2011年 01月 09日
今日の副題 「絶妙の余韻を残す短編作品」 ジャンル:不治の病系ノベルゲーム(?) プレイ時間:凡そ30分程度。 その他:選択肢なし、一本道。 システム:Ren'Py 制作年:2011/1/8 容量(圧縮時):50.2MB 道玄斎です、こんにちは。 今日はRen'Pyを使用した作品のご紹介。基本的にRen'Py製の作品は海外のものが多いんですが、日本人向けのリリースは、非常に少ないわけです。で、前作『フォルトゥナに口づけを -un bacio per Fortuna-』も既にしてプレイしていますし、レビューまで書いています。積極的にRen'Pyというツールを取り入れている所、先ずは評価出来ます。 というわけで、今回は「堕天の旋律」さんの『春椿』です。 良かった点 ストーリーは、興を削がない程度に私が纏めておきましょう。 ある日、死神の管理職をやっているテレンスは、ふとした事から日本を訪れ、病に冒された少女椿と出会う。 という感じでしょうか? 「堕天の旋律」のきりかさん、と云えば、NMのイラストを描いて下さっている方ですね。 もう、足を向けて寝られない程にお世話になっています。特に、NMのマスコットキャラクター「神風史」は、私の脳内イメージだけが物凄く先行している中で、何度もリテイクを出してしまったりしたのですが、本当に根気よく付き合って下さり、現行のとっても可愛らしいキャラクターが仕上がりました。 さて、前作の『フォルトゥナに口づけを -un bacio per Fortuna-』に引き続き、本作『春椿』もRen'Py製。 私なんかは考え無しに「れんぴー」って読んでいたのですが、きりかさんとお話していると「れんぱい」と呼んでいるじゃないですか。 話を伺ってみると「Ren'Pyの“Py”はPythonの“Py”だから」という、非常に論理的且つ明快な答えが返ってきました。うーん……やはりこれは「れんぱい」って読んだ方が正しいのかな? あとこれは余談ですが、英語読みじゃなくてフランス語読み風にすれば「らんぴ」とかになって、「れんぴー」に近くなるようなw っと、のっけから脱線していますが、本作タイトルから分かるようにちょっぴり「和風」なテイストが入っている、しっとり系の感動作です。 やっぱりRen'Pyという事で、ガワ的な部分なんですが、右クリックを押した時のメニューの表示がいい感じなんですよね。私達が普段良く目にするNScripterや吉里吉里/KAGといったものと、殆ど変わらないくらいまでカスタマイズされています。 デフォルト状態でのRen'Pyは以前、このブログでもご紹介しましたが、結構「要らない」ものもごちゃごちゃ入っていて、「声アリ、BGMアリ、効果音アリ、イラストアリ、ムービーもどんとこい!」ってなくらいフル装備でないと、中々意義が見いだせない設定も多く搭載されています。 それがかなりスッキリカスタマイズされていて、細かい所ですが、個人的には「お!」と思いましたね。 さて、いよいよ作品の中身に入っていきましょう。 病に伏せっている少女の元に、死神と思しき人物がやってきて……なんて聞くと、割とありがちなパターンを想像してしませんか? 別に病に伏せっていなくとも、主人公の元に死神がやってくる……というタイプの作品は枚挙に暇がありません。 『Dear∽Life』や『ゆめいろの空へ』、或いは割と最近プレイした作品だと『明けない夜が来る前に』とかも、近いパターンかな。 こうした作品が多いという事は、人間という生き物が「死」に対して非常に関心がある、という事を示しているようです。 そりゃ、「死んだらどうなるんだ?」ってのはやっぱり人間の根源的な不安ですし(各宗教色々解釈があるんでしょうけれども)、「もう、起き上がってくんなよ……」って事で「屈葬」なんて事もしてましたよね。そこには、死に対する絶対的な恐れがあったり、未知に対する恐怖って側面もありますよね。 「死んだらどうなるのか?」ってのは、実際死んでみなけりゃ分からないんですからw で、本作もまた、「このパターンか……」なんて思いきや、意外や意外、絶妙な余韻を残す作品、になっていましたねぇ。あっ、ちなみに私の大好物の「ちょっと暗い」感じですw 本作に於いて、私が一番評価したい所は「テレンスの描写」です。 彼が死神という職業に就いていて、だからこそ「死ぬ事」に関して、そしてそれと裏返しの「生きる事」に関して非常に敏感であり、無神経な言動は許せない、という性格が、先ず「これはいいぞ」と思わせてくれましたね。 