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久住女中本舗

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2024年 05月 04日

フリーノベルゲームレビュー 『むかし、ふるさとでさ。』

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今日の副題 「変わらないものの味わい」


道玄斎です、こんばんは。
随分ご無沙汰してしまっております。ノベルゲームのレビューを書くのも数年ぶり。
界隈の様相もすっかり変わっているのですが、一方で変わらないものっていうのもあるんですよね。


というわけで、今日はそんな作品のご紹介。

ふちのべいわきさんの『むかし、ふるさとでさ。』です。
そうそう。
もう、このご時世、ブラウザ上でも遊べる作品が増えているみたいですし、容量を記載したりする必要もなかろうということで、思い切ってそれまで書いていた各種情報はバッサリカットしてしまいました。


よかった点
・作品のもつ「変わらないもの」の良さを再認識できる

・奇を衒わぬ王道的な作品が今でもリリースされていることに、ちょっとホッと出来る

気になった点
・主人公の個性がやや薄いか?


もはやスクリーンショット及びタイトル、あるいは上記リンクから読める紹介文にて、どういう作品であるか、その骨子はつかめると思います。


みなさんも一度や二度は、本作のような作品に触れたことがあるのではないでしょうか?
挫折、失望などによって打ちひしがれた主人公が、神様のような超常的な存在(ほぼ100%それは美しい女性の姿なのですが)と出会い、再起していく物語。


と、ストーリーに関しては、まぁひとまずはまとめられそうです。
けれども、よくよく考えてみると、これってかなり「物語らしい物語」なんだと思えるんです。


ノベルゲームでも、別のゲームでもあるいは小説とかでもいいんですが、何かの物語を思い出して欲しいんです。
多くの場合、「回復の物語」「挑戦の物語」とでも呼べそうな形を採っていませんか?


挫折からの回復が主題となっているノベルゲームは、過去(もう相当前だぞ……)私がプレイしてきた中にも、大量にありました。また、そこから「一歩踏み出し、人生にチャレンジしていく」様な物語というのも、やはり同じくらいたくさんあるんです。
もちろん、「回復→挑戦」というような流れを描く作品も多くありますし、あるいは各セクションというかパートの構造が「回復→挑戦」を推進力にして進んでいき、次のセクションに進んでいく、という形も定番中の定番です。


そう、本作のスタイルは、物語のある意味で一番シンプルな形なんです。
こうした作品が今以てリリースされていること、なんかホッとしますし、素直に嬉しくなっちゃいますね。


というわけで、作品のスタイルそのものは、私が盛んのノベルゲームをプレイしていた頃から、あるいはもっと言ってしまえば、物語というものが始まってから続いている「変わらないもの」なんです。


いくらなんでも言い過ぎじゃない?
なんて声が聞こえてきそうだから書いちゃいますけど、日本の物語のオリジンって『竹取物語』だったりします。かぐや姫のアレです。


どうもかぐや姫は、月の世界で何か罪を犯したらしく、地上へ贖罪のために流刑のような形で転生しているんですよね。で、紆余曲折がありつつも、求婚者達に難題を吹っ掛け、純潔を貫くことで罪が赦され、最後は月の世界へと戻っていく。
「ダメな状態から復帰していく」ということを考えれば、これも「回復の物語」と言えそうです。


閑話休題。
ともあれ、物語の構造それ自体は昔から変わらないクラシカルなもの。
一方で、作中で描かれる「ふるさと」というのも変わらないものの象徴になっています。
私個人としては、2024年現在もこうした「変わらぬ作品」がリリースされることが、嬉しかったりするのです。


一応、選択肢があり、内容的な分岐は発生します。
どちらの選択肢を選んでも、登場人物やストーリー展開に変化があったりはしますが、本質的な部分での変化はありません。
そう「回復」への過程が異なるだけで、その本質はそのまま保持されています。


文章も丁寧ですし、読みやすい。
物語をある意味で究極的にシンプルに提示してくれています。


それはそれとして、こういう物語に触れることで、私達自身が「どう変化したのか」というのが、逆に浮き彫りになってくるような気もしているんです。


単純に「またこのパターンかよ」と切り捨ててしまうのか、あるいは何かしらの経験を積んだ人が、本作のような物語に触れ、そこに何か感じ取るものがあるのか否か。
シンプルな物語故に、その時その時、プレイする私達自身を移す鏡のような、そういう作品になっているのではないでしょうか?


