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久住女中本舗

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2012年 02月 10日

フリーサウンドノベルレビュー 『Sing Song』

フリーサウンドノベルレビュー 『Sing Song』_b0110969_2184874.jpg

今日の副題 「初恋未満の恋の味」

ジャンル:正統派恋愛ノベル(?)
プレイ時間:3時間程度。
その他:選択肢なし、一本道。
システム:NScripter

制作年:2005/1/15
容量(圧縮時):109MB




道玄斎です、こんばんは。
今日は、めぼしい新作が少ない為、発掘してきた昔のゲームのご紹介。
というわけで、今回は「ぽてと」さんの『Sing Song』です。作者さんのサイトが分からない為、ベクターへのリンクを張っておきます。
良かった点

・正統派の恋愛青春ノベルの要素がギッシリ詰まっている。

・恋愛未満の、甘酸っぱい感触が楽しめる。


気になった点

・文章にやや難アリ。

・急降下してしまうラスト。

ストーリーは、ベクターの紹介文から引用しておきましょう。
優樹と瑞穂と浩一の幼なじみ3人。
いつまでもいっしょでいられると思っていたけれど、春を迎えてその微妙な関係が……
そんな3人組の1年間を見られるADVです。

さて、今回のスクリーンショットを見て、気づいた人はいますか?
そう、あの『私の黒猫』と同じ立ち絵素材を使用しているんですね。いずみ亭さんの所の素材です。
あざとくない可愛さがあって、私はこの立ち絵、結構好きだったりします。

それはさておき、本作は恋愛ノベルゲームの王道をいくような作品でした。
何しろ、主人公瑞穂は、朝にパンを咥えて登校する女の子だったのですw
主人公を女性にした辺りなどは、少しひねりを感じるのですが、中身は直球の恋愛青春ノベル、になっていたと思います。

瑞穂、優樹、浩一の三人の関係を軸にして、恋愛やこのトライアングルの微妙な変化を一年を通して語っていく、というのが、ひとまずの主題と云えそうです。
夏には海、そしてお祭り、花火といった定番のイベントもしっかり入っていて、ありふれてはいるのですが、却って今だからこそ、新鮮さを感じる、そんな素直なストーリーだったように思います。

本作で何が良いのか、と云われたら、私が真っ先に挙げたいのは、「恋愛未満の空気感」です。
本作、これが抜群に良かったんです。
私は恋愛モノの場合、「恋愛未満の甘酸っぱい空気感」が好物なんです。
最初っから主人公が誰かを好きで、そしてその誰かも半ば無条件的に主人公の事が好き。そんな作品が多いのですが、「好きになるきっかけ」みたいなものを、やっぱり描いて欲しいな、と思います。
現実の恋愛も、そこが一番甘酸っぱいでしょ?

胸に抱いたモヤモヤとした感情が、恋という名前で呼ばれるそれだと気づいた時の、あまやかなときめき。
そんな恋愛の醍醐味の一つを、省略する手はないですよね。まぁ、そこに作者さんの恋愛経験が如実に出てきてしまいそうな気はするのですがw

浩一に何気なく、頭をぽんと叩かれた時、瑞穂は正体不明の感情に戸惑うのですが、そこの描写が凄く良かったんです。
劇的なきっかけではなく、云ってしまえば地味な恋愛のきっかけです。が、その分リアリティがあるんですよね。
それが恋だと気づいてしまってから、浩一の前で、自然に振る舞えなくなっている自分に気がついたり、その自分の恋心が原因で、三人のトライアングルが壊れてしまわないかと心配してみたりと、王道の展開でありつつも、リアリティのある描写が光っていました。


気になった点は、先ず、文章に難があったという事。
それは修辞に凝りすぎてしまっている、という事です。私が良く使う言葉では「何かを説明する為に、何かを引き合いに出さずにはいられない」というアレです。
「~のように」「~みたいに」という、云ってしまえば文章の「装飾」がかなり多い気がしました。

いえ、勿論、そうした装飾を全部否定するつもりはありません。
だけれども、ここぞ! という時に凝った表現を持ってくるからこそ、それが活きるのであって、日常の何気ないシーンまで、そうした装飾に溢れてしまうと、良いシーンでの文章のインパクトが薄れてしまいます。

実際に、瑞穂の世界が恋愛によって大きく変わる、そんな読者を惹きつけるような場面では、その比喩や、凝った言い回しがガチッと噛み合わさり、良い雰囲気を出しているんです。
だからこそ、普段の何気ないシーンでは、少しあっさりとした文体の方が良かったんじゃないかな? と思うのです。
まぁ、修辞だらけの文章は読んでいて疲れますからね。ノベルゲームの場合は、やっぱり、そのメリハリをつけてやると、読みやすさが劇的に向上すると思います。

