2015年 08月 24日
今日の副題 「この終わりの世界で生きていく」 ※大吟醸 ジャンル:女性向け頽廃世界分岐ノベル プレイ時間:1章3時間程度。合計で10時間ほど その他:選択肢アリ(後述)、18禁。注意書きを読んだ上でのプレイすること。 システム:LiveMaker 制作年:2014/8/28 容量(圧縮時):92.5MB 道玄斎です、こんばんは。 今日は、人から勧められた作品をご紹介。 最初は、「女性向け」ということで、ちょっと身構えていたのですが、プレイしてみるととっても面白いですし、内容もとても上質だったのです。 というわけで、今回は「Imitation gallerY」さんの『Lost order ~Last Smile~』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。 良かった点 さて、ストーリーは、サイトのURLを張っておきましょう。 こちらからどうぞ。 というわけで、久々にプレイのし応えのある長尺のものをプレイしました。 最初は、女性向けということでしたから、ある種のセオリー通りに話が進むのかと思いきや、全くそんなことはなく(主人公の女性に個性がありますし)、開始直後から良い意味で裏切られた作品でした。 というのも、舞台は架空の近未来。 奇病の蔓延により、ゆっくりと人類が滅亡していく、そんな退廃的な世界が舞台で、少し暗いトーンのストーリー展開があったからです。 そして、その世界を牛耳る怪しげな民間組織の下級構成員が主人公のトート(名前変更可)。 彼女を軸にして、物語が進んでいきます。 良いな、と思えたのは、主人公が下級構成員であるが故に、上層部からのミッションをこなしていかないといけない、というところ。 そして、そのミッションに沿う形で、それぞれのキャラへの掘り下げがあり、ストーリーが前進していく構成がとても良かったです。 キャラクターの描写も本当に丁寧で、脇役が本当に魅力ある存在となっているのです。 これは中々出来ることじゃありません。 後書きを読むと、「群像劇」を意識された、とのことですが、なるほど納得です。 主人公とその相手(今回は、女性向けなので男性キャラということになります)だけが焦点化されていくのではなく、脇役には脇役の人生や行動の指針がちゃんとあって、それがメインのストーリーにしっかりと結びついている作りは、王道を踏まえながら、そこに丁寧な物語作りを感じさせてくれます。 そういった意味で、名作『TRUE REMEMBRANCE』に通じる部分もあると思います。どちらも、少しファンタジックな世界を持っていますしね。 個人的なお気に入りは、主人公トートの姉貴分、ヴォルガーレです。 どうしてお気に入りなのか……というのは、プレイして頂ければ分かると思いますw 凄く魅力あるキャラクターですよ。 さて、本作は選択肢ありの作品なのですが、選択肢の使われ方とでもいいましょうか、そうしたものがちょっと独特なので、ここで解説しておきましょう。 第1章から選択肢が出て、ストーリーが分岐していくのですが、それぞれの章によって主人公と結ばれる相手が違います。 例えば、第1章ではチェシャ、第2章ではギル、といったように。 第1章で、チェシャの個別ルートに入ってしまえば、第1章が終わった時点で物語がおわります。 逆に、チェシャの個別ルートに入らなかった場合、ストーリーは第2章へと続き、またギルとの個別ルートに入るか入らないかを、選択肢で選んでいくことになるのです。 ちょっと変わっていますよね。 一つ、言えるのは、「どのエンドも完璧なハッピーエンドではない」ということです。 それは、最終章のトゥルーエンドでもそうです。 何しろ、世界規模で人類が滅亡しつつあるわけで、そうした世紀末的な退廃的なトーンが本作の魅力の1つでした。そして、そのトーンは最後まで失われることはありません。 しかし、そうした世界の中で得られる幸せ、目標、そうした希望(というとあまりに安直ですが)を微かに感じさせる、暗いトーンの中だからこそ活きるエンドはしっかりと描かれています。 これは、安易な形でのハッピーエンドよりも、遙かに説得力があるのです。 上手く説明出来ないのですが、私が凄く好きだった80年代後半~90年代中盤頃のジュブナイル小説(ラノベっていうと、ちょっと違う雰囲気が出てしまうので)に近い雰囲気を持っている作品でした。 