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久住女中本舗

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2025年 02月 09日

フリーノベルゲームレビュー 『国立天使研究センターの記録』

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今日の副題「なぜ、私達はこういう作品に惹かれるのか」

道玄斎です、こんにちは。
ちょいとまたノベルゲームをプレイしたくなって、気になったものをプレイしてみたら、予想以上に色々考えさせられる作品だったな、と。せっかくなので、今回もレビューを書いてみます。


というわけで、今回はヅッキーニさんの『国立天使研究センターの記録』です。


良かった点
・一見すると、SFファンタジーやある種のディストピアものだが、現代に通じるメッセージ性を感じる。

・「その後」を敢えて描かず、プレイヤーに委ねているところも面白い


気になった点
・そうはいっても、読んでいてちょっと心が痛むような描写もある


さてさて、ストーリーなのですが、国立の施設である天使研究センターの記録を見ていく、という感じ。中心的な人物として研究員のジキルという男性がいて、彼の視点から、その天使研究センターでの出来事が語られていく、という。チャプターによっては彼の上司である室長のサイドストーリーが挟まれたりしますが、やはり、中心的な人物はジキルだと言えましょう。


作中世界では、頭に輪っかをつけて羽の生えている天使族なる存在が、極々自然に存在しています。
彼らは、この施設によって「研究対象」として扱われているわけです。


タイトルワークやこうした設定によって、本作がちょっと「ギミック寄り」に感じる向きもあろうかと思います。
けれども、それが単純なギミックだけでなく、もう少し現在の私達の問題にも通じるような、そういう感触を持っていることは、特筆すべきでしょう。
作品のどういうところからそれを感じ取れるのか、と言うと、例えば施設名の一部である「国立」であるとか、作中にも出てきたキーワード「優生思想」などからです。


架空の国が、天使をクローンとして作り出し、規定の能力値を満たさなかったものを処分してしまう、というショッキングな設定。そして、そこで働く人たちのそれぞれの想い。
一見するとSFっぽい作品ではありますが、作品を支えているバックグラウンドというか問題意識のようなものは、現在の私達にとっても他人事ではないと思います。


能力の多寡によって選別されていく世界……なんていうとディストピアな世界を思い浮かべてしまいますが、私達が生きているこの世界そのものも、全く同じ構造を採っています。
それが合法的でかつクリーンに見える、というだけで。


先だって「優生思想」によって起きた過去の事件について、ニュースなどでずいぶんと報道がなされました。
うんと乱暴に言ってしまえば、ある種の基準に満たない人たちは断種してしまえ、というものではあるんですけれども、けど、これって私達にも当てはまりませんか?


例えば、婚活なんてものがあって、資産、収入、ビジュアルに「基準」を設けて、結婚相手を探す活動があります。
ええ、もちろん、絶対的な基準は存在しません。飽くまで建前としては「個々の好み」でお相手を見つけてね、ということになります。


めでたくそこでマッチングが成立すると、今度はお見合いです。
条件によって選別した相手と実際会ってみて感触を確かめるというフェーズです。
そこで、上手く喋れなかったり、あるいは相手が気に入らないと判断すればそこで「はい、おしまい」。また条件によって相手を探して……というループに入り込んでいきます。


けど、これは結婚相談所の人から聞いたんですが、「絶対的な基準」こそないものの、やはりマッチングが成立しやすい、あるいはしにくい条件はそこに確かに存在しているようです。まぁ、当たり前っちゃ当たり前ですよね。
それは資産だったり年収だったり、学歴であったりね。正直、年収がその見えざる基準に満たないと、結婚相談所の入会に際しても困難があります。
入会を拒否されることはないにせよ、「ちょっと厳しいと思いますよ……」くらいは言われてしまうという。


上手くいく人は上手くいくけど、どうしようもない人は高いお金を払って入会して、お見合いのたびに「お見合い料」を払って、しかもお見合いの代金も払っても、何の成果もないという残酷な事実。


自由競争という建前において、そうした人たちはある種の「断種」をされているとってもいい。
もちろん、結婚が全てだというわけではないけれども、子育てに関連する税金を払うのは空しくなったりはしますよね。自分が望んでも得られなかったもの、それを持っている人たちのために税金を払うという。


