2010年 03月 22日
今日の副題 「ゲーム、としても面白い」 ジャンル:社会批判ADV(SFっぽいところも) プレイ時間:トータルで6~7時間くらい。 その他:初回一本道(後述)。 システム:吉里吉里/KAG 制作年:2010/3/16 容量(圧縮時):404MB 道玄斎です、こんばんは。 何だかノベルゲームのレビューを書くのは久しぶりな気がしますね。 今回は、思わず「プレイしなきゃ!」とこちらが熱くさせられた、そんな作品のご紹介。 「さんだーぼると」さんの『ラスト・ピュリファイ』です。 良かった点 ストーリーはサイトへリンクを張っておきましょう。こちらからどうぞ。 又、ストーリーだけでなく、本作が作られそしてフリーの作品として公開されるに至った、その経緯を端的に書いてあるページもあるので、そちらにもリンクを張っておきましょう。それはこちらから。 最初に述べたいのは、私は敢えて本作「無印」にしている、という事です。 それは作品の内容が劣っているとか優れているとか、自分の好みだったのかそれとも好みでなかったのか、そういう話ではなくて、私の方から積極的に評価をするのではなく、是非ご自身で本作がどうだったのか、確かめてみて欲しい、というそんな想いからです(そもそも、取り上げている時点で私の中では引っかかりのある作品だった、という事なんですが……w 気に入らなかったならわざわざ取り上げる必要ないもんね)。 実は、やはり「さんだーぼると」さんの『悪の教科書』の時もそんな感じのスタンスでレビューを書きました。 『悪の教科書』もまた、「社会批判」という面が強調され、強烈なメッセージ性を持った作品でした。 うんとざっくりとした本作の印象を述べると、「メッセージ性と物語性の両立」というかなり難しい事をクリアーしている稀有な作品だったのではないかと思うのです。 多分……ノベルゲームに関わらず、何かを生み出して表現しようとする人には、その「動機」があるはずで、それはきっと「メッセージ」と置換出来るはずです。 現代的な文学評論や文学理論では、作者を、そして作者の意図というものを、カッコ付きの存在として考慮しないことが(恐らく)普通です。 こうした文学評論を支える理論では、飽くまで「作品として書かれたモノ」を対象にするわけですが、今、その作者さん自ら「○○というメッセージを込めた!」と語っているのに、それを無視して良いのか? という問題はやっぱり存在している気がしますよ。 で、本作もかなりメッセージ性が強い作品だったにも関わらず、それを押しつけがましく感じる事もなく、メッセージ部分だけが妙に浮いていたりする事もなく、メッセージと作品という二つの軸のバランスが凄く綺麗に取れていたのではないかと思いました(スクリーンショットはちょっとアジってる場面ですけれどw)。 メッセージ性が強いっていうのは、ともすればガチガチの一方通行になってしまったりしますし、かといって「描きたい」「表現したい」というものがないと、ソツなく作れているようでも芯が無いというかコシが無いというかそういう感触があったりする事も。 いや、勿論、だからと云って駄目だとか、そういう話じゃないんですし、或る意味で凄く淡泊であっさり風味の作品も私好きですからw けれども、何かしら「描きたい」と思っているものがキチンと作品の反映されており、且つメッセージ性だけ、じゃなくてそれが「作品」として楽しめるものであれば、それは素晴らしい作品である事、異論はないような気がします。 表現したい、という自分サイドのミクロの眼、そしてそれが「作品としてどう見えるのか」というマクロな眼の二つの視点のバランスが実に絶妙だったな、と。そう考えると『悪の教科書』は割とメッセージ先行型だったかな、という気はしますね。 さて、全然ストーリーに触れていないのもなんですから、少しだけ解説しましょう。 舞台は、所謂近未来。第三次世界大戦で荒廃した後の世界が舞台になっております。三度目の大戦の過ちによって人間は「自律」する事を止めてしまい、倫理機関が全ての人間から自我を奪い、機械のように生活する事を余儀なくされ……ているのですが、最後の最後まで世界を席巻する倫理機関に抵抗している都市が東京です。 特にフィーチャーされているのは台東区(作中では旧台東区)。って云っても多分東京在住の人じゃないと分からないですね……。浅草とか上野とかその辺りです。 背景画像とかが凄いんですよ。ちゃんと台東区なんですw 「○○から見た○○」みたいな土地勘のある人だと一発で分かるような、そういう背景が付いていて細かい所なんですが、そういうリアリティが良いですねぇ……。 で、ある日、筑波の倫理機関が統治する都市(コロニー)から一人の少年が、息も絶え絶え東京にやってきて……。 と、そんな感じで物語は幕を開けます。 人間が自ら考える事を止めてしまった未来。 ユートピアを求めるが故にディストピアとなってしまった未来。 これは、ご存じの通りSFでは定番の設定の一つですよね。有名どころでは、手塚治虫の『火の鳥 未来編』がまさにそれでした。本作で描かれる未来は『火の鳥』のそれよりも、もっと苛烈なものなんですけれども、そんな、程度の問題は実はどうでもいいんです。 「それがSFではなく、現実に起きてしまうかもしれないよ? もうその徴候があるんじゃないの?」 ってな部分こそ、本作の主張だったり提起したい問題の一つがあるのではないでしょうか。 チラッと「捕鯨」の問題が出てきたりしていて(それがそもそもの大戦の発端だったらしい)、非常にタイムリーです。捕鯨を反対する人たちは「クジラだから獲ってはいけない」と云っているのか、それとも「絶滅の危機に瀕しているから獲っちゃいけない」と云っているのか、その根っこの部分ですら、テレビや新聞では全然伝わってきません(私が無知にして、見逃しているだけかもしれない……という事は付け加えておきますw)。 どの種類のクジラを獲っているのか? そのクジラの推定頭数はどの程度なのか? 年間国別/全体でどれだけ獲っているのか? 