2024年 12月 30日
![]() 今日の副題:「不思議な手触りの哲学系(?)ノベルゲーム」 道玄斎です、こんばんは。 もう年末ですね。今年は11月ごろに珍しくノベルゲームを何本かプレイして、レビューもまた何本かプレイしたのですが、昨今のノベルゲームを巡る状況からは、完全に浦島太郎状態になっていたのでした。 で、やっぱり、情報の速度や即時性が求められる現在では、「短め」の作品であったり、パッと目を引く「新奇性」みたいなものが、作品の重要な要素になっているみたい。「プレイしてもらってなんぼ」という考えは当然あるわけですから、それはそれで間違っていないし、そういう進化をしたとも言える。 けれども、ノベルゲームコレクションを自分の及ぶ限りで、眺めてみたり、自分の中で「これは」と思った作品をプレイしてみた感触で言えば、「読まれないのがもったいない」と思えるような作品も見つかったんですよね。 それらをレビューしていたわけなんですけれども、もはや、「美麗なイラストが付く」というのも人気を得ることにマストではない、という感じがしました。 「今、受け入れられる作品」と自分の感覚がかなりズレてきてしまっている、という状況だと思うんですけれども、それはそれ。 私は私が「いいな」と思ったものを紹介するだけなのでした。 というわけで、今回は「栞/Shiori」さんの『遥かなる交信局で』です。 良かった点 ・淡々とした設定や語りが、独特の雰囲気を持っている ・ちょっと面白い文章表現 ・派手さこそないが、レビューを書いてみたくなるような作品 気になった点 ・感情移入していくようなタイプの作品ではないので、好みが分かれる ・文章表示が小さく(※ブラウザ版にてプレイ)、やや文章が読みにくい ストーリーは、今回は私が軽くまとめておきましょう。 主人公はある日の帰り道、ボロボロになったクマのぬいぐるみを見つけ、何の気なしに それを持ち帰る。 すると、クマから通信ノイズと共に、声が聞こえてくる。 どうやら、他の惑星の少女と思しき存在と、「通信」が繋がっている様子。 彼女との「通信」は主人公にとって何をもたらすのか……。 こんな感じ。 昔『夏の日のレザナンス』という作品があって、偶然手にした携帯電話によって、年上の女性と「繋がって」電話越しの交流を重ねるも、何故かお互い会うことが出来ない……、というような作品がありました。 そちらは、いわゆるパラレルワールドに住んでいる女の子同士が、携帯電話によって「繋がって」しまい、それが主人公の成長物語にもなっている、というようなそんな手触りだったかな。 すごく綺麗な立ち絵でしたし、当時新鮮さを持っていたテーマ・題材だったこともあって、昔のノベルゲーマーであれば結構知っている方も多いはず。 一方、本作は、「別の惑星」の女性と繋がってしまう、という一段階スケールが上がった感じ。 で、これは本作の特徴とも言えると思うのですが、繋がった相手との関係や会話が凄く淡々としているんですよね。 主人公(という言い方も本当は正しいのかどうか。作中では「貴方」となっています)の発話はありません。したがって、主人公のパーソナリティみたいなものは、作品の「語り」と私達が選ぶ「選択肢」によってわずかに立ち現れてくる、という感じ。それこそ、学生なのか社会人なのか、仕事は何をしているのか、誰と暮らしているのか、のような情報もない。 さらに通信先の少女「ソラ」に関しても彼女のキャラクターが掴みにくいんです。 ソラが、ちょっと哲学的でちょっと大人びている女性だ、というのは分かるんですけれども、それ以上の「どういう子なのか」みたいな部分はわかりづらい。 いや、実はそれらを含めた情報をお互い「通信」でもって話をしていく、というのが作品の背骨ではあるんですけれども、彼女のパーソナリティが出そうになると(恋愛の話とか)、それが、彼女の考え方や哲学のような方向に行ってしまって、なんとなく捉えどころがないような、そんな印象。 けど、そうした余計な情報がない、淡々とした雰囲気が、不思議と作品のムードに合っていて、ちょっと独特の世界観を出しています。 主人公は「貴方」(=プレイヤー=私)であるわけですから、そこはあまり色を出さずに、読み手を投影させられるような仕組みになっているんでしょう。 一方、ソラに関してはもうちょっと情報が欲しい感じではあるんですが、それもまた、後程考察してみましょう。 ともあれ、こんな感じの不思議で、だけれどもちょっと温かさも感じるような「通信」が作品の魅力だと言えましょう。 そういえば、文章表現もちょっと独特でしたね。 いわゆる「地の文」って言えばいいのかな? 「貴方は○○した」みたいな「語り」の文章と、主人公の内話というかそういうものがシームレスになっているんです。 よく「移り詞」なんて言われるようなタイプの文章で、ちょっと面白いスタイルの文章でした。 なんだろうな。 全体的な印象で言えば、「作品に没入」させることを敢えて避けているような、ちょっと「距離をとる」ような、そういう雰囲気。 そしてそれが、不思議と成立してしまうような、そんな作品です。 ですから、「ストーリーを楽しみたい」、「主人公(やヒロイン)に感情移入したい」というタイプのプレイヤーは、少し面食らってしまう部分はあるかも。 ストーリーそのものの展開を楽しむ、というよりは、主眼は「ソラとの通信」というか「対話」にあるんでしょうね。 となると、例えば異なる惑星の女の子ではなく、別に隣の席の女子でも、お隣さんでも、同僚でも、あるいは占い師でも、対話する相手は誰でもいいじゃん、と思ってしまうんですが、そこが、ソラというキャラクターの説明に繋がってきそうな気がするんです。 何故だか分からないけれども、ソラと通信で繋がって対話をするようになる、という設定ですけれども、本当に対話の相手はソラなのでしょうか? 実は、「貴方」が対話している相手は、ソラという「形を変えた貴方自身」なのではないでしょうか? それが隣の席の女子とか、同僚とかそういう身近な存在になってしまうと、本当に「会話」しているだけになってしまいますが、敢えて、物理的・空間的に全く違う場所にいる存在を借りてくることによって、「自分自身との対話」を成立させているような、そういう風に私には思えました。 であるから、惑星が違っても、言葉も通じますし、社会とか水素とか通信機とかあるいは恋愛とか、そういう「常識」はお互い通じているんですよね。 そこが食い違ってしまったら、対話にならないわけですから。そしてソラに強い個性があると、それは「隣の席の女子」と話しているのと変わらなくなってしまう。 プレイしながら「なんで、こんなに普通に会話が成立しているんだろう?」、「ソラにもうちょっと個性があったらなぁ」とか思っていたんですけれども、読了後には、そうした設定も納得してしまったというわけです。 設定だけみれば、SF的な要素はあるんですけれども、実は自分自身との対話のような、哲学的要素のある作品だったのかな、と。 決して派手さはないですし、プレイ時間も1時間以上(全部の選択肢を試そうとしたら、もっと掛かるはず)と、それなりのボリュームがあります。 今だからこそ、こういう作品の手触りに触れてみて欲しいなあ、と思いました。 昨今の主流の作品とはまた違うベクトルの作品です。 人を選ぶ部分はありますが、気になった方はプレイしてみて下さい。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2024-12-30 18:20
| サウンドノベル
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