2024年 05月 06日
![]() 道玄斎です、こんばんは。 今日も久しぶりにノベルゲームをプレイしてみましたので、レビューを。 評価:吟醸 ダウンロード先:ノベルゲームコレクション というわけで今回は「抹茶秋」さんの『十避行』です。 本作もまた、以前よりあるタイプの物語……と乱暴にはまとめることが出来ますが、丁寧に作られ、必ず何かしらプレイした人の心に響く作品になっているかと思います。 よかった点 ・丁寧で読みやすい文章。文章の一時ストップにもこだわりが ・内容も丁寧な描写でまとめられ、過不足が感じられない 気になった点 ・プレイする人の宗教観などによっては、受け入れがたい部分はあるかも タイトル、あるいは作品の説明文を見てすぐに気づくのは、「二人の死出の旅を描いた作品」だということ。 見ず知らずの二人がネットを通じて出会い、「最後の十日間」を過ごす旅に出る、という物語を貫くテーマはかなり早い段階で提示されます。 となると、プレイヤーとしては「最後は死ぬ」という結末それ自体は分かっているわけですから、色々と考えるわけです。 例えば、「二人にはどういう過去があって、そう考えるに至ったのか?」「本当にこの二人は死んでしまうか?」「あるいは最後の最後で死ぬことをやめて、生きるという選択を採るのか」などなど。 そうしたプレイヤーの想像、あるいは「期待感」が物語内容とリンクしながら、プレイを進めていくことに。 これは単純に物語を享受するという形より、より深く、プレイヤー自身が作品の中に踏み込みながら結末を見届ける役割を担うことを意味します。 また、タイトルが示している通り、リミットは十日間。 一日一日が消化されていくタイプの作品でもありますから、重めのテーマでありつつも、区切りが明確に存在しているためそこまで読み疲れをしてしまうこともありません。そして、物語内で一日一日進むにつれ、私達の持っていた期待感が解消されたり、あるいはさらに疑問を生んだり、プレイヤーの感情を揺り動かしてくれます。 この十日間の旅にはルールがあり、「結末を変えず、ハッピーエンドで迎えること」「お互いただの知り合い以上にならないこと」という制約があります。しかし、そうした制約が逆に物語に深みや幅を持たせています。 けど、この時点でプレイヤーとしては例の期待感が出てくるわけです。特に二番目の「お互いただの知り合い以上にならない」という制約は、そうした目的を持った男女が少しづつ交流を続けていくことで、「それ以上の関係になること」が予想されるわけで、それがどのような形で、どういうエピソードでそうなっていくのか、物語を読み進める推進力になっていくんですね。 そういえば、よかった点で挙げた文章ですが、先日プレイした『むかし、ふるさとでさ、』もそうでしたが、非常に丁寧な文章で好印象でした。 私がプレイしていて、ちょっといいなと思ったのが、句読点の使い方。要するに「。」や「、」です。 よくあるパターンは、句点「。」までは文章が一気に表示されるというタイプ。 けれども本作では、「、」で一時文章送りにストップが掛かるんですよね。 昨今、句読点を使う文章(特に句点)を以て「マルハラ」なんて言われたりしているのですが、私はどうしても句読点を使ってしまいます。 で、「、」にて文章の送りにストップが掛かることの何がよいのかといえば、「キャラクターが喋っている感じ」をよりリアルに感じるからです。 私達が普段、口頭にて話をする時、内容や雰囲気、伝えたい事の軽重で、微妙な「間」を持たせたりして喋っているはずなんです。意識しているかどうかは別として。 特に、本作の場合、登場人物たちが話す内容はセンシティブなものであったり、微妙な逡巡であったりするため、「。まで一気に表示されます」というスタイルだと、雰囲気が壊れてしまうんですね。 適度な「、」で一時ストップが掛かることによって、躊躇いであったり、現実に私達が行っている「間」を表現出来たりしているわけで、これは私は本作の演出において、地味ではあるものの、かなり有効な手法だと感じました。 十日間という時間設定も、長すぎず短すぎずでお見事でした。 少しづつ登場人物の人となりが分かっていくような、物語の進行に合わせた、キャラクターの内面の提示も少しづつプレイヤーを物語に引き込みます。 