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2020年 01月 11日

フリーノベルゲームレビュー 番外編 『よしのさんの秘密をバラさないで!』

フリーノベルゲームレビュー 番外編 『よしのさんの秘密をバラさないで!』_b0110969_14595028.jpg
道玄斎です、こんにちは。
今日は、ちょっとゲームをやろうかな、と思ってふりーむを探していたら、タイトルが気になる作品を見つけました。なんか、ポップで可愛らしい感じ。
というわけで、今回は「Melty」さんの『よしのさんの秘密をバラさないで!』です。


いきなりプレイ時間の話から始めてしまいますが、普通に選択肢を選んでいけばハッピーエンドまで、ほぼ一直線でいけるはず。それでおおよそ30分程度なので今回は番外編といたしました。


ただし、ノーマルエンドと複数のバッドエンドを全部見ると、もうちょい時間はかかります。
が、それでもスキップを上手く使えば1時間かからないかな、と言う感じ。


さて、作品内容ですが、なんてことない日々を送っていた主人公・竹林透のクラスに、髪の毛を黒・白で染め分けた(?)ちょっと怖い雰囲気の女子、竹林麗乃(よしの)がやってくる、というところから始まります。
こうしたスタートの仕方はノベルゲームのド定番ともいえるもの。


タイトルワークから「よしのさんには秘密がある」ことが示されているわけですから、それを期待してプレイしていくと……よしのさんは、なんと異世界からきた「パンダ」であることが発覚します。
最初でシリアスな展開を予想させておいての、一気にテイストが変わり、しかもそこにあまり違和感を感じさせないのはお見事。


シリアスな恋愛ノベルではなく、ポップで楽しいノリの作品で、「パンダ」であったという秘密も作品全体の雰囲気と相まって「浮いた」感じではありませんでした。
随所随所に、立ち絵がちょこちょこ動いたり、マンガの吹き出しのような形でメッセージが表示されたり、手が込んでいて楽しい作品だと思います。
これは敢えて、なんだと思いますが、ワッフル屋さんやタピオカミルクティ屋さんの店員が「いらすとや」素材だったり、ちょっと笑える場所も随所にあったりしますよ。


キャラの数や選択肢は割と多いのですが、基本路線として「よしのさん」のルートがあり、その他はバッドエンド(乃至ノーマルエンド)という感じです。スキップも使えますし、攻略サイトもあり全てのエンドを見るのには苦労しないで済むはずです。


とっても楽しいノリの作品なんですが、タイトルでもある「よしのさんの秘密」とストーリーとの関わりが希薄だったところが気になるところです。
それは、作品の内容そのものがストーリーを重視していくというより、「ノリ」や「ポップさ」を重視していることと不可分ではないでしょう。


「こういうスタイルなんだ」と言ってしまえばそれまでなんですが、せっかく個性の強いキャラクターがいて、楽しくテンポもいい作品なので、もう少しストーリー的な厚みがあってもよかったかな。


たとえば、「次回作」として、本作の登場人物・影浦刃にスポットを当てた作品の存在が「おまけ」で示されていますが、それも本作そのものに十分組み込めるんじゃないかな? なんて思うわけです。
「僕とよしのさん」を中心としながらも、周辺人物の物語があり、一緒に悩んだり、行動したりする中で、友情や恋愛感情が育まれる、というほうが説得力がありますでしょう?


あるいは、主人公とよしのさんが同じ「竹林」という姓なのですから、「実は主人公の先祖も、よしのさんと同じ異世界からの移住者で……」というような方向に持っていくことも出来るかな、と思ったり。


文章的なことを言うと、私は、あまり顔文字を使ったりしないほうがいいのかなぁ、なんて思ったりします。
例えば「恥ずかしい」という表現を顔文字((/ω\))で表現してしまうことで、「登場人物の発話や描写」を奪ってしまうということがある気がするから、です。


ある登場人物が恥ずかしさを覚える場面で、どういう発言をするのか、またそれをどう描写するのかは、キャラクターの個性を演出する格好の場面の一つです。
また、そうした描写が薄いと、文章全体も薄味になっていく傾向があるように思えます。


ちょっとあれこれ口出しをした感はありますが、「異世界から来た」とか、謎の魔女(?)とか、中二病の男の子、ふくよかな女の子など、個性的なキャラや設定が違和感なく存在している、楽しい作品だということ請け負います。


プレイ時間も短いので、気軽に楽しんでみてください。
それでは、また。


by s-kuzumi | 2020-01-11 15:02 | サウンドノベル
2019年 12月 22日

フリーノベルゲームレビュー 『魚喰』

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今日の副題「2019年ループホラーの旅」

ジャンル:ホラーテイストノベルゲーム
プレイ時間:1~2時間
その他:選択肢あり。True、Happy、Badのエンドに分岐
システム:吉里吉里/KAG
制作年:2019/12/19
容量(圧縮時):125 MB


道玄斎です、こんにちは。
今日は久しぶりにホラーテイストのノベルゲームを。選択肢が多く、少し懐かしい手触りも感じる作品のご紹介。
というわけで、今日は「魚喰製作委員会」さんの『魚喰』です。
良かった点

・ハイクオリティなイラストや素材。システムも使いやすい

・選択肢多めで、懐かしいホラーの手触りもある


気になった点

・呪いに関してのバックグラウンドがもっとストーリーに活きてくるとよかった
ストーリーは今回は私がまとめておきましょう。
主人公は釣りマニア。
夏休みの時間を持て余し、釣りに行こうとすると、友人から穴場のスポットを教えてもらえる。
そこでの釣果は上々だったが、帰り間際に変な魚に腕を噛まれてしまう。

そんな出来事があって以来、何か周りの人たちの様子が変で……。
という感じ。


少し懐かしい手触りを持ったホラー作品です。
正確にいえば「ホラーテイスト」の作品なんですが、古式ゆかしい「選択肢多め」のものになっており、私はちょっと嬉しかったです。


本作、タイトルが『魚喰』なんですが、主人公が釣り好きであり、作品の「ホラー」に関わる部分も「魚関係」、登場するキャラクターたちの名前もまた魚つながりで、テイストの一貫性を感じます。
文章も軽快で、賛否はありましょうが「ノベルゲームらしい」テキスト。読みにくいことは全くありません。


実は本作、ループものでして、何かしらのエンドにたどり着くまで、何度も同じ選択肢を選んでいくというタイプでした。
ただし、主人公はそのループをほとんど知覚しておらず、プレイヤーである私達がループであることを見抜き、ダメな選択を回避すべく主人公を導いてあげる必要があります。ループ、選択肢多めというわけで、とても懐かしい手触りを感じますよね。『ひとかた』とかね、そういうのをどうしても連想してしまうわけです。


恐らく、初回ではよいエンドには行けないと思います。
何しろ選択肢の数が多いですし、良く分からないまま、ループが開始されてそこで「あっ、ループだったか」と気づく、そういうタイプ。
少しづつ選択肢を変えていくことで、作品の背後にある「呪い」やその影響が明らかになっていく、という作りもまた、古式ゆかしいノベルゲームの伝統を引き継ぐものです。


