2008年 06月 21日
今日の副題 「等身大の文学部の恋愛事情」 ジャンル:女性向け『源氏物語ゼミ』での恋愛模様(?) プレイ時間:1ルート1時間ちょい。一度どのルートでもクリアーすれば二回目からは劇的に楽に。 その他:選択肢有り、選択肢によってそれぞれのルートに分岐。 システム:LiveMaker 制作年:2007/11/3 容量(圧縮時):94.4MB 道玄斎です、こんにちは。 もう、ここまで読めば今日私がどれだけ脱線するかって事が手に取るように分かるんじゃないでしょうか? 何と文学部、しかも『源氏物語』のゼミを通じて、ヒロインが男の子(+一名女の子)と恋愛していく、という作品。某大学でやっぱり古典で大学院まで出てしまった私があれこれ語らないわけがないw 意外と大学生の恋愛を扱った作品って少ないですから、それだけでも稀少なのに、更に『源氏』とは……。個人的にとってもとっても楽しめました。 というわけで、「ストロベリースカイ」さんの『ラブゼミ!』です。 良かった点 ストーリーは、少し長目なので、サイトへのリンクを張っておきます。こちらからどうぞ。 いやぁ、滅茶苦茶楽しみました。 作者様は恐らく「その筋の人」なのでしょう。極めて専門的な古典文学、『源氏物語』の知識が出てきます。今日はあれこれ語りたくて、メモを取りながらのプレイなのですが、原稿用紙で5枚分もメモしてしまいました。さすがに全部語っていくとアレですから、適度に端折りつつ。 基本は、大学生の、「ゼミ」を基本舞台とした恋愛アドベンチャーです。一応女性向きって感じですが、どなたでも楽しめる事請け合いです。大学生活の雰囲気が良く出ていていいですね。 ゼミの雰囲気もいいしね。こういうゼミで私も勉強したかったです。 みんな凄い真面目なのも好感が持てます。大体卒論なんて「てきとーに本をコピーしておしまいー」なんて人間が多いのでw みんな真面目なので議論するような場面では、ちゃんとそれぞれ意見を言い合ったりして、本当に理想的なゼミの雰囲気だと感じました。 さりげないキャラですが、教授も良い味だしてましたね。 基本的にあんまりあれこれ口を出さないタイプの先生。恐らく本編では描写されていないんですが、きっと指導もちゃんとしてくれているんでしょうw 結局、ゼミや研究室の雰囲気ってトップの先生(=教授、若しくは助教授)に拠るんですよ。 先生が精力的に頑張っている人だと、学生にもそれが伝播していくし、先生が投げやりでてきとーな事ばっかやってると、何故か研究室の人間もそういうヤツばっかりになっていく。 それに先生のタイプって問題もあって、「自分の研究はしっかりやるけど指導を全然しない人」とか「指導上手な人」とか様々なタイプがいます。ゼミや研究室を選ぶ時にはそういった面も見て、選択すると良いですね。中には「自分の気に入った学生にしか指導しない」なんて人もいますから。理想的なのは「名誉欲とかが希薄で且つ、好奇心旺盛。更に面倒見が良くって問題をみんなで話し合って考えていくのが好きなタイプ」でしょうけれども、まぁ、いないよ、ねぇ?w 本作では、和気藹々としてそれでいて真剣なゼミの発表シーンを見ることが出来ます。 実際は、大学院なんて行っちゃうと「つぶし合い」の世界ですから、こんな光景は見ることが出来なかったりしますw やっぱり、先生との相性も大きいですよ?発表で、同じ事やっても、「怒られる人と怒られない人」がいたり、ね。そういう先生の特徴を上手に掴んでおべっかつかったり、先生の好むように話しを誘導したり、はたまたどういう理由があるのか知らないけれども「質問の為の質問」を連発するヤツがいたり。 私も経験があります。 一応しっかりと担当箇所を調べてきて、尚かつ徹夜でプラスアルファの部分も作る。どこまで調べてどこまで分かったのかを明確にして、それでも尚かつ分からなかったところなんかも挙げて、発表の中で「~の点が分かりませんでした。