2011年 02月 12日
今日の副題 「かなりハイレベルな短編集」 ※吟醸 ジャンル:短編集なので、後述。 プレイ時間:合計で一時間ちょいくらい。 その他:どのお話も選択肢なし、一本道。 システム:NScripter 制作年:2011/1/6 容量(圧縮時):61.0MB 道玄斎です、こんばんは。 随分、先のレビューから時間が空いてしまいましたが、久々に「響く」作品がプレイ出来ました。 というわけで、今回は「Lunaria Project」さんの『ウィンドチャイムに連れられて』です。 良かった点 ストーリーは、サイトの方にリンクを張っておく事にしましょう。こちらからどうぞ。 というわけで、久々に(全体を通して)それなりに尺のある作品をプレイしました。 云わせて頂きますけれども、本作は所謂「名作」だと思います。本作を入れると四作品目という事で、実績のあるサークルさんの作品なんですが、着実な成長が窺えます。って、ちょっと上から目線なのはゴメンナサイ。 本作は、タイトル画面の「はじめから」をクリックすると、どのシナリオを読むか? を選択出来るんですよね。 私はオーソドックスに、上から順番にプレイしていきました。ちなみに、作品は上から表題作である所の「ウィンドチャイムに連れられて」、「海の見える窓辺から」、「天色の空」となっています。 で、表題作「ウィンドチャイムに連れられて」が物凄く良かったですね。 プレイするとすぐに、作品が私の云う所の「サンドウィッチ型」になっている事に気づくと思います。要するに、現在の時間があり、そこから回想していく形で過去の時間が再生されていく、別の時間によってある時間がサンドされているタイプの作品です。 どうやら主人公は、「現在」、高校時代のアルバムを見ていたようで、作品の本編はその「回想された過去」、という事になりましょうか? 主人公は野球部員でキャプテンを務めていました。 その時は良いメンバー達に恵まれて、高校野球の世界でドンドンとのし上がっていき、周囲の期待に押しつぶされそうになっています。 一方で、そうした主人公の境遇の変化を或る意味で一番身近に感じとっていたのは、幼なじみの美里です。日増しに有名になり、プロ球団からスカウトまで来るようになった主人公に対し、どこか距離を感じてしまい、幼なじみのハズなのに、接し方が分からない……。 そういう幼なじみ同士の微妙な関係を描く、或る意味永遠のテーマを描いた作品です。 が、そこに高校野球という軸も入り込んでおり、「幼なじみが有名になり“遠く”へ行ってしまった気がする……」という、意外とありそうで無かった作品になっていたんじゃないかな、と。 本作が良作である事、疑いの余地は無いのですが、ある時、ある瞬間だからこそ「響く」作品ってのもありますよね? その時置かれている自分の境遇とか、そういうのが重ね合わされて読めてしまう……そういう時があります。 別に私は野球で有名な人間じゃないし、何かの分野で有名な人間でもないんですが、何だか台詞回しだったり、先ほどから述べている距離感についての描写だったりで、凄く自分の中に響いた感触があったんですよね。 そういう事情があってか、後半の野球のシーンの一枚絵で目頭が熱くなってしまいました。 本作――他の二作品もなんですけれども――一枚絵の使い方、が上手いです。 一枚絵によってプレイヤーに「ネタばらし」をしたり(あの絵が無いと、分かりにくいもんね)、キメるべき所にきっちり一枚絵が載っかってきます。 これは、きっと過去に三作品お作りになった、そういう経験があるからこそ、なのでしょう。凄く良かったと思います。 あっ、そう云えば脱線しますけれども、ウィンドチャイムってご存じですか? 良く音楽のサビの前に鳴らされる「しゃららららん~」って鳴る楽器ですw もう少し分かりやすい例を挙げると、喫茶店のドアに掛けてあったりする、長さの異なる金属の棒を何本も並べた楽器、っていうとピンと来る人も多いのでは? 以上、脱線終わり。 一番最初に、サンドウィッチ型になっている、と云いましたが、反対側のパンは実は描写されていません。 つまり、過去の回想を経て「現在」に戻らないまま、になってるんです。 けれども、そこが又、プレイヤーに「想像の余地を残す」って部分でもあって、今回は私、そこは全然気になりませんでした。 寧ろ、気になった点としては、美里が自分の気持ちを吹っ切る事が出来た、その経緯がもう少し詳しく描かれていたら良かったかな? という辺りでしょうか? ウィンドチャイムという小道具を上手に使い、お互いの距離が縮まるきっかけが描かれていたのですが、主人公としての気持ちは、十分伝わってくるんです。 けれども、美里としては、「どうしてそのような心境に至ったのか?」という部分が少し不明瞭かもしれませんね。 そこらへんがもう少し丁寧に描写されていたら、もう少し尺も伸びたはずで、全然一本の作品として成立していたんじゃないかしら? で、そうであれば、きっと大吟醸を付けていたと思いますw さて、次は「海の見える窓辺から」ですね。 