具体的には、友人とその彼女、クラスメイトの女子とその妹、クラスメイトの女子の3者(という言い方でいいかな?)と、「どういう順番で」出会っていくのか、が攻略の鍵になります。1~2周すれば「どこに誰がいるのか」がわかるので、そうした選択肢捌きも楽になると思います。


イラストも綺麗ですし、1時間程度でおそらくトゥルーエンドが見られると思うので、プレイのしやすさもあります。ライトな感覚でホラーを楽しめる作品と、まとめることも可能でしょう。



一方、ストーリー的な部分で言うと、作品の核である「呪い」の実態とストーリーに、何かしらのつながりがあれば、あるいはそこの説明がもっとあればよかったかな、と思います。


ローカルな性質をもった昔話があり、言ってしまえば偶発的にその呪いが発動してしまうという状況なのです。
そうではなく、例えば、「呪いがあることが知られており、登場人物の誰かが自らその呪いの力を求めている」とか、あるいは偶発的に発動した呪いだとしても、その呪いの本体(よくあるのが、悲しみに捕らわれた人間の魂が呪いの本体になっており、作中では呪いを解くとともに、呪いの本体をも解放してあげる、みたいなやつ)への積極的なアプローチがあってもよかったのではないか、というあたりです。


別のアプローチとしては、「主人公がループを知覚している」という状況を作るとか。
ループものでは、この点は結構なポイントになると思います。
その自覚があると、惨劇を止めるべく主人公は「自発的」・「自覚的」な行動をとっていくわけで、そこに主人公の個性、キャラクターが立ってきますし、作品の見せ場を作ることも出来ましょうし、選択肢に意味を持たせることも出来てくるわけです。


大体こんなところでしょうか?
色々書いてしまいましたが、ちょっと惹かれる作品ですよね。女の子は可愛いですし。
歴戦のノベルゲーマーならハマること請け合いだと思います。少し懐かしく、けれども2019年の水準にモディファイされたループもののホラーストーリー、楽しんでみてください。


それでは、また。


by s-kuzumi | 2019-12-22 15:05 | サウンドノベル
2018年 09月 24日

フリーサウンドノベルレビュー 『Merciful Girl ―マーシフルガール―』

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今日の副題「スマホノベルで上座部仏教を学ぼう!」

※吟醸
ジャンル:AI少女との対話を通して、上座部仏教を学ぶノベル
プレイ時間:全て読んで5時間前後
その他:選択肢はあれど、結末に大きな影響は与えない。アプリ内課金アリ
システム:スマホアプリ(アンドロイド、iPhone用それぞれアリ)
制作年:2018/8/31
容量(圧縮時):不明


道玄斎です、こんにちは。
こういうブログの類っていうのは、たまに更新すると立て続けに更新をしたくなってしまうものです。
そして、また更新が途絶えてしまうと次の更新までえらく時間がかかり……というパターンになりがち。


私の場合、「辞めました」と宣言しているわけでもなし、また、かなり自発的な活動(?)でやっているものですから、好きな時に好きなように更新出来るというメリットがあるのです。
ま、それはともかく、ちょっと目に留まった作品があったのでそのご紹介。2018年も終わりに近づいて、平成も終わろうという時に、やはりこの時代らしい「新しさ」を感じる作品だったと思います。
というわけで、今回は「RhinocerosHorn」さんの『Merciful Girl』です。ダウンロード情報などはこちらからどうぞ。

良かった点

・愛らしいキャラクターを通して、上座部仏教の考え方が学べる

・人生で誰もが直面せざるを得ない“死”について描き、自らの生き方を考えさせられる設定

・スマホアプリらしい、新しいノベルゲームのありかたを見せてくれている(後述)


気になった点

・広告動画が見られないことや、広告動画を見てもストーリーが読めず、再度広告を見ないといけないことがあった

・前半部と中盤~ラストに掛けては、ストーリー的つながりが薄く、内容的にもやや乖離して見える部分もある

大体、こんなところでしょうか。
さて、ストーリーは、私がまとめておきましょう。


今より少し未来のお話。
介護用アンドロイドの技術者だった主人公は、自らの夢を叶えるため、会社を辞め、個人的に究極のアンドロイド開発に心血を注ぐ。
愛らしい少女のアンドロイドを完成させ、ビッグデータと接続させた瞬間、アンドロイドは通常と違う発言や挙動を見せるようになった。それは主人公が知る「禅」の姿と重なる。
そんな折、主人公の母(育ての親。主人公は養子)の体調が悪くなり……余命僅かであることが判明するのだが……。


というようなお話し。
このサークルさんは、「原始仏教」の思想に基づいたゲーム(?)を過去にもリリースしているようで、『森の聖者』という作品もあります。『森の聖者』もノベルゲームっぽさはありますが、どちらかといえば、やはり「スマホアプリ」的な趣が強い。
一方、本作は、「ノベルゲームだよな!」という感じ。


余談ながら、画面の使い方にも違いがありましたよ。
『森の聖者』のほうは、スマホを縦にした表示で、本作は横の表示です。スマホのノベルゲーム(的)な作品でも、こういう違いがあるようです。


それはさておき、ここで、一点解説を入れておきましょう。
「原始仏教」とありますが、どういったものかイメージがつく方は案外少ないんじゃないでしょうか?
より正確に言うならば、このディベロッパーさんの作品は原始仏教というよりは、「上座部仏教」/「テーラワーダ仏教」といったほうが、私にはシックリときます。ですので、ジャンルにはそう書いておきました。


っと、全然解説になってなかった。
私達が日ごろ接するお寺やお坊さん、冠婚葬祭の儀式に欠かせない存在ではありますが、日本は「大乗仏教」です。
お釈迦様の思想がどんどんと広まり、深まっていく中で発展した(拡大解釈されたりも)仏教の1つの姿と言えばいいでしょう。
一方、タイやスリランカのような国々の仏教が「上座部仏教」や「テーラワーダ仏教」と呼ばれるものです。


基本的に、仏教の初期的な教えに従って修行生活をするお坊さんの集まりを中心にしていく仏教の在り方でございまして、お坊さんは「戒律」を守り、「修行」(瞑想など)をしていくことになります。
皆さんもご存知の托鉢は、上座部仏教の朝の定番の活動です。


近年、Googleなどの世界的な企業や大学、政府機関などの研修で、マインドフルネスというのが取り入れられていることを知っている方は多いでしょう。これは上座部仏教の「瞑想」から宗教的な色合いを抜いて、その恩恵を抽出するプログラムだと言ってもいいかと思います。


心が休まる、優しくなれる、この瞬間を生きることが出来る、などの恩恵があり、かなり前から世界的なムーブメントになっています。
何年か前……某クリスチャンノベルゲームレビュワーのお兄さんに「アメリカでも座禅が流行ってるんですよ。キリスト教の神父さんや牧師さんも関心を示していて、実践をしている人がいるんです」とお話ししたら、「聞いたことがない!」と一蹴された経験もありますが、「マインドフルネス」の日本での流行もここ数年でかなりのものになり、そうした土壌やバックグラウンドも理解してもらいやすくなりましたw