そうした小説の中には、ただ単に明るい楽しい話だけではなく、ちょっと渋いというか深みを感じさせる作品があって、それに非常に手触りが似ているのです。 作家の名前まで出しちゃうと、「小林めぐみ」や「冴木忍」(のシリアス作品)あたり、というと伝わる人も多いかと思います。 気になった点は、先に挙げた通りです。 ストーリー的な部分では、何も言うことがありません。 強いて言うならば、サクレのキャラクターは、第1章、第2章でもうちょい主張があっても良かったかな、というくらいです。 長いプレイ時間が全然苦にならない丁寧な構成と、キャラクターの掘り下げが本当に見事な作品です。 女性向け、ということではありますが、男性がプレイしても全く問題がない……というより、是非プレイしてもらいたい作品になっています。 本当に最近は、女性向けのゲームで素晴らしいものが増えてきました。 ちょっと甘いかな、と思いながら、今回は大吟醸です! /* 以下、宣伝 私達が運営している、ノベルゲーム制作支援サイト(素材ポータルサイト)、Novelers' Materialなんてものがあるので、良かったら、利用してやって下さいませ~ 素材作者さんも大募集です! http://novelersmaterial.slyip.com/index.php リニューアルも完了し、より使いやすい素材ポータルサイトになっております。 以上、宣伝 */ #
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| 2015-08-24 19:48
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2015年 08月 12日
道玄斎です、こんばんは。 今日は短編作品のご紹介。10分くらいの尺ですが、温かい雰囲気が活きている作品だったと思います。 というわけで、今回は「現屋」さんの『かげぼうし』です。 現屋さんと言えば、ここでもレビューした『喉の渇くその前に』、あるいは『よんひくいちは』といった作品がありまして、プレイヤーに考えさせるというか、少しヒネリの効いたストーリーが魅力でした。 ですが、本作は、それらの作品と比べるとかなりストレート。 男子小学生アカリとクラスメイトのアザミ、その二人の交流譚とまとめてしまうことも可能です。 物語の中に「ここが一番の見せ場だな」というような場面が設定してあり、その場面こそがタイトルである「かげぼうし」になっている、ということなのですが、これは、「焦点化」という手法だと言えましょう。 その場面、その瞬間を描くために物語がある、というようなタイプです。 ですから、アカリがアザミに好意を抱くようになったきっかけ、或いは、アザミを取り巻く環境の謎みたいなものは作中では明らかにされないのです。 これは一見すると、いかにも不自然なようですが、焦点化がシッカリと出来ている為、実はそこまで気になりませんでした。 ここ数年、こうした非常に短い作品のリリースが、フリーのノベルゲームの世界で目立つのですが、個人的な感触としては、最初はそうでもなかったものが、段々と「見せたいもの」「描きたいもの」「伝えたいもの」が分からなくなり、ただただリリースされる、というようなものが増えてきていた時期があったように思います。 作品をリリースする、ということ自体、凄いことではあるのですが、「作品を出すこと」そのものが目的となってしまっていたケースというのも、あるのではないでしょうか? そうした作品と比べた時、本作は、放置されている謎などはあれど、やはり頭一つ抜けている印象を受けるのです。 また、その「描きたい部分」」をより印象付けるような演出も巧みでした。 全体的に柔らかく、温かみのある雰囲気、そしてそれを後押ししてくれるようなイラストが、作品の魅力を最大限に押し上げていたように思います。 10分程度ではありますが、密度の高い作品でした。 ちょっと温かい気持ちになれる、素敵な短編作品です。 是非、プレイしてみて下さい。 それでは、また。 /* 以下、宣伝 私達が運営している、ノベルゲーム制作支援サイト(素材ポータルサイト)、Novelers' Materialなんてものがあるので、良かったら、利用してやって下さいませ~ http://novelersmaterial.slyip.com/index.php より便利な機能もついて、好評稼働中です! 以上、宣伝 */ #