物語の内容は分かっている。
おおよその展開も読める。けれども、私は結構それでも感動してしまったんです。
「こういうことが本当にあったならいいな」と、素直に感じてしまったというか。


生きていくということは挫折の繰り返しに他ならぬわけで。また歳を重ねることで、別れ……もっと言ってしまえば身近な人の死にも向き合っていく機会が増えます。
そうした経験の有無や多寡によって、こういう作品に対して感じ取れる部分はかなり変化していくように思えるのです。それはシンプル故の可能性というか、物語の内容そのものというより、物語の構造的な力というか、上手く表現できませんが、そういう感じ。


さて、気になった点としては、主人公の個性が薄味なんですよね。
自分の祖父に対しても、かなり丁寧な言葉遣いで話し、礼儀正しい好青年であることは伝わる。
けれども、主人公そのものの名前が出てこなかったり、主人公たるパーソナリティが薄いというのは指摘してもよいでしょう。


けど、これも敢えて個性を薄くすることによって、プレイヤーが主人公に自らを重ね合わせ易いようにした、とも考えられるから難しいところ。
とはいえ、挫折を経験した主人公の個性がもう少し出ていたほうが、最後の回復フェーズに於けるカタルシスがより得られたのではないかと、思う次第です。


一番最初の話に戻りますが、

挫折 → 回復

という超シンプルな図式があったとして、その「→」の部分にストーリーのキモやドラマがあるんですよね。
また、挫折が深ければ深いほど、それを回復していく過程に於いて様々なストーリーを展開させていくことが可能です。その挫折と回復の間の差が大きいほど、感動もまた大きくなる傾向もおそらくあるはずです。
その意味で、もう少し主人公の個性や、その内実に迫る部分があってもよかったのかな、と私は感じました。


というわけで、久しぶりに更新してしまいましたね。
次の更新がいつになるのか分かりませんが、すっかり今、浦島太郎状態になっている中で、本作に出会えたことはとてもよかったです。


まぁ、もう十分あれこれ書きましたから、この辺りでおしまいにしておきます。
それでは、また。


by s-kuzumi | 2024-05-04 20:40 | サウンドノベル | Comments(1)
Commented by 通りすがりのぼっち at 2024-05-31 22:05
はじめまして。コメント失礼いたします。
去年からノベルゲームを制作している者です。
自分も今、癒しをテーマにした話を作っており、興味深くレビューを拝見させていただきました。

まず「回復の物語」「挑戦の物語」のスタイルが「物語らしい物語」で「変わらないもの」というのは、本当にそうだなあと自分も思いました。
当方は新しいアイディアやゲームシステムに挑戦するのが好きなのですが、物語の主題自体は回復や癒しといったテーマになることが多いです…。
よく描かれているテーマではありますが、描き方は千差万別にできる魅力的なテーマなのだと思います。
あとマイナスをプラスにしていく方が、描く方も読む方も健康的になれそうなので、好きですw

また「シンプルな物語が、プレイする私たち自身を映す鏡のようになる」という分析も印象深かったです。
私は作る側としてレビューを見ることが多いので、この観点は新鮮でした!
言われてみると昔読んだ本などに、当時とは違った印象を持ったり「これってこういう意味もあったのかもなあ」と新たな気付きが生まれることもありますね~!

また「→」の部分にストーリーのキモやドラマがあるという所にも、非常に共感しました。
当方は何が起こったか?より、「なぜ、どうやって起こったのか?」が気になる質でもあるので、
過程部分を読むのも描くのも大好きで、力を入れています。
その際重要になってくるのは、s-kuzumi様のご指摘通り、どこまでキャラを具体的に掘り下げられるか、じゃないかと感じますね…

新鮮な気づきと強い納得力を得られるレビュー記事を読ませていただき、本当にありがとうございました!
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