「弥生桜」が咲く頃、なんですよね。

受験の描写が「現代的でないかもしれない」というような事を後書きでは書かれていましたが、多分……現代的になってると思います(あんまり自信無し)。少なくとも私の大学受験の時にはいんたーねっとなるものは一般に普及しておらず、「受験校の周辺情報をチェックする」なんて事は出来るハズもありませんでした。無茶苦茶早い時期から携帯電話を持っていた私ですが、携帯もいんたーねっとに繋ぐことなんて出来ませんでしたねぇ。ショートメールという限られた字数の中でのメールらしきものが辛うじて可能だった、というそんな時代でした。

物語は、受験校に試験開始より一時間も早くついてしまった主人公が、喫茶店に居る所から始まります。
元々の企画による制約などもあって、登場人物は主人公・ヒロイン・喫茶店のマスターと至ってシンプル。ですが、脇役としての存在感をバッチリ見せつけて作品の中に一つ印象を残してくれたのは、まさにこの喫茶店のマスターなのです。
プレイしていると分かるように、時におしゃべりかもしれないけれども、シブい“大人”のマスターが居心地の良さそうな喫茶店を経営しており、その喫茶店が段々とプレイヤーにとっても居心地の良い場所、になっていくような、そんな役目もあったんじゃないかな? と。
うんと俗な言い方をすれば、受験という名のダンジョンにおけるセーブポイントみたいな、ね。

本作をプレイして、特に前半部、なんですが自分の大学受験の時と重ねて見てしまいました。
確か、所謂「本命」の大学の本命の学科を受験する際、私はその「前日に初めて過去問を見る」という酷い経験を持っていますw 結局、「うぅ、結構難しいじゃねーか……」なんて布団の中で唸っていたら朝が来て、結局徹夜になってしまいました。
食欲もないもんだから、コンビニで買ったプリンを朝ご飯にしたんですよね。そしたらプリンの表面に「悪い事すんなよ」みたいな警句が書かれていて、一気に気持ちが落ち込みましたw
そして、やることがない為、本作の主人公祐宜しく、一時間前には受験会場について、缶コーヒーを呑んでいたという。

前半部の描写は、そんな我が身のちょっぴり恥ずかしい経験を思い出させてくれました。
ネタバレしちゃうと面白くないので、回避する方向で書きますが、受験というある種特殊状況での緊張感の演出、これも凄く良かったですね。本当にこっちがドキドキしてきましたもの。
特に、合格発表の場面、このドキドキ感はちょっと心臓に悪い……。
ちなみに、私は自分の合格発表は大阪でたこ焼きを食べている時に聞きましたw 所謂滑り止めってのに何個か受かっていた為、余裕ぶっかまして、友達と旅行に行ったりしてたんですよ。で、その時は電話を掛けて、受験番号を打ち込むと、合否を教えてくれる、という仕組みになっていまして、感動したっちゃ感動したんですけれども、ちょっとシマらなかったですね(一緒に居た友人が言うには、『お前、カッコつけてるつもりだろうけれども、あの時普通に泣いてたから!』なんて云ってますが)。

話が前後しますけれども、ヒロインのりっちゃん、凄くいい子なんです。
ちょっとキャラクターを特徴付ける為のギミック(っていうと言い過ぎ?)のようなものもあるわけですが、これは元々の短編企画の制限に拠るものでしょうね。逆にそうでもしないと、キャラクターの特徴を描写し説明する頃には紙幅が尽きている、なんて事になりそうで。

そして、お約束的なボーイミーツガール。
だけれども、二人の中を外側から取り結ぶのは、先程述べた喫茶店なんです。
こういう喫茶店やマスターの出し方、使い方はやはりセンスを感じさせます。また、マスターの語り口調も「いかにも」な感じで、ちょっとニヤッとしてしまいますね。

単純な受験サクセス&彼女ゲットストーリーだと思う事勿れ。
結末に関してもちゃんと、ありきたり、で終わらないようにヒネリが加えてあります。全体的に丁寧に作られたストーリーの中にこうしたヒネリがあることで、作品全体がピシッとシマっている印象です。