そして、ここが一番大事なんですが、テレンスの心中思惟に、「凄く共感出来る」んです。 設定としては百年以上生きている死神、なんですが、椿を前にして見せる戸惑いや、言動は私達と変わらない等身大の人間そのものです。 個人的にいくつか印象に残ったセリフがあるので、挙げてみましょう。 “また明日、と別れ際に言わなかったのは、これが初めてかもしれない” これ……何だか共感出来ませんか? 何か、二人の間にいつの間にか出来上がったルールのようなものがあって、そして、そうした日常にとけ込んでいる決まり事……というか暗黙の了解が、崩れる瞬間というものがやっぱりあって。 で、悲しい哉、男の方が不覚にもそれに気づいてしまうんですよw そして悶々としてしまったり……。 そして、恋愛要素がある作品で、私が良く云うのは「何故、他でもないこの相手を好きになったのか?」という理由が欲しい、という事です。 明確に「○○だから好き」というので無くとも、自分が相手への恋心へ気づく、その描写ですよね。そこに何か説得力があると、リアリティがグッと増してきます。本作の場合は、 “それなりに長く生きてきて、この感情が何なのか手に取るように分かる。そして、その前にはいつでも自分が滑稽で仕方なくなってしまうことも” という言葉で以て、それを表現していました。 うーん、これも何だか共感度が高いなぁ……。自分自身の経験として、こういう感慨を頂いてしまう事、屡々あります。いや、ありました、という云うべきかな……。 今挙げた二つのセリフを見た時に、「ああ、これは良い作品だな……」と感じましたね。 ドロドロっとした俗っぽさもない。そして男の方が死神、という特殊なバックグラウンドを抱えているけれども、そこには何か過剰に美化したり、飾り立てたりする所もない。 その恋愛描写に於けるバランス感が、絶妙でした。 最後に語るべき所は、ラストシーンでしょうか? 30分ちょいの短編ですから、ネタバレは避けようと思います。 私の私的な用語で「ヒロイン殺し」というものがあります。 中々説明するのが難しいのですが、「ストーリーの都合によって安直にヒロインを殺してしまう」っていうと一番伝わりやすいかな。ちょっと非難がましいもの云いですけれども、私は結構好きなんですよ、困った事にw それはさておき、一方で、「安直なハッピーエンド」っていうのもありますよね? 想いの力で不治の病が治っちゃったぞ! ってなタイプです。 これもやっぱり非難がましいようですが、やっぱり嫌いじゃないんですよw で、考えてみるに、「どういう結末を迎えるにせよ、そこに何かしらの納得感が欲しい」という事なんです。 そういう結末に至るまでの説得力があるかどうか……という事なんですが、中々難しい所ですよね。 ですが、本作は、そこが凄くスムーズで、結末を静かに受け入れる事が出来たように思えます。 また、結末部分がちょっと暗いんですが、何とも云えない絶妙な余韻があるんですよねぇ……。 このブログを長いことご覧頂いている方はご存じかと思いますが、私は割と「ダーク」なエンドだったり、ラストに棚引く余韻たっぷりの作品を好む傾向があって、本作もその系統なので、プレイ後、しばし放心状態でした。 さて、最後になってしまいましたが、気になった点(という程でもないのですが)を。 テレンスは死神である、と何度も描いていますが、まぁ、云ってしまえば「アッチの住人」です。で、唐突に「中立界」なる言葉が出てきて「アッチの世界」が単一ではなく複数の層を成している事に気がつきます。 これは、前作でも出てきた設定ですよね。本作は本作で独立しているけれども、世界観としては繋がっている、という事なのでしょうか。 本当に気になったというレベルではないのですが、これは寧ろ、前作と併せて読んで楽しむといいかな? という部分ですね。 そういえば、ヒロイン椿はちょっと嬉しいフルボイスです。 プレイ時間は凡そ30分程。個人的には男性にお勧めしたい感じはあるのですがw 是非、登場人物の心情なんかに注目しながら、少しダークで余韻の残るラストをご覧下さい。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2011-01-09 16:26
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