2008年 01月 05日
今日の副題 「現代の『経国美談』」 ジャンル:社会派ノベル(?) プレイ時間:全部で六~八時間くらい その他:選択肢無し、一本道。猶、改変や金銭の授受が無い形でのフリー配布が可能。詳しくは作者様のサイトを参照の事。 システム:Nscripter 道玄斎です、こんばんは。 少し前からプレイして(というのは一月一日リリースされた作品です)いたのですが、最後の最後までレビューを書くか書くまいか、悩んでしまいました。 なんと言っても、政治的とでも言えばいいのかしら?そういうメッセージ性が多分にあるんですよね。ちょっと前にアニメで『地獄少女』ってやってましたよね。私はアレが大好きでずっと見ていたんですが、本作はあの『地獄少女』をもっと政治的なメッセージを強くしていったような感じ、と言えば分かりやすいでしょうか。まぁ、そういう手触りです。 なかなか、こういう作品のレビューを書くというのは難しいのですが、手探りしながら頑張って書いていこうと思います。 というわけで、「さんだーぼると」さんの『悪の教科書』です。 良かった点 ストーリーは、サイトへのリンクを張っておきましょう。こちらからどうぞ。 んー、なるべく自分自身、中立な立場でレビューを書いていこうかと思います。 あんまりこういう場で政治信条を振りかざしたくないというのが一点。本作の内容自体が一つの政治的な方向性を持っている為、自分がどっちかに傾いた状態だとまともにレビュー出来ない(滅茶苦茶褒めるか、滅茶苦茶貶すかになっちゃうでしょ?)というのがもう一点。 正直、難しい……。 そうそう、ちょっとデリケートな問題もあるので、今回は敢えて「無印」にしておきます。 本作への評価はやはり皆さんが感じたもの、そのもので良いのではないかと。 五本のお話が集まって、『悪の教科書』という一本の作品となっているわけですが、最初一本目を読んだ時には、何となく後味の悪いものを感じました。 ゲームに於いても、いや、或る意味でゲームだからこそ「いじめ」の描写なんかは読んでいて痛ましいし、辛い。それに、自分の身を守る為、相手を惨殺する、というのも何となく後味が、ね。 けれども、こうした評価は、第二話目の女学園でのストーリーを読んで変わる事になりました。 淑女たらんとする乙女の集う女学園(マリみてやストロベリーパニックみたいな感じ)での「差別」をフィーチャーしたストーリーなのですが、これは凄く良かった。 自分の仲間を守る為に、自分の居場所を崩壊させてもその元凶(=悪のクラスメイト)を殺そうと決意するも、その仲間があと一歩で殺人者になってしまうところだった、ヒロイン聖を守り、助けてくれる。或る意味でベタベタの友情劇で、ベタベタのハッピーエンドなのかもしれない。 けれども、それは第一話でのああいう形のエンドを見た後だったので、とても清々しくて素直に良いエンドだったなぁ、と感じさせるものに仕上がっていました。 さて、ここで物語のキーパーソン「先生」についても書かないといけませんね。 全話に渉りこの「先生」なる謎の人物が出てきて、主人公達に助言をしていくわけですが、その行動の当否は兎も角、ミステリアスで魅力的なキャラクターです。 一体、この「先生」は何者なのか?そして彼の目的は? と第二章を終えた所で考えていたら、第三章は、その「先生」のストーリーが。 この三章も良い話だったと思います。 多少所謂「教育問題」や「歴史問題」みたいなものに踏み込んでいる所はあるのですが、それはともかく、中盤からラストは涙無しじゃ読めません。 で、ちょっと蛇足だけれども、今の小学生や中学生っていうのは、喧嘩のやり方って知らないんでしょうかねぇ。 昔は「泣いたら終わり」とか、「顔面は攻撃しない」「武器は使わない」とかそういう子供の中でもゆるやかながらもルールがあって、その範疇で喧嘩をして、数日もすればまたケロッとみんなで遊んでいたりと、そういう感じだったんですが、最近はニュースを見たりする限りでは、こういう言い方も変ですけれども「全うな喧嘩」っていうのが無くなってしまったような。 喧嘩なんて勿論、やらないに超したことはない。けれども、子供って意外と喧嘩で色んな事を学んだりもするんですよね。 脱線しました。 話を元に戻しましょう。 で、三章なんですが、先生が「先生」になるまでのいきさつを描いた、そういう章ですな。或る意味ではこの『悪の教科書』という作品そのものが「先生」の一代記みたいな側面が(特に五章をプレイすると)あるんですが、元々は理想(それが正しいのか否かは皆様が判断して下さい)に燃える熱血教師だった先生が、「先生」になっていくそのドラマが見所。 四章も割と穏やかな優しい手触りの話でした。 ただ、これは宗教の問題が入っているので、なかなかコメントしづらいものがある。 けれども、それを抜きにして自分を鬼と思いこんでしまった少女が、生まれ変わって歌で人を救っていこうとする、というそのテーマ自体は好感の持てるものだと思うのです。 どのお話も例の政治的なメッセージを抜かせば、それだけで単独として一本の作品になるくらいのクオリティがある。文章も読みやすいし、イラストも可愛い。 良かった点でも挙げたんだけども、本当に気合いを入れて作ったなぁ、というのがひしひしと伝わってきます。オシロスコープみたいな演出とか、徐々に背景がゆがんでいくとか、細かい技が効いています。 背景も沢山の素材を使っていて、見ていて飽きませんでしたね。 ちなみに第四章は、最近行ったばっかりなのですぐに尾道だと気付きましたよ?猫の写真とかで、ね。 で、〆の五章。 ここで、全てが繋がります。 また今まで通りのオムニバスの一本が開始されると思いきや、今回の主人公には行動力や知力があります。そして「先生」と手を組んで……、といった感じ。 最後はちょっとご都合主義的だったのかな、と思いました。 ただ、「先生」の目的っていうのかな、そういうのが達成出来たという意味で、又四章までのキャラがちゃんと自分の居場所を見つける事が出来たという意味では、綺麗な終わり方だったのではないかと。 総括。 本作は、現代の『経国美談』なんじゃないかと。矢野龍渓のね。 作者様の思想というか政治的なメッセージがふんだんに含まれた一種の、啓蒙書のような。 そういう手触りでした。 勿論、そうした作品を目指して本作が作られたと思うのですが、もうちょっと政治色を抑えて万人向けにしても良かったんじゃないかな、とも思いますね。 良くも悪くも色々と考えさせられるお話なんですけれども(本作に共感するのも、また反対するのもそれも自由でしょう)、やっぱりこれは「ゲーム」なわけで、もうちょっとライトに楽しみたい、という気持ちがどうしてもあるんですよね。 ただ、こういう作品が出てきたという、その背景を考える意味はあると、個人的には思っています。 何はともあれ、作品のクオリティは高いと思いますし、恐らく話題作になる事は間違いないでしょう。政治色の強いお話に抵抗がなければ、是非プレイしてみて下さい。 特に、二話、三話目は凄く良いお話ですよ? ※一月六日、午前0時半頃ちょこっと加筆。
by s-kuzumi
| 2008-01-05 22:19
| サウンドノベル
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