2015年 04月 22日
今日の副題 「本質はタイトルではなくシナリオにアリ」 ジャンル:障害を抱えた主人公及びヒロイン達の恋愛アドベンチャー。 プレイ時間:18~20時間程度。 その他:選択肢アリ、バッドエンドや各ルートにバッドエンドやグッドエンドが設定。18禁。 システム:Ren'Py 制作年:2015/4/1(日本語版リリース) 容量(圧縮時):432MB 道玄斎です、こんばんは。 もう何年も前に、本作の英語ベータ版をプレイして記事を書いた記憶があります。 ついに、その「日本語版」が出たと聞き、プレイしてみた次第です。実際、日本でもニュースサイトなどを中心に話題になった作品ですから、それ以上の説明は不要でしょう。 というわけで、今回は「Four Leaf Studios」さんの『かたわ少女』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。 良かった点 ストーリーは、公式サイトのURLを張っておきましょう。こちらからどうぞ。 非常にショッキングなタイトルがついた作品です。 日本国内であれば、放送・出版コードにひっかかる「かたわ」という言葉が、この作品に注目を集めるのに一役買っているのは間違いないでしょう。 同時に、やはり差別的・侮蔑的なニュアンスがある事から、反感を持つ人もいると思われます。 これがもし、「disabled girls」であったり、「challenged girls」なんてタイトルであるのならば、(特に後者であるならば)恐らく、少なくともタイトルに関しては問題視されることはないはずです。 しかし……差別や侮蔑の本質っていうのは「言葉」ではない事が殆どです。 言葉は全く無関係ではない、とは勿論云えませんけれども、本質は「個々人の気持ち」というか精神の部分であって、それが言葉などの形で出た時、差別や侮蔑が表に分かりやすい形で出てくるんじゃないでしょうか。 とは云え、私もこの「かたわ」というタイトルは「ちょっとやべーよな……」とは思っています。 障害というものに対して、私達は時に必要以上にセンシティブでナーバスになってしまうようです。 上記の「差別の本質は、言葉じゃなくて、精神だろ」という私の考えも、例えば、障害を持つ人が発言するのならば許容され、そうでない人が云ったのならば、「何を知ったような口を!」と怒られてしまう可能性も多々あるわけです。 問題は結構複雑なのです。 ……と、ちょいと堅苦しい感じで書き出してしまったのですけど、そうした「障害」というものに積極的に挑んでいく作品、それが『かたわ少女』である、という事は間違いなく云えるでしょう。 ヒロイン達は、目が見えない、足がない、ひどい火傷を負っている……など、見た目にも分かりやすい障害を抱えています。 しかし、本作のユニークな所は、主人公久夫も、心臓の病気を抱え、今後その病気と生涯を共にしなければならないという設定にあるように思えます。 主人公の持つ、分かりにくいけど確かに存在する病との付き合い、そして見た目に分かりやすい障害と、目に見えない葛藤を持つヒロイン達との交流、そこが本作のキモの部分ではないでしょうか。 今回、「良かった点」にて、「実は普通の恋愛ゲーム」と書きましたが、そこにこそ、本作の特徴があるように私には思えるのです。 私達が普段プレイする恋愛ノベルゲームも、「主人公も、そしてヒロインも問題を抱えており、何とかそれを乗り越えていく」というタイプのものが多いですよね。 本作も、実はそれと全く同じです。 例えば、芸術家肌のヒロイン、琳のルートでは、「琳が両手を失っている事」は殆ど問題にならないのです。寧ろ、話の焦点は「芸術家として生きること」、「芸術とは何か」というような問題に移行していきます。 火傷を負っている女の子、華子のルートもそうです。 確かに、火傷(やそれにまつわるエピソード)が華子の性格に与えた影響は大きいのです。しかし、それは「きっかけ」というようなものであって、シナリオの焦点は、「華子が精神的に強くなる」という部分にあるのでしょう。 本作に於いて、障害というのは「今のヒロイン達」を形作るきっかけの一つであって、その障害そのものが問題になるわけではなく、「私達が誰でも抱える可能性のある問題」にこそストーリーの焦点はあるのです。 ですので、「障害」という部分を除いてみれば、非常にオーソドックスな恋愛ノベルゲームになっている、と感じたのです。 そして、それは「障害を持っているから特別なエピソードが必要なんだ」というものではなく、「障害を持っていようといまいと、俺たちは同じような悩みを持つんだ」という、制作者側のメッセージなんじゃないかな、と私は感じました。 つまり、障害があるから、それを「特別扱い」にするのではなく、その障害を「ニュートラル」に捉えていく、とでも云いましょうか。 一方で、障害が「ただのフレーバー」になっている感じ、がしないのも、本作の良いところでしょう。 例えば、聴覚障害のある静音のルートでは、ミーシャが手話と発話によって、主人公と静音の会話を翻訳し、取り持つわけですが、「どこまでが静音の発言で、どこまでが“翻訳者としてのミーシャとしての発言”なのか、が分かりにくい」という描写によって、聴覚障害や、そこに生じるディスコミュニケーションの問題に踏み込んでいます。 さて、気になった点ですが、上に書いた通りです。 所謂メッセージウインドウの限界ギリギリまで文字を表示して、次の行に折り返して……という形で、文章が表示され窮屈さを感じますし、改行が積極的になされていないので、読みにくくなっている部分もあります。 あとは、ルートによって「ん? じゃあこの後はどうなるんだ?」という感じで終わってしまうものもありました。 