現状の捕獲量だと絶滅の危機があるのか? 捕鯨を巡る状況だけでも、恐らくこういう問題は一杯あるはずですが、全然そういう「本当に大事な情報」は出てこないような……。 「何となく世の中の流れが反対しているから、自分も反対っつーことで」と、自分の思考や判断を他人に任せる事は非常にラクなんですが、それってどうなの? という事です。何か私が書くと非常に軽くなっちゃいますけれどw 最近話題の非実在青少年とかね、色々な問題がある世代に私達は生きています。 人間って多分、めんどくさがりなんですよ。都度中身を確かめてってやる事が面倒だから、一発で何とか出来るような規制を作っちゃうわけです。 しかし、例外のないルールはないって英文を昔丸暗記させられましたけれど、白と黒に単純に何事も割り切れないのはご承知の通り。 何でもかんでもフリーダムってのは駄目ですよ? 勿論。 「あなたは○○って思うのね。けど私は○○って思うわ」って表現が出来る世界、或る意味とっても普通な世界なんですが、そういう健全な状態を「規制」が作り出せるのか? って云ったら私は違うんじゃないかな、と思うんです。 良く、「言論の自由と報道」的な文脈で目にする言葉があります。 それは「萎縮効果」です。規制が掛かかって、何かを表現する際に何かを気にしなければならなくなると、そこには自然と「萎縮」という作用が起きるって事なんですが、規制は萎縮を増やすだけだと思うんだよなぁ……。 勿論、ここで云う所の表現の自由って、何でもかんでも好き放題喋って書いてやっていいよ、って事じゃないですよ? そういう問題について触れた本も数多く出ているので、ご関心がある方は是非、そういう本も読んでみて下さい。 ここいらで軌道修正。 一つ……本作で気になった点を強引に挙げるとするならば、ちょっとラストが落ち着かなかったかな? という辺りでしょうか? いや、安直なハッピーエンドなんかよりは全然説得力のあるエンドだったんです。 ただ、も少し何か結論というか、シメ感というか、落ち着いた部分があっても良かったかな、と単純に1プレイヤーとして思う部分はありました。 ただ、本当にこれは難しい所かな、という気がします。最も分かりやすいタイプのハッピーエンドにする事だって出来たハズなんですよね。だけれども、「敢えてそうしなかった」んじゃないかな? と思える部分もあるから……ね。 ただ、あれだけのストーリーがあったにしては、結構あっさり終わっちゃった部分はあったかな? という感じです。 そうそう、「後述」って云っておきながら、全然述べていませんでしたw 先ず、初回プレイ時は選択肢なしの一本道になっています。二回目以降、選択肢が表示されエンドが分岐する、という感じです。 ただ、この一回目二回目も「選択肢で試行錯誤させる」というタイプではないですよね。演出としての選択肢というかそういう感じ。多分……迷ったりはしないと思います。 大体こんな所でしょうか。 まーた、くだくだしく書いてしまったのですが、ノベルゲームという表現を享受したり、生み出したり、或いはそれに対するレビューを書いたり、色んな立場の人がいると思いますが、誰であっても「表現」と無縁である人はいませんよね? 軽重はあるにしても、ね。 本作に対する反応の仕方は色々あってしかるべきだと思います。大切な事は、「考える事」です。 多分……作者様のメッセージの一つには、本作に対して「その通りだぜ!」って肯定的な意見だけじゃなく、「俺はそうは思わん」ってな否定的な意見さえも、普通に表現が表現として流通出来るような、そんな全うな表現の場を護ろう、というものもあるはずです。 そんなメッセージに共感するのもしないのも、それはプレイヤーの自由。 だけれども、ほんの少し真面目に、そしてゲームを楽しくプレイしながら、表現というものについて改めて考えてみる。 そんなきっかけとなりうる作品が本作『ラスト・ピュリファイ』なのではないでしょうか。 というわけで、今日はこのへんで。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2010-03-22 00:38
| サウンドノベル
|
Comments(2)
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sorayuki
at 2010-03-23 00:09
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おひさです。
『ラスト・ピュリファイ』読みました。 こういう作品は稀有と言うか、貴重だと思いますね。 作品のテーマ、おっとネタバレになるので注意ですが それはやはりあのエンディングの方が… 考えること=読者の反発的なものが得られやすかったのでは無いかと思います。 そこに作者の意図を強く感じますが……。 (ただし、私個人の意見として) 仰るように世界観を拡張しなくても描けることだったのかもしれません。 しかし、それなくしては読者を惹きつけられない。 メッセージ性と言うよりも、個に働きかけると言った印象を受けました。 私にとっては良い作品でした。
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s-kuzumi at 2010-03-24 23:39
>>sorayukiさん
こんばんは。ご無沙汰しております。 >それはやはりあのエンディングの方が… いやぁ、やっぱりそうなんですよねぇ。 分かりやすいハッピーエンドを敢えて忌避しているというか、少し不安感をにじませておいた方が、作品の狙い的にはって事ですよね。 >私にとっては良い作品でした。 私にとっても、凄く興味深く、また面白い作品でした。 久々に熱くなって一気にプレイしてしまったくらいですw なかなかめぼしい新作がなくて「何をプレイしようかなぁ?」と悩んでいた時期だったので、特にw |
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