最後、「ああ、これはこういう話だったんだ……」と感じるのと同時に、本作のタイトルの意味も分かってくるような、そんな素敵な作品だったんじゃないかな、と思います。


一方で、気になった点ですが、主人公祐、そしてヒロインりっちゃんの心中思惟の言葉が地の文章として使われる場面が何度かあります。全体的に割と漢字使用率が高めで、小説と云って良いようなテキストではあるのですが、彼らの心中の言葉は妙に大人びた表現が多かった気がしました。
例えば「逡巡」なんて言葉を、りっちゃんは心中の言葉として使います。けれども、そこに、りっちゃんの「 」で括られた会話文(やイラスト)で示される「天真爛漫さ」のようなものと、ちょっと距離を感じてしまう部分がありました。
彼らの心中思惟の言葉を、キャラの発話に併せて、もう少し砕けた雰囲気にしてもよかったかな? という感じでしょうか。
展開が早め、というのもあるのですが、トータルで20分程度という制約の中で、最大限丁寧に主人公とヒロインの関係が描かれていたと思います。ここらへんは、元々短編ノベル企画の一つであった、というバックグラウンドを知っているのか否か、によって捉え方が変わる部分でもあるかも。

もうちょっと続くぞ感、或いはこちらからの「もうちょっと続けてくれ」的な欲求はあるんだけれども、ガワの部分で制約がありますから、そこは、ね。


暖かくセンシティブでありつつも、力強いラストで、一本の短編としてやっぱりとても素敵な作品になっていたと思います。そして、やっぱり弥生桜で笑いたい、笑ってあげたい、笑えるような人でいたい、そう思えるのです。


NaGISAさんのファンは固より、博く一般にお勧めの作品です。
特に20~30分程度の短編製作を考えている方は、色々参考になる部分多いと思いますので、是非プレイしてみて下さい。


それでは、また。

by s-kuzumi | 2009-10-28 03:45 | サウンドノベル | Comments(2)
Commented by NaGISA at 2009-10-28 21:35 x
お世話になっております。NaGISAです。まさか、こんなに
早くレビューされるとは思ってませんでした(笑)。

私の心残りは、私以外の12人(確か、12ヶ月+「1年」を
テーマで、計13人)の方の作品を見られなかった事です。
そうすると、私の作品だけが入ってなかった方が良かった、
なんて事になってた気もしますが(そう思えるほど、ビッグ
ネームな方々が集まってらしたですし)。

最初は「卒業」をテーマに物語を組んでいたんですが、
どうにも長くなりすぎたので、入試をテーマにしたこの
シンプルな物語になりました。手元のプロット帳を見ても、
その単純な作りは今自分で見てもびっくりします(笑)。
それでも、プレイして何か感じていただけたのなら、作者と
してこれ以上の喜びはありません。

実は今日から早速放置していた次回作「ゆめいろの空へ」の
制作を再開しています。次回はまた立ち絵もイベント絵も
ない地味な作品の予定ですが、是非プレイしてください。

レビューありがとうございました。ラジオ等でまたよろしく
お願い致します。
Commented by s-kuzumi at 2009-10-29 21:25
>>NaGISAさん

こんばんは。
こちらこそ、いつも大変お世話になっております。恐らく、かなり早い段階でダウンロードして、プレイさせて貰いました。一番乗りって訳じゃないでしょうけれども、いち早くプレイしたぞ、とw

やっぱり、丁寧にお作りになられたなぁ、という印象が強いです。色々書いてしまったのですが、地の文の丁寧さというか、どちらかと云えば小説的なテキストが、フリーのノベルゲームという枠の中で、物凄く新鮮だったり、或いは作り手の誠実さを感じさせるようなものだったのではないかと愚案致します。

『ゆめいろの空へ』の方も、今から凄く楽しみにしています! 少しファンタジックな世界をどう描かれるのか? 滅茶苦茶期待してます。

こちらこそ、今後ともどうぞ、宜しくお願い申し上げます。
それでは、失礼致します。
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