ただ、私の上記の発言もちょっと不正確でした。
というのも、「禅」と「マインドフルネス」、そして「上座部仏教で行われている瞑想」はそれぞれ微妙に違うものだからです。
日本人にわかりやすい説明として「座禅ですよ」というとすごく伝わりやすいんですが、一方で安易なカテゴライズをすることで、大切なエッセンスが抜け落ちてしまうこともあります。


ま、そうした説明はさておき、作品内容に入っていきましょう。
アンドロイドの少女がビッグデータに接続され、世界のあらゆる知見を身に着けた結果起こったのが、「悟った人」的なふるまいや発言だったわけです。


これは、理解がとてもしやすい。
というのも、アンドロイドでAIですから、「心」がないんです。より正確に言えば「自分が自分であるという見方」が存在していない。ただ、各感覚デバイスを通して情報を受け取るだけ。


私達は「私は〇〇県出身の〇〇歳、仕事は〇〇をしていて、既婚、子供が2人いる。得意なことは〇〇で苦手なことは〇〇。水虫を持っている」とか、そういう自己認識でもって、「自分」なるものを規定します。


ただし、上座部仏教では、そうした見方を否定しますし、そうした見方を離れるように瞑想を始めとする修行があるのです。その「私が思っている自分なんてない」というものが「無我」と呼ばれるものです。
本作では、アンドロイドであるがゆえに、一足飛びにそうした「高い境地」に既にして到達してしまっている、というのは「その手があったか!」と思わず膝を打ちました。


また、アンドロイドの少女は外部から入力された世界の情報を「ただ、ありのまま受けとめるだけ」です。
そこに、たとえば「好悪」などの概念は入り込みませんし、いちいちそうした反応も示しません。これもまた、上座部仏教の修行で目指されている境地です。


ですから、アンドロイドが悟りを開いた人のようになって存在している、というのはとても分かりやすく、また、納得感があるものなのです。


作品それ自体は、カレンダー消化型の体裁ではありますが、実質的に「カレンダー」である必要性がありません(たとえば、1月14日から始まって、最終日に2月14日のバレンタインがある、なんて時には、カレンダーの意味が活きてきますよね)。
寧ろ、本作におけるカレンダーの意味は、「一話一話を区切るアクセント」としての役目のほうが大きいのです。


一話はおおよそ10分程度で読むことが出来ます。
電車2~3駅分というと分かりやすいかな。気軽に1つ1つのチャプターを読んでいくことが出来る体になっています。


一方で、少し読み進めると、「次の日」に行くためには「動画再生」が必要となります。
皆さんもご存知でしょう、スマホコンテンツでおなじみの「動画を見ないとコンテンツが見られない」というアレ。約30秒くらいのパズルゲームなどの動画が流れたあとで、次のお話しが読めるように。


この動画再生によって、「基本フリーだけれども、作者に収益が入る」というシステムはスマホアプリのノベルゲームならではの仕組みでしょう。さらに、「いちいち動画再生をするのが面倒」という人は、「製品版」を買うことで、わずらわしさなく物語を読み進めることが出来るわけです。


つまり、2つの収益の仕組みがあるということなんです。
フリー版は広告再生によって。製品版は直接代金を支払う、という形です。
これはなかなかうまいやり方ですよね。フリーで遊ぶことももちろん出来ますし、その場合であっても作者にリターンが入る。今後、こういう形も増えてくるのかな。


物語の前半部は、「悟りを開いた」アンドロイドの少女と、開発者である主人公の問答(?)が中心となります。
そこだけ切り取ると、一話一話のお説法のような感じ。
人生の目的とはなにか? 何に価値を見出すのか? 慈悲とはなにか? そういったことが、上座部仏教の教えを元にアンドロイドの口から語られていきます。


多分、この辺りは予備知識がなくても問題なく読めるところだと思います。
むしろ、かなり分かりやすい喩えで解説をしてくれているので、はじめてそうした教えに触れる人でも安心です。


一方、物語の中盤~ラストにかけては、前半にあったお説法的な色彩が一気になくなり、「ノベルゲームらしい」ストーリーが展開していきます。
主人公の育ての母親の死が焦点化され、死とどう向き合うのか、残されたものはどうするのか、といった誰しもが避けられない問題が描かれることに。


アンドロイドの少女のお説法は、この段階で激減するのですが、随所で苦しむ育ての親を、仏教的なやり方で癒し、慰める様子は時折出てきますね。
お釈迦様の直弟子のサーリプッタ(舎利子っていうと伝わりやすいかな?)が、ある長者の死に際に際して行った誘導瞑想を下敷きにしたシーンなんかは、後半の仏教的な見どころの一つと言えるでしょう。


ともあれ、「死」というものに対して、その苦しみも含めて誤魔化さずに描いているところは、凄みを感じます。
それによって、私達も、自分の親兄弟、そして自分自身もいつか必ず死ぬんだ、ということを直観出来るようになっている作りは見事。「上座部仏教的なノベルゲーム」としてみれば、特に後半部分は内容的にやや乖離している感は否めませんが。


もはや後半~ラストにいくと、上座部仏教的な「死」というより、そういう何かの視点に偏らない「死」みたいな感じになっていきますね。ちょっとこうホロッとしてしまう部分も多いです。
私は「自分が死ぬとき、こうして自分を世話してくれる人はいるのか? もしいたとして迷惑をかけずに死ねるのか? 一人で寂しく死んでいくだけなんじゃないか?」など、色々プレイしながら考えてしまいました。


上座部仏教という哲学を下敷きにした作品ですから、こうしてプレイヤーに「訴えかける」ものがある作品だということは大いに強調したいところです。


恐らく、本作は「上座部仏教の思想とアンドロイドを融合させたら上手くいくかも」というアイデアを先行して作られた作品だったのではないでしょうか? 
後半の内容的な乖離はそれで説明できますし、本当の本当のラストがやや投げやりな感じで終わってしまっていたのも、力点がそこにはないから、なのでしょう。


ただ、繰り返しになりますが、「自我を持たないアンドロイドだからこそ、悟った人と同じふるまいが出来る」という本作のキモとなるアイデアには、本当にびっくりしました。
そうそう。悟った状態の説明(?)を最初にしましたが、あれだと「無機質で無感動で面白味のない人間になるってことか?」と誤解される向きもありましょう。
けど、違うんです。仏教には「慈悲」というものもあり、上座部仏教の中には「慈悲の瞑想」という正式な瞑想法もあるくらいです。なので全く無感動で無機質なのとは違うんです。だからこその「Merciful」(慈悲深い)がタイトルに冠されていると考えるといいと思います。


上座部仏教を学べる楽しい学習アプリとしての側面、スマホのノベルゲームとしての2018年的な在り方や、斬新なアイデア、そして自分自身を顧みる余地が多分にあること、などを考え今回は吟醸で。