話しが長くなってしまいましたが、そういうわけで本作で描かれるような世界の状況と、私達が生活しているこの世界というのは、本質的な部分に於いてそこまで違いがないのでは? と私は思ってしまいました。
本作では、それがより露骨にラディカルに描かれますが、現実はもっと巧妙にクリーンになっている、という違いがあるだけ。
それは自由競争であったり、暗黙の了解や慣習などによって成り立っていたりするんですけれども。


婚活ばっかり例に挙げて申し訳ないのだけれども、例えば先にも書いた「お見合い」。
これって、要するに相手と顔合わせが出来ればいいんですが、間違ってもどこにでもあるコーヒーチェーンなどには行ってはいけないんです。
チェーン店であってもいいんだけれども、ちょっと高級感があったり、そういうものでないといけないんですね。
また、そこでの飲食代なども基本的には男性持ちです。


ええ、建前としては「男女どちらかが払わなければいけない」なんて言われてはいませんし、場合によっては「割り勘を推奨する」旨が伝えられるんですけれども、そこで男が全額支払いをしないと、まずその段階で相手からはねられます(もちろん例外はあります。こう書いておかないと敢えて曲解する人がいるからね)。
実に巧妙なトラップでしょう?


ですので、私はこういうちょっとディストピア的なSF作品って、逆にそれが現在を照射するような、そういう作品でもあるような気がしてしまったんです。
現実社会は能力の高い人を必要としており、作中世界では能力の高い天使が必要とされている。その違いだけな気がしたんですよ。


そういう状況に対して、「体制に抵抗するぜ!」ってなストーリーだと、またちょっと別の物語作品になっていくんですが、本作の場合は、ジキルの仕込んだ「仕掛け」が、もしかしたら今後作用することになるかも……とちょっと、結末をボカしながらの、けれども微かな希望を見せて終了します。


自由に競争できる世界って、別に間違ってはいないんですよね。
競争すら出来ない時代だってあったんですから。


けれども、社会状況が変化したり、元々想定されていなかった状況や人々が出てくると、そうした仕組みから取り残されてしまう人や、それに対して違和感を覚える人もいる。最近の社会不安の原因の一端に、そうしたシステムのある種の限界を感じ取ることも可能でしょう。


そういう意味で、本作はただのギミックというか、耳目を集める刺激的な設定をしているわけじゃない、というのが私の実感。
確かに、ちょいと刺激的というか、心が痛むような描写はあります。けれども、本質はそこじゃないよね、という。


サイドストーリー的な「おまけ」まで読んで1時間かからないくらいかな。
今回、私は割と穿った見方をしてしまったり、ちょいと似非社会派みたいな感じでレビューを書いてしまったんですけれども、もっとお気楽に作品を楽しんだっていい。
本作を読んでみた感想は人それぞれ。
私の感想に惑わされず、楽しんでみて下さい。


それでは、また。


# by s-kuzumi | 2025-02-09 16:26 | サウンドノベル | Comments(0)
2024年 12月 30日

フリーノベルゲームレビュー 『遥かなる交信局で』

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今日の副題:「不思議な手触りの哲学系(?)ノベルゲーム」

道玄斎です、こんばんは。
もう年末ですね。今年は11月ごろに珍しくノベルゲームを何本かプレイして、レビューもまた何本かプレイしたのですが、昨今のノベルゲームを巡る状況からは、完全に浦島太郎状態になっていたのでした。

で、やっぱり、情報の速度や即時性が求められる現在では、「短め」の作品であったり、パッと目を引く「新奇性」みたいなものが、作品の重要な要素になっているみたい。「プレイしてもらってなんぼ」という考えは当然あるわけですから、それはそれで間違っていないし、そういう進化をしたとも言える。
けれども、ノベルゲームコレクションを自分の及ぶ限りで、眺めてみたり、自分の中で「これは」と思った作品をプレイしてみた感触で言えば、「読まれないのがもったいない」と思えるような作品も見つかったんですよね。


