2008年 06月 22日
今日の副題 「シュールとジャンルの意味を考える」 ジャンル:シュールなファンタジーなんだけども(?) プレイ時間:1時間半程度 その他:選択肢有り、バッドエンドも。 システム:NScripter 制作年:2007/2/2(?) 容量(圧縮時):20.0MB 道玄斎です、こんにちは。 多くの人に御心配を掛けてしまった、足の怪我ももうほぼ完治しています。内出血が酷くてちょっとアザが痛々しいけれども、もう普通に生活出来ますよ? さて、今回は以前『雨と猿』という作品をご紹介しましたが、同じ作者様の作品です。シュールの意味というか、本質というか「ノベルゲームでのシュールさ」を考える上で意義のある作品だったように思えます。 というわけで「大山椒魚」さんの『鏡の中の』です。作者様HPが見つからなかった為、ふりーむのリンクを張っておきます。 良かった点 ストーリーは、今回は私が軽く纏めておきましょう。 俺と弟のリュウジは、既に他界している祖父の家に行く。 と、このくらいにしておきましょう。 敢えていいましょう。本作はシュールである、と。 いや、シュールっていうと何か貶しているみたいなんですが、全然そんな事はなくて、ラストまでプレイしてみると「意味のあるシュール」だったな、と思います。 シュールとは、ともすれば安直なギャグに直結しがちなんですが、本作の場合はギャグではないけれども「捉え所の無い何か」という印象です。 実際は、笑いを誘うような描写もあったりするのですが、それ以上に何とも言えない独特の雰囲気で充ち満ちています。 ちょっぴり、ストーリーを見るとホラーっぽいでしょ? けれどもホラーじゃなくて寧ろファンタジーに近いくらいの作品なんですよ。ファンタジーっていっても例えば以前ご紹介した『白銀妖精』みたいな現代ファンタジーじゃなくて、『ロードス島戦記』みたいな、そういうファンタジーです。まぁ、西洋っぽい謎の世界で、村単位で人間が生活を営んでいる、みたいな。 主な登場人物は兄貴である俺とその弟リュウジ。そして正体不明の大目玉とその分身(?)のくちびるお化けw 兄弟の掛け合いや、大目玉や唇お化けとのやりとりは中々軽快で楽しいものがありますが、シュールさは通底しているのでした。何かシリアスなシーンになると、必ずそれを「落として」、笑わせる仕掛けを出していくみたいな感じです。シリアスになりすぎないように、そしてギャグになりすぎないように。色々と作者様も実験をしているんじゃないかな、と感じました。 こうした実験の成果が『雨と猿』、そして本作『鏡の中の』という作品なんでしょう。 ともあれ、今までプレイした二作品は、作品の方向性を読者に示唆する「ジャンル」分けの問題も色々と考えさせられます。あるジャンルに傾きそうになると、するりと別の顔を見せていくような、そういう捉え所の無さは、不思議でありながら妙に魅力的です。 恐らく、本作も「ジャンル分け」が不可能な作品です。大体私はオールジャンルイケル口なんですが(流石に最近、ホラーは少し食傷気味だw)、こういうジャンルがないジャンルっていうのもいいなぁ、なんて思ってきました。 もう一つ、大きな特徴を挙げると、「人物」が影絵なんですよ。 これも『雨と猿』と同じなんですが、「動きのある影絵」なんです。アニメーションするとかそういう意味ではなくて。例えば某教師モノの影絵はビシッと静止したおかしなポーズが特徴です。 一方、こちらは、妙に動きを感じさせる影絵なんですよね。今、アニメを出しましたが、前者はまさに動いているコマの中で絶妙な一コマを抜き出して提示するタイプ。後者は「動きの起こり」或いは「動きの終端」を捉える事で「その後の動き」「その前の動き」を想像させるようなタイプ、という感じですね。 私自身「影絵って、絶対にもっと応用が利くハズ」と思っていたので、こういう作品に出会えて良かったです。 シュールな雰囲気と相俟って、作品全体で見ると起伏が乏しいので、微妙にダレてしまうのも確か。要するにそれって先ほど語った「ジャンル」の問題と不可分なんですよ。 ミステリーとかだったら「事件」「捜査」「更に事件」「推理」「真相にたどり着く」「エンディング」とか、そういう流れがあるわけで、それだけで或る程度の「起伏」が生まれます。緊張とその緩和があるんですよね、ジャンルの中に。 ホラーでも同じです。「怪奇現象」「迷い込むor自ら探索」「真相に近づいていく」「解決=エンディング」とかね。 ところが、ジャンルを括ろうとすると、するりと逃げていってしまうので、結局「起伏」そのものは「ジャンルの力」を借りる事が出来ないで、なんだか妙に宙ぶらりんになってしまっているような。ですので、少しダレてしまうんですよ。 けど、これって結構重要なポイントなのかもしれません。 或る程度読者=プレイヤーが「ジャンル」なるものによって「期待=予想」を持ってプレイしている、という事になるのですから。ストンと読者の予想通りの展開にして気持ちよさを出したり、或いは逆に思いも寄らぬ形でその予想を裏切ったり。考えていくと深い問題が横たわっていそうです。 で、結局ラストで「あぁ、なんかいいなぁ」と感じさせるパートをちゃんと設けてあったのが、本作の最大の良さかもしれません。何がいいのか、と言えないというやっぱりちょっと捉え所がないものの、「大目玉」の正体、そしてそのメッセージ性とか、或いは兄弟の一日だけの大冒険とか、ラストはしっかりと〆てあるんですよね。ちょっと余韻とかそういうのはないのですがw 本作単品で見るよりも、やはり『雨と猿』と合わせて見た方が、本作を良く理解出来るように思います。この作者様が目指している境地とはどこなのか? 非常に楽しみです。 それでは、今日はこの辺で。
by s-kuzumi
| 2008-06-22 16:20
| サウンドノベル
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