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久住女中本舗

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2010年 02月 22日

フリーサウンドノベルレビュー 『ゆめいろの空へ』

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今日の副題 「“2人なら”大丈夫」

※大吟醸
ジャンル:ファンタジック恋愛ノベル
プレイ時間:4時間程度。
その他:選択肢なし、一本道。
システム:NScripter

制作年:2010/2/21(?)
容量(圧縮時):59.4 MB




道玄斎です、こんばんは。
お酒呑んでる場合じゃないよ。ついに……何年も前から楽しみにしていた作品がリリースされました。
しかも、良い意味で期待を裏切りまくってくれて、滅茶苦茶満足。「凄まじい才能だ……」と何度もつぶやきつつ、今やっと読了。
というわけで、今回は「NaGISA net」さんの『ゆめいろの空へ』です。
良かった点

・気持ちの良い「ベタ」感。

・“プレイする”というよりは、“読ませる作品”。


気になった点

・細かい章立てで一つの物語になっている為、ちょっと描写が足りない部分が。

・主人公がもちっと活躍してくれても良かったかも。

ストーリーは、サイトの方から引用しておきましょう。
桜の花びら舞い散る4月、ある日空から天使が降りてきた。

「私の名前はスピカ」
「ふむ。スピカがそう言うなら信じるか」
「私、綿飴が食べてみたいです」
「俺らも、せっかくの秋だから一緒に盛り上がろうぜ」
「定番のクリスマスキャロル、『神の御子は今宵しも』にしましょうか」
「『手作りチョコ』って全然手作りじゃないと思わない?」

お約束要素満載の、ちょっとファンタジックな長編恋愛ノベル。

という感じ。
ちょっぴり迷ったのですが、やっぱり大吟醸です。
ここまで「読み応え」がある作品、昨今珍しいのでは? 一応背景素材があって、音楽素材や効果音もありの「ノベルゲーム/サウンドノベル」なんですけれども、プレイする、という動詞(?)よりも、やはり「読む」という方がより正確なんじゃないかと思います。

あとがきを読むと分かるのですが、『カレイドスコープ』制作直後から、本作の構想は既にして有り、実はサイトの方にて情報は小出しにされておりました。私は逐次チェックしていましたよ。
どうやら「12話でワンクールのアニメっぽい感じ」、であるとか「ちょっぴり萌えな要素」であるとか、作品の断片について、実は結構プレイする前から知っていたんですよね。キャラクターの簡単な説明もかなり前からサイトに載っていましたしね。

で、『カレイドスコープ』が上手く云えませんけれども、ヒューマニズム溢れる作品だったわけで、「一体、『ゆめいろの空へ』なる作品はどういう物語なんだ??」とはてなマークを頭の中に一杯にしながら、断片的な情報を元に想像するしか無かったわけですが、ついに公開されました。

凄く……なんて云うか丁寧な作りが印象的でした。
12話で一つのストーリーになっている、という作りも良かったですし(但し、気になった点にも関わる。後述)、「本当に『カレイドスコープ』を作った人の作品なのか?」と思ってしまうような、直球のラブラブ描写も有りで、プレイし終わった今、思い返すと「カラフル」な作品だったんじゃないかな、とそんな感触です。
特に丁寧さを感じた部分は、スピカと行人の距離感の推移ですね。一話進む毎に少しづつ口調が柔らかくなって、ぶっきらぼうだった印象が薄れてきて、リアリティを感じます。

スピカは所謂「クーデレ」ってヤツですなw
ツンデレ……とはちょっと違う(というか亜種?)。「ツン」じゃなくて、多分「クール」の方かな? っと。
で、このブログをご覧の皆様はご存じの通り、直球で私の好みの女の子だったというw 
個人的な話で大変恐縮なんですけれども、スピカの口調や仕草、それは或る意味でツンデレ或いはクーデレ的な王道かもしれないのですが、私にとっては、どうしてもある人と重ねて見えてしまうんですよね。
所謂「 」で括られる会話文というか、スピカの発言部分は、どのシーンも凄くグサッと突き刺さりました。「何故、ここまで似てるんだ……」とかなり悶々としながら読みました。胸の中に重たい石が入ってしまったような感じです。