それらをレビューしていたわけなんですけれども、もはや、「美麗なイラストが付く」というのも人気を得ることにマストではない、という感じがしました。
「今、受け入れられる作品」と自分の感覚がかなりズレてきてしまっている、という状況だと思うんですけれども、それはそれ。
私は私が「いいな」と思ったものを紹介するだけなのでした。


というわけで、今回は「栞/Shiori」さんの『遥かなる交信局で』です。

良かった点
・淡々とした設定や語りが、独特の雰囲気を持っている

・ちょっと面白い文章表現

・派手さこそないが、レビューを書いてみたくなるような作品


気になった点
・感情移入していくようなタイプの作品ではないので、好みが分かれる

・文章表示が小さく(※ブラウザ版にてプレイ)、やや文章が読みにくい


ストーリーは、今回は私が軽くまとめておきましょう。

主人公はある日の帰り道、ボロボロになったクマのぬいぐるみを見つけ、何の気なしに
それを持ち帰る。

すると、クマから通信ノイズと共に、声が聞こえてくる。
どうやら、他の惑星の少女と思しき存在と、「通信」が繋がっている様子。
彼女との「通信」は主人公にとって何をもたらすのか……。

こんな感じ。


昔『夏の日のレザナンス』という作品があって、偶然手にした携帯電話によって、年上の女性と「繋がって」電話越しの交流を重ねるも、何故かお互い会うことが出来ない……、というような作品がありました。
そちらは、いわゆるパラレルワールドに住んでいる女の子同士が、携帯電話によって「繋がって」しまい、それが主人公の成長物語にもなっている、というようなそんな手触りだったかな。
すごく綺麗な立ち絵でしたし、当時新鮮さを持っていたテーマ・題材だったこともあって、昔のノベルゲーマーであれば結構知っている方も多いはず。


一方、本作は、「別の惑星」の女性と繋がってしまう、という一段階スケールが上がった感じ。
で、これは本作の特徴とも言えると思うのですが、繋がった相手との関係や会話が凄く淡々としているんですよね。


主人公(という言い方も本当は正しいのかどうか。作中では「貴方」となっています)の発話はありません。したがって、主人公のパーソナリティみたいなものは、作品の「語り」と私達が選ぶ「選択肢」によってわずかに立ち現れてくる、という感じ。それこそ、学生なのか社会人なのか、仕事は何をしているのか、誰と暮らしているのか、のような情報もない。
さらに通信先の少女「ソラ」に関しても彼女のキャラクターが掴みにくいんです。


ソラが、ちょっと哲学的でちょっと大人びている女性だ、というのは分かるんですけれども、それ以上の「どういう子なのか」みたいな部分はわかりづらい。
いや、実はそれらを含めた情報をお互い「通信」でもって話をしていく、というのが作品の背骨ではあるんですけれども、彼女のパーソナリティが出そうになると(恋愛の話とか)、それが、彼女の考え方や哲学のような方向に行ってしまって、なんとなく捉えどころがないような、そんな印象。


けど、そうした余計な情報がない、淡々とした雰囲気が、不思議と作品のムードに合っていて、ちょっと独特の世界観を出しています。
主人公は「貴方」(=プレイヤー=私)であるわけですから、そこはあまり色を出さずに、読み手を投影させられるような仕組みになっているんでしょう。
一方、ソラに関してはもうちょっと情報が欲しい感じではあるんですが、それもまた、後程考察してみましょう。


ともあれ、こんな感じの不思議で、だけれどもちょっと温かさも感じるような「通信」が作品の魅力だと言えましょう。
そういえば、文章表現もちょっと独特でしたね。
いわゆる「地の文」って言えばいいのかな? 「貴方は○○した」みたいな「語り」の文章と、主人公の内話というかそういうものがシームレスになっているんです。
よく「移り詞」なんて言われるようなタイプの文章で、ちょっと面白いスタイルの文章でした。


なんだろうな。
全体的な印象で言えば、「作品に没入」させることを敢えて避けているような、ちょっと「距離をとる」ような、そういう雰囲気。
そしてそれが、不思議と成立してしまうような、そんな作品です。


ですから、「ストーリーを楽しみたい」、「主人公(やヒロイン)に感情移入したい」というタイプのプレイヤーは、少し面食らってしまう部分はあるかも。
ストーリーそのものの展開を楽しむ、というよりは、主眼は「ソラとの通信」というか「対話」にあるんでしょうね。