限られた期間の中で発生するイベント、出来事も過不足なく、結末に活きており、高い技量をもった作者さんだと推察されます。 死、もっと言えば自死をテーマにした作品って、以前『ナルキッソス』という作品が出て以降、爆発的に増えた気がします。 そうした作品の中には、正直『ナルキッソス』をただなぞっただけのような作品があったり、あるいはそれを超えていくような内容を提示してくれるような作品もあったり、要するにちょっとしたブームを生み出した印象があります。 本作の場合、長いスパンで見れば、そうした『ナルキッソス』以降の作品と見ることも出来ましょう。 しかし、その亜流とは一線を画する、丁寧に紡がれた良質の作品であること疑いの余地はありません。 一方で、自死そのものに対して、何かしら思う所があったり、宗教上的な理由から受け入れられない方もいらっしゃいましょう。 そうした方とそうでない方とでは、本作の評価はかなり違うかもしれないなぁ、とも素直に感じてしまいました。 私自身も最近、身近な人を自死で亡くしていますから、正直、本作をプレイするのは最初ちょっと抵抗がありました。 けれども、それはそれとしてハイクオリティの作品として楽しむことも出来ましたし、逆に、「そう考えざるを得なかった」人たちの気持ちに思いを馳せることが出来たような、そんな気もしています。 最後にちょっと蛇足ですが、『ナルキッソス』以降、自死をテーマとするような作品が増えてきたこと、先に述べました。 けれども、それは『ナルキッソス』という作品単体での影響はもちろんのこと、今の社会の閉塞感のある状況も、そうしたブームに影響があるのかもしれませんね。 「普通に生きる」ということのハードルが上がってしまった現在、そこに最後の救いを求める人が今日もこの国のどこかにいる。 私自身も、自分の経験を通じて、「俺もおそらくそうなるんだろうなぁ」と漠然とした予感を感じたりもしています。 本レビューでは、その是非については問いません。 私自身も是非を判断出来るような立場にありませんし、日々、自分の気持ちも揺れ動いているからです。 ともあれ、本作が真剣に、そして真面目にそうしたものを描いた作品であることは確か。 二人の「十避行」がどのような結末を迎えるのか、是非、ご自身で確かめてみて下さい。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2024-05-06 14:38
| サウンドノベル
|
Comments(2)
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ご無沙汰しております。
以前にも少しコメントさせていただいたかと思いますが十数年前からこちらのブログ拝読している者です。 先日ふと久々にこちらにアクセスして昨年の投稿に心を痛めていたのですが、まさかまた新しい作品のレビューにお目にかかれるとはいなかったので驚きました! 早速こちらプレイさせていただきました。 自分もやはりプレイしていて「ナルキッソス」が真っ先に思い浮かびましたが、難しいテーマに対して真正面から向き合った上で隅々の表現まで丁寧に練り上げられており、心に残る素晴らしい作品でした。 最近はめっきりノベルゲーをプレイする機会も減ったのですが、変わらずこういう作品が今もリリースされていることやそれに出会えたことをとても幸せに感じます。 ご紹介くださりありがとうございました。 またふと気が向いた時にでも、更新を楽しみにしております。
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ご無沙汰してますー昔、ももいろかんづめを運営していたゆつきです!
ふと思い立って久住女中本舗に寄ったら更新されててびっくりしました!! フリーゲーム懐かしい!ナルキッソス懐かしさの極み!!! おもしろいゲームを探したり、レビュー書く元気もなくて社畜とアプリ課金してる日々でしたが、あの時楽しかったな~って思い出しました! 前記事も読ませて頂きました。ご自愛くださいね💦 またの更新を楽しみにしております。 |
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