2010年 05月 05日
![]() 今日の副題 「乙女ちっくストックホルム症候群」 ジャンル:乙女誘拐哀愁ノベル プレイ時間:1時間程度。 その他:選択肢一箇所アリ。バッド、トゥルーが分岐する。尚、修正パッチが出ているので適用しておく事。 システム:NScripter 制作年:2010/2/14 容量(圧縮時):54.8MB 道玄斎です、こんばんは。 気になっていた作品をのんびりじっくりプレイ致しました。大凡一時間くらいの尺ですが、読むのが早い人だったら40分くらいかな? 短編……という感じでもなく、一つのしっかりとした作品になっていたのでは? というわけで、今回は「禁飼育」さんの『この世で最も残酷なキス』です。 良かった点 ストーリーは、ベクターの紹介文が極めて簡潔に本作について書かれているので、それを引用しておきましょう。 帰宅途中、中年男に誘拐されるが、その男に恋をしてしまう女子高生の物語。誘拐犯のみフルボイス付きノベルゲーム。 こんな感じ。 禁飼育さんの作品は、結構沢山プレイしましたが、波長が合う、というか、私は物凄く好きですねぇ。 多分……私の個人的な趣味によるバイアスを差し引いても、かなりの高水準のレベルの作品を創っている事、疑いの余地はありません。 ネタバレはいかん、という事なので、それだけは回避しつつ、またいつものように語っていきましょう。 引用した紹介文を見て頂ければ分かるように、ヒロインは女子高生なんですが、ヒーローというか相手役は中年です。 かつて、中年がこんなにカッコよく描かれる作品があっただろうか? いや、そもそも中年が恋愛の相手役として存在した事があっただろうか? 答えは恐らく、否、です。 そう、強盗&誘拐犯の中年のオッサンによって、人質にされてしまった主人公が、彼と共に逃亡生活を送る中で彼に惚れ込んでいく……というそういう作品なんです。うんとざっくりと纏めると。 何故、禁飼育さんの作品に私が惹かれるのか? というと、多分……主人公の造型が好みなんじゃないかな? と思います。割と控えめで大人しいタイプ……だけれども、ちょっと達観している所があったり、飄々としている部分もある。 まぁ、ゲームでの「女の子の好み」と、現実でのソレは必ずしもシンクロしないんですけれどね。 本作の主人公もまた、そんなタイプの女の子。 ちょっとふっくら系、と明示されているのがいいですねぇ……w ビジュアルも可愛いです。ちょっぴり地味な雰囲気が溜まりませんなw で、私が何故、禁飼育さんの作品に惹かれるのか? という答えの第二弾は、「盛り上げ/盛り下げ」のメリハリが利いているから、なのではないかと。 起承転結、或いは序破急とか、盛り上がりの位置を示してくれる言葉もあるのですが、ノベルゲームで「盛り上がり」って物凄く大事だと思うんですよね。 や、勿論、淡々とした作風の作品に素晴らしいものがある、という事もあるのですが、話を単純化しちゃいましょう。 で、盛り上がりと同様に大事なのは「盛り下がり」。 私以外で使っている人を見たことがない、造語なんですが、単純に「盛り上がり」の対義語ですw そうねぇ……良く目にするタイプの学園恋愛ノベルゲームで云えば、「ラストへ向けての盛り上がりの前に、主人公が『もう俺駄目だわ……』と、一瞬匙を投げる部分」ですw 最終的に、彼は友人達の叱咤激励だったり、大切な彼女との思い出を糧にして、ネガティブ思考を止め、熱い行動に出たりするわけですが。 この盛り下がりの部分が、実は主人公の印象というか、パーソナリティを決定する重要な部分なのではないか、と思うんですよ。 何を、どう、何で悩むのか? その時、どういう行動に出るのか? そしてその悩みの背景には何があるのか? という、主人公のバックグラウンドや性格に関わる部分が、インパクトを持って表に出てくるのが盛り下がりなんです。 禁飼育さんの作品は、大凡、ちょっと普通の作品ではお目にかかれないような、壮絶な境遇に主人公が落とされ、苦しみもがく……んですが、それでもやっぱり、その後にソレを覆すような気持ちの良い「盛り上がり」があって、場合によってはそれを何度か繰り返しながら、ラストへ向かっていきます。 このメリハリ感、それが秀逸なんですよねぇ……。どーんと落としてぐぐっと持ち上げる。