となると、例えば異なる惑星の女の子ではなく、別に隣の席の女子でも、お隣さんでも、同僚でも、あるいは占い師でも、対話する相手は誰でもいいじゃん、と思ってしまうんですが、そこが、ソラというキャラクターの説明に繋がってきそうな気がするんです。


何故だか分からないけれども、ソラと通信で繋がって対話をするようになる、という設定ですけれども、本当に対話の相手はソラなのでしょうか?
実は、「貴方」が対話している相手は、ソラという「形を変えた貴方自身」なのではないでしょうか? 
それが隣の席の女子とか、同僚とかそういう身近な存在になってしまうと、本当に「会話」しているだけになってしまいますが、敢えて、物理的・空間的に全く違う場所にいる存在を借りてくることによって、「自分自身との対話」を成立させているような、そういう風に私には思えました。


であるから、惑星が違っても、言葉も通じますし、社会とか水素とか通信機とかあるいは恋愛とか、そういう「常識」はお互い通じているんですよね。
そこが食い違ってしまったら、対話にならないわけですから。そしてソラに強い個性があると、それは「隣の席の女子」と話しているのと変わらなくなってしまう。
プレイしながら「なんで、こんなに普通に会話が成立しているんだろう?」、「ソラにもうちょっと個性があったらなぁ」とか思っていたんですけれども、読了後には、そうした設定も納得してしまったというわけです。


設定だけみれば、SF的な要素はあるんですけれども、実は自分自身との対話のような、哲学的要素のある作品だったのかな、と。
決して派手さはないですし、プレイ時間も1時間以上(全部の選択肢を試そうとしたら、もっと掛かるはず)と、それなりのボリュームがあります。


今だからこそ、こういう作品の手触りに触れてみて欲しいなあ、と思いました。
昨今の主流の作品とはまた違うベクトルの作品です。
人を選ぶ部分はありますが、気になった方はプレイしてみて下さい。


それでは、また。


# by s-kuzumi | 2024-12-30 18:20 | サウンドノベル | Comments(0)
2024年 11月 23日

フリーノベルゲームレビュー 『雨音、時々晴れ模様』

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今日の副題:「彼女の笑顔は雨間の光」

道玄斎です、こんにちは。
今日は、短くシンプルながらも手をかけて作られた作品のご紹介。
というわけで、今回は「creative blossoms/クリエイティブブロッサムズ」さんの『雨音、時々晴れ模様』です。


良かった点
・短い作品ながらもOPやED、ボイスがあったりちょっと豪華な作り

・優しい手触りのイラスト。作品の雰囲気にマッチしている


気になった点
・OPムービーで作品の大枠は分かってしまう

・故に、もう少しストーリーに厚みが欲しい


本作はタイトルを見てもらえば分かるように「雨」が一つのテーマになっています。
また、ヒロインの名前も「雨宮」で、これまた「雨」。
作品の舞台設定も「梅雨」と雨づくしなんですよね。


けど、その雨は、「あぁ、雨が降ってきちゃったなぁ」というような嫌な雨ではなく、どこかノスタルジックで優しい雨なんです。
そうした作品の持つ雰囲気と、やはり優しい手触りを持ったイラストがマッチして、作品世界を作り上げている、と言えましょう。


OPムービーにてストーリーの大枠は分かってしまう、と書きましたが、これは恐らく「敢えて」でしょう。
というのも、プレイしていけば普通に気づくように、本作の仕掛けがプレイヤーに提示されるからです。
ですので、作品の持つ「謎」の部分に関しては、そこまで力点はなく、「それを分からせた上で、どう作品の中身を提示していくのか」というところに主眼があるのでしょう。


ちなみに作中、川崎の夢見ヶ崎動物園のような場所が出てくるのですが、そういう過去と現在を繋ぐ場所がしっかりと設定してあるのはとてもいいですよね。
なんとなーく、回想の中にだけ出てくる場所ではなく、ストーリーの中で機能する場所というか。
ある意味で、それは当たり前といっちゃ当たり前なんですけれども、そういう一つ一つのエピソードの積み上げが物語を作っていくのです。


