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久住女中本舗

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2008年 11月 11日

フリーサウンドノベルレビュー 『探し屋トーコ』

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今日の副題 「探偵ってどんな仕事?」

ジャンル:探偵アドベンチャー(?)
プレイ時間:7時間~8時間くらい。
その他:一般的な選択肢はないが、ザッピング方式を採っている。一本道。
システム:NScripter

制作年:2009/07/8
容量(圧縮時)91.9MB


※2009/9/24日、データ及びレビューを【探し屋トーコ・完全版(Ver.3.01)】のものと差し替え。



道玄斎です、こんばんは。
元々、この記事は2008/11/11、ポッキーの日に書いたものですが、2009/7/8に完全版がリリースされ、物語が完結、少し送れましたが、私も完全版の方を読了したので内容を加筆修正しておきます。

今日は、早く帰宅出来たので、気になっていたゲームをプレイしてみました。所謂「探偵モノ」なんですけれども、やったら難解な選択肢で真相を暴いていくようなタイプでもなく、また、血なまぐさい殺人事件が起きたりするわけでもない、そんな探偵モノの作品のご紹介。
というわけで、今回は「COF*Works」さんの『探し屋トーコ』です。
作者様は『ISEKON!』という作品も作られていて、私も昔プレイした事があったような……。
良かった点

・読み物として楽しめる探偵モノ。

・キャラクターの立ち位置が中々好み。

・第二章くらいからじわじわと面白くなってくる。


気になった点

・探偵パートがちょっとダルいw

・大詰めのラストで今ひとつ、タイトルにもある「トーコ」のキャラが生きてこなかった。

ストーリーは、サイトのURLを張っておきましょう。こちらからどうぞ。


というわけで、久々のノベルゲームのレビューです。
単純な個人的な意見なんですが、こういうノベルゲームって「疲れる」タイプと「のんびり出来る」タイプの二種類にざっくりと分ける事が出来るのかもしれません。
勿論、疲れるものが面白くないって言うんじゃありません。寧ろ面白かったり、内容が濃かったりするとプレイし終わった後に(心地よい部分もありますが)少し疲れてしまうような。それだけ、密度が濃かったという事なんでしょうけれども、一方で、のんびりというかリラックス出来るタイプのゲームもあります。勿論、これものんびり型だから、良くないとか密度が薄いとか、そういう事ではなくて、何となく作品の持つ雰囲気とか、そのくらいのアバウトな感覚ですね。

本作は、のんびり型だったような気がします。
一応、探偵モノですから、やっぱり重たい事件は起きたりします。それでも、読み物として気軽に楽しめる、そんな作品だったのではないでしょうか?

大筋は、探偵小説好きの高校生の坂崎君が、進路調査の紙に「探偵」と書いた事から、社会勉強の為「トーコ」さんがやっている探偵社(トーコさんが責任者で唯一の所員)でアルバイトをして、探偵を体験していく、といった感じ。

探偵小説好きの主人公ですから、探偵という職業に過剰にドリームを感じているわけですが、実際は地道で大変なお仕事です。これは聞いた話なんですけれども、実際の探偵への依頼で一番多いのはやっぱり「浮気調査」らしいですよ。これは蛇足ですね。
本作は、まだ未完成という事なのかな? 今後もお話が追加されていく気配もあるのですが、取り敢えず現行のヴァージョンでは第一章~五章に当たるパートを読むことが出来ます。

第一章なんかは、無くした指輪を探すという地味な仕事。
その指輪を手がかりにして、もっと大きな事件にたどり着いて……みたいな展開にはなりませんw 勿論、事件の真相みたいなものはちゃんと用意されているのですが、ハードボイルドな探偵モノ、或いはIQ180並の推理が冴え渡るとか、そういう雰囲気じゃないんですよ。
うんと陳腐な言い方をすると、探偵という実際には地味で大変な作業を通じて、人の生き方とか、或いは人の心に触れていく、みたいなそういう雰囲気の作品。中々好みの雰囲気でした。

さて、ここらで職業探偵であり、本作のタイトルにもなっているトーコさんについて一言。
年齢不詳で美人の女性です。だけれども、守銭奴っていうか、やたらと現実的というか、斜に構えているというか、そういうタイプ。
だけれども、人間味が乏しいってんじゃなくて、寧ろ人間味がありすぎるから、そういう風になってしまったんだ、と感じさせるものがあります。というのは、どうやらこのトーコさんには、その生い立ち的な部分で謎があるようで、今後お話が追加される中で、そうした部分も明らかになっていくと思われます。
で、主人公の坂崎君も、やっぱりどうも家庭(現在はアパートで一人暮らし)に問題があるようで、彼の持つ正義感みたいなものとのリンクもエピローグで語られていました。


