2011年 12月 30日
![]() 今日の副題 「それは、たった一分の奇跡」 ※吟醸 ジャンル:不治の病のシリアス系ノベルゲーム プレイ時間:4時間半 その他:選択肢なし、一本道 システム:CatSystem2 制作年:2011/9/20 容量(圧縮時):154MB 道玄斎です、こんばんは。 もう年の瀬ですね。年内に、もう一本くらいは読み応えのあるノベルゲームをプレイしたい、と思っていたのですが、無事発見し、こうしてレビューする事が出来ました。 というわけで、今回は「優凪」さんの『あの丘の上まで』です。『あまやどり』の作者さんの新作ですね。 良かった点 ストーリーは、少し長目ですが、ベクターの紹介文から引用しておきましょう。 人に絶望し人生を諦めていた―― こんな感じです。 かなり長目の引用になってしまいましたね。 本作は所謂「不治の病モノ」です。 この不治の病を描いた作品は、枚挙に暇がありません。大凡『ナルキッソス』以降、急激に増えた感触を個人的には感じています。 しかも、本作では「不治の病」に冒されているのは、主人公の妹、果夏です。やはり「妹」がこうした病魔に蝕まれる、とういのも割と目にするような気がしますね。 さて、冒頭部で、主人公の進と果夏の幼い頃の描写がなされます。 この兄妹は、不幸の連続に見舞われており、それ故、他人を、人間を信じられなくなってしまっています。 そうした中で、果夏のとあるアクションが、進の心を動かして「妹を守ろう」と決心するようになるのですが、この辺りで、『加奈~いもうと~』の匂いを少し感じてしまいました。妹の名前も「かな」で音通していますし、病に臥している辺りもかなり近いものを感じましたね。 更に読んでいくと、この兄妹は、親からの虐待や育児放棄などが原因で、或る意味でお互いに依存し合っており、そういう部分を見れば『Silence ~涙をふいて』に近い感触もチラリと感じてしまいました。 とはいえ、実際に読み進めていくと、上で挙げた作品とはやはり一味違います。 その理由の一つは、単なる「病院モノ」「不治の病モノ」ではなく、そこには「人間を信じる」という、もう一つの軸が存在しているから、です。 他人との付き合いを最小限にし、目立たない事を信条にしている進に、声を掛け、積極的に関わってくるクラスメイト、灯の存在が、進の、そして果夏の「他人と関わる事を恐れる」という状況を少しづつ壊していきます。 灯と関わっていく中で、進は比較的スムーズに他人と関わる事が出来るようになり、学校で「自称友人」まで出来てしまうのですが、ここは気になった点、でもあります。 それは、進が、かなり容易に「他人を信じられる」ようになってしまっている、という事と、「自称友人」の影があまりに薄すぎる、という事です。 進と灯は、二人で休日に街に出かける、というデートのような約束をするのですが、実はそのデート場面は描写されず、サラリと次の日に場面が移行してしまいます。 やはり、ここは、まだ他人とうち解けられない進と灯のデートの内容を描いて欲しかったですね。灯との関わりをキチンと描写すれば、進が他人を信じられるようになった、という結果に対して、説得力がグンと増すはずですから。 又、「自称友人」も、チラッと二、三回姿を現すのですが、ストーリーへの積極的な絡みは希薄です。 彼もまた、灯と同様に、主人公の心を開かせる、という意味において、もう少し出番があっても良かったかな、と思います。 けれども、他人を信じられなくなっている進、に対して個人的な感情移入度は高かったです。 そして、果夏の病気、だけではなく、この兄妹の抱えている精神的な問題、という軸が存在している為、ストーリーに厚みがあった事は事実でしょう。こうしたもう一つの軸が無く、単なる「病院モノ」であれば、本作は、相当味気ないものになってしまっていたはずです。 大体、灯のお陰で、進、そして果夏が少しづつ心を開き始める辺りまで、が序盤と考えると良いと思います。 先ほど、デートシーンの省略の問題について触れましたが、序盤のテンポは上々です。気持ちよくクリックして読んでいく事が出来ます。 一方、それ以降、つまり中盤からは、舞台が殆ど病院となってしまい、しかもテンポが悪くなってしまうので、若干読みにくさを感じました。もう少し、必要な部分に焦点を絞ってコンパクトに纏めても良かったかもしれません。そこがダラダラと長く続いてしまうと、「あの丘」という作品の重要なポイントの存在感も希薄になってしまうような印象はありました。 そうはいっても、ある種、その積み重ねがあってこそのラストなわけで、そこらへんのバランスは意外と難しい所だとは思いますね。 ここまで、かなり辛口なのですが、本作が最も光るのは、やはりラストのシーンです。 そこは掛け値無しに感動出来る場面でした。 「不治の病モノ」では、昨今のノベルゲームを見る限り、こういう云い方はアレですけれども「死の演出」に焦点の一つが置かれているように感じます。かと云って「奇跡の力で病が完治した!」というのも、何だか白けてしまいますよね。 その辺りのバランス感覚、そこが本作の優れたところでしょう。 ただ単に、「死にました」というのでもなく、又「完治しました!」というのでもない。 前後の文脈、ストーリーと合わせて凄く良い落としどころを見つけた、という感じです。又、このシーンはその後、最後の最後で示される果夏の願い事、とリンクしており、かなり感動的で、印象的なものとなっています。 何だか今日は辛口になってしまいましたが、ラストのバランスの取れた感動的なシーン、丁寧に作り込まれた演出面(立ち絵こそないものの、随所に出てくるメールの画面とか、かなり凝っています)、兄妹の精神的な成長など、評価すべき所も沢山あります。 「不治の病モノ」が多く作られている中で、やはり、他の作品とは一味違うインパクトを持っていた、という事で、今回は吟醸です。 プレイ時間は少し長目の4時間半。 だれてしまう部分もあるかもしれませんが、是非感動のラストを見てみて下さい。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2011-12-30 20:36
| サウンドノベル
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