仏教に対して思う所がある方もいらっしゃるでしょう。
けど、そうした先入観を抜いて、一度是非プレイしてみてください。どんな立場の方でもちょっと考えさせられること請け合いですよ。


それでは、また。


by s-kuzumi | 2018-09-24 13:49 | サウンドノベル
2017年 09月 18日

フリーサウンドノベルレビュー 『夏ゆめ彼方』

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今日の副題「少年の日の夢とその最果て」

※大吟醸
ジャンル:ひと夏の思い出と「今」を描く感動ノベル
プレイ時間:~3時間ほど
その他:選択肢アリ。メインストーリー1本、サイドストーリー1本に分岐
システム:吉里吉里/KAG
制作年:2017/9/7
容量(圧縮時):293MB



道玄斎です、こんにちは。
今日は前回に引き続き、大吟醸作品のご紹介。
今プレイすると季節感もばっちりだと思いますよ。というわけで、「ペットボトルココア」さんの『夏ゆめ彼方』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。
良かった点

・ある意味定番な設定ながら、テーマが重厚。

・「将棋」がいいスパイスになって、作品全体を引き締めている

・挫折を経験した人にはぜひプレイして欲しい内容


気になった点

・小学生の視点での一人称の難しさを感じる

前回に引き続き、連続での大吟醸です。
気になった点は、「一応書きました」というようなもので、本当によい作品だったと思います。
ストーリーは、ふりーむのほうから引用しておきましょう。
父親との死別で塞ぎ込んでいた『天才小学生』朝川桂一は、ある日『神様』を自称する巫女服姿の少女と出会う。
少女との交流の中で、桂一は将棋のプロ棋士になりたいという自らの夢を思い出していく。

夏×伝奇×将棋!
『夢』をテーマにしたノスタルジックな青春ノベルゲームです。

こんな感じ。

紹介文では端的に、「夏」「伝奇」「将棋」が作品の骨であること示されています。
「夏」の神社で、神様を自称する少女(幼女?)と出会って、「将棋」という一度捨てかけた自分の夢を追いかけることが出来るようになる……みたいなストーリーではあるんですが、このストーリーの流れだけみて「またこのタイプかよ?」と決めつけてしまうのはもったいない!

本作の本当に美味しいところは、やはり紹介文で示されている通り「夢」だからです。
夏、伝奇、将棋のようなものは、云わばフレーバーのようなもので、本作を素晴らしいものにしているのは、その「夢」の要素です。


誤解を恐れず云ってしまえば、「幼いころからの夢が叶う」なんて人は、ほとんどいないんですよね。
みんな大なり小なり挫折を繰り返し、その中で妥協しながら今を生きることになります。

だからこそ、それがノベルゲームの中であったとしても、夢はまぶしく見えますし、主人公に自らを仮託してついつい応援したくなるわけです。

本作で何より優れていたのは、その「夢」の行方を丁寧に追っていくところでした。
神様である少女――杏(あんず)――との出会いで、また自らの夢を恢復させ、夢に向かって踏み出していく。

ここで物語を終えることも十分可能だったはずです。
しかし、本作はもっともっと「夢」に踏み込んでいきます。

詳しくは是非プレイして確かめて頂きたいのですが、夢っていい事ばかりじゃありません。
先ほど書いたように、挫折はつきものです。むしろ挫折していく人のほうが多いくらい。しかも、それにすべてをかけていればいるほど、実生活での「潰し」が効かなくなってきます。

そういう部分での、主人公圭一の葛藤は、本当にリアリティがあります。
何かに一生懸命取り組む。しかしその努力がそのままリターンされてくるわけではない。大人はみんなそれを知っていますが、いざ自分がその立場になってみると、みっともなく暴れたり、ふさぎ込んだりしてしまうのも、また人間です。私自身、読んでいて身に覚えがありすぎて、かなりドキドキしてしまいました。

夢は破れはしたけれど、その中で小さな幸せを見つけていく……というのも一つの生き方です。
本作のサブルートでは、そういう「all or nothing」的な夢の在り方だけでなく、もっと実際的というか、現実的な夢の果て、のようなものも描かれています。

サブルートそのものは、メインのルートに比べるとボリュームや内容的な部分で、物足りなさは感じますが、「夢」のもう一個の可能性を見せてくれたところに、良さがありますよね。


さて、先ほどは大ナタを振るって「フレーバー」といってしまった、神様との交流も実は無視できないものです。

こういう作品に出てくる神様って、みんな女の子ですよね?
間違っても、マッチョなアニキが神様をやってるなんてことはない。

しかも、見た目こそ幼女でありながら、その中身には酸いも甘いもかみ分けた……明も暗も見て来た老成した部分があるというのも定番です。

これは……やはり男性の願望の1つの形なんでしょうね……。
見た目こそ優しくありながら、悲しみすらその奥に秘めている深い海のような愛情を持った存在に、思い切り甘え切ってみたい。そういうのって案外多くの人が持っている願望な気がしますよ。

本作も……やはり後半で、圭一が杏の胸の中で号泣するシーンが出てきますが、前回のレビューでもお話しした通り、名シーンになっています。

圭一の「夢」は最後どうなるか、是非ご自身で確かめてみてください。
そうそう、本作は「将棋」が出てきますが、ルールが分からなくても読むのに支障はありません。もちろん分かる人にはまた別の愉しみが出てくるとは思います(私は駒の動かし方を知ってるくらいだ)。


さて、ここからは蛇足。
久々に「これは」と思えるノベルゲームを2本プレイしてみたわけですが、2本ともとてもいい作品でした。

舞台や設定のようなものは、オーソドックスではありますが、どちらもストーリーの芯が骨太で、人間の悩みや葛藤といった、「物語」が扱うにふさわしいテーマになっていました。

少しノベルゲームから離れている間に、こういう手ごたえを感じる作品が増えてきて、「またノベルゲームも盛り上がる兆しがあるのかな?」なんて思っていたり。

ゲームだけに限りませんが、大体、すっごい流行る良い作品があって、その後、その後追いのような作品がガンガン出てくる。一方で、その反発として目先を変えた作品が出てきて……と、ブームが形成されていきます。

しかし、作品数が増えていくとある種の飽和が生じたりして、ジャンルが衰退に向かっていったりするんですよね。その中で、オーソドックスな良さというのは、重要視されなくなり、刺激的なものがもてはやされる中で、ブームは爛熟期を迎え、徐々に作品数が減って……。

で、「〇〇は終わったぜ」と悲観的なことが言われたりするんですが、またオーソドックスながらも力のある作品が出てきて、ジャンルが再び盛り上がってくる……なんてことがあります。文学の歴史とかって割とそういうとこありません?

