2017年 09月 18日
※大吟醸 ジャンル:ひと夏の思い出と「今」を描く感動ノベル プレイ時間:~3時間ほど その他:選択肢アリ。メインストーリー1本、サイドストーリー1本に分岐 システム:吉里吉里/KAG 制作年:2017/9/7 容量(圧縮時):293MB 道玄斎です、こんにちは。 今日は前回に引き続き、大吟醸作品のご紹介。 今プレイすると季節感もばっちりだと思いますよ。というわけで、「ペットボトルココア」さんの『夏ゆめ彼方』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。 良かった点前回に引き続き、連続での大吟醸です。 気になった点は、「一応書きました」というようなもので、本当によい作品だったと思います。 ストーリーは、ふりーむのほうから引用しておきましょう。 父親との死別で塞ぎ込んでいた『天才小学生』朝川桂一は、ある日『神様』を自称する巫女服姿の少女と出会う。こんな感じ。 紹介文では端的に、「夏」「伝奇」「将棋」が作品の骨であること示されています。 「夏」の神社で、神様を自称する少女(幼女?)と出会って、「将棋」という一度捨てかけた自分の夢を追いかけることが出来るようになる……みたいなストーリーではあるんですが、このストーリーの流れだけみて「またこのタイプかよ?」と決めつけてしまうのはもったいない! 本作の本当に美味しいところは、やはり紹介文で示されている通り「夢」だからです。 夏、伝奇、将棋のようなものは、云わばフレーバーのようなもので、本作を素晴らしいものにしているのは、その「夢」の要素です。 誤解を恐れず云ってしまえば、「幼いころからの夢が叶う」なんて人は、ほとんどいないんですよね。 みんな大なり小なり挫折を繰り返し、その中で妥協しながら今を生きることになります。 だからこそ、それがノベルゲームの中であったとしても、夢はまぶしく見えますし、主人公に自らを仮託してついつい応援したくなるわけです。 本作で何より優れていたのは、その「夢」の行方を丁寧に追っていくところでした。 神様である少女――杏(あんず)――との出会いで、また自らの夢を恢復させ、夢に向かって踏み出していく。 ここで物語を終えることも十分可能だったはずです。 しかし、本作はもっともっと「夢」に踏み込んでいきます。 詳しくは是非プレイして確かめて頂きたいのですが、夢っていい事ばかりじゃありません。 先ほど書いたように、挫折はつきものです。むしろ挫折していく人のほうが多いくらい。しかも、それにすべてをかけていればいるほど、実生活での「潰し」が効かなくなってきます。 そういう部分での、主人公圭一の葛藤は、本当にリアリティがあります。 何かに一生懸命取り組む。しかしその努力がそのままリターンされてくるわけではない。大人はみんなそれを知っていますが、いざ自分がその立場になってみると、みっともなく暴れたり、ふさぎ込んだりしてしまうのも、また人間です。私自身、読んでいて身に覚えがありすぎて、かなりドキドキしてしまいました。 夢は破れはしたけれど、その中で小さな幸せを見つけていく……というのも一つの生き方です。 本作のサブルートでは、そういう「all or nothing」的な夢の在り方だけでなく、もっと実際的というか、現実的な夢の果て、のようなものも描かれています。 サブルートそのものは、メインのルートに比べるとボリュームや内容的な部分で、物足りなさは感じますが、「夢」のもう一個の可能性を見せてくれたところに、良さがありますよね。 さて、先ほどは大ナタを振るって「フレーバー」といってしまった、神様との交流も実は無視できないものです。 こういう作品に出てくる神様って、みんな女の子ですよね? 間違っても、マッチョなアニキが神様をやってるなんてことはない。 しかも、見た目こそ幼女でありながら、その中身には酸いも甘いもかみ分けた……明も暗も見て来た老成した部分があるというのも定番です。 これは……やはり男性の願望の1つの形なんでしょうね……。 見た目こそ優しくありながら、悲しみすらその奥に秘めている深い海のような愛情を持った存在に、思い切り甘え切ってみたい。そういうのって案外多くの人が持っている願望な気がしますよ。 本作も……やはり後半で、圭一が杏の胸の中で号泣するシーンが出てきますが、前回のレビューでもお話しした通り、名シーンになっています。 圭一の「夢」は最後どうなるか、是非ご自身で確かめてみてください。 そうそう、本作は「将棋」が出てきますが、ルールが分からなくても読むのに支障はありません。もちろん分かる人にはまた別の愉しみが出てくるとは思います(私は駒の動かし方を知ってるくらいだ)。 さて、ここからは蛇足。 久々に「これは」と思えるノベルゲームを2本プレイしてみたわけですが、2本ともとてもいい作品でした。 舞台や設定のようなものは、オーソドックスではありますが、どちらもストーリーの芯が骨太で、人間の悩みや葛藤といった、「物語」が扱うにふさわしいテーマになっていました。 少しノベルゲームから離れている間に、こういう手ごたえを感じる作品が増えてきて、「またノベルゲームも盛り上がる兆しがあるのかな?」なんて思っていたり。 ゲームだけに限りませんが、大体、すっごい流行る良い作品があって、その後、その後追いのような作品がガンガン出てくる。一方で、その反発として目先を変えた作品が出てきて……と、ブームが形成されていきます。 しかし、作品数が増えていくとある種の飽和が生じたりして、ジャンルが衰退に向かっていったりするんですよね。その中で、オーソドックスな良さというのは、重要視されなくなり、刺激的なものがもてはやされる中で、ブームは爛熟期を迎え、徐々に作品数が減って……。 で、「〇〇は終わったぜ」と悲観的なことが言われたりするんですが、またオーソドックスながらも力のある作品が出てきて、ジャンルが再び盛り上がってくる……なんてことがあります。文学の歴史とかって割とそういうとこありません? ですので私は、今回2作品プレイしたのですが、ちょっと、またノベルゲームのオイシイ季節がやってきたんじゃないかな? なんて思っているんですよ。 もしかしたら、そういう時期は来ないかもしれないし、来たとしても一瞬で終わってしまうかもしれない。 けれども、こんなに丁寧に、物語が扱うべき(って言っちゃってもいいかな?)テーマに取り組んでいる作品が少しづつ増えてきている、という現状、とっても嬉しいですねぇ……。 また、私もマイペースではあるんでしょうけれども、これは、と思う作品紹介していけたらと思っています。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2017-09-18 16:05
| サウンドノベル
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