これは、ちょっとファンタジックでミステリアスなラブストーリーという感じでしょうか? ある日、目を覚ますと病院に居て、謎の少女がお見舞いに来てくれるんだけれども、その少女に関する記憶だけがすっぽり抜けてしまっている、という、そういうお話。 中盤辺りから、少し複雑になってくるものの、「……? どうなってんだ?」って所の種明かしも、チェスに喩えながら説明され、分かりやすくて、消化不良感もありませんでした。 これも結構感動系のストーリーなんですが、捉え方によっては、ちょっと恐いエンドに思える部分もあるかもしれませんねw 最後は「天色の空」です。 これは又、打って変わって、所謂SFチックな「終末モノ」でした。 数日後、世界は隕石によって滅んでしまう事が決定している中で、ある事件をきっかけに疎遠になりつつあった幼なじみ二人が、「本当の空」を目指して旅をしていく……みたいな。 隕石によって世界が滅びる、というのは割とSFでは古典的なテーマで、アーサー・C・クラークの『神の鉄槌』という小説もそんな感じでしたね。まぁ、そちらは「その降ってくる隕石を何とか破壊して軌道を逸らそう」とするお話でしたけれども。 ちなみに、このシナリオはどうやら未来(と云っても近未来)が舞台っぽいですねぇ。 また戦争があって(第三次世界大戦後、というのもやっぱりSFの定番テーマ)、空が雲に覆われてしまった世界が舞台となっています。 これは、オチの部分は予想出来ていたんですが、独特な終わり方の余韻がたまらない作品でしたね。 悲壮感漂うエンド、ではなくてどこか『終末によせて』に通じる所もある、実はある種の淡い希望を残しつつのエンドで、個人的にこういう感じ、凄く好きですw と、後半二作品は、やや駆け足気味になってしまいましたが、本作に収録されている三編、一渡りご紹介してみました。 書きました通り、三編が三編ともテイストが異なっていて、その意味でバラエティに富んだ短編集、になっていたんじゃないかと思います。 『ウィンドチャイムに連れられて』という作品総体としての纏まり感、という事で云えば、テイストの違う作品が集まっているからアレな部分はあるのですが、どの作品も幼なじみという関係が基本となっている事、そして「感動系」という言葉で括る事も出来るわけで、中々良かったんじゃないかな、っと。 やっぱり個人的には表題作を一本でリリースしてくれたら良かったかなーって所はどうしてもありますけれどもねw 久々に「これは日を改めて、また読み返したいな」という作品に出会えた事、本当に嬉しく思います。 一応吟醸、という事にしていますが、かなり大吟醸に近い吟醸、という事でw 全部プレイしても凡そ、一時間ちょいで読了可能です。短編集、ですので、先ずは気軽に一つシナリオを読んでみて下さい。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2011-02-12 19:20
| サウンドノベル
|
Comments(4)
どうですか? 良い作品だったでしょう?(笑)
私のお気に入りは「天色の空」ですが、ここらの感じ方の 違いも面白いですね。
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同じテーマで三つの短編という
作者様の引出しが垣間見えた 良い作品でしたね。 私もNaGISAさん同様、「天色の空」が一番好きですね。 では二番目の「海の見える窓辺から」はどうかというと「星空に馳せた想い」を進化させた作品なのではないかと。 二つとも別れというシナリオがありますが「海の見える窓辺から」は「星空に馳せた想い」のいい所を残しつつ読みやすさやヒロインとの過ごした時間を感じさせるいい短編だと思ったのがその理由ですね。
Commented
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s-kuzumi at 2011-02-13 21:41
>>NaGISAさん
はい、良い作品でしたw レビュー本編でも書いた通り、何となく、表題作の方が個人的に「響い」ちゃったんですよねw 勿論、「天色の空」が終末モノとしてとても良い出来の作品である、という事は承知の上で、なんですけれどもw
Commented
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s-kuzumi at 2011-02-13 21:44
>>なのはなさん
ここまでの短編集って中々ないですよね。 かなりハイレベルで、且つ色々な引き出しも見せてくれて……というタイプでお腹一杯になりましたw 「海の見える窓辺から」は、仰るとおりかもしれませんねー。云われてみれば『星空~』を昇華させた感じですよね。 一応、弁明みたいな事をしておくと、私「天色の空」が気に入らなかったとかではなくてw あまりに表題作がズシンと来てしまった……というw 「天色の空」も終末モノとして、物凄く良い作品でしたよね。 |
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