ですので私は、今回2作品プレイしたのですが、ちょっと、またノベルゲームのオイシイ季節がやってきたんじゃないかな? なんて思っているんですよ。

もしかしたら、そういう時期は来ないかもしれないし、来たとしても一瞬で終わってしまうかもしれない。
けれども、こんなに丁寧に、物語が扱うべき(って言っちゃってもいいかな?)テーマに取り組んでいる作品が少しづつ増えてきている、という現状、とっても嬉しいですねぇ……。

また、私もマイペースではあるんでしょうけれども、これは、と思う作品紹介していけたらと思っています。



それでは、また。


by s-kuzumi | 2017-09-18 16:05 | サウンドノベル
2017年 09月 10日

フリーサウンドノベルレビュー『私は今日ここで死にます。』

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今日の副題「死を美化しない骨太ノベルゲーム」

※大吟醸
ジャンル:自殺がフィーチャーされる雰囲気もの(?)のノベルゲーム
プレイ時間:1時間と少し
その他:選択肢なし、一本道
システム:Nscripter
制作年:2017/8/14(?)
容量(圧縮時):44.2MB



道玄斎です、こんばんは。
ずいぶん……そう年単位で更新が滞っていました。
皆様はいかがお過ごしでしたでしょうか? 私は何とか生きています。

そうそう、このブログを始めたのが2007年だったと記憶していますから、本年2017年は丁度10年目に当たります。つまり、私もこのブログを書き始めたころから10歳年をとってしまった、というわけです。

私自身……白髪が出てきた! とかいろんなことがありますが、まぁ、ぼちぼち成長して……いるといいなぁ、なんて思ってますねぇ。

さて、今日は本当に久々のノベルゲームレビュー。
mint wings」さんの『私は今日ここで死にます。』です。
良かった点

・本来の意味での「雰囲気」が出ている作品

・自死をテーマにした作品がこの作者さんには多いが、本作ではかなり骨太で、凄い進化がうかがえる

・なんとも言えない優しい雰囲気、暖かい空気感が素敵


気になった点

・若干駆け足気味だったところも

・フォルダを開くと、BGMなどが丸見え

こんなところでしょうか。
ストーリーですが、作者さんのサイトから引用させて頂きましょう。
人が自殺しようとしているのを目撃した場合、どうするか。

いくつかの答えがあるだろうが、俺には考える余裕も時間も無かった――。

ある日、主人公 "萩原 京介" は、入水自殺をはかろうとしていた女子高校生 "三島 由香" と出会う。

京介は、彼女が死ぬ前にとある提案をするのだった…。


不器用な登場人物達が織りなす、「生きる」という普遍的なテーマを主軸においた物語[全2章構成]。

こんな感じ。

いやぁ、いい作品でした。
引き締まった尺(ただし若干駆け足気味のところはあるかも)、骨太のテーマ、本来の意味での「雰囲気」を活かした作品で、これはお勧め出来る作品です。

テーマは若干重めで、「自死」「自殺」です。
何度も書いている気がしますが、この手の「自殺」をテーマにした作品って、かなり増えたんですよね。本作もちょっと「ドキッ」とするタイトルですよね。

そうした作品を私も何度も取り上げてきましたし、取り上げていないものも含めればかなりの数を読んできました。
また、本作の作者さんも、同様のテーマを作品の中で積み重ねてきているわけですが、行きつくところまで来てしまったな、という感じ。ええ、もちろんいい意味で、です。

本当に自殺を描いた作品には、「なんとなく死んでしまう」、「自死が理想的で、また美しく描かれる」なんてものもあったりして、それはそれで面白いものもあるんですが、「死」あるいはその裏返しの「生」というテーマにそれが真向かいしているのか? と問われれば、また答えにくいものがあるはず。

一方、本作は「雰囲気ゲー」と作者さんご自身がおっしゃってますが、全然そんなことはありません。
いや、正統な「雰囲気ゲー」だと言えると思うのです。

というのも、雰囲気というのは相当描くのは難しいんです。
なんとなくうすぼんやりとした理由で誰かが死んで、音楽もそれっぽい感じにしても、それはどこかうわっ滑りなものになってしまうわけです。

本当の意味で「雰囲気」を出して、それを作品に活かすためには、シッカリとした設定や描写が絶対に必要になってきます。

丁寧でしっかりとした物語があって、はじめて「雰囲気」が出てくる、と私は思っています。
その意味で、本作は比較的オーソドックスな設定(自殺を使用としていた女の子を、どこか無気力な青年が助けて~)を持ってはいますが、丁寧なキャラクター描写、舞台やエピソードの積み上げによって、結果暖かく、優しい雰囲気が十分に出ていました。

個人的にとっても惹かれたのが、主人公京介のモノローグやそれと同化する形での地の文。
いわゆる「少し冷めた感じの青年」ではあるんですが、そのモノローグ(何か大事なことを言いかけるような、そういうモノローグ)によって、彼の心にも何かわだかまりや、葛藤があること、上手に表現されていました。

物語前半部分では、「死」にある種のあこがれを持つヒロイン由香が描かれるのですが、そのリアリティを垣間見て、彼女の想いもまた変わります。
「死を単純に美化」するのではなく、深く死を見つめていった時に感じる怖さ、その怖さによって逆に触発される「生」への想い。この辺りの描写は物凄くよかったです。

また、本作屈指の名シーンは、今挙げたシーンもそうなんですが、年上であるはずの京介が年下のヒロイン由香に泣きつく……っていうと語弊があるか……。つまり、誰にも言えずに抱え込んでいた想いを吐露していくシーン。
これはもう、本当にいいシーンなんですよ。

そういえば、本作はサンドウィッチ的な構造もとっています。
エピローグで分かるんですが、こういうサンドウィッチ構造って私好きなんですよね。物語に厚みが出ますからね。

手前みそで恐縮なんですが、私もちょいと関わった『Ghost Write』という作品にも、年下の女の子の胸で泣いたり、実はサンドウィッチ構造だった、なんて仕掛けも出てきます(ただし、クオリティは本作のほうが全然上だわ……)。


閑話休題。
死をただただ美化するのではなく、それをしっかりと見つめること。そして生へ転換していくこと。
それが無理なく、無駄なく描かれていたというのが本作の最大のグッドポイントでしょうね。ね? 私も10年経って、ちょっと成長したでしょう?

尺はおおよそ1時間くらい。
スッキリと読めるのに、深みがある。とっても素晴らしい作品です。ぜひぜひ、このページをさっさと閉じて作品をDLしてプレイすることをお勧めします!


それでは、また。


by s-kuzumi | 2017-09-10 20:42 | サウンドノベル
2016年 12月 27日

フリーサウンドノベルレビュー 『眠れない夜に』

フリーサウンドノベルレビュー 『眠れない夜に』_b0110969_1975876.jpg

今日の副題 「ノベルゲームの原点回帰」

※吟醸
ジャンル:
プレイ時間:1時間~1時間半程度
その他:選択肢なし、一本道。
システム:Nscripter

制作年:2016/12/24
容量(圧縮時):71.7MB




道玄斎です、こんばんは。
ずぅーっと更新していませんでしたが、今日は久々にノベルゲームのレビューの更新です。
なかなか今年は忙しかったりして、全然ゲームをプレイしていなかったのですが(特に「読む」ことにウェイトがあるノベルゲームってプレイに時間的・精神的な余裕が必要でしょう?)、今年も終わりになって、とても良い作品と出会えました。



というわけで、今回は九州壇氏さんの『眠れない夜に』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。
良かった点

・クラシカルなノベルゲームの面白さ、良さが詰まってる

・しかも、そのクラシックなパターンでニヤリと出来る

・「選択肢」を残したラストの雰囲気がたまらない


気になった点

・Nscripterデフォルト(?)のインターフェイスやシステム回りに多少の古さが(私がしばらくノベルゲームから離れていたからかも?)