ともすれば過剰になってしまう演出が、実に作風に合っています。 うんと簡単に云ってしまえば、「読んでいて飽きない」んですよね。 一方、盛り上がり、盛り下がり以外のパート……。「日常パート」とか「共通ルート」とか云われる類のものですが、それも重要……って全部重要だね……w いっつも使っている言葉で「心地の良い空気感」というものがあって、特に盛り上がり/盛り下がりが無くとも、「このままの状態がずっと続けばいいのに……」と思えるような、そういう日常の描写が冴えると、相互的に盛りり下がりや盛り上がりにも説得力やパワーが出てくる事が多いと思います。 さて、ここらで軌道を修正して。 本作の場合、どちらかと云えば、最後に書いた「何てこと無い日々の描写」がメインだったのかな? という感じ。や、勿論、盛り下がりはあるんですが、真っ先にそれは予想出来ちゃったので(禁飼育中毒者の称号ゲットですねw)、心理ダメージとしてはいつもの作品よりも、若干低め。 盛り上がりも、割とあっさりテイストだったかな? と。 日常の描写って云っても、強盗&誘拐犯に人質にされて、彼と行動を共にする、というかなり異常な状態での「日常」なんですけれども、ちゃんとダレないように主人公のパーソナリティに合わせたギャグ描写が出てきたりして、凄く巧みに日常が描写されていきます。 逆に云えば、この日常シーンそれ自体が、盛り上がり/盛り下がりを持っていたので、もちっとユニットとして切り離せるような盛り上がり/盛り下がりがなくても、全然作品として成立していた、という感じ。 多分……本作を端的に表すキーワードを挙げるとしたら、それは「ストックホルム症候群」だと思います。検索していただければすぐに分かると思うのですが、うんと大雑把に云うと「犯人と一緒に生活していると、情が移る」ってヤツです。 ある人Aとある人Bが居たとして、短期間で劇的に仲良くなる方法が一つあります。 それは、「一緒に食事を採る事」です。 何かモノを食べるっていうのは、非常に自分の「無防備」な姿をさらす事になりますし、食べる事は生存本能と直結したものですから、「生の自分」を見せるわけで、食事というプロセスを共有すると仲が良くなるんだそうな。 犯人と人質、という関係だとしたら、犯人は人質が逃げないように、或いは人質が死なないように(死なれちゃったら人質の意味がないですからね)四六時中、一緒にいるハズです。場合によっては人質の為に何かしてやるような、そういう事態も出てくる。 そうすると、食事は勿論、色んな日常のフェーズを共有する事になるわけですから、「ストックホルム症候群」なるものが起きるのもむべなる哉。 本作を端的に表すもの、としてストックホルム症候群を挙げたのですが、それは実はちょっぴり違うのかもしれません。いや、今更……なんですが。 というのは、本作のヒーローこと、中年のオッサンは、すげぇカッコいいんですw 先にも書いた、日常シーンの随所随所に、彼のカッコよさ、或いは優しさが見え隠れしているので、単純なストックホルム症候群とは違うかな? と今、これを書きながら思いました。 本当に、こんなに中年がカッコ良く描かれたことは、今まで無かったんじゃないか? っていうくらいカッコ良かったですよ。 女の子って総じて、年上の男が好きなんですが、ここにきて「中年」にスポットが当たるとは思いませんでしたw 女の子の年上好きって事では、私自身……「俺も歳長けてきたら、モテ期が来るやもしれぬ……」なんて思っていたわけですが、自分が決して若い、とは云えない年齢になった今でも、一度もモテ期は来ませんねw 兎に角、中年がヒーローで、且つ通常ならば「ヒロインのみフルボイス」とある所が「誘拐犯のみフルボイス」ですから、凄い仕様ですw また、そこが作者様の持ち味と相俟って、いい味出してました。どちらかと云えば女性向きなのかな? という気はしますが、手頃な尺でどなたでも楽しめる作品だと思いますよ(ちょっと吟醸にすべきかどうか悩んでます……)。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2010-05-05 00:17
| サウンドノベル
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