結構特徴的だな、と思ったのは、誰が主人公かっていうのが、わざとなのかな? 結構ぼやけているんですよ。先にも述べましたが、トーコさんと坂崎君という二人の主要キャラはそれぞれ、どうも過去に何かを背負い込んでいるようで、敢えて言ってしまえば、この二人が主人公という事になるのかしら?
で、タイトルは『探し屋トーコ』ですけれども、トーコさん視点だけでもなく、所謂ザッピング方式で、トーコさん、坂崎君が大体等分される形でストーリーを追っていく事に。事件に関わりのある人物(具体的には、二章に出てくるマルガレーテ)の視点からもザッピングが可能。
視点を選択して見ていく、というよりは、それぞれの視点で物語を見る事が必須になっており、その上で、次のパートに進んでいく、という感じです。

トーコさんも謎なミステリアスな部分を持ちつつ、だからこそメインの視点にはならず、また坂崎君も又然り、といった所でしょうか。
寧ろ、ちょっと物語からトーコさんが距離を置いて存在している、その立ち位置が凄く私の好みです。彼女の視点で物語を進めている時には、探偵パートになって、コマンドを選んで事件を追っていくわけですけれども、だからといって彼女単独で事件を解決するわけでもありませんし、そういう部分でも適度なキャラと作品の距離感があって、それが私の好みだったわけです。
ただ、この探偵パート、結構ダルいんですよねぇw 必要な情報を集めないと先に進めず、コマンドを選んでいく中で、親切設計(必要な情報を集めない限り、その区画から移動出来ない、など)はあるものの、一本道ですから、ゲーム性がない探偵パートになっています。つまり、推理していくとか、情報を引き出していく、というよりも、作品の雰囲気作りといった装飾的な趣が強い印象でした。


さてさて、面白かったのは第二章です。
10歳くらいのマルガレーテという女の子を巡るお話。
そろそろ恒例の脱線に入りますけれどもw マルガレーテって最初、どこの国の言葉か分からなかったんです、浅学非才を恥じ入る耳。
予想出来たのは、英語で言う所の「マーガレット」なんだろうな、と。少女マンガ雑誌じゃありませんよ? 人名です。で、マーガレット、フランス語にすると「マルグリット」ですね。
マルガレーテって、なんかほら、「マルガリータ」に似てるじゃない? でイタリアかな? と思って調べてみたら、ドイツでした。「ほう、ドイツだったか」なんて思いながらクリックしていったら、あっさり本編でマルガレーテがドイツの血が入ったクォーターである事が判明。
もう、三クリックくらい我慢すれば、労せずして真相が分かったのに……w

このパートでは、少女虐待みたいなものが一つのテーマになっていて、興味深いものとなっておりました。一般家庭の少女虐待とはまた違って、そっち風のマルガレーテと血縁の無い、ヒモの男と、女と生活を共同でやっているのですが、マルガレーテは仕事もさせられていて……。
この辺りは不謹慎な言い方なのかもしれないのですが、面白く、興味をそそられるお話になっていたと思います。是非、プレイして確かめてみて下さい。
少し暗くて、重たいお話なのですが、最後はちゃんとハッピーエンドになるので、そういう所も嬉しい所。
第三章以降、探偵事務所でこのマルガレーテは一緒に暮らし、学校にも通ったり、ちょっとした探偵役(?)もやったりするんですが、良いキャラクターだと思います。特殊な生い立ちのせいで常識が無く、対応が非常にぶっきらぼう。だからこそ、人の心の奥まで入っていけるような、そんなキャラクターメイキングがなされており、可愛らしさとシリアスな面、どちらも担えるキャラで個人的に本作で一番好きなキャラになりました。

で、第三章から少しお気楽探偵稼業、みたいな側面が影を潜めて、割とシリアスな展開になっていきます。依頼を受けて、何かを調査するのが探偵。だけれども、その調査結果を依頼人に渡す事で、誰かを不幸にしてしまう事もある。そんな問題がフィーチャーされてきて、探偵モノらしいちょっとほろ苦い部分も見せてくれるものになっていました。