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| 2015-08-12 18:51
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2015年 07月 30日
今日の副題 「子どもを描くからこそ描ける物語」 ※吟醸 ジャンル:少年少女のハートウォーミングストーリー。 プレイ時間:40~45分程度。 その他:選択肢なし、 システム:NScripter 制作年:2015/4/9 容量(圧縮時):32.9MB 道玄斎です、こんばんは。 今日は、久々のノベルゲームレビュー。 思春期の少年少女に焦点をあてた作品を多く作られている作者さんの作品のご紹介。 というわけで、今回は「mint wings」さんの『ココロ、そらいろ。』です。 良かった点 ストーリーは、サイトの方から引用しておきましょう。 "君島 樹(きみじま いつき)" は不登校の男の子。 このようなストーリーになっています。 mint wingsさん12作目の作品です。 この作者さんは、「思春期」の少年少女を描くのが本当に上手いですね。 その時期特有の不安定さや、脆さ、残酷さ、そして素直さや優しさ……そういったものを上手く折り込みながら、物語が進む作品が多いのですが、本作も例外ではありません。 今回は「思春期前期」とでもいいましょうか、小学校の高学年という年齢設定にまず惹かれました。 ノベルゲームの場合、だいたいが「高校生」を主人公としているわけで、ちょっと年齢をズラしてやるだけでも、まだまだ色々な物語の可能性があるわけです。 さらに、思春期の入り口、といった年齢ですから、そこに他の作品にはない「面白さ」や「深み」を感じることが出来ます。 物語は、短いエピソードを選択し、それらを順に読んでいく、という形で進行します。 それによって、一話一話が読みやすくなっていると共に、それ故の効果が出ていました。 どういう事かと申しますと、エピソード間にはそれなりの「空白の時間」が存在しているのです。 だいたい、数週間~一月程度のブランクが、各エピソードの間にあるんですね。 で、あるエピソードを読んだ後、次のエピソードにいくと、ちょっと人間関係が変化しているんです。 最初は、少しおっかなびっくりコミュニケーションをとっていた、主人公いつきと、やはり保健室登校のゆずが、大分うちとけた感じで会話していたり。 それはいつきとゆずだけでなく、もとなりに関してもそうでした。 エピソードの空白時間に、ちゃんとお互いの距離が縮まったり、あるいは、もやもやとしたものを感じたり……。そういう部分がキチンと次のエピソードで描写され作品に溶け込んでいる、というのがとても良かったです。 そういう意味で、とても丁寧に紡がれた作品、だということが出来ましょう。 思春期前期の子ども達を通して描かれる物語は、読者である私達にも改めて考えないといけない問題を提示してくれていたりもします。 ゆずの抱えていた問題、「自分の気持ちはそのままで、それでいて他者とうまくやっていく」、なんかはその最たるものでしょう。 気に入らないからケンカをふっかける。 あるいは、好きだから全てを肯定してしまう。 そういうことって、大人でもありますよね。 そうじゃなくて、「気に入らなくても、ケンカしない」、「ケンカにならない云い方をする」、「好きであっても、ダメだったらばちゃんと云う」。そういうことって、やっぱりとっても大切だけど、いざ実践するとなると、結構難しいところがあったりして……。 ですので、子ども達を描きつつも、「子供向け」で終わらない深みが物語にはあるんですよね。 もしかすると、それは「子供と大人の淡い」にある、思春期の子ども達を描くからこそ、出せるテーマなのかもしれませんね。 気になった点としては、主人公いつきの問題とその解決のパートが、ゆずやもとなりと比して、ややあっさり風味だったのかな、と。 ゆずやもとなりは、ハッキリとした理由・原因があって「保健室登校」をしているわけで、いつきはそこが「何となく」なんですよね。 ラスト付近で、いつきが自分の問題を自覚し、それに立ち向かう描写こそありますが、それも比較的あっさりしていたかなぁ、と。 