是非、ご指導下さい」と言ったのですが、スルーされたりねw 今考えると「誰も分からなかった」んじゃないかとw それでも本当ならば何かそれに付随した議論があってしかるべきなんですが、「資料の誤字脱字」の指摘を延々と2時間指摘されて(いや、滅茶苦茶誤字脱字があったみたいだけども、そんな事はないんだよ? 2箇所くらい。旧字にすべきを新字にしちゃってたってだけ)、結論「お前、失せろ」みたいな……。 一方で、先生お気に入りの女の子の発表の時には「誤字脱字、レイアウトの崩れ」のオンパレードなのに、一切言及無し、しかも以前の私が全く同じ事を言った「考察」に対して「お前、神」みたいなw 何か書いてて腹が立ってきたぞ……w 研究指導でも随分と差が付けられてましたねぇ。 大学院生にもなって「指導」がないと何も出来ないのか? って言われたらそれまでなんですが、指導ってのは「正しい道筋」を示してやる事なんです。学生の持ってきたテーマから「そのテーマで上手くやっていく為のガイドを示してやる」と、それが重要。そうでないと、経験が浅い学生はとんでもない方向に進んでしまいますし、「もういくらやっても新しいものが出てきそうにない袋小路」に迷い込んでしまうわけです。そういう方向性の示唆はないと困りますよねぇ。 私の場合は全くありませんでしたw 例のお気に入りの女の子(今となっては女の子なんて歳じゃないだろうけどw)には、付きっきりでの指導。んで「何をどうやるか」というオリジナリティの部分すら、その子にコピーさせてました。その子もその子で、自分が愛されている事を知っているので、進学する時に「私をとってくれないのなら、上には進みません!」なんて先生に言いに行ったりしてましたw 勿論試験に不正が無かったと信じたいのですが……。いや、信じてますよ? 信じてますとも! まぁ、愚痴っぽい脱線が多くなってしまったのですが、若い人は気をつけて、と。 で、先ほど述べましたように、『源氏』の学説についてかなり本格的に作中で踏み込んでいます。 例えば、夕顔と光源氏の出会いで、「夕顔の遊女性」についての言及が登場人物からあったり、資料の類でも『日本国語大辞典』とかかなりプロユースの道具が出てきます。より正確に言うならばきっと『日本国語大辞典第二版』という事になりますね。第一版の方は2万円台で入手可能なハズ。けど第二版、私も欲しいです。。 更に凄いのは、この『日本国語大辞典』(略して『日国』と言う)が「その語の初出がどこに出ているのかが載っている」という事がちゃんと示されていました。 もう、ヒシヒシその筋の人による犯行w だって分かりますね。 更に驚いたのは『河海抄』なんて『源氏物語』の古註釈の名前が出てきていました。 『源氏物語』って難しいのは、「なんだかよく分からない」部分が大量にあるんです。それは単語だったり出てきている儀式の中身だったり、或いは文意そのものが取りにくかったりと。 で、何百年も前の人間にとっても同じだったようで、各人が自分で注釈を作っていたんです。現存する最古のものは『源氏釈』ですかね。で、こいつらを古註と呼ぶんですが、本作でも出てきた『河海抄』とか、『紫明抄』とか『花鳥余情』とか『弄花抄』とかあれこれあって、そういう古註の説を纏めた古註なんてのもあるんですよ。 大体、最後は『玉の御櫛』でしょうかね。本居宣長です。これは国語の時間にやっていると思うので、皆さんご存じの事だろうと思います。今、ちょっと調べてみたら契沖の『源註拾遺』から「新註」と呼ぶようです。ま、細かい事はいいか……。 結構重要なのは、こうした古註が現代の注釈書のベースになっている、という事でしょうか。情報を積み上げて、説を加えたり或いは除いたりと、いかにも学問っぽい感じです。 本作は、こういうちょっとアカデミックな部分が大きな特徴になっていますね。 主人公のゆかり(デフォルトの名前です。もしかして紫のゆかり、から取ってる?)は、古典なんて全然読んでこなかったずぶの素人。 ですが、勢いで『源氏物語』を卒論で扱う事になります。ゼミのみんなに支えられつつ、少しづつ古典に、そして古典文学研究に親しんでいく。 