気になった点としては、作中にはもう一つ「謎」が出てきますが、これは未解消なのです。
神様と思しき存在が出てくるんですけれども、彼女(そう、例によって美しい女性なのです)は何者なのか、は作中では明らかになりません。
いうなれば、超自然的な力によって作品が成り立っている、と言ってもいいわけですが、そこはもう少し何か説明が欲しかったな、と。


恐らく、彼女(神様)は、いわゆる全知全能タイプの神様ではなく、日本的な八百万の神様の一柱で、ローカルな性質や力を持っていると思われるのですが、ヒロインがこの神様にお祈りをしていたと思しき描写もあるので、もう少し、その辺り掘り下げられそうですし、ストーリーに厚みを持たせるために使えるんじゃないかな、と思ったり。


例えば、過去にその神様の祠なりが、例の動物園の中にあって、二人を見守っていたとか。
さらに例えば、その神様が「雨の日に力を発揮するタイプ」で、ヒロイン「雨宮」さんの願いを聞き入れやすくなっている、とか(そもそも雨宮姓って、長野の屋代あたりの神社関係者をルーツに持つ苗字なんですよね。これは脱線かな)。
また、作品の冒頭で主人公は、失恋のショックで雨の中打ちひしがれているわけですけれども、ヒロイン雨宮さんが出てきてからは、失恋については綺麗さっぱり忘れてしまうという。


この辺りのエピソードをもう少し補強してあげると、もっと作品に厚みやまとまりが出てくるような気もします。
そうすると、30分程度の尺を超えてしまうわけですけれども、なんとなくノベルゲームコレクションの作品群を見ていると、30分くらいの作品が多いような気がするんですよね。


これってつまり、30分程度で終わるような作品が求められている、ということなのかもなぁ。
もし、元々が「30分程度の作品で!」ということでの作品だったら、私の書いたことは蛇足になるわけですが……。



短いながらも綺麗にまとまった作品です。
シンプルさ故に物足りなさを感じる人もいるかもしれませんが、雰囲気のある作品だと思います。
是非、雨の日にプレイしてみると、ちょっと優しい気持ちになれるかもしれません。


それでは、また。


# by s-kuzumi | 2024-11-23 14:47 | サウンドノベル | Comments(0)
2024年 11月 16日

フリーノベルゲームレビュー 『夏ノ桜にゆびきりを』

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吟醸
今日の副題「こんな作品が読みたかった!」


道玄斎です、こんにちは。
先日、ちょいとノベルゲームをプレイしたら、久々に熱が戻って来た感じがしたので、今日も更新をするのです。
というわけで、今回は「Studio Cyan」さんの『夏ノ桜にゆびきりを』です。
多分……相当久しぶりの「吟醸」作品になります。


良かった点
・物語後半まで読み進めると、評価が(良い方に)ガラッと変わる

・なんとも言えない読後感を残すラストシーン


気になった点
・ある意味で淡々としているかも

・もう少し長尺のバージョンも読んでみたい


丁度昨日でしたか。
私は久しぶりの「箸休め」にて、ストーリーや物語に重きを置いた作品が減っているんじゃ? というようなことを書きました。
で、そういう作品がないか探して回ったところ、見つけたのが本作。
こういう作品が読みたかったんですよね。なんか私の今の気分にあっているというか、ちょっとセンチメンタルな感じもあって、気に入ってしまいました。


さて、本作はガワの部分だけを見れば、ボーイミーツガール的な要素を持った「夏休み最後の一日」を描く作品です。
作品を貫くテーマとして、「夏休みの一日を切り取る」というものがあり、そこが本作の良さでもあり、逆に淡々とした感じになっている要因でもあろうかと。
そうですね、本作の手触りを正確に伝えるのは難しいのですが、短編小説を読み終えた感じ、と言えば伝わるものはありましょうか。


物語の出だしは比較的強引というか、主人公の動機がなんとなく乏しいような、そういう感じなんです。
そして、教室で成績優秀、ちょっとミステリアスな(で、もちろん美しい)女子と出会って、彼女と会話をするもどこかズレた返答をしてくる……と、そこだけ切り取れば、よく目にした作品と同じようなパターンではあるんですよね。