多分……ゆずやもとなりが物凄くキャラが立っているので、そういう風に見えてしまう、というのもあるんじゃないかと思いますね。 もう一点は、ラストです。 ここは、本当に「個人的に」気になった、という感じなのですが、たとえば、「3人のその後」の一枚絵が出て終わるとかね、そういうのでも良かったんじゃないかな、なんて。 現行の終わり方も決して悪い、というわけではなく、そこに込められた意図や、その終わり方の良さも勿論、感じることが出来ます。 ただ、個人的には、3人が積み上げてきた友情をしっかりと描写した上で終わって欲しかったな、ということなんです。 ここは、単純に好みの箇所ですから、あまり気にしないで下さい。 さて、mint wingsさんは本作を以て、サークル活動を一時中止されるようです。 エイプリルフールなどのイベント時にはゲームを作る、ということですが、とにかく一度、活動は休止ということのようです。 私も、mint wingsさんの作品、何本もプレイしてきましたし、レビューでも何度となく取り上げさせていただきました。 12本、という作品数は本当に凄いと思いますし、フリーのノベルゲームの世界に残した影響は決して少なくなかった、と思います。 今まで、本当にお疲れ様でした。 また、活動が復活し、新しい素敵な作品を読める日を楽しみにしております。 それでは、また。 /* 以下、宣伝 私達が運営している、ノベルゲーム制作支援サイト(素材ポータルサイト)、Novelers' Materialなんてものがあるので、良かったら、利用してやって下さいませ~ 素材作者さんも大募集です! http://novelersmaterial.slyip.com/index.php リニューアルも完了し、より使いやすい素材ポータルサイトになっております。 以上、宣伝 */ #
by s-kuzumi
| 2015-07-30 20:48
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2015年 06月 07日
今日の副題 「ノベルゲームはリプレイ向きかも!」 ジャンル:クトゥルフTRPGリプレイノベル プレイ時間:一時間半程度 その他:選択肢なし、一本道。 システム:NScripter 制作年:2015/5/20 容量(圧縮時)89.5MB 道玄斎です、こんばんは。 ちょいと、また間が空いてしまいましたが、意欲的な作品を見つけたのでレビューを更新致します。 いやぁ、本当にありそうでなかったタイプの作品ですよ。 というわけで、今回は「NoFace管理事務所」さんの『真帆とはじめてのTRPG』です。猶、本作は同サークルさんの『Mたちの調律』の番外編的な位置づけですが、単独で遊べる作品になっています。 良かった点 ストーリーは、サイトのほうから引用しておきましょう。 「透也くん、TRPGしようよ」 本作を端的に述べるならば、「TRPGのリプレイノベル」ということになりましょう。 この説明で分かる方なら、きっとTRPGの歴戦のゲーマーのはずですから、本作を楽しめること請け合いです。 一方、この説明でピンと来ない方の為に、若干、TRPGについて説明しておきましょう。 私達は、「RPG」と聞くと、何の疑いもなしに、「Final Fantasy」とか「ドラゴンクエスト」なんかを思い浮かべたりするのですが、元々、RPGとはサイコロ片手に遊ぶ、アナログゲームだったのです。 TRPGの「T」とは、「table talk」の略でして、まぁ、「テーブルを囲んでわいわいやりながら遊ぶ」くらいの意味ですね。 FFやドラクエなどのコンピュータRPGとの違いは、ズバリそこにあります。 つまり、プログラムで制御されたシナリオ、ではなく、TRPGは、「テーブルを囲んだ仲間達の行動によって、いくらでもシナリオが変化していく」のです。 コンピュータRPGの場合、何かイベントやフラグの設定がプログラムに組み込まれていない場合、そこを調べても何も出てきません。無味乾燥な「なにもなかった」というようなメッセージが出ておしまいです。 TRPGの場合ですと、ゲームの進行役(GM=ゲームマスター)、そしてプレイしているメンバーの裁量やアドリブで、いくらでも内容が変化していくのです。 