同じ古典文学に青春を捧げたものとして、物凄い親近感があります。しかも等身大でリアルな文学部の学生なんですよ、キャラクターが。一番私に近いキャラはどれかって? んー、一概に言えないんだけども、結構近かったのは卯月君でしょうか。勿論、あんなにカッコよくないんですが。 読んでいて『源氏物語大成』を使えよ、とか『古事類苑』見た方がいいんじゃないか? そのテーマは袋小路だ、とか余計なつっこみをしつつも、滅茶苦茶楽しんでプレイしちゃいました。 恋愛の部分も良かったです。 凄く甘酸っぱい。 例によって「うわぁ~」とか叫びながらやってましたw 「恋愛っていいもんだよね」と思わせてくれるような爽やかな描写でいいですね。さすがにもうその手の希望はもっていませんがw なんか、プレイしながら、画面の向こうに若かりし日の自分が見えるような気がしましたね。んで、自分の学生時代に好きだった人の事とか、色々思い出したり。結構、自分と似たようなエピソードが頻発していて、少しだけ複雑な気持ち。機会があったら、そこらへんの事も語ってみましょうか? 興味がある人が居れば、ですけど。最初に言っておくと結構面白いと思うよw さて、一方で気になった部分、です。 これは後書きを読むと敢えてやっている事が分かるんですが、一般の恋愛作品のように、個別のルートに入ってから事件が起きて……みたいなノリとはちょっと違います。 飽くまでルートは一本。それにそれまでの選択肢によって、そのルートを一緒に歩いていくキャラ(=恋人)が決定する、という感じで、そこらへで物足りなさがある事も確か。 各ルートによって道筋が大幅に変わる事がない、という事ですね。 あとは、『源氏』ゼミである必然性があったのかどうか、という点。 これ、別に『近代文学』でもはたまた『哲学』でも成立しちゃいそうなんですよ。 折角『源氏』ゼミが舞台となっているのですから、それっぽい仕掛けがあったも良かったのかな? と。例えば気持ちを伝えるのに本を渡す。渡された本は何故か和歌集。んで、その和歌集の恋の歌で、自分たちの境遇そっくりの歌のところに付箋がついていたり……とかさ。 もう少し、『源氏』(や古典)とのリンクを入れると、全体が一本筋が通ったのかもしれません。 これから『源氏物語』を読んでみよう、なんて若い方もいらっしゃるかもしれませんね。 結構大変だと思います。普通に数ヶ月は掛かるので。けど、全部通しで読んでみた時の感動はやっぱり何とも言えないものがあると思いますよ。 良く言われているのですが「須磨」巻あたりで、大体みんな挫折しちゃうらしく、これを「須磨返り」と言いますw けれども、そこで諦めずにじっくり少しづつでいいから読んでいって欲しいですね。或いは好きなキャラを最初に探しておくといいかも? 「こいつの人生を見届けてやるぜ」とか、そういう原動力に……なるかも? ちなみに私の一番好きな『源氏』の女性は「葵の上」です。源氏の最初の奥さんですね。私はこういうタイプが好きなんです。愛想がなくて、プライドが高くてつんけんしてるんですが、子供(夕霧)が出来たあたりで、源氏との仲が回復してきます。これからやっと夫婦としてやっていけるか? ってところで死亡、という報われないキャラなんですが……。 「そうそう!」「こういう感じだったなぁ!」なんて共感しながら読める作品でした。 文学部出身の方はきっと頷きつつ読む事が可能でしょう。理系の方は……「文学部ってこんな感じなの?」と秘密の花園をちょっと覗くつもりでプレイしてみて下さい。 個人的には「吟醸」なんだけども、『源氏』の解説の部分とか理解出来ない人もいそうだったので、敢えて無印にしてあります。そうそう、スクリーンショットも各ルートに入っちゃうとそいつの一枚絵ばっかりだから、敢えて立ち絵にしておきました。 それでは、また。
by s-kuzumi
| 2008-06-21 12:56
| サウンドノベル
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