2020年 05月 04日
道玄斎です、こんにちは。 連休……というか、自粛期間中ということで今日も日がな一日家に閉じこもっています。 ちょくちょく書いているような気がしますが、別に私はこのブログを閉じたわけでもなく、ノベルゲームを楽しむことも、レビューを書くこともやめたわけではないので、こうしてシレっと更新することがあるのです。 今日はふりーむの「ノベルゲーム」カテゴリから作品を見つけてきました。 そういえば、少しノベルゲームの世界から離れていると、また色々な変化があるようです。制作エンジンの主流は完全にティラノスクリプトとなり、パッケージとしてリリースされるものだけではなく、ブラウザでプレイすることが可能になっていたり(本作はブラウザでのプレイ。実はティラノはスマホのアプリとしてパッケージングも出来るはず。ただし、あんまり使用されてないと思う。なぜなら……みたいな話はまた今度)、極端に尺の短い作品がリストのかなりを占めていたり。 そんな中で、ちょっとピンとくる作品を見つけてプレイしてみたのですが、短い尺とはいえ密度を感じさせる作品でした。 文字数からは想像も出来ないほど、プレイヤーに「考えさせてくれる」作品、とでも言いましょうか。 というわけで、今回は「冬紀」さんの『ともだちは子ネコ』です。 ふりーむのページは、こちらとなります。 てっきり私、最初、「主人公である雪音さんからは、子ネコが人間の形に見える」とか、あるいは「読者(プレイヤー)の認知として、子ネコが人間として表現されている」とか、そういうものだと信じて疑いませんでした。 多分、この辺りはミスリード的なものを狙っていると思うのですが(“ネコ”って表記とかね)、見事な仕掛けだと思います。 ですので、説明文にあるような「地域ネコ」、あるいは「野良ネコ」なんてキーワードから、猫の話だと思っているとその仕掛けにびっくりします。 ところで、地域猫ってご存知でしょうか? 作中にも出てくる、「片耳をカットされた野良猫」のことなんですが、猫の耳をちょいとカットすることで、桜の花びらのように見えることから、「サクラ耳」なんて呼ばれたりもします。 野良猫が増えすぎると色んな問題が起こります。 季節によっては、夜、猫の鳴き声や叫び声が聞こえる。 街中を猫がウロウロしており、ゴミ箱を荒らしたりする。 交通事故などで、猫の死体を目にする機会が増えたりする。 野良の猫は汚いから嫌いという人もいる。 どうしてたって猫が嫌いな人もいる。 …………。 ……。 まぁ、色々な理由によって野良猫が増えるのが望ましくない、って考えがあり、「じゃあどうすんのよ?」って時に、「野良猫を去勢して繁殖出来ないようにする。しかる後に、その猫たちは地域の人たちで責任を持って世話をしてあげる」という対策が「地域猫活動」と呼ばれるものです。 その活動も、まずは猫をトラップを用いて捕獲するところから始まり……と話し出すと脱線のし過ぎなのでそこはちょいと自重しましょう。 猫と人間が共存するための方策の一つが地域猫活動である、ということは出来るんですが、そこにも色々な問題があります。 地域猫活動は、野良猫を去勢して繁殖を防ぐということに一つの目的があるわけなんですけれども、野良猫を見つけると、とにもかくにも餌をあげてしまって、結果猫を増やしてしまう人というのもいたりします。 また、去勢された猫のエサ場を作ってやり、そこでご飯をあげて面倒をみる、という行為にも「お金」がかかるわけです。また、エサ場には猫が集まるわけですから、猫が嫌いだという人の賛同も得られにくい。いや、そもそも去勢だってお金が掛かります(最近、補助金が出る自治体も多いですけど)。 もっと根本的なことを言ってしまうと、「人間と猫が共存するため」と言いましたが、あまりに人間主体の「共存」の在り方なんじゃないかな? という問題だって実は孕んでいます。 だって、天然記念物である動物なんかは、例えば「人間が彼らに近づかない」など、人間が譲歩する形で繁殖を促し、保護をしているわけですよね。 けれども、猫の場合は人間が積極的に彼らの繁殖能力を奪った上で、保護をするということになっています(絶対にないけれども、地域猫活動が大成功をして野良猫がいなくなったら、猫そのものが世界からいなくなるわけですよね。ペットショップなどで売られる血統書付きの猫以外は)。 天然記念物は希少だというのは分かるんですけれども、「命は尊い」とか「命は平等」とか言いつつも、そうして命に優劣をつける行為はどうなのか……ちょっと青臭いかもしれないけれども、私はなんだかすごく考えこんでしまうのです。猫と人間は生活領域が重なるとか、そういう事情の違いが天然記念物たちと違って存在するのは分かっているけれども、ね。 で、本作の私がグッとくるポイントがまさに、そういうことを考えさせてくれる作品だった、というわけです(あー、やっと本題に戻った!)。 ネコ(≠猫)の世界をパン屋のお姉さんとの交流を通じて描くことで、実は「その世界の問題点」を描いているわけです。 しかも、最初っから「そういう世界なんだ」と気づかせずに、「ネコ=猫」だというミスリードをしていくあたり、巧みな物語の作り方と言えましょう。 物語の中で、「じゃあ、どうするの?」といった問題に対する答えは出ません。 けれども、その何か燻るような想いを包み込んだまま、どこか優しい余韻を残して物語は幕を下ろします。 何か結論が出るわけではなく、「雰囲気」や「気配」を残して作品が終わる。 そういうパターンってノベルゲームでも結構あると思うのですが、本当に「雰囲気」が活きた作品は案外少ない気がします。 今までの経験上、最初っから「雰囲気ゲーにしてやろう!」みたいなパターンだと失敗することが多いようなw しっかりとした物語の世界を積み上げた先、「それ以上はもう語れず、雰囲気で感じ取ってもらうしかない」という状態になると、よい結果になることが多いんじゃないかと思います。 尺としては10~15分程度のかなりの短編ではありますが、少しづつ世界を明らかにしていく巧みな作り、ラストの余韻や、読後も続く「色々思いを致してしまう」ような深みを持った作品です。 ネコが好きな方は、是非ご一読あれ。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2020-05-04 18:02
| サウンドノベル
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