2012年 06月 02日
今日の副題 「さよならは七月の終わりと共に」 ジャンル:記憶喪失の女の子を拾うノベルゲーム(?) プレイ時間:約1時間 その他:選択肢なし、一本道。 システム:NScripter 制作年:2010/2/15 容量(圧縮時):51.8MB 道玄斎です、こんにちは。 今日は、少し前にリリースされていた作品を探してきました。びっくりするくらいの「王道感」のある作品ですが、ラストの何とも云えない、少し物悲しい余韻が気に入ってしまったので、ご紹介する事に。 というわけで、今回は「Project TKM」さんの『forever more ~俺と彼女の、奇跡の5日間~』です。 良かった点 ストーリーは、少し長目ですけれども、作者さんのサイトから引用しておきましょう。 俺は、市内の高校に通う、ごく普通の高校生だった。 こんな感じ。 さて、ノベルゲームの王道、と云えば皆様はどんなものをイメージするでしょうか? 帰宅部で、どこか日常にやるせなさを感じている男子高校生が主人公。これは王道ですね。 そんな主人公が、ある日、偶然、記憶を喪失している女の子を拾ってしまい、済し崩し的に同棲生活が始まる。これも亦王道。 何故か主人公が、高校生にも関わらず一人暮らしをしている……これも厭という程目にする設定ですし、主人公の隣の家(乃至近所)には、幼なじみの女の子が住んでいて、更に彼女は、主人公のクラスメイトでもある。同時にクラスには、ちょっとバカだけれども、実はイイ奴の悪友がいる……。 こんな感じに枚挙に暇がないわけですけれども、本作、上記の要素が全て入っています。 まさに、キングオブ王道。云ってしまえば、王道という名のピースで構成されているのが本作、と云えるのかもしれません。 ところで、王道の良さって何でしょう? 一つは、安心感でしょうね。王道に囚われない新味のある作品は、上手く機能すればプレイヤーを惹きつけますし、ノベルゲームに大きなブレイクスルーをもたらすことも往々にしてあります(それがまた定番になって、王道になっていくものですが)。 だけれども、メリットがあれば、同時にデメリットも存在するのが辛い所。例えば、新味のあるものを作ろうとした結果、何だか良く分からない、情報の伝達に齟齬をきたすような、そういう作品が生まれてしまう可能性があります。 ですが、王道から設定なり、キャラクターメイキングなりを拝借すれば、「それらしい」作品を作る事が比較的容易になります。つまり「そんなに外れない」作品が出来る公算が高まる、というわけです。 でも、やっぱりそこにもデメリットがあって、「どこかで見た作品」が溢れかえったり、その中で、あまり面白味の無い作品が生まれてしまう事も。 本作をプレイしている時、「王道すぎてどうしよう……」と、ちょっと困った、という事は告白すべきでしょう。 ヒロインのミライは、記憶喪失で、主人公ヒカルの家に居候する事に。更に主人公の幼なじみの香子や、クラスメイトの有本が出てきて、ミライやヒカルと関わってくる。 更に、ミライには何か秘密があるらしい事、所々で示されている……。 そういう意味で云えば、安心感こそあるものの、本作は、「どこかで見たことのある感」がたっぷりの、ちょっとレビューしにくい作品だと感じてしまったのでした。 逆に、「どこで他作品との差異を見せてくれるのか?」という部分が、非常に楽しみだったわけです。 が。 大凡、予想通りの展開と予想通りの結末を迎えてしまったので、微妙に肩透かしを食らったのは確か。 では、何故本作を取り上げようかと思ったのか? と云えば、ラストの何とも云えない雰囲気、余韻が素晴らしかったからです。 ミライというイレギュラーな存在が入り込む事で、非日常の空間が生まれ、結果、やるせない感じの主人公も生活にハリが出るわけですが、記憶喪失少女型のノベルゲームの場合、大体二つの結末に分かれます。 一つは、記憶を取り戻し、自分の元々いた場所に帰ってしまう、という別れのタイプ。 今一つは、上記のように、元々いた場所に一旦は戻るも、ラストで戻ってくる、という再会のタイプ どうでしょうか? 大体、当てはまるような気がしませんか? 本作の場合は、前者なのですが、ミライがいなくなり非日常が終わりを告げ、また日常が戻ってくる。 その切なさ、ある種の気怠さを描く所。そこが本作で一番光っていたシーンだったと思っています。 こう、フッとある種の物悲しさが入り込み、その余韻が棚引きながら物語が終わる。こういうタイプ、私好きなんですよね。 さて、一方の気になった点ですが、王道的展開、に関してはもう十分でしょう。 追加で挙げるとすれば、本作の持つ、特殊な文章表記に違和感を感じてしまいました。 というのも、本作は句点(「。」)の後に、全角スペースを入れる、というかなり特殊な文章表記をしているのです。 大体、ノベルゲーム(や小説)の文法(?)として、全角スペースを挿入する場所は決まっています。それは文中の「!」「?」の後です。これは、今まで散々述べてきたので、繰り返しません。 ところが、本作は、句点の後にスペースが入っていたんですね。何か意図があるのか? と思いきや、どうもそうでもないらしい。 読みやすさ……という事を考えるならば、やはり、句点の後にスペースを空けるのはやめたほうがいいのかな? と思いました。 もう一点は、やはり、もう一ひねり欲しい、という所でしょうか。 先にも述べましたが、予想通りの結末を迎えてしまったので、どこかにもう少し、軽くでもいいからヒネリがあると作品全体が締まったんじゃないかな、と愚案致します。 そうですね……。 例えば、本編のエンド後に、時間が経って、ミライと再会する、なんて場面を描いても良かったのではないかと。勿論、そこに至る道も沢山の方法が考えられますし、王道、みたいな展開もやっぱりあります。 本作の場合、相性の良さそうなパターンは、ミライとヒカルに血縁関係が存在している、とかね。 超ド定番の設定がてんこ盛りの作品ですが(逆にここまで王道てんこ盛りだと、逆に新しい気もしますがw)、それ故に読みやすくもあり、又、ラストでは思わぬ物悲しさを感じさせてくれます。 王道だから、という事で敬遠せず、是非ラストまで読んでもらいたい作品です。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2012-06-02 12:07
| サウンドノベル
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