元々、シナリオ上では何も設定していない場所があったとしても、「そこを調べたい」と言えば、勿論プレイヤーはそこを調べることが出来ますし、「ここで事件を起こしたほうが面白いな」とゲームマスターが思えば、急遽アドリブで、そこからアイテムを入手させたり、イベントを起こしたり、ということが可能になるのです。 TRPGを巡る言説で良く言われるのが、「TRPGの魅力は、その自由度の高さにある」というものです。 「ゲーム」ということをあまり意識せず、会話の雰囲気を楽しんだり、逆にガチガチでシステマティックなゲームにして遊ぶことも自由なのです。 けど、「何でも出来る、超自由なRPGなんだよ!」っていうと、やっぱり語弊はあるんです。 結局のところ、TRPGはゲームマスターの用意したお話に乗っかっていかないと、先に進めません。 また、プレイヤーがそれぞれ、ゲーム内のキャラクターを演じるという関係上、「キャラクターとして相応しい行動」を求められる部分もあります。 まぁ、言ってしまえば、かなり「ツウ好み」の遊びです。 日本では、80年代中頃から90年代中頃にかけて、このTRPGの一大ブームがあったのですが、そこまで一般に浸透しませんでした。 一つ、当時は「オタク」に対する世間の目があまりにも厳しく、TRPGのようなディープな遊びは、オタクの気持ち悪さを表すものとして、揶揄される風潮がありました。 一つ、また、女性受けが大層悪く、TRPGなんてやっていようものなら、蛇蝎の如く嫌われたものです。アニメファンも同様でした。そして、世間はやはり「女性」を少しは取り込まないと、「まともな趣味」として見てくれないのです。 このような状況があり、専門誌こそ存在していたものの、TRPGの世界はかなりディープな方ディープな方に潜伏していったのですが、近年、また大きな盛り上がりを見せています。 アニメを始めとする「オタクのもの」として嫌われていた趣味が、急に「クールジャパン」などと名付けられ、日の目を見るようになってきました。 女性のアニメファン、ゲームファンも増え、ここにきてようやく、オタク趣味が「揶揄の対象」ではなく、一つの文化として認められるに至ったのです。 ……と、ここまででかなり書いてしまったので、もうそろそろTRPGの概略はやめにしましょう。 ともあれ、近年、またTRPGのブームが起こっており、その中でも、昔は「上級者向け」のディープなTRPGであった『クトゥルフ神話TRPG』に人気が集まっています。 さて、「クトゥルフ神話」ですが、これは聞いたことがある人も多いのではないでしょうか? アメリカのラヴクラフトさんが生み出した、宇宙的恐怖(コズミックホラー)が大きな特徴の恐怖小説です。 実は、最近、私は「無料ゲーム.com」さんにて、ゲームのコラムを書かせて頂いているのですが、その第十一回目に、クトゥルフ神話については書いているので、もしよろしければ、そちらの方をご覧下さい。 前置きがやたらと長くなってしまいましたが、本作は「ノベルゲームの中で、キャラクター達がクトゥルフ神話TRPGで遊ぶ様子」を描いた作品となっています。 TRPGを遊んだ様子をまとめたものを「リプレイ」と呼ぶのですが、本作はまさにそのリプレイと言っても差し支えないでしょう。 リプレイは基本「本」という媒体で出版されるものです。それを読むと、ゲームのルールや雰囲気、そして物語そのものが楽しめる、というとても優れたフォーマットなのですが、よくよく考えてみれば、ノベルゲームという媒体との相性は、物凄くいいんですよね。 リプレイは当然「サウンド」は付いてきません(ですので、擬音で表現したりするわけです)。 さらに、ビジュアル面も、表紙や挿絵くらいなものですから、十分とは言えません。 対して、ノベルゲームは、サウンドノベルとも呼ばれることがあるくらいですから、「サウンド」を付けることが出来る。また、立ち絵、一枚絵という形でビジュアル面を補うことが出来るのです。 そして、勿論、文章を読ませるという基本がありますから、リプレイの「内容」を記述することはお手の物なのです。 どうです? これは相性が抜群ですよ。ですので、本作もクトゥルフ神話TRPGのルールを知らなくても、「読み物」として全然楽しめてしまいます。途中で「ダイスを振り判定をする」演出などもありますが、ルールに興味がなければ、「成功したか/失敗したか」だけ把握しておけばよく、それでも十分楽しめます。 