ですので、最初は「このパターンの作品は結構たくさんプレイしたぞ……」と思いました。
が、作品後半くらいでしょうか、物語冒頭で「強引」だと感じていた部分、あるいはちょっと恥ずかしくなるくらいの「大人と子供の対立」みたいなジュブナイル小説感が消化されて、ガラッと作品に対する評価が変わりました。よって、今回は久々の吟醸です。


先にも少し書きましたが、全体としては「淡い」雰囲気。
それは、何ともいえない良い雰囲気、不思議な雰囲気の淡さもありますし、淡々とした、というような淡さもある、という。


ヒロイン秋野は美しいですが、強烈なバックグラウンドや個性があるわけでもなく、作中ではある意味でステレオタイプの造形でしたし、主人公もまた然り。ストーリーに関しても大きな盛り上がりの場……というよりは、淡々とした美しさ、みたいなそういうところを見せようとしていたのかなと。
一方、登場人物の個性が控えめだからこそ、作品の持つ雰囲気に浸れる、という部分もあり、逆にそこに物足りなさを覚える人もいるかもなぁ、という感じ。


後半で「花火」の場面が出てきます。
これは本当に好みの問題だとは思うんですけれども、この花火は上手く使えば、作品にひとつアクセントを入れられたかな、とは思いましたね。
あとはヒロインの名前や彼女が手入れをしているコスモスも確かに、仕掛けとして機能はしているんですが、もうひと押ししてあげてもよかったかな。
そうするためには、もう少し長尺で「一日」ではなく「三日間を描く」くらいのボリュームが必要かもしれません。そういう意味ではもう少し長尺になった本作も見てみたい。そんな気もします。


けれども、あくまで本作が「夏休みの一日を切り取る」というスタイルでもあるわけで、「そんな一日だった」という納得の仕方も当然あります。
また、インパクトのある「盛り上げどころ」「アクセント」を入れてしまうことで、作品の持つ雰囲気がちょっと俗っぽくなる恐れもあるんですよね。
なので、本作の場合、気になった点として挙げたところは、人によっては「寧ろそれがいいんだ!」と言いたくなる部分でもあります。


私がプレイして大体1時間未満くらいです。
そうした尺に反して、短編の小説を読み切ったような満足感があり、また、何とも言えない作品の雰囲気やラストに浸れる、そんな作品です。
「物語」に浸ってみたい。そんな方にお勧めします。


それでは、また。


# by s-kuzumi | 2024-11-16 14:59 | サウンドノベル | Comments(0)
2024年 11月 15日

フリーサウンドノベル関係の雑記 箸休めvol.71

道玄斎です、こんばんは。
今、この記事を投稿するにあたって、最後に書いた「箸休め」がいつだったか、チェックしてみたんですが、なんと9年前。
というわけで、今日は実に9年ぶりの箸休めでございます。


■時代は変わったなぁ

いやはや、フリーのノベルゲーム/サウンドノベルを取り巻く状況は、9年前と今では、全くといっていいほど異なるようです。
「ノベルゲームコレクション」にアクセスしちゃえば、一渡り、最新のトレンドは追えるようになっている、という感じ。


昔は、Vecterを見て、ふりーむを見て、個人ブログをチェックして……と、作品を探し出す方法はたくさんあり、「発掘してくる楽しみ」みたいなものはあったんですけれどもね。


私も、何度も書いているように、別にこのブログを投げたわけじゃないですから、時々思い出したかのようにこうしてブログを更新するわけです。
もちろん、時に新しいノベルゲームをプレイしたりしながら。


私自身、最近のトレンドを追い切れているのか、と言われれば全然そんなことはないんですけれども、少し気になった作品をプレイしてみたり、あるいは作品の一覧を眺めて、面白そうな作品を発掘しようとして、ちょいと気になったことがあったんです。
今日はその辺りを、少し書いてみようかな。