今回、「完全版」としてがリリースされ、物語全てをプレイした訳ですが、最後の二つの章、これはそれまでの、割と「お気楽」なムードから一転して、シリアスな要素が強い展開になってきます。
勿論、作品そのものが終端に向かって進んでいくわけなので、そうしたシリアスで「現実的」な問題を通して、坂崎が「探偵」という職業の明るい部分だけでなく、「暗い部分」を見つめて、彼なりに探偵というものを消化すいていく、というような過程が描かれます。
全編のほほんとした感じでも、それはそれで悪くない気はしますけれども、ストーリーの起伏を考えると、最後の二章でシリアス全開、というのは必然性があるわけです。

ちょっぴり子供っぽい憧れで、探偵を目指していた坂崎も、事件を通して自分の無力さ、或いは「探偵」の無力さや、或る意味で物凄くドライな部分を思い知り苦悩していく事に。

これは先にも書きましたが、探偵モノですが、選択肢を選んで推理を「組み立てていく」というタイプの作品ではありません。答えのルートは一本道。或る意味でトーコを視点とした、所謂探偵パートは「雰囲気作り」や「ギミック」的な要素が強い……んですが、一応探偵モノという事で(そしてクライマックス付近の話ですから)、ネタバレは回避しながら書いていきます。

最終章では、前章を承ける形でストーリーが進んでいきますが、ここに来て初めて(だよね?)、トーコではなく、坂崎による探偵パートが。
一本道で、やや怠い、と書いた探偵パートなのですが、最終章でそれまでのトーコから坂崎に、探偵パートの主導権がシフトしたわけで、ストーリー的な演出として良かったんじゃないかな? と感じました。やっぱりプレイしていると「をを!」とワクワクしてしまいますからね。

ちなみに、最終章は意外の連続でしたよ。
ストーリーやミスリード的な部分も含めて面白かったです。ただ、まぁ欲を言えば、そうした伏線みたいのが、それまでの章でちらちら顔を出していたら云うこと無し、という感じでもあります。
こうした際の伏線は「地雷型」というかね、「伏線である事に気がつかせない伏線」というか、そういう張り方がやはり面白いんでしょうねぇ。何気ないエピソードや日常の場面でこっそりと差し挟まれ、それが伏線だと気づく事なく忘れ去られ、そして最後の最後で真相が明らかになった時に、「あれはこの伏線だったのか!」とちょっと驚くような、そういう伏線がベスト。

何で、そんな伏線の話をしているのかっていうと、最終章が意外過ぎたからです。
普通に面白いですし、意外性という意味でもバッチリ、なんですが、何となくその意外な部分だけ、ぽっこりと浮き出ているような感触があったのも又事実なので。。

で、全体を通して最も気になったのは、ラストの結び方かもしれません。
何を隠そう、本作は『探し屋トーコ』というタイトルが冠されているわけで、ちょっと物語から一歩引いた位置にいながらも、物語のキーパーソンとしての存在感を見せるトーコなるキャラが、最後の最後であまり生きてこなかったような……。
探偵に憧れ、トーコに弟子入りをし、そしてトーコ、或いは探偵に絶望した坂崎に対して、トーコの「根っこ」の部分というか、彼女の本当の魅力が、いまいちラストで出てこなかった印象があります。
又、キャラの魅力、という事で云えば、個人的にかなり好きなマルガレーテも、もちっとラストで活躍しても良かったんじゃないかなぁ? なんて。

いや、どのキャラもキャラクターとしての魅力が凄くあるんですよね。
イロモノだけれども、結構お気に入りなのは、ライバルの大手探偵社のお兄さんw 彼はラストにもちゃんと顔を出しますし、意外とオイシイ所を持ってった感じがw
でも、やっぱりメインのキャラクターが、もうちょっとラストでそれぞれに相応しい活躍を見せる、というのがベストなんじゃないかな? と私なんかは思います。
或いは、もう少し、シメの部分で、彼らのエピソードを語ってみたり。


後半、ちょっと辛口になってしまいましたが、ガチガチの理詰めの(そして、選択肢地獄の)推理モノにはない、読みやすさや楽しさがある作品ですし、探偵モノとしての「苦み」みたいなものも、後半から感じさせてくれ、そうした全体的な構成のバランスは凄く良いと思います。

少し読了まで時間が掛かる作品ですけれども、楽しみながらプレイすると良いと思いますよ。


それでは、また。


※2009/9/24 完全版読了。レビューなど加筆修正。

by s-kuzumi | 2008-11-11 19:52 | サウンドノベル | Comments(0)
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