本作の持つ、TRPGに由来する面白さはこんなところでしょうか。 一方で、中身(つまり、ここではTRPGのプレイ内容)も、シンプルな設定ながら、クトゥルフ感が出てて面白かったです。「あの」教団の名前が出てきた時には、思わず吹いてしましましたw 舞台こそ日本ですが、クトゥルフ初心者に、「クトゥルフの怖さってこういう感じなんだよ」と伝えることに成功していると言えるでしょう。プレイの雰囲気なんかも、かなりリアルですし、「わいわいやっている感じ」が良く出ていましたね。 さて、気になった点なのですが、これは難しい問題です。 本作のように「単発」の冒険の場合、「ゲームっぽさ」というのがあっても良かったのではないか、という点です。 つまり、ゲームの要所で、「選択肢」を出して、バッドエンドとグッドエンドに分岐するくらいはあっても良かったかもな、ということです。 TRPGは、プレイヤーの思わぬ不注意でキャラクターが死亡したり、ミッションが未達成になってしまうことがあります(特にクトゥルフの場合には!)。 そこも紛れもなくTRPGの要素なので、今度は「ノベルゲームの側の特徴」、つまり選択肢によるルート分岐で、そういうプレイの可能性を見せるって方法もゲームっぽくてアリなんじゃないかな、ということですね。 例えば、同一のキャラクターを使い、何度も冒険や物語を重ねていくパターンを「キャンペーン」とか「キャンペーンシナリオ」なんて呼びますが、この形式ですと選択肢分岐は制作側に大きな負担となります。 しかし、「単発」シナリオの場合ですと、比較的それがやりやすいのです。そして、そこでミッション未達成だと、どういうエンドになるか、逆に成功だと、それがどのように変わるのか、が見えると、既存のリプレイの枠を越えた表現が出来るかな、と愚案する次第です。 とはいえ、TRPGのリプレイとノベルゲームが、ここまで相性がいいとは思いませんでした。 これは、もしかしたら、新しいノベルゲームの一つの潮流になる可能性がありますねぇ。 TRPGファンは勿論、ノベルゲームファンも、ちょっと本作に注目してみて下さい。 ノベルゲームの新しい可能性が、本作に秘められていると思いますよ。 作品の本筋とはあまり関係がないTRPGについて大分書いてしまいましたが、今回はこの辺で。 それでは、また。 /* 以下、宣伝 私達が運営している、ノベルゲーム制作支援サイト(素材ポータルサイト)、Novelers' Materialなんてものがあるので、良かったら、利用してやって下さいませ~ 素材作者さんも大募集です! http://novelersmaterial.slyip.com/index.php リニューアルも完了し、より使いやすい素材ポータルサイトになっております。 以上、宣伝 */ #
by s-kuzumi
| 2015-06-07 18:59
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2015年 04月 22日
今日の副題 「本質はタイトルではなくシナリオにアリ」 ジャンル:障害を抱えた主人公及びヒロイン達の恋愛アドベンチャー。 プレイ時間:18~20時間程度。 その他:選択肢アリ、バッドエンドや各ルートにバッドエンドやグッドエンドが設定。18禁。 システム:Ren'Py 制作年:2015/4/1(日本語版リリース) 容量(圧縮時):432MB 道玄斎です、こんばんは。 もう何年も前に、本作の英語ベータ版をプレイして記事を書いた記憶があります。 ついに、その「日本語版」が出たと聞き、プレイしてみた次第です。実際、日本でもニュースサイトなどを中心に話題になった作品ですから、それ以上の説明は不要でしょう。 というわけで、今回は「Four Leaf Studios」さんの『かたわ少女』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。 良かった点 ストーリーは、公式サイトのURLを張っておきましょう。こちらからどうぞ。 非常にショッキングなタイトルがついた作品です。 日本国内であれば、放送・出版コードにひっかかる「かたわ」という言葉が、この作品に注目を集めるのに一役買っているのは間違いないでしょう。 