仮に、状況を余計な装飾抜きで、素直に表現した文章を、「地の文」ではなく「素の文」と定義しましょう。
日常シーンでのノベルゲームの描写は、その「素の文」が望ましいのではないか、と、私なんかは考えてしまうわけです。勿論、それを感じさせない程に巧みに修辞を操る作者さんもいるでしょうが、そういう人はきっと例外なので、除外します。
余計な修辞を抜いていくと、文章がタイトになります。結果、テンポが良くなります。そして読みやすくなります。その代わり、スッと流れていってしまうので、重要なシーン、魅せたいシーンをこの素の文にしてしまうと、シナリオが台無しになってしまいます。

ここで、注釈を入れておきたいのですが、素の文と、「そっけない文章」は別物です。
ただただ、淡々と書かれるのではなく、その時の内容や状況をちゃんと「描写」しながら、それでいて素直に書く。それが素の文です。
「丁寧な描写を素直に見せる」、これが、私の云う所の素の文で、恐らく、或る程度は同意を得られそうな気がしています。

話を戻すと、そうした部分で、難解な言い回しや比喩の類が常に表示されてしまっているわけで、気になる部分でした。
又、地の文では、主人公の一人称が「名前=瑞穂」だったので、私は最初「一人称と三人称が混在している?」と混乱しかけました。
「瑞穂は○○した」とか書かれたら、それは、三人称の文章という可能性が先ずあって、その後に、云われてみれば、のレベルで一人称の可能性に気づくのではないでしょうか?
なので、最初はちょっと混乱するかもしれませんね。


そうした文章の問題はともかく、内容的な部分で気になったのは、やはりラストです。
素直にストーリーが流れ、三人の関係が壊れそうになったり……という事件を挟みながらも、物語はラストに向けて流れていく……のですが、ラストで急降下というか、「え? これで終わり?」と一瞬吃驚してしまいました。それまでは、ストーリー的には王道でありながらも、丹念に物語が紡がれていただけに余計に、吃驚してしまったわけです。

本作は、一年間を描く作品です。
ですので、春夏秋冬という四つの季節が描かれるのですが、イベントがどっさりある夏……が一番分量的に多かったです。
春は、起承転結で云えば、起ですから、そこまで長くなくさっくり終わって、そこは良かったと思います。
だけれども、秋~冬にかけてがかなり急な展開をする上、何だか未消化な部分を残しての終わり方だったので、そこが気になりました。

起承転結、という事で云えば、実は本作は理に適った構成をとっているんですよね。
つまり、起承転結をそのまま春夏秋冬に当てはめればいいわけです。
春は、登場人物や状況の説明パートで、そこまで長くなくサックリと。夏では時間を掛けて、三人の仲の良さを読者に印象づけたり、イベントを用意する事で、キャラクター同士の関係がフィーチャーされたり。この承のパートはダレてしまう事が多いのですが、本作はイベントを上手く配置する事で、それを感じさせませんでした。この作品の隠れた好ポイントです。

ですが、いよいよ秋に来て、転となりうる事件が起こります。
三人のトライアングルが崩れそうになってしまうのですが、いつも眠そうにしている浩一が熱い所を見せてくれたり、瑞穂も少し勇気を出してそれに立ち向かっていったり、と転として相応しい内容を持っているんです。
けれども……。冬、つまり結が圧倒的に足りなかったんです。

瑞穂と優樹との関係、瑞穂と浩一との関係……そこらへんの問題がスパンと省略されて、エンディングとなってしまうので、物足りない感じが。
転で生じた問題が、まだどこか置き去りにされたままになっている、といった方が正確でしょうか。
飽くまで本作は、瑞穂と優樹と浩一という三人の関係が主軸となっていたわけですから、その関係をキチンと描いた上でエンディングを迎えて欲しかったですね。



今日は、文章の話で久々に脱線してしまいましたね。
少し、辛口かな? と思わないでもないのですが、本当に結の部分が素直に流れていてくれれば、もしかしたら吟醸にしたかもしれない、そんな素直で素敵なストーリーなのです。狙っていたのか分かりませんが、私にしてみれば、やられた、という感じのミスリーディングもありましたしね。

ともあれ、少し辛口になりましたが、決して悪い作品ではありません。
ラストでちょっと違和感を残すものの、素直なストーリー展開と、甘酸っぱい恋愛未満の雰囲気が楽しめる作品です。
最近めぼしい恋愛モノがない、という方は、七年前の作品ですがプレイしてみる価値があると思いますよ。



それでは、また。

by s-kuzumi | 2012-02-10 02:19 | サウンドノベル | Comments(0)
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