そこは個々人の趣味の領域かもしれませんが、私はちょいと気になりました。 ルート、ということで云えば、私は断然、リリーのルートが好きですね。 体験版をプレイした時も「リリーが気になる……」と書いたような気もしますし、ね。 そうそう、本作は、個性豊かな脇役達も見所で、各ルートに入ってもしっかりとした存在感があります。 また、ルートに入っても「そのヒロインだけ」に焦点が当たっていくのではなく、ちゃんと他のヒロインなどのキャラクターとの関わりが描かれているところは、丁寧な作りである、と云っても良いでしょう。 一方、「普通の恋愛モノ」として見た場合、ちょっと物足りない……というか薄味な部分も感じます。 気がつけば久夫は、ヒロインに惚れてしまっていますし、恋愛が成就するまで、が淡泊なのです。これは、作品の作りとも関係がありますね。 この作品は、謂わば共通ルートとでも云うべきルートがあって、それは「学園祭」まで。 その後、各ヒロインのルートに入って、「恋愛が成就するまで」、「ヒロインとの間で問題が起きるまで」、「問題を解決しエンディングまで」と、大体4区分に分けられていました。 やはり焦点は「恋愛そのもの」ではなく、「ヒロインとの問題の解決」にあるわけですから、それで恋愛部分は薄めなんでしょうね。 とは云え、その問題の発生とその解決のパートも少し淡泊な印象はあります。 大体、こんなところでしょうか。 本作は、非常に難しい問題に、実は「真っ正面から」取り組んだ、そんな作品だったのではないかと思います。障害そのものを特別扱いせず、一人の人間の人生の過渡期を描いた作品、ということです。 タイトルがショッキングではあるのですが、無心に読んでみると、色々考えさせられる作品なんじゃないかと思います。 ボリュームが多くて大変ですが、是非、全ルート(リリーのルートも忘れずに!)読んでみて下さい。 それでは、また。 /* 以下、宣伝 私達が運営している、ノベルゲーム制作支援サイト(素材ポータルサイト)、Novelers' Materialなんてものがあるので、良かったら、利用してやって下さいませ~ 素材作者さんも大募集です! http://novelersmaterial.slyip.com/index.php リニューアルも完了し、より使いやすい素材ポータルサイトになっております。 以上、宣伝 */
by s-kuzumi
| 2015-04-22 16:59
| サウンドノベル
|
Comments(4)
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Low
at 2015-04-24 12:31
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完成してたのですね。
以前 レビュー読ませてもらって ぜひ読みたいと思っていた作品です。 読み終えてから 感想書こうと思います^^
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s-kuzumi at 2015-04-24 20:36
>>Lowさん
こんばんは。 どうやら、4/1に日本語版がリリースされたようです。 英語版のまま読んでみる、という手もあったのですが、なるべく楽をしたくて、日本語版の発表まで待ってしまいましたw 今回、レビューを書くにあたり、英語版との読み比べをしてみようかな? とか、色々考えたのですが、結局やめてしまいましたw かなり長めの、読みでのある作品です。 じっくり読んでみて下さい。そして、感想是非お聴かせ下さいね。
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Low
at 2015-11-20 22:44
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コミケ88で販売してたので既にDL済みだったのに 購入してしまいました。(応援購入!)
さすが外国版 設定一つでR18仕様から全年齢版にシフトできるのですね^^ まー長かったです^^; 入院中に全ルートプレイしました^^ 最初は うーん・・・と 思いましたが 全ルート踏破後は いいね^^ と思いました。 ごく自然にプレイしたら 外側から進みリリールートに収斂しました。 リリールートが一番良かった気がします。 題名で 敬遠されるとしたら かなしいですねえ。 私は気にしないタイプです。
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s-kuzumi at 2015-11-29 13:55
>>Lowさん
こんにちは。 なかなかRen'pyもいいシステムですよね。 バックログの仕組みなんかは、私達にはあまりなじみがなくて、ちょっと違和感を感じて しまったりするのですがw 入院されていたのですか? お加減は大丈夫でしょうか?? 入院中は暇なので、ゲームをやるにはいいんですけれどもねw やはり、私もリリールートが一番好きかなぁ。 テーマそのものに重みがありますから、どのルートも、重量感があって 読み応えたっぷりなんですが、物語としての面白さとの両立ということ になると、リリールートが一番しっくりきたのです。 タイトルで敬遠してしまうかた、というのもやっぱりいるんですよね。 けど、一度プレイしてもらえれば、分かるとは思うのですが。。。 最近、ブログのほうをお休みしているのに、コメントいただき恐縮で す。本当にありがとうございました!!! |
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