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久住女中本舗

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2007年 09月 12日

フリーサウンドノベルレビュー 『さよなら眠り姫』

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今日の副題 「生きる為の執念」


お勧め指数(五段階評価):四
ジャンル:架空病ハードSF(?)
プレイ時間:二時間半~
その他:当レビューは、Ver.2.0でプレイしたもの



道玄斎です、またしても人の目を盗んでこんな時間にレビューをぶち挙げております。
最近、妙に良作を引き当てる事が多くて、何より私自身が楽しんでプレイしレビューを書いている気がします。
ここの所、妙に忙しくて夜はなかなか作品をプレイしたり、レビューを書いたりする事が出来ませんので、こんな時間にひっそりと。
さて、今回は「♯&♯」さんの『さよなら眠り姫』です。
良かった点

・あまり類を見ない(少し)ハードなSF作品(?)

・数は少ないものの、要所要所で出てくる一枚絵が独特の良い雰囲気を持っている。

・設定に独自性があり、物語の中にすぐに引き込まれていく。


気になった点

・多少、設定等にややこしい所があり、プレイ中に考えながら読まなければならない所が。

・作品の内容にマッチしているものの、少し全体的なトーンが暗めかも。

・既読スキップが付いていると良かった。


ストーリーは、
架空の病[逃眠病]が蔓延する直前の地方都市を舞台に話は進む。
[逃眠病]の感染源と言われている少女、[眠り姫]
それを治すために手段を選ばないと決心した少年、[夢奪う男]
二人が知り合い、惹かれた原因はメール。
そして、そのメールのやり取りを仕組んだ女性、[眠らず姫]
様々な人の思惑が[逃眠病]を治すために向けられている。

これは、眠らず姫により導かれた、二人の出会い、幸せ、別れ、再開、そして…。を、記した話である。


「あなたに、いえ、あなた達に僅かばかりの奇跡が訪れる事を」

というものです。
あまり、プレイした事のないタイプのゲームでした。
実在・架空を含めて「病気」が重要なテーマとなる作品は多いのですが、「病に抗っていく」タイプのものはあれど、「病の治療法を見つける」為に登場人物達が頑張るゲームは、あまりないような気がします。
そういった意味で、新鮮さがありとても面白かったです。

タイトルがまたいいですよね。私は最初にタイトルを見た時に、大島弓子の『さよなら女たち』を連想しました。いや、単純に「さよなら~」ってだけなんですが……。
けれども、プレイし終わって考えてみると、ちょっと大島弓子っぽさがあるかな?という気も今はしています。『ジョカへ』なんかに通じるものがあったりするような。

割と、ハードなSFっぽさを持ちつつストーリーは進んでいきます。
途中途中で「?」を感じさせながら、巧みに読者を物語の中に引き込んでいく手法は見事だと思いました。とはいえ、完全に読者を物語に一体化させるのではなく、飽くまで物語を「見せる」という点が徹底していて、賛否両論あるかと思うのですが、私個人としてこのスタイルの方で良かったかな、と思います。
物語の中に完全に入り込むのではなく、少し客観視しながら物語を見つめる。こういうプレイスタイルが、本作の中に滑り込ませてある「現代社会への警鐘」的なメッセージ性をより伝わりやすくしている、と感じたからです。

ストーリーを進めていくと、合間合間に「幕間」なる画面が出たりして、物語を他の登場人物から眺めたりする事が出来ます。勿論、それらを「見ない」という選択も出来るので、一本道のノベルでありながらも自由度は高い、と言えるでしょう。
かなりネタバレになってしまいますが、「ラストも読者が選べる」といった感じで、自分の好きな形で物語の結末を選べる点面白いと思いました。
一応、ちゃんと完結した作品なのですが、「あくまでラストの一例」という形での提示だった為、実は読者の想像力が試される作品でもあるのです。

Ver.2.0では、「外伝」も併せて読むことが出来ます。
が、外伝は本編に対して、おまけ的な付属品として存在しているのではなく、本編に添った形で提供されており併せて読む事で、物語の深層(真相)に近づく事が出来ます。

ただ、普通にストーリーを進め、外伝を読むと、変なところで物語が切れてしまう印象がありました。実は、もう一度「はじめから」プレイし直すことで、更なる選択肢が出て最後までプレイ出来る仕組みだったのですが、その点もう少し誘導があっても良かったのかな、と。

あと気になった点に関しては、やはりこうした作品のさだめと言いますか、少し全体的なトーンが暗いかな、と思いました。暗い、というと実は的確でないのかもしれません。重たいという方がしっくりくる感じです。これは良い面と悪い面の「重さ」です。
物語が濃密である事の「重さ」と、トーンの「重さ」。それぞれ質量が大きいという印象でした。
しかし、重たい中にもちょっとした幸せの一コマが挿入されたりとしていたので、これは個人的な感想ですね。
もう一点、敢えて挙げさせて貰うと、雪花は四方と、ほんの一月程度しか実際に交流していないわけで、八年間眠り続けて目が覚めた後、すぐに四方のプロポーズを受け入れて婚姻届を出しちゃうのは、ちょっと性急すぎかも、と思いました。
序盤で、もう少し雪花と四方の関係に進展があれば、この違和感はかなり少なくなると思いましたが、序盤がダラダラ進んでも良くないので、本当にこうしたバランスを取るのは難しいし、ゲームの作者様は苦労なさっているのだろうなぁ、と。


全体的な感想を言えば、「逃眠病」を直すための登場人物達の執念の物語だった、と。
四方という男性に焦点を当てて物語を紡ぎながらも、その中には現代社会に対する批評というか、警鐘というかそういう社会的なメッセージも込められていて、完成度の高い作品だったと思います。

少し全体のトーンが重めであったり、登場人物の関係が少しややこしい所もあったりしますので、是非是非、ゆっくりとプレイして欲しいと思います。

by s-kuzumi | 2007-09-12 15:40 | サウンドノベル | Comments(2)
Commented by at 2007-09-13 05:23 x
はじめまして、[さよなら眠り姫]のシナリオ担当の♯です。
レビューをしていただき大変ありがとうございました。
やはり、受け取り方も人それぞれなんだと改めて勉強になりました。
近々、夏に販売したゲームのフリー版も発表予定ですので、また楽しんでいただけたら幸いです。

PS.
大島弓子さんの作品は一度も読んだ事が無いので、似たのは多分偶然だと思いますw
Commented by s-kuzumi at 2007-09-13 14:30
>>#さん

道玄斎です、こんにちは。
コメント有り難う御座いました。
こちらこそ素晴らしい作品を有り難う御座いました。

受け取り方、という問題では、作者様の伝えたい事をかなりはき違えてレビューを書いてしまっている事もあり、又作品の魅力を十全に伝える事が出来なかったりするのですが、偏にまだまだ私が未熟なせいであります。どうぞその点、ご容赦下さいませ。

販売されていたゲームをフリーで公開して下さるのは、「フリーゲーム好き」には溜まらない嬉しさです。是非、又遊ばせてもらいますね。

大島弓子さんの件は、個人的にちょっと雰囲気が似てるな、と思っただけですので、あまり気になさらないで下さいw

それでは、失礼致します。
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