同時に、やはり差別的・侮蔑的なニュアンスがある事から、反感を持つ人もいると思われます。 これがもし、「disabled girls」であったり、「challenged girls」なんてタイトルであるのならば、(特に後者であるならば)恐らく、少なくともタイトルに関しては問題視されることはないはずです。 しかし……差別や侮蔑の本質っていうのは「言葉」ではない事が殆どです。 言葉は全く無関係ではない、とは勿論云えませんけれども、本質は「個々人の気持ち」というか精神の部分であって、それが言葉などの形で出た時、差別や侮蔑が表に分かりやすい形で出てくるんじゃないでしょうか。 とは云え、私もこの「かたわ」というタイトルは「ちょっとやべーよな……」とは思っています。 障害というものに対して、私達は時に必要以上にセンシティブでナーバスになってしまうようです。 上記の「差別の本質は、言葉じゃなくて、精神だろ」という私の考えも、例えば、障害を持つ人が発言するのならば許容され、そうでない人が云ったのならば、「何を知ったような口を!」と怒られてしまう可能性も多々あるわけです。 問題は結構複雑なのです。 ……と、ちょいと堅苦しい感じで書き出してしまったのですけど、そうした「障害」というものに積極的に挑んでいく作品、それが『かたわ少女』である、という事は間違いなく云えるでしょう。 ヒロイン達は、目が見えない、足がない、ひどい火傷を負っている……など、見た目にも分かりやすい障害を抱えています。 しかし、本作のユニークな所は、主人公久夫も、心臓の病気を抱え、今後その病気と生涯を共にしなければならないという設定にあるように思えます。 主人公の持つ、分かりにくいけど確かに存在する病との付き合い、そして見た目に分かりやすい障害と、目に見えない葛藤を持つヒロイン達との交流、そこが本作のキモの部分ではないでしょうか。 今回、「良かった点」にて、「実は普通の恋愛ゲーム」と書きましたが、そこにこそ、本作の特徴があるように私には思えるのです。 私達が普段プレイする恋愛ノベルゲームも、「主人公も、そしてヒロインも問題を抱えており、何とかそれを乗り越えていく」というタイプのものが多いですよね。 本作も、実はそれと全く同じです。 例えば、芸術家肌のヒロイン、琳のルートでは、「琳が両手を失っている事」は殆ど問題にならないのです。寧ろ、話の焦点は「芸術家として生きること」、「芸術とは何か」というような問題に移行していきます。 火傷を負っている女の子、華子のルートもそうです。 確かに、火傷(やそれにまつわるエピソード)が華子の性格に与えた影響は大きいのです。しかし、それは「きっかけ」というようなものであって、シナリオの焦点は、「華子が精神的に強くなる」という部分にあるのでしょう。 本作に於いて、障害というのは「今のヒロイン達」を形作るきっかけの一つであって、その障害そのものが問題になるわけではなく、「私達が誰でも抱える可能性のある問題」にこそストーリーの焦点はあるのです。 ですので、「障害」という部分を除いてみれば、非常にオーソドックスな恋愛ノベルゲームになっている、と感じたのです。 そして、それは「障害を持っているから特別なエピソードが必要なんだ」というものではなく、「障害を持っていようといまいと、俺たちは同じような悩みを持つんだ」という、制作者側のメッセージなんじゃないかな、と私は感じました。 つまり、障害があるから、それを「特別扱い」にするのではなく、その障害を「ニュートラル」に捉えていく、とでも云いましょうか。 一方で、障害が「ただのフレーバー」になっている感じ、がしないのも、本作の良いところでしょう。 例えば、聴覚障害のある静音のルートでは、ミーシャが手話と発話によって、主人公と静音の会話を翻訳し、取り持つわけですが、「どこまでが静音の発言で、どこまでが“翻訳者としてのミーシャとしての発言”なのか、が分かりにくい」という描写によって、聴覚障害や、そこに生じるディスコミュニケーションの問題に踏み込んでいます。 さて、気になった点ですが、上に書いた通りです。 所謂メッセージウインドウの限界ギリギリまで文字を表示して、次の行に折り返して……という形で、文章が表示され窮屈さを感じますし、改行が積極的になされていないので、読みにくくなっている部分もあります。 