■超大作不在のシーン

一番、「ん?」と思ったのは、いわゆる「超大作」と呼ばれるような作品がほとんどなくなったんじゃないか、ってこと。
ここでいう超大作とは、一周10時間超えとかの単純に「ボリューム」があるものだけでなく、例えば、10時間未満でプレイできる作品であっても、美麗な立ち絵や一枚絵がついていたり、フルボイスであるとか、まぁ、力を入れて作ったというか、野心がある作品というか、そういう感じ。


「昔は」なんていうと、老害みたいですけれども、ちょくちょく、その手の作品って出てきていたんですよね。
ほんとにプロ顔負け、みたいな凄い作品もたくさんありました。
イラストはちょっと……みたいなものであっても、パワーを感じるようなものとか。


ノベルゲームコレクションをざーっと眺めてみて、気になった点はそこなんですよね。
大体が1時間未満くらい。もっと言えば15~30分程度の作品がめちゃくちゃ増えているような印象があります。


こういう状況って、色々な角度から考えられそうなテーマだと思うんですけれども、みなさんはどうお考えになられますか?
私は……そうだなぁ、「作り手の意識」が変わったんじゃないかなぁ? なんて思いますね。



■プロを目指さない

奇しくも先ほど「プロ顔負け」なんてフレーズを使いましたが、以前のシーンでは「プロになりたい」と思う層が一定以上いた気がするんですよね。
プロとは、いわゆる「ギャルゲ」/「エロゲ」メーカーのライターってことなんですけれども。
実際に、フリーのノベルゲーム出身の方がプロになった、というケースもありましたよね。


もちろん、プロを目指すことは悪いことでもなんでもないんです。
私が言いたいのは、ガツガツとした野心を持った作り手が減ったんじゃないかなってこと。
ええ、それも全然悪いことじゃないんですよ。


以前には「プロへ飛躍するための腕試しの場」としてのフリーのノベルゲームシーンというのも、瞬間的にはあったような気がしています。
当時の時代背景として、「同人からメジャーへ」みたいな成功例が多かったことも一因でしょう。


翻って、今の状況を見てみると、確かに超大作はなくなった。
けれども、「ノビノビ作りたいもの作ってるなぁ」という感じもします。



■趣味としてのノベルゲーム

そう、多くの人が、どこかで「プロ」というものを意識していた時代とは違って、今は、「趣味としてノベルゲームを作る」という層が多くなったんじゃないかな? ってのが私の結論。


以前私もよく言ってましたでしょう? 「あの作品を超えるような超大作を目指すんだ……」なんて気持ちでゲーム制作をしようとすると、挫折するって。
それって、裏を返せば、そうしたものを意識せずに、軽くてライトな(ギミック一発みたいな作品でも)そういうものを作ろうとしたら案外作れちゃう、ってことでもあります。


決して悪口ではないのですけども、今のノベルゲームコレクションの人気作品なんかを見てみると、そうした「趣味として作ってる」感じがあって、ちょっとドギツイというか、センセーショナルなテーマを押し出しているような作品(これはギミック一発みたいなことなんですが)が散見されます。


だから、目を引くものがあるし、ギミック一発で勝負できる尺で作られている。
一方で、練りに練られたストーリー、アッと驚く伏線回収、みたいな「ストーリー」や「物語」は希薄になっている気はします。
だから、私なんかだと、ちょっと次にプレイする作品を探しあぐねてしまう、みたいな状況になっているんですよねぇ。



■けど、やっぱりちょっと寂しいかな

私は、もうちょっとノベルゲームって、市民権を得られる、広がりがあるフォーマットだと思っていたんですけれども、少なくとも2024年では、その予想は外れていますね。
逆に、もっと二ッチな趣味的な世界になりつつあるというか。今現在、そうした場所にノベルゲームが落ち着いている、というのもそれはそれで、世の流れなのでしょう。


ただ、「ガツガツした人がいた頃」って、そういう人たちがシーンに元気を与えて、短い作品もそうでない作品も、超大作も出てきていたような感じもしていて、ちょっと寂しい気はしますね。


まぁ、時代はまた戻ってくるなんてこともありますしね。
それはそれとして、今のシーンは今しか楽しめないのですから、私なりに、何かまた、紹介したい作品を見つけられたらいいな、なんて思っています。


それでは、また。


# by s-kuzumi | 2024-11-15 20:51 | サウンドノベル | Comments(0)