・個人的に、ビジュアルノベルスタイルや、「発話者を明示しないタイプ」のほうが合っていたような

ストーリーはふりーむの方から引用しておきましょう。
舞台は、秋の福岡。
なんとなく眠れない夜を過ごしていた俺は、彼女をドライブに誘う。
彼女は苦笑しながらも了承してくれた。

こうして、僕と彼女の一夜の物語が始まった。
願わくばこの先に、彼女の笑顔がありますように。

さて、九州壇氏さんの7作目の作品です。
早いもので、前作からもう5年経っているわけで、私もびっくりです。
私がこのブログを始めたのが2007年だった気がしますから、もうノベルゲームの世界に耽溺すること10年になるわけで、いやはや、月日が経つのは本当に早いなぁ、と。


本作はタイトルが『眠れない夜に』ということですが、タイトル、あるいは先ほど引用した紹介文を読んで、皆さまはどんなイメージを作品に持たれますでしょうか?


私は……「ストーリー的にあまり起伏はなく、まったりとした温かみのあるちょっと大人な物語」だとずっと思っていました。
結果、予想は見事に裏切られることになるわけですw


先程、私がこのブログを始めて10年近くになる、という話を書きましたが、まさに10年くらい前によく見られたような、そういうクラシカルな手触りを持った作品で、とても嬉しくなりました。


何がクラシカルなのか? というと、「あっ、このパターンはもしや……?」と、一世を風靡した作品とつながる物語の展開が「読めて」しまうんです。
これだけ聞くと、「よくあるパターンなのか」と短所に思えてしまうのですが、さにあらず。


「あー……これか……」と思って読み進めていくと、実はそのパターンは最初に頭に描いたパターンではなく、別の一世を風靡した作品のパターンだと分かっていったりするんです。


分かりやすくいえば、クラシカルな物語の仕掛けをつかったミスリードの方法が優れているのです。
「こっちじゃなくて、あっちのパターンだったか!」とニヤリと出来ますし、どちらのパターンも、(特にフリーの)ノベルゲームではクラシックともいえるパターンですから、私のようなオールドファンはなんだかんだで楽しめちゃいますし、そこでもニヤリと出来る。


まさか、2016年も終わりになって「あのパターン」にお目にかかるとは思いませんでした。
2004~2007年くらいの時期にちょくちょく目にしたパターンで、私も勝手に名前を付けて呼んでいた、「あのパターン」です。



今日は少しネタバレを押さえて書きますが、ラストもとっても良かったんですよねぇ。
作品そのものに「選択肢」はないんですが、物語内で「最終的にどうなるか?」という選択肢ともいうべき未来が提示されている気がします。


そこには、クラシカルな作品に屡々見られたようなハッピーエンドでなく、寧ろ、どちらの未来への可能性も残しつつ終わるという、人間や人生の複雑さ、あるいはほろ苦さのような味わいがあります。
しかも、それを柔らかく、暖かく見守るような文章となっていて、そこは作者の九州壇氏さんの作品の大きな魅力でもあります。



一方気になった点ですが、一個目はちょっと言いがかりに近いものです。
本当に久しぶりにノベルゲームをプレイしてみて(しかもマシンも変わってる)、Nscripterデフォルト感溢れるインターフェイスに、「え? こんなだっけ?」と思ってしまったのですw


ただ、一点言わせていただくとすれば、こういうしっとりとした物語ですから、フォントなどの「物語の埒外にあるもの」に少しこだわってみて、雰囲気を後押ししてもよかったのかな? という気はします。
二点目の気になった点とも、これは関わってくる問題かもしれません。


本作は、立ち絵も表示されますし、画面の上側に背景・立ち絵が表示され、メッセージウインドウに「文章」が表示される形式を採っています。
一方で、物語そのものは、テンポのよい軽快なやり取りを読ませていくというよりは、小説に近い「味わって読んでいく」タイプ。


すると、たとえば、


  私
  「……それは何?」


みたいな、「発話者」が明示されちゃうと、ちょっと雰囲気を損ねるような気もするんですよね。
もちろん、あった方が分かりやすい。けれども、ビジュアルノベルのような全画面方式や、あるいは発話者を明示しない形での会話文のほうが合っていたように思えるのです。


この辺りも好みの問題かもしれませんが、一応ということで。



決して派手さや人目を惹く演出などはありませんが、じんわりとしみ込んでくるような物語は、むしろ今だからこそ、とても価値のあるものに思えます。
物語や、その内容、雰囲気で勝負する、という本来的なノベルゲームの良さがギュッと詰まった作品です。ぜひ、プレイしてみてくださいね。

by s-kuzumi | 2016-12-27 19:08 | サウンドノベル
2016年 04月 29日

フリーサウンドノベルレビュー 番外編 『山中の宿』

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道玄斎です、こんにちは。
ゴールデンウィークですから、ちょっと何かプレイしようかな? と思っていたところ、興味惹かれる短編作品を発見しました。
というわけで、今回は「aiGame」さんの『山中の宿』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。


私は、怖い話が結構好きです。
いや、ウソです。とっても好きです。

怖い話といっても、色々なジャンルがありまして、代表的なものとしては厳密には分けがたいものの、「都市伝説」のようなタイプ、「お化けや幽霊」の話、「妖怪などにまつわる話」、そして「実話の猟奇的な話」といったものがあります。

こうした怖い話のジャンルのなかで、ここ数年で一気に台頭してきたのが「意味が分かると怖い話」です。
一見すると、何の変哲もないような話。特にオチもなかったりする。けれども、ちょっと頭をひねったり、その話の中に出てくる特定のキーワードに着目することで、「もう一つの意味」が浮かび上がってきて……というタイプの作品です。


この手の「意味が分かると怖い話」には、一つ短所があって、それは「意味が分からないと全く面白くない」というもの。

そういうわけですから、このタイプの怪談では、ちょっとした工夫が必要となります。
たとえば、よく目にするのが「そもそもの文章がなんだか意味深」。

これは、「意味を分かってもらうため」に読者に考えることを促している、と考えられます。
また、「真相につながる特定のキーワードや、事象をしつこくない程度に強調しておく」なんてのもありますよね。これも意図は同じです。

第三の工夫は、ちょっと力技なのですが、「解説」を付けちゃうというもの。
これは、スマートフィンのアプリタイプの「怖い話」にはよくあります。お話を読んだあと「解説」をタップすると、すっきりと裏に隠れた意味が分かるというわけです(ネット上で見ることが出来るそれは、読者が考察した「解説」が付いていることも多いです)。