あとは、ルートによって「ん? じゃあこの後はどうなるんだ?」という感じで終わってしまうものもありました。 そこは個々人の趣味の領域かもしれませんが、私はちょいと気になりました。 ルート、ということで云えば、私は断然、リリーのルートが好きですね。 体験版をプレイした時も「リリーが気になる……」と書いたような気もしますし、ね。 そうそう、本作は、個性豊かな脇役達も見所で、各ルートに入ってもしっかりとした存在感があります。 また、ルートに入っても「そのヒロインだけ」に焦点が当たっていくのではなく、ちゃんと他のヒロインなどのキャラクターとの関わりが描かれているところは、丁寧な作りである、と云っても良いでしょう。 一方、「普通の恋愛モノ」として見た場合、ちょっと物足りない……というか薄味な部分も感じます。 気がつけば久夫は、ヒロインに惚れてしまっていますし、恋愛が成就するまで、が淡泊なのです。これは、作品の作りとも関係がありますね。 この作品は、謂わば共通ルートとでも云うべきルートがあって、それは「学園祭」まで。 その後、各ヒロインのルートに入って、「恋愛が成就するまで」、「ヒロインとの間で問題が起きるまで」、「問題を解決しエンディングまで」と、大体4区分に分けられていました。 やはり焦点は「恋愛そのもの」ではなく、「ヒロインとの問題の解決」にあるわけですから、それで恋愛部分は薄めなんでしょうね。 とは云え、その問題の発生とその解決のパートも少し淡泊な印象はあります。 大体、こんなところでしょうか。 本作は、非常に難しい問題に、実は「真っ正面から」取り組んだ、そんな作品だったのではないかと思います。障害そのものを特別扱いせず、一人の人間の人生の過渡期を描いた作品、ということです。 タイトルがショッキングではあるのですが、無心に読んでみると、色々考えさせられる作品なんじゃないかと思います。 ボリュームが多くて大変ですが、是非、全ルート(リリーのルートも忘れずに!)読んでみて下さい。 それでは、また。 /* 以下、宣伝 私達が運営している、ノベルゲーム制作支援サイト(素材ポータルサイト)、Novelers' Materialなんてものがあるので、良かったら、利用してやって下さいませ~ 素材作者さんも大募集です! http://novelersmaterial.slyip.com/index.php リニューアルも完了し、より使いやすい素材ポータルサイトになっております。 以上、宣伝 */ #
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| 2015-04-22 16:59
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■ノベルゲームのコミュニティと素材ポータル始めました 制作者の方とプレイヤーを繋ぐような、そんなコミュニティを作りました。 こちらからどうぞ。 そして、ゲーム制作に利用出来る素材ポータルサイトも作りました。 こちらからどうぞ。 どちらも、是非ご覧になってみて下さい。そして、ご参加/ご利用頂ければ幸いで御座います。 フリーのノベルゲーム/サウンドノベルをレビューをやっております。たまに私のどうでもいい日々之記録が入る事がありますが、ご了承下さいませ。 ・“引用”としてスクリーンショットやストーリーの概略などの文章を使わせていただいております。問題が御座いましたらご連絡下さい。対処いたします。 連絡先はkazenitsurenaki あっとまーく gmail.com です。 ・レビューは「甘口~中辛」くらいです。 ・評価は完全に私個人の主観に基づいています。評価は「大吟醸」「吟醸」「無印(=純米)」の三段階となっております。参考までに。 で、実は、 こちらが本館です。ブログは別館的な位置づけなのですが、何故かこちらがメインになってしまっています……。バナーなんかもあるので、リンクを張って下さる方はご利用下さいませ。 リンクに関しては、お好きにやっちゃって下さい。許可なんかは一切要りませんので。 本館の方では、謎の音楽制作などをやっております。こっそり更新している事もありますので、たまに見てやって下さると嬉しいです。 カテゴリ
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