ですので、本作を読みながら、こっちも感情の振れ幅が大きくなってしまって、泣いて笑って悶々として、とハタから見たらそうとう変な人に見えた事でしょうw

それは兎も角、驚いたのが凄まじいまでの「きゅんきゅん具合」でしたw
まさかここまでとは……w 前半部分、もう胸がきゅんきゅんしっぱなしで、且つ悶々とする、という相反する感情で揺れてしまいましたw

そういえば、本作は立ち絵無し、一枚絵無しの作品。
ただ、個人的な感想を述べさせて頂くならば、「無くて良かった」と思うんです。
冒頭にて「プレイするんじゃなくて、読む作品」みたいな事を書いた事ともリンクする部分ですが、ヘタにイラストが付いているよりも、文章だけ(いや、背景とかあるけれど)の方が、作品の持つ空気感とか雰囲気がダイレクトに味わえて良かったんじゃないかな、と。
何となく、ですけれども、今めかしい立ち絵と一枚絵が付いていたら何となく、バランスが悪いというか。例えば、ヒロインスピカの容姿とかも、何て云うかな、自分の理想像を投影出来るというか。イラストが付いていると、そういう読者の想像力を制限しちゃうような部分、ありますよね。
あっ、勿論「ノベルゲームに立ち絵は無い方がいい」とかそういう暴論じゃなくて、イラストの美麗さや演出の凄さで追求していくような作品があってもいいし、文章の「読み応え」で勝負するような作品があってもいい、という方向性の問題です。私はどっちも大好きですからw

で、ストーリーは12話あって、それを以て全体を成しているわけですから、テンポ良く読み進める事が可能。当然の如く、後半に行けば行くほどテーマと密接に関わるようなストーリーになり、そこへ徐々に引き込んでいく手法は、『カレイドスコープ』と同じ本作の良い所。
『カレイドスコープ』と同じ、と云えば、脇役の存在感ですよね。本作では一級天使のロジータが最高のキャラクターでしたね。「イケイケ姉ちゃん」なんてキャラ紹介にあるのですが、イケイケを通り越してヘタすると「気合い入り」のお姉さんみたいなw 最強に魅力的なキャラクターでした。或る意味で主人公行人を圧倒する程の存在感があり、ちゃんと作品世界を支えている重要人物でした。

紹介文にもありましたが「お約束要素」もてんこ盛り。
季節季節の定番のイベントはちゃんと抑えてあります。
けれども、何て云うか「欲しい所で欲しいものが出てくる」みたいな、その出し方や描写の仕方が素敵。気持ちの良いベタ感っていうんでしょうか。
印象的な台詞も随分ありましたが、個人的に一番好きなのはスピカの「2人なら」という短い台詞。凄く気に入ってしまったので、今日の副題に使わせて頂きました。

お約束は多いけれども、そこに気持ちの良さを感じる理由の一端は、文体にあるような気もします。この手のゲームでは割と珍しい三人称の文章なんですよね。
三人称の文章ですが、「神の視点」と呼ばれるような(実はこの二つは区別があるらしいのだけれども……)、その物語を語っている人が居て、且つ、時折、その語り手が顔を出すみたいな所があって、凄く面白いんですよね。本作だと、冒頭のトラック運転手に対しての一言があって、後半のクリスマスパーティーの時とかですね。
こうした物語の語り手の問題は、文学理論というか、文学研究では割とお馴染みのテーマで、ここで云う所の「語り手」っていうのは作者と必ずしもイコールではない……んですが、脱線はこのくらいにしておきましょうw


或る意味、こうした「天使がある日降ってきた」的なストーリーの美味しい所は全部詰め込んで(ちなみに冒頭部が似ている作品は結構あります。割と最近プレイしたものだと『Dear∽Life』とかに近いかな?)、且つ凄い物語がそこには内包されている、という。いや、ネタバレはしませんよ?
「いや、そう来ましたか……」という感じで、最後ちょっと涙ぐんじゃいましたから。そこまで見るとちゃんと目立たない伏線がしっかり、張られている事に気づきます。
ただのファンタジックな恋愛モノ、で終わらず、実はその根底にあるストーリーがしっかりと骨太に存在していた事、そこにこそ、本作の魅力があるのではないかと思うのです。

