2025年 02月 09日
今日の副題「なぜ、私達はこういう作品に惹かれるのか」 道玄斎です、こんにちは。 ちょいとまたノベルゲームをプレイしたくなって、気になったものをプレイしてみたら、予想以上に色々考えさせられる作品だったな、と。せっかくなので、今回もレビューを書いてみます。 というわけで、今回はヅッキーニさんの『国立天使研究センターの記録』です。 良かった点 ・一見すると、SFファンタジーやある種のディストピアものだが、現代に通じるメッセージ性を感じる。 ・「その後」を敢えて描かず、プレイヤーに委ねているところも面白い 気になった点 ・そうはいっても、読んでいてちょっと心が痛むような描写もある さてさて、ストーリーなのですが、国立の施設である天使研究センターの記録を見ていく、という感じ。中心的な人物として研究員のジキルという男性がいて、彼の視点から、その天使研究センターでの出来事が語られていく、という。チャプターによっては彼の上司である室長のサイドストーリーが挟まれたりしますが、やはり、中心的な人物はジキルだと言えましょう。 作中世界では、頭に輪っかをつけて羽の生えている天使族なる存在が、極々自然に存在しています。 彼らは、この施設によって「研究対象」として扱われているわけです。 タイトルワークやこうした設定によって、本作がちょっと「ギミック寄り」に感じる向きもあろうかと思います。 けれども、それが単純なギミックだけでなく、もう少し現在の私達の問題にも通じるような、そういう感触を持っていることは、特筆すべきでしょう。 作品のどういうところからそれを感じ取れるのか、と言うと、例えば施設名の一部である「国立」であるとか、作中にも出てきたキーワード「優生思想」などからです。 架空の国が、天使をクローンとして作り出し、規定の能力値を満たさなかったものを処分してしまう、というショッキングな設定。そして、そこで働く人たちのそれぞれの想い。 一見するとSFっぽい作品ではありますが、作品を支えているバックグラウンドというか問題意識のようなものは、現在の私達にとっても他人事ではないと思います。 能力の多寡によって選別されていく世界……なんていうとディストピアな世界を思い浮かべてしまいますが、私達が生きているこの世界そのものも、全く同じ構造を採っています。 それが合法的でかつクリーンに見える、というだけで。 先だって「優生思想」によって起きた過去の事件について、ニュースなどでずいぶんと報道がなされました。 うんと乱暴に言ってしまえば、ある種の基準に満たない人たちは断種してしまえ、というものではあるんですけれども、けど、これって私達にも当てはまりませんか? 例えば、婚活なんてものがあって、資産、収入、ビジュアルに「基準」を設けて、結婚相手を探す活動があります。 ええ、もちろん、絶対的な基準は存在しません。飽くまで建前としては「個々の好み」でお相手を見つけてね、ということになります。 めでたくそこでマッチングが成立すると、今度はお見合いです。 条件によって選別した相手と実際会ってみて感触を確かめるというフェーズです。 そこで、上手く喋れなかったり、あるいは相手が気に入らないと判断すればそこで「はい、おしまい」。また条件によって相手を探して……というループに入り込んでいきます。 けど、これは結婚相談所の人から聞いたんですが、「絶対的な基準」こそないものの、やはりマッチングが成立しやすい、あるいはしにくい条件はそこに確かに存在しているようです。まぁ、当たり前っちゃ当たり前ですよね。 それは資産だったり年収だったり、学歴であったりね。正直、年収がその見えざる基準に満たないと、結婚相談所の入会に際しても困難があります。 入会を拒否されることはないにせよ、「ちょっと厳しいと思いますよ……」くらいは言われてしまうという。 上手くいく人は上手くいくけど、どうしようもない人は高いお金を払って入会して、お見合いのたびに「お見合い料」を払って、しかもお見合いの代金も払っても、何の成果もないという残酷な事実。 自由競争という建前において、そうした人たちはある種の「断種」をされているとってもいい。 もちろん、結婚が全てだというわけではないけれども、子育てに関連する税金を払うのは空しくなったりはしますよね。自分が望んでも得られなかったもの、それを持っている人たちのために税金を払うという。 話しが長くなってしまいましたが、そういうわけで本作で描かれるような世界の状況と、私達が生活しているこの世界というのは、本質的な部分に於いてそこまで違いがないのでは? と私は思ってしまいました。 本作では、それがより露骨にラディカルに描かれますが、現実はもっと巧妙にクリーンになっている、という違いがあるだけ。 それは自由競争であったり、暗黙の了解や慣習などによって成り立っていたりするんですけれども。 婚活ばっかり例に挙げて申し訳ないのだけれども、例えば先にも書いた「お見合い」。 これって、要するに相手と顔合わせが出来ればいいんですが、間違ってもどこにでもあるコーヒーチェーンなどには行ってはいけないんです。 チェーン店であってもいいんだけれども、ちょっと高級感があったり、そういうものでないといけないんですね。 また、そこでの飲食代なども基本的には男性持ちです。 ええ、建前としては「男女どちらかが払わなければいけない」なんて言われてはいませんし、場合によっては「割り勘を推奨する」旨が伝えられるんですけれども、そこで男が全額支払いをしないと、まずその段階で相手からはねられます(もちろん例外はあります。こう書いておかないと敢えて曲解する人がいるからね)。 実に巧妙なトラップでしょう? ですので、私はこういうちょっとディストピア的なSF作品って、逆にそれが現在を照射するような、そういう作品でもあるような気がしてしまったんです。 現実社会は能力の高い人を必要としており、作中世界では能力の高い天使が必要とされている。その違いだけな気がしたんですよ。 そういう状況に対して、「体制に抵抗するぜ!」ってなストーリーだと、またちょっと別の物語作品になっていくんですが、本作の場合は、ジキルの仕込んだ「仕掛け」が、もしかしたら今後作用することになるかも……とちょっと、結末をボカしながらの、けれども微かな希望を見せて終了します。 自由に競争できる世界って、別に間違ってはいないんですよね。 競争すら出来ない時代だってあったんですから。 けれども、社会状況が変化したり、元々想定されていなかった状況や人々が出てくると、そうした仕組みから取り残されてしまう人や、それに対して違和感を覚える人もいる。最近の社会不安の原因の一端に、そうしたシステムのある種の限界を感じ取ることも可能でしょう。 そういう意味で、本作はただのギミックというか、耳目を集める刺激的な設定をしているわけじゃない、というのが私の実感。 確かに、ちょいと刺激的というか、心が痛むような描写はあります。けれども、本質はそこじゃないよね、という。 サイドストーリー的な「おまけ」まで読んで1時間かからないくらいかな。 今回、私は割と穿った見方をしてしまったり、ちょいと似非社会派みたいな感じでレビューを書いてしまったんですけれども、もっとお気楽に作品を楽しんだっていい。 本作を読んでみた感想は人それぞれ。 私の感想に惑わされず、楽しんでみて下さい。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2025-02-09 16:26
| サウンドノベル
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