長々と前置きを書いてしまいましたが、本作『山中の宿』は、こうした「意味が分かると怖い話」を5編集めた、短編集というかショートショート集というか、そういう趣。
そして、それぞれの話のあとに「解説」が入り、「この話、意味わかんねーな?」という事態を防いでいます。

本作の特徴は、ただ単に「意味が分かると怖い話が5本あるから読んでね」ではなく、ちゃんと物語としてのガワがあって、いわば「物語内物語」として怪談が提示されている、というところでしょう。

タイトルに如実なように、主人公は道に迷い、山中にある洋館形式の宿に泊まることになります。
その客室に置いてあった本の内容、それが本作で提示される怪談、というわけです。


そうした「設定」の部分はゆかしいものがあったのですが、怪談そのものはそこまで怖くなかったかな? という気がしますね。

一つは、「文章そのものが理解しにくい」というところにあります。
意味深長な部分を作ろうとするあまりに(?)、その怪談の「表の意味」そのものが分かりにくくなっている印象がありました。

なので、もうちょい読みやすい文章であると、裏の意味の怖さもクッキリとしてくるんじゃないかな、なんて思いました。

あとは、魅力的な「ガワの設定」があるので、そこを活かす方向も考えられます。
たとえばの話ですけど、一話怪談を読むと、「洋館チャプター」が出てきて洋館のメイドさん(?)とのやり取りがちょこっと挟まったりして、最後の「オチ」にさらにインパクトを与える、みたいなね。


色々書いてしまいましたが、スッキリ10分未満で読了出来る尺は魅力。
また、「意味が分かると怖い話」をノベルゲームで表現しているという部分も楽しいですよね。今後も、こういうホラー作品、どんどん出てきて欲しいなぁ。


どうやら、かなり多産な作者さんのようですので、また面白そうな作品プレイしてみようと思います。



それでは、また。

by s-kuzumi | 2016-04-29 14:16 | サウンドノベル
2016年 02月 29日

フリーサウンドノベルレビュー 『路地裏の不思議な少女』

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今日の副題 「不思議ですごい物語世界」

ジャンル:ボーイミーツガール(らしい)
プレイ時間:二時間未満(私がプレイして1時間40分)
その他:選択肢なし、一本道
システム:YU-RIS

制作年:2016/2/23
容量(圧縮時):216MB



道玄斎です、こんばんは。
今日は、ちょっと不思議な感触の作品をプレイいたしましたので、ご紹介。
電脳詐欺」さんの『路地裏の不思議な少女』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。
良かった点

・柔らかい水彩風のイラストが素敵

・不思議な魅力に満ちた作品世界

・どのキャラクターにも物語内での「存在感」がある


気になった点

・割と多めの誤字

・強烈な盛り上がりには欠ける(※後述)

ストーリーはふりーむの方から引用しておきましょう。
走るのは少年。

流れ落ちるのは汗。

過ぎていくのは時間。

聞こえるのはセミの声。

節目の日はとある夏の日。

路地裏で見つけたのは
       

  不思議な少女。

こんな感じ。


こうしたストーリーの発端部分を読むと、「あっ、行き倒れ少女を拾って同居するタイプだ!」と思ってしまうのですが、実はあまり目にすることのないタイプの作品だったのです。

確かに、「謎の少女を拾う→同居する」という流れ自体はあるのですが、主人公は「一人暮らし」ではありません。

シェアハウスの管理人をしているただの高校生なのです。
そして、シェアハウスの住人は主人公以外は女性ばかり。

この段階から既に、「ちょと違う」のが分かるのですが、さらにその「シェアハウス自体」が「能力者」たちの一つの拠点になっていることも判明します。

そう、本作は異能力ものの趣があり、秘密の組織や秘密の都市といったキーワードも登場するのです。
その意味ではどこかSF的な世界であり、また独特の水彩風のイラストによって、現代日本が舞台であるにも関わらず、ファンタジーの雰囲気すら漂っています。

プレイしていると、それが「現代日本」であることをどこか忘れてしまうような、何とも言えない不思議な作品世界。そしてそれはシェアハウス内部の背景イラストや、タイトルにもある「路地裏」の背景イラストでも確認できます。

普通の家の構造……とはちょっと違っていて、また路地裏も、それが道であることはわかるのですが、どこか現実感に乏しいような、一見すると奇妙な感じ。
それはもちろん、本作に於いて「マイナスポイント」というのではなく、「こういうのって今までなかったよね」と感じさせてくれるような、表現だったのではないかと思います。

一応ふりーむの作品一行説明を見てみると「とある夏のボーイ・ミーツ・ガール」」と書かれているのですが、ちょっとそれは単純すぎるかもしれません。しっくりくるジャンルがなかなか見つかりませんし、こういう作品の場合「ジャンル」を無理に当てはめないほうが自然ですよね。


さて、内容に関しては、登場人物がそれなりに多いのですが、どのキャラクターにもしっかりとした存在感があってよかったな、と思いました。

割と登場人物が多いノベルゲーム/サウンドノベルでは、一部のキャラクターにのみ「存在感」というか「存在理由」が偏ってしまい、その他のキャラはただの「にぎやかし要員」になったりもするのですが、本作の場合、そうしたこともなく、しっかりとどのキャラも個性が立っていて、そこはすごくいいポイントだと思います。

個人的には、ちょっとクセはありますが、個人的には「まゆ」、そして「佐藤」が好きかな。


さて、気になった点ですが、ちょっと誤字が多めかも。
たとえば、「夜中」に主人公ハジメが外出しているシーンから、物語は始まりますが、その際、「午後一時」なんて書かれてるんですよね。

これは夜中ですから、「午前一時」の誤りでしょう。あっ、これは誤字ではなく誤謬か。
ともあれ、ちらほらと、誤字が出てきていて、あれ? というようなことがありました。


もう一点は、私はあえて気になった点に挙げてしまったのですが、「割とあっさり目のストーリー進行」だということです。

作品後半で大事件が起こり、グググッとお話しが盛り上がって、ラストに向けて収束していく。
というよりは、もう少し淡々とした感じ。

もちろん、ちゃんと物語には起承転結とでもいうべき、きっかけや事件は起きるんです。
そして、それらが絶妙に配置されていることによって、プレイしていてダレない、というのも事実です。
秘密の組織が明らかになって以降、話は急速に面白くなっていきますし、比較的最初のほうで張られた伏線が、最後にちゃんと回収されるなど、丁寧な作りでもあって、本当に面白いんです。

しかし、なんかそうした事件は比較的あっさりと描かれ(バトルシーンもあるのですが、そこにはすごい力が入っていたように思います!)、なんとなくの感触ですが「淡々」という印象があるんですよね。

でも……。
気になった点に挙げておいてなんですけど、本作の雰囲気そのものが「ファンタジックで、SF的な要素もあって、ちょっと不思議」なものですから、むしろこの「淡々」さはそこにマッチしている、と考える人もきっといるはずです。

実際私も、そういう風に思えなくもないのです。
ですので、意外と「気になった点」を挙げるのって難しいんですよね……。


おおよそ、こんなところでしょうか?
物語の最初の流れだけ取り出してみると、「お決まり」のパターンではあるものの、ふたをあけると、今までみたことのないような、なんとも不思議で魅力ある世界が広がっている。そんな作品でした。

これはちょっとプレイしてみる価値がありますよ!