スピカに関しては、実は結構早い段階で、何となく分かる所があって、これは多分、「それとなく気づく様に伏線を張っている」んじゃないかな? と思うのですが、もいっこの方は全く気がつかず、本当にしてやられました。NaGISAさんのお言葉を借りれば「ミスディレクション」的な、何かで注意を惹きつけておいて、実はその裏側で、本当のトリックが進行している、そういうタイプ。
「目立たせる伏線」「目立たせない伏線」の二つの伏線があるんだなぁ、と凄く勉強になりました。


さて、一方で気になった点、なのですが、実は殆どあとがきにて作者様自らが語られていますw
白猫と典子の挿話的なストーリーがあるのですけれども、やっぱり少し、一話で独立しつつ、且つそれが12個集まって一つの物語になっている、という関係上、少し薄めだったのかな、と。けれども、あそこでストーリーを長くしちゃうと、その他のバランスが取れなくなっちゃいますもんね。

主人公、に関してももうちょっと彼が頑張るシーンがあると良かったのかな、なんて思いますが、それもやっぱりあとがきに……。
敢えて、あとがきに無い気になった点、を探すとすれば、スピカ側からの恋愛描写がもうちょっとあると良かったと思います。というのは、恋愛モノになるといつもいつも云ってるんですけれども、「何でコイツが好きになったのか?」ってな“その人を愛する理由”が、行人の側からは滅茶苦茶良く分かるんですが、スピカは何で行人が良かったのか? という部分が少し薄めだったかもしれません。
最後の方で「最初は嫌いだった」と語っているスピカですが、それがいつ「好き」に転じたのか、そこの所がラストの辺りだったりで明かされても良かったかな。


ちょっと長くなっちゃいましたね。
何だか凄く今、お腹いっぱいの良い気持ちです。
ファンタジックで、幸せな気分になれるような、そんな素敵な恋愛作品。立ち絵/一枚絵こそ有りませんが、自信を持ってお勧め出来る作品です。是非プレイしてみて下さい。


それでは、また。

by s-kuzumi | 2010-02-22 22:55 | サウンドノベル | Comments(4)
Commented by NaGISA at 2010-02-23 19:11 x
こんばんは。いつもながら仕事が早いっ!(笑)
そしてゆめ空を楽しんでいただけたようで、何よりです。
そして「大吟醸」をいただけた事、大変光栄です。

ゆめ空では、ミスディレクションはかなり苦心して、私
なりの方法でシナリオを組み上げてみました。NaGISA式
ミスディレクションの粋を尽くした、と言いましょうか(そんな
大げさなものではない)。しかし、主人公の存在感のなさは、
今までの中でも随一となっております(笑)。

>Dear∽Life
あの作品を読んで、冒頭で私も「うわ、似てるな。もし
同じ話だったらどうしよう」と、ちょっと心配しましたよ(笑)。

今は次回作の構想もほとんどないんですが、また何か書いて
みようかと思っています。次回も楽しんでいただける作品を
目指しますので、期待せずにお待ちください。
Commented by s-kuzumi at 2010-02-23 22:05
>>NaGISAさん

こんばんは。
いえいえ、もう公開を滅茶苦茶楽しみにしていたので、速攻でプレイしました。

本当に素晴らしい作品になっていたと思います。こうした「読み応え」のある作品が出てくれるとプレイヤーとしても凄く嬉しいです。

ミスディレクションも最後の最後で「してやられた!」と思わず叫んでしまうくらいでした。凄く緻密に作られたなぁ、と。
そういえば、気の利いた台詞回しが多くて、印象的でした。

で、敢えてもう一度云わせて下さい。
「スピカ可愛いよ!」
とw
Commented by tonton at 2012-06-24 00:58 x
ゆめ空おもしろかったし

最後は泣くほど感動しました

スピカ可愛いね。ちなみに自分も最後の展開は予想できなかった
Commented by s-kuzumi at 2012-06-26 22:28
>>tontonさん

こんばんは。

『ゆめ空』、良い作品ですよね。
こうしてコメントまで頂けて、作者じゃないのですが、私も何故か嬉しいですw

最後の展開は、やっぱり上手いな、と思いましたね。
ああいう、上手なトリックが使えるようになりたいなぁ……なんて思ったりしています。

今度、豪華な立ち絵(一枚絵も)ついた、リニューアルヴァージョンが出るみたいですから、そちらの方も、是非、公開されたらプレイしてみて下さい。

って、なんか作者みたいなコメントですねw
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