というわけで、今日はこのへんで。
それでは、また。

by s-kuzumi | 2016-02-29 21:46 | サウンドノベル
2016年 02月 23日

フリーサウンドノベルレビュー 番外編 『森の奥に住む座敷童子は報われない』

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道玄斎です、こんばんは。
今日は、尺がだいたい30分くらい……なので、通常レビューにしようか番外編にしようか迷ったのですが、番外編ということで。短いながらも、色々と心を揺さぶってくれるとてもよい作品だったと思います。

というわけで、今回は「おざしきわらし製作所」さんの『森の奥に住む座敷童子は報われない』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。



短いながらも、重量感のある物語でした。
本作の面白いポイントはいくつかあるのですが、タイトルと関わるところでは「座敷童という存在が、人間社会で認知されている」という点、そして「幸運ではなく不幸をもたらしてしまう座敷童がいる」という点でしょう。
当然、タイトルが予感させる通り、「不幸をもたらす座敷童」たちは森の奥でひっそりと暮らしています。


さらによかったのは、なんといっても、単調さがなかったという点です。

特に30分程度の短編ですと、後半の盛り上がりに「事件」を持ってきて、それまでは状況説明や、日常生活の延長のような形になることが多いのですが、本作の場合、エピソード(なかには結構重いものもあるし、伏線になっているのもある)がうるさくない程度に挟み込まれていて、興味が持続するというか。

プレイしていて、「え? こうなるの?」とか、「そうだったのか」とか、プレイヤーの気持ちを揺さぶってくれる、そんなストーリーメイキングが、本作に重量感を感じた理由です。
そうした意味で、本作は一時間、あるいは一時間半くらいの尺としてボリュームのある作品に仕立て直すことも十分可能でしょう。

ストーリーの流れこそシンプルに見えますが、そこには色々な要素があり、また単調にならずに最後まで読める、というわけですね。


気になった点としては、やはり「少年」との「密会」にもう少し密度があったらなぁ、とは思いました。
けど、どうやら、本作には18禁版もあるようで、「少年」との交流はそちらで上手く表現されているんじゃないかな、とも思います。
あとはシステム面でバックログなんかはあってもよかったかな、と。


30分という尺で、さらにシンプルな作りですが、重みがあり、また切ないラストが魅力の作品でした。
ぜひぜひ、プレイしてみてください。

by s-kuzumi | 2016-02-23 21:37 | サウンドノベル
2016年 02月 18日

フリーサウンドノベルレビュー 『象牙の乙女』

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今日の副題 「クラシカルだけど重層的な優しい物語」

ジャンル:売れない劇作家と機械人形の物語
プレイ時間:約1時間ほど
その他:選択肢なし、一本道
システム:LiveMaker

制作年:2015/11/28
容量(圧縮時):41.1 MB



道玄斎です、こんばんは。
今日は1時間くらいの比較的小粒な作品ですが、重層的で満足感のある物語をプレイしたのでご紹介。
というわけで、今日は「Lapree」さんの『象牙の乙女』です。ダウンロードはこちらからどうぞ。
良かった点

・入れ子構造の上に、舞台(演劇)と主人公たちの実生活が重なる重層的な作り

・やっぱり嬉しいハッピーエンド


気になった点

・主人公フレッドが、ヒロインであるガラティアに惹かれる描写はもうひと押し欲しい

ストーリーは、私が簡単にまとめておきましょう。
フレッドは売れない劇作家。
劇団長に台本を提出するもボツを食らい、家賃すら払えない日々を送っている。

そんなある日、謎の男たちがフレッドの部屋に棺のようなものを運び込む。
そのなかには……美しい少女の自律機械人形(オートマタ)のガラティアが入っていた。

どうやら、ガラティアを制作したのは、フレッドの父親らしいのだが……。

こんな感じでしょうか?

昨日に引き続いて、今日もある意味で「少女との同居型」の作品ですね。

さて、その少女ことガラティアが、機械人形だということで、本作の一つの特徴となっていました。
うんと粗雑に云ってしまえば、『鉄腕アトム』以来の「機械に心はあるのか?」というような問題にも踏み込んでいる部分もあり、その意味では割とクラシカルなテーマ設定だと云えるかもしれません。

機械(ロボット)と心、というテーマは、結構色々なところでおなじみですよね。
やはりクラシックになりますが、『われはロボット』という超有名SFでも、そうしたテーマが見られました。近年(でもない?)では『ちょびっツ』というCLAMPのマンガもありましたよね。

こうした問題設定の魅力は、「人間によって人間を語る」のではなく、「ロボットによって逆に人間が見えてくる」ようなところにあるんじゃないかと思います。

人間同士では気づかない、分からない「人間らしさ」とでも言うべきものが、ロボット相手だと逆に浮き彫りになって見えてきたりする。
そして、ロボットと人間との境界はますます不確かなものになっていく……。

こういう問題設定は、クラシカルでこそありますが非常に興味深いものです。
問題設定そのものはともかく、作者の力量次第で色々な物語の広がりを見せてくれるテーマでもあります。


実は本作は入れ子構造になっておりまして、ゲームを起動すると、主人公フレッドが「過去を回想し」、物語の本編を語る、という体裁を採っています。

これだけならば、比較的よくみられる手法なのですが(個人的には結構好き)、本作の場合、フレッドの職業と関わる「演劇」が作中で重要な役割を果たしています。

つまり、物語それ自体がすでに入れ子構造でありながら、その本編内部においても、「舞台の上」と「舞台の外」の物語がつながる、重層的な構造を採っているのです。

これはラストの部分なのですが、手が込んでおり、これはいいなぁ、と素直に思ってしまいました。
また、物語の最後でも、ちゃんとハッピーエンドであることが暗示され、温かい気持ちで読了出来たのです。


一方、気になった点は、やはりフレッドとガラティアの交流といいますか、もっと云ってしまえば、フレッドがガラティアにグッと惹かれていく、そのエピソードは欲しかったかな、という点です。

それは例えば、気になるけれど作中であまり語られなかった、フレッドと父親との関係や、何故、ガラティアがフレッドの家に送られてきたのか? といった問題と絡めて掘り下げていくことが可能だったのではないかと愚案致します。


そういえば、ロンドンを思わせる街の雰囲気だったり、小さな小屋の端役の女優さんなど、「作品世界の雰囲気」がとてもよかった、ということも併せてお伝えしておきます。


というわけで、今日はこのへんで。



それでは、また。

by s-kuzumi | 2016-02-18 21:30 | サウンドノベル